385、T&Y EXPOへ向けて実行委員会へ顔見せを
ここはB地区。シブサワ大自然公園にて。迫るT&Y EXPOに向けて会場設営が始まっていた。学生達のブースはともかく会場全体の通路の設計に、企業ブースの場所の調整にと忙しい。
自然公園の大広場を中心に、各学校の代表達がEXPOの出し物を用意して行くんだ。つまりT&Y EXPOはトウキョウシティと、ヤマノテシティの学校の代表達が集まって行うすっごい規模の学園祭って事!
普通は一校の中で完結する学園祭を、沢山の学校が集まって行うんだ。毎回すっごい盛り上がりを見せるってお話を聞いていた。過去の動画も見たけど、大盛況で楽しい!の詰まった夢のような祭典だった。
「企業がやる催しって結局は自社の利益の為のもんじゃない?でも学生のやるものにそういう無粋は無いから、純粋に面白いものを引っ提げてくるのよ。そりゃ盛り上がるわよね。」
高校から大学まで参加可能で、ここへ出展するには学生を中心に構成されたT&Y EXPO実行委員会の審査を潜る必要があった。つまりは一定のラインのクオリティが要求された。
『大勢が見るのですよ?学生さん特有の内輪ノリ全開な妙な出し物を出されても観客は白けちゃいますよ。とは言え条件そのものはシビアではありません。公共福祉に反せず、万人ウケし、EXPOに相応しいものなら基本何でも。』
EXPO、つまりは新技術の発表会。どんな出し物をするにしても、新技術と絡めた内容じゃ無いと審査は通らない。例えば手作り感満載な縁日とかは審査で落とされちゃう。
代表と言っても複数のサークルが同時に出し物をする事も珍しく無く、大きな大学だと専用スペースみたいに広いエリアを貸し切っていた。でも、
「占有エリアの広さに比例して審査も一層厳しくなっていきます。広いエリア貸し切ったくせに毒にも薬にもならない微妙な展示物並べられちゃ事故で御座いますので。そういうものには出資元のシブサワやニッポンイチ、ミツホシの人間の審査が必要になるので御座います。」
逆に狭ければ審査は緩めだった。
ボク達はキュエリさんに連れられて会場を見て回る。ラズベリーさん達も一緒で、先ずは会場の下見と実行委員会の学生さん達に挨拶をね。今回この催しを応援するんだし、そろそろ会場の手配が進んだこのタイミングで顔合わせをって事で来ていた。
会場の隅に設営された広い実行本部のテント。中を覗けば既に学生さん達がボク達を待っていた。皆整然と並んで、ビシッと背筋を伸ばしてお辞儀をする。練習でもしたのかな?ってぐらい動きがピッタリだった。
お辞儀は1、2の3!のテンポでサクサクと。
「初めまして!私は今回の実行委員長を務めさせて頂く、ヤマノテ中央大学都市経営学部4年、コウタロウと申します!ヤマノテ中央アメフト部の部長として部を纏めて来た経験を活かし、今回の実行委員長の任を全うさせて頂きます!」
凄い!アメフトをやっているんだ!アメフトと言えば激しい競技。それもヤマノテ中央大学のアメフト部は強豪として名を知られていた。
「開拓者さんみたいにがっしりしててカッコいいです!」
ボクの声にニッと笑うコウタロウさんは、とても快活で凛々しい顔付きをしていた。キュエリさんも満足げに頷き、副委員長の紹介を促す。
そっか。ここにはシブサワの外交官のキュエリさんが居るから、少しでも好印象を残したいのかも。ただの自己紹介なのにすっごい気合いが入っていた。
もしかしてこのT&Y EXPOも優秀な学生さんを企業が見繕う場としての目的もあるのかな。つまりはこれも就職活動の一環。寧ろ大企業相手に、短い面接以外の場で大きく自分を売り込めるチャンスなんだろうな。
「そういや外交官様は学生さんの就活でも顔合わせの機会多かったかしら。人事部と一緒に面接官もやるんでしょ?」
タマさんがそう言えば、キュエリさんは頷く。
「ああ、そうだ。建前的な誤魔化しは嫌いでね。プレッシャーを掛けるわけでは無いが、もし今後シブサワグループの本社勤めを希望する者が居たら、私に顔を覚えられていた方が良いだろうな。こう見えてモモコ様のお気に入りでね。ラフィ様の専属外交対応官としての仕事も任されている身だ。」
誤魔化す事なく、ズバッとキュエリさんは学生さん達に切り込んだ。でも皆怯む事なく、それどころか一層やる気を漲らせたように姿勢を正す。‥‥後ろのラズベリーさん達も釣られて姿勢を正して畏まった雰囲気になっていた。タマさんは相変わらず余裕のある佇まいだけど。
