374、音楽が繋ぐ絆の架け橋
ゲームが終わり、歓迎会の会場へ向かう前にヤマノテシティを一望出来る展望タワーへやって来た。皆が疲れた顔を見せれば、ボクはエンジェルウイングを展開して手招く。癒しのオーラにわっと集まって来た。
あのっ?!抱き締めないで!頬擦りもダメぇ!変な所触っちゃ!
揉みくちゃにされる事暫く。やっと解放されて、元気になった皆が圧巻の景色に夢中になって見回っていた。
「いやー、なんか気疲れする日だったわねー。」
なんてタマさんがグッと伸びをする。
「まだ終わってません。気を抜いちゃ、めっ!です。」
「ラフィ様も少しお休みになった方が良いのではないでしょうか?」
ブランさんが心配してくれるけど、ボクはとっても疲れにくいから大丈夫。
そんな中、スゥさんがボクの所に歩んで来た。
『先程の戦い、ラフィの強さが分かった。』
「ボクだけじゃないです。チームプレイですから。それと、銃は正しく使えばずっと強くなれるんです。」
普段は遮蔽に身を隠して戦うより、バリア装甲を頼りに突撃するんだけど。ボクの戦術を皆が真似できる訳じゃないのは分かってる。だから先ずは基礎から。
「ちゃんと性能良い強化外装を着込んで戦えば、アンタは良い線行くと思うわ。駆動魔具を使わずとも自由に飛べるのがデカいわね。」
タマさんもスゥさんの大立ち回りを見て感心していた。
『しかし私は負けた。ラフィは私に勝ったのだ。子を成す気は無いのか?』
「〜っ!ありません!ボクは子供ですから!」
『どれぐらいで大人になる?』
「それは‥‥」
ダンジョンコアだから多分見た目はずっとこのまま‥‥ううっ、けど歳はとれるから20歳になったら大人を自称するよ!
『ずっと成長しないのか?なら今でも変わらないだろう?』
R.A.F.I.S.Sからチョロっとボクの思考が漏れ出る。
「スゥさんとはまだ一緒に居た時間も短いですし。」
そっか。恋愛みたいな概念も違うんだっけ。前にフィクサーさんからも聞いたけど、恋愛って概念があるのは少数派。大半の亜人種はワンナイトラブ。夫婦の概念も薄くて子供は共同体で育てるものって感じ。特に多産種族になる程この傾向が強かった。
『恋愛は余裕のある種族の特権概念ですし?深未踏地の奥地じゃ、ハイサイクルに産んで育ててまぐわってと大忙しです!危険が多い分沢山減りますから絶滅しないように増えませんとね!』
「‥‥それでも、ボクはニホンコク人ですから。」
ボクは皆が好きだけど、タマさんの事を想うと胸があったくなる。恋愛を語るボクもそれが何なのか分からなかった。
「てかラフィはアタシのだから。口説いてんじゃないわよ。」
あっ。スゥさんR.A.F.I.S.S越しにタマさんの言葉が分かってる癖に、分からないふりをして首を傾げた。タマさんは困った風にしながらもボクを尻尾で引き寄せる。
「そもそもスゥ様を受け入れた場合、なし崩しに美羽の一族の大体と交わる事になるかと。外部からやって来た貴重なオスを共同体で共有しない理由はありますか?まぁそもそもニホンコク人と子を成せるか分かりませんが。」
ブランさんは片手でスゥさんを制し、その代わりと言わんばかりにモモコさんの顔写真を見せた。
「優秀な遺伝子を持ち、人界の権力者で、ラフィ様と同じぐらいの歳のヒトになります。自己責任でそちらにアタックを仕掛けるのは如何でしょうか?」
スゥさんは興味なさげにプイ、と首を振ってしまった。本人の知らない所でモモコさんが振られちゃった。
『女王様に袖にされた事をモモコさんに後で伝えて反応を楽しむとしましょうか。にゃはは。』
フィクサーさんが茶化し、タマさんもヘラヘラと笑っていた。
スゥさんに手を引かれ、一緒になって展望台から街を見下ろす。無数のタクポが飛び交い、ARが動き回り、大勢のヒトが行き交う。ずっと見ていられる活気溢れる風景は、スゥさんも興味津々だった。
『‥‥このような文明があったとは。我々は余りにも無知だった。』
「静謐の揺籠からはずっと遠くの地です。無理もありません。」
『この世界では知らなかった、が命取りになる。滅びるのだ。』
冒険の先で知り合えたお陰で、今ここで一緒に並んでいた。運命のようなものを感じる。偶然が重なってここまで来たんだから。
「ヤマノテシティは気に入ってくれましたか?」
『ああ。良い揺籠‥‥街だな。少し騒がしいが、それもまた良い。』
良かった。街の良さを知って貰う為にガイドさんとして頑張ったんだから。
「この後も楽しい事はいっぱいですよ。それに、後日ですけどヤマノテシティを自由に観光出来る機会もあります。」
『しかし、どうして遥か遠方の地の我々とそこまで交流を持ちたがる?この文明と比べれば、我々が捧げられるものは知れている。』
「‥‥色んな理由があります。でも、ボクはもっと知り合いたいからです。沢山知り合って、一緒に未来へ歩んでいけたらなって。えへへ、簡単な理由なんですよ。」
笑いかけたボクをスゥさんは急に抱き上げ、ほっぺに口を付けた。
‥‥って?!急に何?!
ピイッ?!と反応するボクをそっと下ろして小さく笑う。
『道中イラストで見たのだ。ヒトはスキをこう伝えるようだな。』
視線で抗議するタマさんの尻尾に引かれながらも、暫くスゥさんを直視出来なくて惚けていたのだった。
歓迎会の会場は‥‥ナイトジュエルで使われた屋上プール会場だった!
