371、社会は何で出来ているんだろう?水族館を回りながら女王と少年は語り合う
お昼の時間が終わったら、皆を乗せたバスポはシナガワタウンへ向かった。
「次に目的地はシナガワタウン名物、ピュアシナガワマリンブルー水族館です!
シナガワタウンにはニホンコクで一番大きい水族館がある。その広さは1日では回り切れず、じっくり見るなら1週間は掛かると言われる程。
ニホンコクが異界地へやってきた時、多くの野生下の魚類が絶滅してしまった。海もまた地球と分たれて、環境がガラリと変わったから。そんな中、ニホンコク中にあった水族館がお魚さん達を保護する役割を担ったのだ。
ニホンコク全体が混乱に揺れる中、少しでも多くのお魚さん達を未来へ繋いで行こうと、多くの人々が奮闘した。その結果生き残ったお魚さんの多くがピュアシナガワマリンブルーで保護飼育されていた。
「水族館はレジャーであると同時に、お魚さん‥‥水を掻く者の飼育研究施設でもあります。今日は一日だけ1区画を貸し切りで楽しめます!」
全体はどの道回れないから、一部だけ貸し切りで。面白いお話だけど、お魚さんもお客さんが居ないと寂しくなっちゃうみたいで。水槽前に誰も居ない状況が続くと、目に見えて体調を崩したりストレスを感じるって研究結果も出ていた。
「何であれ環境の変化に弱いのよね。」
「環境変化に対する適応力チート種族のヒトと比べないで下さいませ。」
そんな事を小声で2人が話す中、フィクサーさんが早速ホロウインドウの中で水族館の紹介を。
『今回は水族館のEarth marine worldを観光しましょう!ニホンコクがかつて存在した地球という場所で暮らしていた水を掻く者が展示されたエリアになります!』
ここだけでもそこらの水族館と同じぐらいの広さがある。ヤマノテシティの都市運営委員会が、シナガワタウンの街長と共に出資して運営しているだけあって凄い。
フィクサーさんがチラ見せと言わんばかりに、公式が配信しているEarth marine worldの紹介PV映像を流してバスポの中で魔法文字が飛び交った。
ガイドさんだけど、ボクも来るのは初めて。回るのにすっごい時間が掛かるし、時間が取れなかったから。だからボクもワクワク、ドキドキ。
『他の場所も回れないの?』
スゥさんの念に、
「後日に自由に都市を散策出来る時間を設けます。お金は必要になりますが、その時に来れますよ。」
そう答えたのだった。
水族館へ着けば、早速Earth marine worldへ。そこまでは他のお客さん達も居るから、ゾロゾロ連れ立って歩けばとっても注目を浴びた。
『誰もが奇妙なポーズを向けて来る。あの動きに意味はあるのか。』
「ええと、スマイルのカメラ機能を使っているんです。皆にとってもスゥさん達は珍しいですから。」
試しにスゥさんは両手の親指と人差し指で、四角形を作るよう構える。すると自動でカメラが起動して、指で囲った範囲を写界に収めていた。
『こんな機能があったなんて。』
「今回の交流会の映像や写真はボク達で撮っていますから。でも自分で撮っても良いです。」
『試してみる。』
早速ボクへ向け、小さいピースを掲げるボクの笑顔がパシャリと。
『可愛いな。』
スゥさんは満足そうにしていた。‥‥ボクじゃなくて、水族館を撮りましょうよ。
Earth marine worldに着けば皆が驚いた風に、大きく羽ばたく。床が全面水槽になっていて、華やかな珊瑚礁とそこを棲家にする無数のお魚達が泳いでいた。所々盛り上がった珊瑚が水槽から突き出して、小さなお庭みたいになった部分もある。そこには蟹さんやヤドカリさんを始め、砂浜の生き物達が暮らしていた。バリア装甲に囲われているから触れないけど、間近で見る事ができて楽しい!中からはこっちが見えていないようで、顔を近づけても気付かずにのんびりしていた。
