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435、守護天使が戦車へすっぽりと収まる。セイグリッド・エンジンが始動した

今世間の話題はEXPO一色っ!シブサワグループが電撃出資を行う事によって、EXPOの独占スポンサーとなった。


ニッポンイチホールディングスは、企業のメンツもあってダンマリ。ミツホシホールディングスも本拠がヤマノテにあったせいか、今までまともに関われていなかった分発言権が無い。


そんな事態になったのも、コウタロウさんが交渉した結果って話で。コウタロウさんをネットリンチする空気だったのに、手のひらを返してシブサワを靡かせた男として有名になった。


あの状況で、コケにした武装企業に乗り込んで交渉するなんて!その凄さを誰もが(はや)し立て、EXPOに対する期待感が高まって行く。既にEXPOの成功は疑いようの無いって空気になっていた。


場所はパンタシア、プライベートフォレスト。


ゴーストを倒した祝勝会の中、モモコさんとレイホウさんがボクを挟んで政治の話を。


「抜け駆けをするとはな。」


非難するレイホウさんへ、モモコさんはとぼけた声で返す。


「抜け駆け?学生達の祭典を台無しにするのは(しの)びなくてね。誰も手を挙げなかったから、仕方なく僕達が負担する事にしただけさ。」


人道派の企業でしょ?なんて言えば、レイホウさんは失笑した。


「コウタロウとやらはそれ程の男だったか。モモコも随分怒っていたというのに。」


2人の会話を見守るボクへ、モモコさんが笑いかけた。


「ラフィだってEXPOを楽しみにしていたんだ。それに、キュエリが随分良い条件では話を纏めてくれてね。それに比べ、ニッポンイチはそもそも何処へ掛け合えば良いかも分からないだろう?そちらの外交官の顔も知らない。」


レイホウさんに直談判すれば、多分何だかんだ言って交渉に応じてくれたと思う。怒っていても冷静な判断が出来るヒトだから。でも本社へ出向いてもブラックパール財閥の当主には会えないよね。となると顔も知らない外交官との交渉になっちゃう。


勝率は正直芳しく無かったと思う。会って貰えもしないかも。


「企業のメンツとは厄介なものよ。ニッポンイチの代表取締役は堅実な仕事をする男だが、こういう機転は利かない奴なんだ。様子見している間に掻っ攫われたな。」


そんな話を美味しいジュースがサッと流して、レイホウさんはボクを見やった。


「さて、そろそろ話しても良いだろう。」


改まった気配に、側で話を聞いていたタマさんも興味を持って耳を傾けた。顔はこっちを向いていないけど、片耳がピクピク動いてこっちを向いてる。


「ニッポンイチホールディングス並びに、ブラックパール財閥はラフィのスポンサーにならせて貰う。」


「えっ?!それって?!」


ピィっ?!と思わず声が出たボクに、向こうで咽せて咳き込むタマさん。ブランさんがボクへピースを向け、ホロウインドウの中でフィクサーさんもレイホウさんを見ていた。宙を泳ぐカテンさんはよく分からないって風に興味無さげだけど。


モモコさんは困った風に笑いながらも、否定しない。


「それなんだけどね。ラフィは余りにもトウキョウシティで活躍し過ぎた。内閣の方から、シブサワグループだけでラフィを独占する行為は止めろと圧力が掛けられたんだ。」


モモコさんが言うには、このままだとボクが働き過ぎてシブサワグループの影響力が強まり過ぎちゃうって。世の中がシブサワグループ一強になってパワーバランスが大きく崩れる。最悪内閣以上の力を持ってしまうかもしれないって危惧された。


特に深未踏地の開拓能力の極端な高さが、シブサワグループの私有地を増やし過ぎてしまうって。現在でも天の雫を始め多くの権利をシブサワグループが独占している。他社へ利益を多少なりとも分配する姿勢を見せても、それだけじゃやっぱりダメだって。


「とは言え、体良くラフィを便利に利用しようとする変な企業と関係を持たせたく無いんだ。ラフィを支えられるぐらい規模が大きくて、ラフィと現在交流があって、信用出来る企業となると‥‥ニッポンイチへ白羽の矢が立った。」