モモコさんが夜間貸切にして、歓迎会の会場に整えてくれていた。プールには浮き輪ボートが並び、プールの中央にある島に沢山の料理の屋台が並んで無料で好きに注文出来る。
高級感あふれるワインやカクテルを提供するスペースに、お寿司やステーキを出す屋台。お祭りの定番の焼きそばやたこ焼きなんてのも。屋台って言ってもよくお祭りで見るようなものじゃなくて、しっかりとした移動型店舗って風なものだった。
バスポが直接プールの中央の島へ着陸して、スゥさん達が降りて来る。
「ようこそ!ヤマノテシティへ!」
同時にモモコさんとテツゾウさん、役員の方達が歓迎ムードで出迎えた。スゥさんは直接皆に話せないから、ボクがR.A.F.I.S.Sで仲介して挨拶を交わす。
『今日は楽しかった。歓迎を感謝する。』
「折角の異文化交流だからね。お互い楽しい思い出にしなくちゃ。スゥさんとは僕もテツゾウ代表も話したい事が一杯ある。でも先ずは食事をしようか。案内しよう。」
一体のミニフィーが同行して、ボクはササっと別行動。ここを会場にしたのは、勿論ライブの為!
歌って踊って歓迎するんだ!
「ラフィのライブが見れるなんて役得ね。」
「いつも練習を見ているじゃないですか。」
「それとこれとは別よ。アタシはラフィの全部を見たいんだから。」
もぅ、タマさんったら。先にステージに向かって、軽く声を出して準備を整える。ブランさんが用意した料理を頬張って、スタンバイしていたシライシさんがライブ用のお化粧をしてくれた。
「今日は大忙しね。応援してるわ。」
「はい。シライシさんも応援して下さい!」
シライシさんの手がボクの肩を叩き、親指を立てて送り出してくれた。今日沢山作った楽しい思い出を、全部歌に乗せて声を出すんだ!
美味しい料理を堪能して、高級なお酒に酔いしれる。そんな中、遂にステージの幕が上がった。
パッとステージが光ると皆の視線が向いた。R.A.F.I.S.Sがほんのりと今から楽しい事をするよっ!って伝えて、皆が寄って来た。
「やっちゃいなさい!」
「ラフィー!」
声援が飛び交い、楽器を携えたミニフィー達がパパッと集結!その手にはギター!ベース!そして数人でパパッと組み立てたドラム!キーボードがカッコいい電子音を奏でて、メロディーが駆け出した!
それは吹き抜けた春一番のよう。大気を音符が揺らし、皆の鼓膜をノック!ノック!!美羽の皆も!音を楽しんでっ♪
言語が通じないから、曲とダンスを中心とした1人5役バンドのライブ開催!!
「ボクの歌を聴いて下さい!皆で楽しみましょう!」
徐々に盛り上がるような曲じゃなくて、最初から無邪気にハイテンションで鳴らす。メロディーの橋梁をボクは駆け抜け、ドラムのテンポで体を鞠のようにぴょこぴょこ。そしてギターとベースに挟まれて音楽が完成した。
きゃーっ!って跳ねれば皆も腕を突き上げる。何処からか取り出されたサイリウムが乱舞、そしてボクの背にはアクアマリンが浮かんだ。
ふふん、ボクのライブはどんどんアップデートされるんだから。
バァッ!と薄虹色に煌めく水流がステージ全体に広がって、音楽に合わせてその上を小さな音符が流れていく。一緒に魔法文字と羽ばたきを表す小さな羽も、音符と一緒に川下り。
これには会場の皆が思わず声を上げた。美羽の皆も羽が千切れちゃいそうなぐらい羽ばたいて、体を揺らしてリズムに乗っちゃう。R.A.F.I.S.S越しにスゥさん達が、聞こえる音量をどんどん上げて音に熱狂する気持ちが伝わって来た。
騒がしいのは嫌い?これは音楽!音のダンスホールだよ。雑然じゃなくて、整然と。音の乱痴気騒ぎな狂乱でもなく、音を合わせて一つの曲に。揃った音色は心を揺さぶり、摩擦熱でハートが燃える!
「着いて来てますか?見逃しちゃダメですよ!」
指した先で霧が広がり、音符とハートを模っては消えて行く。
トランペットを持ち出したミニフィーのソプラノパート、途中から金管バンドへモードチェンジ!アップテンポにいろんな楽器を交えて音のミルフィーユをお届けだよ!
歌う!皆が声を出す!踊る!皆もノリノリに。伝播した楽しい、にボクも皆を身を任せて音の波間に漂った。
アクアマリンの水の粒子が空気をキラキラと薄虹に煌かせ、夢のような時間が過ぎていったのだった。
音楽とは。
そう、音を楽しむもの。
音が聞こえれば皆の目が向いて、連続すればもっと興味を引く。音が連なれば思わず足を止め、音符が並べばヒトを魅了する。
音符の波がうねれば小鳥も、犬も、猫も、ヒトも。横に縦にと何となく体を動かされてしまう。
そこに人種の差なんて無く、ニホンコク人も亜人も同じ”楽しい“を共有出来る交流の架け橋だった。
ボクが思うにこのライブこそがこの異文化交流会のキモだった。
楽しいって感情はとってもプライベートなもので、ボクの楽しいがタマさんの楽しいとは限らないように、共有するのが難しい。
そんな楽しいって想いをこの場の全員で共有出来たら、プライベートな部分で分かり合えたお仲間って事になるんだ。種族の差の溝を超えて笑顔を咲かせたこのひと時が、ボク達と静謐の揺籠の絆を硬いものにしてくれるかなって。
そう願って皆に手を振ったのだった。