Earth marine worldの中でも入り口付近にあって、大人気のトロピカルオーシャンエリア。一日中ここで過ごせちゃいそうな、どこを見ても珊瑚礁のお魚さん達が泳いでいるすっごい華やかな場所。
「こっちの階段から地下室に行けますよ。地下から床下の水槽を見る事も出来るんです。」
ボクが先導して、スゥさんと一緒に何人かついて来る。地下から見る水槽も圧巻の大きさで、トロピカルオーシャンエリアの外周をぐるりと一周回って水槽を見る事が出来た。
『これが水を掻く者‥‥サカナと言ったか?美しい。色合いが華やかで、私たちの知っているものと全然違う。』
「海という場所に住むお魚さんです。中でもあったかい場所に住むお魚さんは鮮やかな色合いなんです。」
『とても綺麗なのに、美しいとしか表現出来ないのがもどかしい。ニホンコク語でなんと表現すれば良い?』
少しうーん、と考えて。
「芸術的でしょうか。美しいを芸として皆の評判を集める事を芸術と言います。芸で象形貨を集めるのと同じです。」
『ゲイジュツ‥‥そうなのか。』
タマさんがここに残って鑑賞するヒト達を見る間、ボク達は更に奥へ向かう。ジンベイザメが泳ぐ大きな水槽に、大型のお魚が回遊する巨大水槽が並ぶエリア。小さなお魚が巨大な群れを成して泳ぐ水槽に、チンアナゴが顔を覗かせる水槽が並ぶスペースも。
見るもの全てが珍しくて、ボクも一緒になってはしゃいじゃう。あっちも見ましょう!早く!はやくっ!
『ラフィさまの可愛い写真が沢山撮られてしまいますね。』
「はしゃぐラフィ様を見ると抱き締めておきたくなりますね。」
茶化さないでよ、もぅ。結局2時間じゃ全然回れそうになかった。本当に広い。水槽だけじゃなくて、ヒトデやウニと触れ合えるコーナーに、貝殻でアクセサリーを作れる体験コーナー、小型水中ドローンを操作して水槽内の餌やり体験なんてのも。
寛げるカフェや売店もそこかしこにあるし、限定スイーツがボク達を引き寄せていた。珊瑚礁風、カラフルクレープ美味しい!色とりどりのチョコがまぶされたクレープにスライスされたフルーツが乗っていた。
クレープを食べながら、スゥさんはボクと並んで座って寛ぐ。不意に質問を投げ掛けて来た。
『‥‥この水族館はどれ程稼いでいるのか?』
お金の話ですか?具体的な額は分からないけど‥‥そもそもそういう目的の施設じゃないというか。
『にゃは、水族館は先程説明した通り都市運営委員会とシナガワタウンの街長が税金で運営する研究機関になります。営利目的の施設じゃないのですよ!勿論入場料等は取りますけど、それは施設の維持の為のものですので。』
ひたすら利益を追求する企業と違って、これは一般人のレジャー施設も兼ねた研究施設。第一目標に巨万の富がある訳じゃなかった。黒字であるに越した事はないけど、流石に売り上げだけじゃ厳しいかも。
「噂だと100億円は越えてるそうですけど‥‥施設の維持費とか色々引いたら殆ど残らないかもしれません。」
広くて大きいって事はそれだけお金が掛かるから。スゥさんは不思議そうに質問を重ねる。
『お金にならないのにやるのか?お金が社会を回している事を知ったのに。』
「それは‥‥お金が社会を回していますけど、お金だけで社会が回っている訳じゃないからです。」
ウマミMAX社のアリスさんから聞いたっけ。お父さんの受け売りだけど、お金を体を流れる血に例えて語っていた。
「勿論ここで研究した内容が、将来的にお金に繋がるかもしれませんし。先行投資的な意味合いもあるのかも。でも、お金だけじゃないんです。」
お魚さん達の魅力を最大限押し出す、考え抜かれた展示が誰をも魅了する。ここに毎日通いたいからって、シナガワタウンに引っ越すヒトも沢山居るらしい。
「皆、誰もがお魚さんが大好きで。好きだから全力で絶滅の危機から守って来たんです。」