ただ、この機会に他の企業もボクのスポンサーになろうと声を上げるだろうとモモコさんは言った。


皆に支えて貰うのは嬉しいし、ボクは大丈夫だよ。


「じゃあ、レイホウさん。宜しくお願いします。」


ペコリとお辞儀をすれば、レイホウさんの指がボクのほっぺを撫でた。


「ああ。こちらこそ支えさせて頂こう。私もラフィに命を救われた身だ。この件は時間を掛けてシブサワへ何度も打診していたのでね。さて。スポンサーとなる以上、手土産にラフィが欲しがりそうな新装備をプレゼントしようじゃないか。」


レイホウさんに連れられ応接室に。タマさんが許可を出して、サキュバスの秘書さん‥‥ヴィヴィさんが入室して来る。


「これはラフィ様への特別な品としてカスタムされたオーダーメイド品です。」


ヴィヴィさんが説明してくれた。


2丁の大きなガトリング砲。わぁ!ルーフスさんが使ってたやつと同じタイプ!塗装は白銀に眩く光る。


「ニッポンイチPMC製、セイグリッド・エンジンシリーズ。SG20mmバルカン砲になります。」


バルカン砲?


首を傾げるボクへ、フィクサーさんが解説してくれた。


『戦闘機に積まれる機銃の類いですね!ぶっちゃけ持って歩けるようなものじゃありませんが、特殊な強化外装と駆動魔具を合わせる事によってギリ歩兵用として実用化されています。』


ガトリング砲よりも口径が大きく、射程も倍ぐらい長い。発射速度はガトリング砲が毎分200〜900発に対して、こっちは4000発以上!!


勿論反動もとんでもない。そこをR.C.S(反動抑制システム)によって誤魔化すけど、普通の強化外装で撃ったらそれでも撃った本人が反動で吹き飛んじゃう。


「予想だけど、アクアマリンとの併用が前提ね?」


タマさんの声にヴィヴィさんは頷いた。


「アクアマリンの水をクッション代わりにする事で、現実的な反動に抑え込める計算となっています。」


内部に水を通す事で砲身冷却も兼ねて、仕込まれた特殊な素材が膨張。大きく反動を柔らげてくれるって話だった。


正にボク専用の武器!きゃーっ!カッコいい!


そしてボクの前にのっしりとした強化外装が運ばれて来た。


小さなミニ戦車的な。白銀に輝くそれは脚部がキャタピラになっていて、胴体部分はフルプレートアーマーを着込んだ騎士さんのよう。それ以上にゴツいけど、一見して分かる超重量級の強化外装。


これには後ろから見ていたモモコさんも苦笑い。タマさんもレイホウさんをジト目で見やった。


「ラフィで面白実験する気?」


レイホウさんは肩をすくめる。


「これを着たら戦車になれちゃうんですか?」


ボクの声にヴィヴィさんは頷いた。


「ゼイグリット・エンジン。歩兵を戦車化する重量級強化外装になります。ドワーフの鍛冶場きっての傑作ですが、価格も完全に軍用で実用的に使う開拓者は居ません。ただ、ラフィ様なら乗りこなせる筈です。」


周囲をうろうろして眺め回す。背部に大きなバーニアが付いていて、その他あちこちに小型バーニアが。もしかして飛べるの?


「飛行は無理ですが、跳ねたりする事は可能ですので地走能力は非常に優れております。平らな路面なら最大時速400kmで移動可能。バーニアの噴射で短距離を、最大速度に瞬間的に加速して駆動する事も可能です。」


その他6重のバリア装甲に、分厚い装甲板で非常に防御性能が高い。本当に戦車になれちゃう面白い装備。


これにさっきのバルカン砲を2つ積み込んで撃つんだ。‥‥本当に大丈夫かな?ひっくり返っちゃったりしない?


レイホウさんがワクワクした顔でボクを見る。


「早速動かせそうか試して欲しい。」


「あはは、無理はしないでね。」


モモコさんは呆れた声で戦車を見上げていた。


一度ユリシスの収納内へ戦車をしまい、ボクを生体認証登録して初期設定を済ませちゃう。取扱説明書をブランさんがスキャンして、R.A.F.I.S.Sでボクへ知識を同期してくれた。


「じゃあ、ちょっと森の方で走って来ます。」


地面を傷つけないよう、アクアマリンを呼び出して水の大きな足場を作る。その上でセイグリッド・エンジンを纏えばボクの姿は一瞬で体高2mの戦車に!戦車的にはミニサイズだけど。立った姿勢で装甲の中に居て、フルフェイスで顔も見えない筈なのに視界はびっくりするぐらいクリアだった。


周囲の景色がよく見える!意識すれば背面も側面も全部!


