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409、ネズミ色の荒野を白く染める

シブサワグループがボクのゲリラパレードを発表したその早朝。ボク達はアナグマゲートウェイの直ぐ近郊に居た。並ぶトラックはバーニス運輸のトラック。ボクをクロエさん達が囲っている。


「ラフィ!受けてくれてありがと!」


「私達のお金の為に随分粋な事をしてくれるじゃん。」


「すっごい大事になっちゃいましたね。」


クロエさんに抱き付かれ、シャンタルさんに腕を抱かれる。セシルさんはちょっと心配そうにしていた。


「皆も元気でしたか?このトラックに住んでいるんですよね?」


そうそう!って返すクロエさんは話したい事がいっぱいで。でも、ジャックさんとヤスコさんの話になると声のトーンが下がってしまった。


「ここに来た私達に良くしてくれたんだよね。ラフィ達と戦って倒れちゃったのは仕方ないし、恨んだりもしない。傭兵はそういうものだから。」


シャンタルさんも寂しそうに言う。セシルさんも、


「死んでいないだけでも良かったと思います‥‥ええと、お役に立てないかもですが私に出来る事なら何でも‥‥!」


控えめな態度、そしてやや早口に。目線がボクの下腹部に向いてるのは何で?


「今日は荒野がひっくり返る日だよ!ちゃんと朝飯は食ったかボウズ。」


バーニスさんが用意された朝ごはんを“一切れ”お皿に乗せて持って来た。


キャラバン達の朝ご飯の中でもメジャーなものは、バーベキュー。トラックの中でパンを齧る事も多いらしいけど、気合いを入れたい時は朝からグリル台をドンと構えて肉を焼いてガッつくんだって。


「う〜、朝から油っぽいよ。食べるけどさ。」


サキュバスなクロエさん達にはウケが悪いようだった。


「当機が別に用意致しましょう。」


見かねたブランさんがパンタシアに一度戻って、直ぐに口当たりの軽いフレンチパスタを持って来る。


「わっ!美味しい!」


「上品な味だね。毎日お世話されたいなぁ。」


夢中でフォークにくるくる巻いて、お口の中に突っ込んでいった。


「ボク達は朝ごはんを食べてきましたけど‥‥ちょっとだけ。」


ボクとタマさんは、皆でグリルを囲うキャラバンヒト達に混じってお肉を摘む。頼めばブランさんが、お肉をシェフの焼き加減で提供してくれた。


「マップアプリに送った通り、トウキョウシティをぐるりと一周囲う荒野のそこかしこに胡散臭い噂の絶えない拠点がある。ファイヤタンクやってるとそう言う話は沢山聞くんでね。」


治外街を巡る輸送ルート上、避けた方が良い地点の情報が事細かにピン留めされて纏められていた。ギャングの縄張り、大型の原生生物の巣、大規模な違法農園、野党の出没地域。


「全部回って確認します。ジャックさんとヤスコさんの脳波は覚えていますから、今日1日で荒野中をミニフィーで覆いますので。」


そこへ警部のクチナシさんもやって来た。頭のARがバーベキューの串に置き換わっている。胸元に開いた穴は口の代わりらしくて、中へ串を放り込んでいた。


「昨日送った指名手配犯の顔写真と生体情報は全部目を通しましたでしょうか。」


「はい、顔と声と身長にDNA。ボクとブランさんが把握しています。見つければその場で確認して確保出来ます。」


「素晴らしい。折角の大掃除ですからね。この際不甲斐ない警察に代わって、荒野の治安を悪化させる膿を絞り出してしまいましょう。手配犯を捕まえた分だけ報奨金が出ますので、張り切ってお金を稼ぎましょうか。」


串を豪快に頬張るバーニスさんは、疑るようにボク達を見る。


「本当にギャング連中も何もかもを纏めて攻撃するのかい?」


それに答えたのはブランさん。


「勿論で御座います。トウキョウシティの土地を土地税も払わず不法占拠する連中ですので、そこに居る事自体が違法になります。それが無許可・無免許に武装していたとなれば、大粛清を受けても仕方ありません。今まで荒野でヒャッハーしていた事を後悔する事になるでしょう。」