社会を回すのはお金だけじゃない。利益だけを優先してしまう企業は度々忘れちゃうみたいだけど、社会はヒトによって成り立っているんだから。
「好きなものを守っていく為に。皆と大切にしていく為にここがあるのだと思います。」
お金は血液。だけど人体を構成するものは血だけじゃない。骨も筋肉も内臓も。全部が必要になるように、社会だって沢山の要素があって初めて成り立つもの。
開拓者として濃密な1年を過ごして来て、社会というものを少しずつ分かって来ていた。
社会の骨となる数々の企業が、筋肉となる人々に血を巡らせる。その中核をなす臓器は、人々の想い。平和を、富を、幸せを、娯楽を、愛を。皆の想いが社会の心臓を作って、脈打つ度に社会を動かしていった。
「どれが欠けても社会は成り立ちません。スゥさんもお金に拘り過ぎるのは良くないです。大事なのは皆の想いですから。」
お金に盲目的になって、不幸になったヒトを沢山見て来た。お金は大事でも、本当に大事なものが何なのか。スゥさんには見失わないで欲しいな。
『社会を人体に例えるなんて、ラフィさまも達観してきましたね!元々聡明でしたが、本質を見抜く力は流石です。』
象形貨と掟で形作られていた静謐の揺籠とは違う、お金がある世界での考え方にスゥさんは少し黙って感心したようにしていた。
『忠告感謝する。お金を気にし過ぎていたかもしれない。初めての経験で、どう向き合えば良いか分からなかった。でも大切な物は想いだというのは、静謐の揺籠にも言える事だ。』
R.A.F.I.S.S越しにスゥさんから伝わって来る。スゥさんは美羽の一族の女王として、掟を一番大事に統治していた。でも杓子定規な掟の扱いに内心で疑問を感じつつも、女王としての責務を前に意見出来ないまま。
『ここに来て新しい知見を沢山得られた。掟が大事なのは変わらない。でも、もっと掟との向き合い方を変えても良いのかも。』
楽しい交流会だけど、スゥさんはその中で抱えていた悩みに差す光明を探していた。
「ご意見箱的な。住人の声を直接聞く場を定期的に設けてみてはどうですか?先ずは住人の想いを知る場があると良いと思います。」
掟は美羽の一族を敬うように作られていて、でも住人との壁があるようにボクも感じていた。初めて美羽の一族と会った時も、住人は皆跪いて意見出来そうな距離感に感じなかったから。
ボクの意見にスゥさんは優しく微笑み、伸びた手がボクを抱き寄せた。
「きゃっ?!」
『そうだな。それが良いのかもしれない。ラフィ、知恵を授けてくれた褒美に抱擁はどうだ?』
「それは‥‥その。」
細い体はバリア装甲に守られていて、肌をくっ付けられない事にスゥさんは残念そう。でもボクを見つめて囁くような思念が伝わって来る。
『小さき者よ。聡明で愛らしい者よ。この世界と私を繋げてくれた開拓者よ。‥‥そうだな。スキ、と言ったか。あれはどう表現すればいい?』
恥ずかしくて顔が熱いボクは、スゥさんを見つめ返しながらも。
「ボクは子供ですから。スキの伝え方はよく分かりません。でも、スキはいつの間にかそうなってて、自然に伝え合うものだと思います。」
ボクがタマさんに甘え、寄り掛かってスマイルを眺める時も。タマさんがボクを尻尾で撫でて頭を撫でる時も。
「恥ずかしいですから一旦離して欲しいです‥‥」
腕の中を抜け、スゥさんに少しだけ寄り掛かった。
「スキにはちゃんとした距離感があります。先ずは、こうやるんです。」
スゥさんもボクに体重を預けてくる。
『もどかしいな。でも悪くない。』
ホロウインドウの中のフィクサーさんはほっとした顔で胸を撫で下ろす。
『言っておきますが、ニホンコクの常識では裸のお付き合いから始まる恋愛は大人向けとなっています。子供のラフィさまに配慮して下さいね?』
なんて。隙あらばフィクサーさんも変な事しようとしてくる癖に。
寄りかかり合いながら、ボクは1人もじもじしていたのだった。