「企業の人間でもない開拓者が何で偉そうなのでしょうか。タマも姿勢を正して下さいませ。」
「はいはい。こういう雰囲気苦手なのよ。」
『何で付いて来たんですか?』
「ラフィが行く所には付いて行くわよ?相棒だもの。」
タマさんの尻尾がボクを撫でれば、ボクも思わずちょっと甘えちゃう。学生さん達がコソコソニヤニヤしてそんなボクを見てきていた。
「それで良い。さぁ、副委員長。自己紹介を。」
一歩前に出た副委員長さんは明るい雰囲気の女性のヒト。すらりと背が高くて、染めた風じゃない金髪で。瞳の色もエメラルドグリーン。
「ハーイ!トウキョウシブサワ大学、未踏地研究学部4年。アイリーン!女子陸上部で沢山成績を残しましたけど、それ以外にも運動部全般を助っ人として渡り歩いた臨機応変さを活かして副委員長を務めさせて頂きます!」
エネルギッシュな感じで親しみやすい雰囲気。フィールドワークが好きそうな学者さんって印象だった。まだ学生さんなのにもう貫禄のようなものを感じさせる。
「もしかしたら、今後ボクとも一緒にお仕事をする機会があるかも。宜しくお願いします。」
「ラフィさんのお噂はかねがね。実は私、今回のEXPOが無事終わったらそのまま虹渦大学へ移る予定なのです。先に虹渦大学へ行った教授に推薦状頂いちゃいました!」
そんな紹介にキュエリさんは軽い拍手を。
「そうか。頼もしい限りだな。私の同族の白喰みも虹渦大学での研究に興味を持っていてな。また随分な秀才が集まる大学になりそうだ。」
白喰みさんも行くんだ。そう言えば結局中々会えず、メッセを交わし合うだけになっていた。ボクも忙しいし、白喰みさんも新しい環境に女王アリを適応させるべく四苦八苦しているのだとか。
「でも虹渦島は深未踏地ですし、危険がいっぱいですから。気を付けて下さい。」
「ラフィさんとは色々お話したいです。」
次々に委員会のメンバーが自己紹介を。フィクサーさんが、一人一人自己紹介の内容をメモアプリに顔写真と一緒に整理してくれた。
一通り自己紹介が終わったら、ボク達も自己紹介を。
ラズベリーさん達はパパッと普段着からその場で変身!ボクも一緒に魔法少年の衣装を纏ってポーズをとった。
「魔法少女、エンジェル・ベリー♡!!」
思わず皆テンションが上がってはしゃいだ声を上げる。固そうなヒトが多いかなって思ったけど、思いの外明るい性格のヒトが多くて良かった。
「タマよりかはコミュ強揃いで御座いますね。」
「でしょうね。幾ら勉強が出来ても根暗陰キャはこういうのに選ばれないでしょ。」
「タマさんも最近はお友達を増せていますから。イシダさんとも仲直りしましたし。」
「ラフィにまで言われるとなんか不甲斐ないわね。」
キャウルンさんが進行役としてお話しを続ける。
「今回エンジェル・ベリー♡!!はこのEXPOを成功させるべくやって来たんだ!困った事があったら遠慮なく言ってくれ!」
「あはは‥‥でも難しいお勉強の相談とかはちょっと厳しいかも。」
ラズベリーさんの冗談に場は明るく、キュエリさんから細かいお話が続く。
「魔法少女のヒーローショーの一環に見えるが、扱いとしては開拓者へ雑務依頼を投げる形になる。低ランクとは言え皆開拓者の資格を有するベテランだ。敬意を持って接するように。また武力衝突の危険性のある依頼を投げる際は通常通りの手続きになる。だが、余程の必要性に迫られない限り受注される事は無いだろうな。EXPO期間中に限り雑務依頼が優先される。投げる依頼の内容は精査するように。」
急に現実的なお話をされると、ジトッとキャウルンさんがキュエリさんに抗議の目線を向けちゃう。キャウルンさんはヒーローショーの世界観を大事にするタイプだから。この衣装を着るボク達を開拓者扱いする行為はNGなんだと思う。
「そう睨むな。マスコットの可愛い顔が台無しだぞ?」
「企業の人間って無粋だよねー。まぁ、一先ず魔法少女達の任務はこのEXPOのPR活動!今回のEXPOは前回よりももっと凄いんだ!ってアピールしていこう!」
おーっ!と掛け声を上げて、そのままボク達は委員会の皆と一緒に作戦会議へ。
「今回のT&Y EXPOをどうPRしていくか。意見を出し合いましょう。」
コウタロウさんの一声で、早速全員がスマイルに事前に用意していたPR作戦の概要を一つずつ壁面スクリーンに映していった。それを上から一個一個確認していく。
そんなやり取りにキュエリさんが物申した。
「企業に於いて何が一番重視されると思う?」
急な問い掛けに、コウタロウさんは少し逡巡した後ハッキリと答える。