おー、怖い怖いとバーニスさんは一歩下がった。


「本当に全部撲滅してくれんのなら、ファイヤタンクとしちゃ有り難い話だけどね。キャラバンから通行料を取ったり、襲ったりと厄介な連中だったんだ。」


朝ごはんの時間が済み、早速部隊を展開していった。ユリシスがふわりと開いて、大きな蝶々の羽から一斉にミニフィーが飛び出して行く。


先ずはパレードの体裁を保つ為のホロミュージカルの楽器を携えた楽器隊。演奏する曲はよく運動会の曲なんて言われているアレにしようかな。好きな曲だからちょくちょくプライベートフォレストで演奏していた。この曲を演奏すると、小動物達がノリノリで縦ノリしながら踊り出しちゃうんだ。


音楽隊を50個に分ける。人数は少なくてもホロミュージカルだから1人で複数の楽器を演奏できるし、数人で十分演奏できた。


そして確保部隊。犯罪者を発見した際にキャプチャーネットを使って逮捕する部隊。今回の大規模なパレードの話が決定すると、クチナシさんとモモコさんで警察の方を追加で50人用意してくれた。お役目は簡単で、各部隊に随伴して手錠を使って犯罪者を都市へ転移させる事。表向きの理由はパレードの警備って事で同行する。


逮捕令状はAI裁判所からその場で随時発行して貰う形になる。警察官の持つ警察手帳は、開拓者の羅針盤と同じく詳細に全部を記録してくれる便利な魔具。記録された犯罪のデータを送信すれば直ぐに令状が発行されるんだから。


シブサワ警察の中でも腕利きの面々が到着し始める。誰もが駆動魔具を扱いこなし、パレードの行軍速度について行けると評価されたヒト達。既に部隊編成に動くミニフィー達を興味津々に眺めていた。


「今警察内部がゴタゴタしてますけど、だからこそこの機会に不穏分子を纏めて叩ければ治安悪化を最低限に防げます。既に逮捕者の大規模受け入れ準備が済んでいますから、思う存分お掃除して下さい。」


クチナシさんは楽しげな声でミニフィー達を見回していた。


続いて執行部隊。


ブレードランナーと小銃で武装したミニフィーの大部隊。ボクのR.A.F.I.S.Sを強く伝える為の特別な子機も兼ねた特殊個体群。あれから更にブレードランナーを買い揃えて、合計500体のミニフィーに行き渡っていた。ムラマサ工房価格で1足350万円程だけど、タマさんがソメヤさんに交渉して安く仕入れてくれたらしい。


纏め買い価格で1足200万円ポッキリ!本当にそんなに安くしていいの?と思ったけど、タマさんはニヤニヤしながら「だいじょーぶ。」なんて言っていた。400個分で8億円!!凄い金額だけど払えちゃう。稼いだ分は使わないとね!


この500体のミニフィーを50の部隊に10体ずつ割り振って行く。手にする銃器もラピッドファイヤシリーズよりも数ランク上の武器が揃っていた。


ムラマサ工房製、ドラゴンファングシリーズ。お値段1丁250万円の中価格帯の銃器だけど、纏め買い価格で100万円に値下げ。ボクが大量に仕入れて使えば、それだけですっごい宣伝効果があるって話で。半値以下だけどそれでも本当のいいの?と首を傾げていた。何か裏がありそうで怖いような。


1丁80万円前後のラピッドファイヤシリーズと比べると、銃の口径も装弾数もかなり違う。射程、弾速、弾道の安定性は高品質。弾のリロードもマギアーツによる銃付属の収納内からの自動リロード対応、銃自体にバリア装甲の盾が仕込まれていて遮蔽の無い場所でも口径の小さな弾丸なら正面からでも防げちゃう。

更にドラゴンファングシリーズは銃にギミックが仕込まれていた。


それはドラゴンブレスのような、火炎放射!本格的な火炎放射器程の火力と射程は無いけど、それでも射程20mの範囲に超高温に燃えた燃料を吹きつけられる。対人、対怪物戦で頼れるギミックが人気シリーズの所以だった。


スタンダードな性能のスマートライフル・3点バースト射撃対応のアサルトライフル・破壊力抜群なショットガン。

仕入れた数は500丁!お値段5億円!!でも払えちゃう!!