片腕を持ち上げれば、腕に付いたSGバルカンが持ち上がった。重たい感じはしない。


走るよう意識すれば、キャタピラがキュルキュル動いて水の上を走り出した!


あっ!これっ!面白い!!


車を運転しているような、ゴーカートを運転しているような‥‥ううん、違う。すっごい自由に動かせる乗り物を乗りこなしている感じ!走るというより運転。シラヌイとはまた違った操作感で、地面を何処までも駆けて行けそうな爽快感があった。


水の足場がドンドン伸びていって、その上をグリングリンと戦車が進む。水路が逆さまになってもキャタピラは水路を掴んだまま。天地逆さまの状態で疾走する。


ジャンプしようと思えば、バーニアが噴射してポンッ!と車体が跳ねた!


宙で一回転!荒々しく着地して、水路の上を滑るように蛇行。片足分だけキャタピラの動きを制御すれば、グリンとその場で向きを反転出来た。


転々とした水路を、ポップ!ステップ!ジャンプっ!!


きゃーっ!!最高!!


ぴょこぴょこ跳ねる戦車にツキシロは興味を持って追走する。飛び掛かれば、戦車は宙返りして身躱した。鋭い蛇行!そして車庫入れでツキシロの股ぐらの下へ滑り込んじゃう。


驚いてジャンプして避けるツキシロの側で、戦車は小刻みに跳ねて踊った。


「なによその動きは。戦車の動きじゃないわね。」


近くに寄ったタマさんの視線の先、ツキシロに追い回されながらも未だにタッチされないボクが走り回っていた。


そしてしゅるん、とセイグリッド・エンジンをしまったボクは皆の間へ着地する。展開と収納もレポンスが良くて、とっても使いやすかった。


「これを使う開拓者は本当に居ないんですか?」


ヴィヴィさんは首を振った。


「先ずは非常に高額の商品となります。一般に向けた販売はされていない以上市場価格は御座いませんが。1着100億円を超えるとだけ。」


100億‥‥?!きゅうっ!?と思わず声を詰まらせちゃう。


「ニッポンイチPMCの精鋭部隊へ同モデルが一部採用されていたりします。ただ個人での所有する開拓者は現状おりません。」


そしてもう一つ。


試しにタマさんが装着してみた。ボクが生体認証しているけど、許可を出せばタマさんでも操作出来る。


目の前で爆走した後、柔らかな水の壁に突っ込んだ戦車のどこか情けない姿があった。天地逆さまになってズブズブと沈んで行く‥‥


「これ無理ね。小型バーニア多過ぎ、速過ぎ、小回りが効き過ぎ。ブレードランナー感覚で乗ったらぶっ飛べるわ。」


タマさんが愚痴を漏らす。操作難易度が性能相応に非常に厳しかった。そして大きさもあって訓練出来る場所の確保も大変で、メンテに掛かる費用も高額。


「初見で乗りこなしたラフィがおかしいんだよ。見ていてハラハラしたさ。」


モモコさんもタマさんに同情的な視線を送っていた。


「だからこそラフィが乗りこなせばインパクトも強い。それに今後の活躍に間違いなく必要になるだろう。」


レイホウさんはボクへ、期待の眼差しを向けていた。


「はいっ。ありがとうございます!心強い装備なんですから。」


モモコさんはうーん、と唸る。


「そのバルカン砲だって、数億するんじゃないのかい?ガトリング砲ならともかく、バルカン砲は完全にPMCや都市防衛隊が自社開発したものを使うから具体的な市場価格なんてのは無いんだけど。」


つまりはモモコさんがボクへ今まで投資していた分の総額を、ポンと超える多額の援助をニッポンイチがやったことになる。


レイホウさんは不敵に笑い、


「EXPOの件は譲っただろう?ま、想いを金に換算するのは無粋だが。私は自重しない。」


モモコさんはため息を吐いたのだった。

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