「成果であると思います!」
返す言葉は、
「そうだ。この場に於ける成果とは、つまりPR戦略を確定させる事。しかしなんだ。15程案が出ているが、これを一個一個この場で精査するなど不効率極まりない。少なくとも、シブサワの会議でこのようなグダグダした展開は許されないな。」
思いの外容赦ないダメ出し。これには思わずコウタロウさんはサッと顔色を青くして言葉を詰まらせちゃう。
「この会議の予定は1週間前には伝えておいた筈だ。先に委員長と副委員長で案を選別し、せめて3つ程に絞っておく必要があった。この場の面々の顔合わせは今が初じゃない。準備する時間は十分設けられていた。違うか?」
「うっ‥‥申し訳ありません!」
き、厳しい‥‥!ボク達も怒られてる気分になって、きゅう‥‥!と萎縮してしまった。
(企業の外交官怖いわね‥‥)
(手厳しいのぅ。)
(でも言い返せないよね‥‥)
(めんどい‥‥)
魔法少女達のコソコソ話にキュエリさんはチラッと視線を向け、
「大企業を相手にするというのはそういう事だ。まぁネチネチ責めても仕方ない。特にラフィ様の時間は貴重でね。無駄なやり取りで浪費する事が出来ないのだ。私が3つに絞ってしまおう。」
学生達の祭典でも、大企業に自分を売り込む就活の場でもあるからこそ甘やかしては貰えない。パワハラって言葉は便利だけど、便利な言葉を盾に背を向ける者を企業は誘い入れるつもりは無かった。
キュエリさんは優秀そうな学生さん達を前に、早くも値踏みして一足先にシブサワに益になりそうかどうかを選別しているように見えた。或いはシブサワに就職しないのであれば、脅威になるかを。
どこに天才が埋もれているかは分からないから。
ヒーローショーを開催する際にEXPOを脚本に取り入れ、その内容を各地で───
却下。
「今やっている活動自体がEXPOを脚本に取り入れた結果だ。それにショーを無作為に各地で開催した所でEXPOの宣伝効果は薄いだろう。」
動画チャンネルがメインとなる前、テレビ番組が中心となった時代があった。番組と番組の間にCMを挟んでいたけど、それによる宣伝効果は実の所想像以上に低かった。
とある局が起こした不祥事をキッカケに、スポンサーを降りCMを取りやめた大企業が幾社も出るような事件があった。けれどCMが放送されなくなったにも関わらず、売り上げが殆ど変わらなかったというデータが出ているんだ。
商品と会社の名前さえ認知を稼げれば御の字‥‥は案外的外れな戦略だった。
「観客が求めているのはショーだ。脚本じゃない。EXPOを登場させても見向きもされないだろうな。」
結局お客さん達は見たいモノしか見ないんだ。そこにノイズにしかならない宣伝を突っ込んでも鬱陶しがられるだけで、認知すら得られない。ぼぅっと見流したCMに出て来た商品名と、企業の名前をピタリと言い当てられるヒトは少数派だったんだ。
学生さんの1人が肩を落とす。
エンジェル・ベリー♡!!公式がエンジェル・ベリー♡!!とのEXPOコラボ特設アカウントをSNSに開設。随時情報を発信して広報に力を入れる。
却下。
「エンベリ公式が既に情報発信源になっている以上、新しくアカウントを開設する必要性が薄い。随時の情報発信も既に行われている。案を出す前に下調べをしっかりしてくれ。」
また1人学生さんが肩を落とした。
(てか企業が既に広報に力を入れてるのに、素人の学生がそれを上回る妙案を出せる確率低過ぎでしょ。この場の連中が思いつく内容なんてもうやってるでしょうし。)
わざとキュエリさんに聞こえる声量でひそっと漏らすタマさんの声に、キュエリさんは肩をすくめた。意地悪でやってるんじゃないだろうし、目的がある筈だって。
当日、魔法少女達がランダムな時間に会場を訪れて短いショーを行う。ショーの時間は僅か2分。それを10回以上行う事を、公式アカウントから発信すると共にラフィ生配信チャンネルでも宣伝する。
キュエリさんが口笛を吹く。
「この案を出した者は?」
コウタロウさんが手を上げた。
「ほう?コウタロウと言ったな。覚えておこう。この案は採用だ。ヒトはランダムっというものに弱い。短くも濃密なやり取りのショーを見逃さない為に現地へ向かう者も増えるだろう。EXPOの主役は学生だが、魔法少女のIPの力を上手く使え。その為にラフィ様達がここに居る。」
「はい!ありがとうございます!」
コウタロウさんの威勢の良い返事に、キュエリさんはチロっと舌を出して楽しげにしていた。