流石に口座の数字がだいぶ減った感じするけど、それでもまだまだ沢山残ってる。多分来月には前と同じぐらいの金額に戻ってるかもだけど。


「今回の作戦でがっぽり稼ぎますので大丈夫で御座います。手配犯連中を換金致しましょう。」


ブレードランナーを履いた機動部隊は相応の高火力も搭載された。フル武装で並ぶ姿は警察の皆も感嘆の息を漏らしていた。


そしてラピッドファイヤシリーズの小銃で武装した即応歩兵隊。ミニフィー持ち前の機動力も決して低くない。全速力なら時速100キロに迫る速度で走れちゃう。ミニフィーとして形が作られる際に、複雑な演算陣が沢山体内に刻まれるから強化外装を体内に着込んでいるようなもの。


治外街へパレードで向かうのは音楽隊と、確保部隊、そして執行部隊。即応歩兵隊は最初から武力衝突が予測される地点へ派遣される部隊。ギャングの拠点、大規模農園、野盗の出没地帯。そちらにも少数だけ確保部隊が同行した。


他にも倒されたミニフィーから装備を回収する転移班に、各部隊を後方から援護する狙撃班、荒野内に逃げたヒト達を探す斥候班が展開した。


ボク達はバーニスさん達に案内されながら、奴隷の隠されていそうな場所を探し回るのがお仕事。荒野は広いけど、街以外に大規模に奴隷を収容する場所を用意するとしたら場所が限られてくるって。そう言う場所に心当たりが幾つかあるって話だった。


「ファイヤタンクの連中とやり取りしながらサポートさせて貰うよ。しっかし、ヒッヒ。こりゃ結構な規模のPMCみたいじゃないか。」


バーニスさんの後ろから、デューイさんも楽しげに。


「あん時お前が本気を出して攻撃して来なくて良かったぜ。囲まれて蜂の巣にされる所だったな!」


あの時展開しなかったのにもちゃんと理由がある。


「ボクは展開する部隊が多い程に、ボク自身の動きが鈍っちゃいます。だから今回は皆に守って欲しいです。」


動けなくなる訳じゃないし、一応ちゃんと戦える。でも武装をフル展開した軽快な動きで戦うのは厳しい。少しでもフルスペックで戦えなさそうなら、無理せずに周りを頼るのが大事なんだから。


あの時は警察達との乱戦が予想されていたし、沢山ミニフィーを放つのは危険だと思ったんだ。


「大丈夫よ。ラフィに敵を近づけさせないわ。アタシが付いてる。」


「ラフィ様の露払いは当機が致しますので。荒野のゴロつき共を砂へ還してしまいましょう。」


『にゃはは、ワタシが援護しますから心配ご無用!ワタシったら結構凄い悪魔なんですよ?大好きな可愛子ちゃんを守るぐらい余裕ですよ。』


皆の返事は頼もしくて、お願いしますってペコっと頭を下げた。


アナグマゲートウェイの方から、サキュバスの一団がやって来た。フレア・ローズさんとその側近達。それに付き従うように歩く首長達も。


近郊に展開した大軍を確認しに来たようだった。


「ラフィ。」


「フレアさん、おはようございます。」


クスクスと笑う。


「この軍隊で荒野を綺麗にしちゃうの?大丈夫よ、亜人連合には事前に伝えてあるから。でも関係ない市民を攻撃しないでね。」


「勿論です。攻撃対象の選択はブランさんへ毎回確認します。」


ブランさんは優雅に一礼をした。


「当機の中にはニホンコクの法が全て詰まっております。完全に合法的な戦争をお見せ致しましょう。」


そろそろ時間。タマさんがパンタシアのドアを開き、応接室経由にテツゾウさんとマサルさんが顔見せに来た。


「シブサワん所のラフィが荒野で大規模な軍事行動を起こすんだろ?一目見て確認しねぇ訳にはいかねぇよ。おー、壮観だな。」


マサルさんがやって来ると場の皆が首を垂れ、一歩下がって敬意を示した。ボクも下がろうとするけど、テツゾウさんが背中を押して前へと。


「堂々としていて良い。今回の主役だぞ?」


しゃんと背筋を伸ばし、ザッ!とミニフィー達も姿勢を正した。一糸乱れぬその動きは本当に軍隊のようだった。マサルさんは感心したように顎を撫で、


「シブサワPMC旅団大隊と演習をやったらどっちが勝つだろうな?」


テツゾウさんは苦笑して答える。


「お(たわむ)れを。まだ数は第1・第2旅団大隊の方が大きいですし、第4旅団大隊も引けを取らないでしょう。」


ビックリして見上げるボクと目が合う。引けを取らない?シグさん達と同じぐらい戦えるって事かな?流石にシグさん達には勝てないと思う。真近で見てたから分かるんだから!


「ボクは弱くないです。でも、装備が全体には全然行き渡っていません。ちゃんとした装備があるのは全体の10分の1ぐらいで、殆どが80万円の低価格帯の小銃で武装しているだけなんです。」


するとマサルさんがテツゾウさんの背中を叩いた。


「おいおい、スポンサーだろ。ちょっとは装備の面倒も見てやれって。」


「うぐっ。それは‥‥そうですね。」


「生体ゲルの面倒を見て頂いたばかりです。そんなにご迷惑をお掛けする訳には‥‥」


テツゾウさんがボクの肩を軽く叩いた。


「大丈夫だ。流石に1丁500万クラスの物を5000丁用意するのは厳しいが。ミヤビを怒らせてしまう。」


この感じ。断っちゃいけないやつだ。こう言う時はちゃんと甘えないとダメってタマさんも言ってたよね。


「でしたらその内で良いですので、強化外装と駆動魔具の装備が欲しいです。この場のミニフィー達の殆どは強化外装も着ていません。だから継戦能力も低くて、戦う度に消耗戦になっちゃいます。」


蜘蛛の大群との戦いも結構危なかったし、強化外装だけでも欲しいな。ボクの財力じゃ、消耗戦でも勝てるのなら良いやって後回しにするしか無かったから。


「そうか。それは深刻な問題だな。強化外装の手配だけなら近日中に出来る。1着当たり250万円台ならどうだ?流石に予算青天井とはいかん。それ以上なら‥‥」


マサルさんが肘でテツゾウさんをぐりぐり。


「さ、300万‥‥!それ以上はそもそもそんな数が市場に無い!新規でPMCを一個立ち上げるレベルなんだ。」


「だってよ。ま、別にシブサワからしてもラフィの戦力増強は間違いなくプラスになる。シブサワPMCで手の回らない箇所の防衛を任せても良いだろ?投資ってのは惜しまない事が大切だ。勝ち確の投資なら尚更な。」


ううっ、ご迷惑を掛けちゃったかも。しゅんとするボクの頭をテツゾウさんが撫でた。


「気にするな。(むし)ろここまで自力で装備を整えている事自体が驚きなのだ。売れっ子開拓者でも、自分1人分の装備の面倒を見るだけで精一杯なんだぞ?普通は個人でPMC立ち上げるレベルの投資はしないしな。前例の無い無茶をやっているんだ。スポンサーとして支えさせてくれ。」


「ありがとうございます!!」


頭をしっかり下げて、テツゾウさんに精一杯感謝を伝えたのだった。

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