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367、ヒトを支配する真の支配者はなんだろう?

想定外の騒動があったものの、メリーさんに簡単な聴取を受けて直ぐに解放された。羅針盤に刻まれた情報を渡して、フィクサーさんの撮った映像を確認するだけ。一応ザックリとボクの口からも事情を話した。


「ラフィ助は毎度ながらに妙な事件に巻き込まれるッスね。」


なんて。学校の七不思議を調べようとしたら、学校迷宮脱出ゲームみたいな世界に閉じ込められるなんて予想外だよ!徘徊者を銃で蹴散らして、根源の悪霊をボコボコにして逃げ延びたけど。


サバイバルステルスホラーと思ったら、スタイリッシュ除霊アクションだった感じ。


トイ・ウェポンの出番は無くて、光線と実弾がばら撒かれた。


キャウルンさんは窒息による心肺停止だったから、治療するのは簡単だった。脳が生命保険で守られている以上、心臓を再度動かして少しの時間人工呼吸器で酸素を送れば大丈夫。


「酷い目にあった‥‥ラフィ、ありがとな。」


「はい。心臓が動き出してからは暫くの間、心不全のリスクがありますので過度な運動を控えるようにお願いします。それとスマイルに救急アプリを入れて下さい。心不全で倒れた際に自動で救急車を呼んでくれます。」


「うっ‥‥分かってるってば。」


「もし心不全の再発が重なるようでしたら最悪心臓移植の必要性が出て来ます。もし余裕がありましたら今の内に心臓のスペアパーツの確保をお願いします。」


「うへぇ‥‥死ぬよりはマシだけどさ。スペアパーツ維持するの結構掛かるんだよね。心臓だと培養分の細胞取り出すだけでも手術が要るし。」


キャウルンさんは踏んだり蹴ったりな感じにしょげてしまった。


ラズベリーさん達と一緒にソノコさんに今後のお話を聞くと、


「今回撮れた映像は編集してEXPOに出展するの!絶対話題になるから!それに‥‥良いアイデアが出てきた。凄い出し物を出せるかも!」


とっても前向きな感じだった。


「大丈夫?酷い目に遭ったみたいだし、カウンセラーの先生紹介しよっか?」


ラズベリーさんもボクと同じ事を考えていた。怖い目にあったしPTSDが発症するかもしれない。でも暗さを感じさせない、強い目をしていた。


「確かに怖かったけど。でも魔法少女とラフィさんのカッコいい所を真近で見られたから。」


そして、


「決めたの。私、将来開拓者になる!いい大学に行って、良い企業に勤めてお金を稼いで。それで良い装備を揃えて目指すんだ。」


「そして困ってるヒトが居たら助けるの。カッコいいお姉さんになるんだから。」


将来の目標がハッキリとしたお陰か、短いお付き合いだったけど初めて見た顔とは雰囲気が全く違った。大きな山場を生きて乗り越えられた経験が、ソノコさんを一回り成長させていたのだった。


他の部員達はラズベリーさんとグミさんがしっかり守ってくれたのもあって、カッコいい戦いを見れたって興奮気味。派手なアトラクションを楽しんだように、口々に感想を言い合っていた。


「結果オーライって事で。」


「オーライじゃないわよ。」


黒パーカーに戻ったタマさんが、丁度聴取を終えて戻って来た。


「初出演を潰されちゃったわねー。運が無い奴。」


グミさんに煽られ、尻尾でおでこを突く。アマネさんも同じく。


「私も初出演の予定だっただけど‥‥ダル‥‥」


なんて言って不貞腐れていた。


ブランさんが聴取が終わるまでに会社や組合へ連絡を済ましてくれていて、敏腕秘書として今回の件の対応をしてくれた。


「当機は今回出番が無かったので、これぐらいはしませんと。扱い的には野良のゴーストの駆除を行った事になっています。ラズベリーさん達も含めて組合へ連絡しましたから実績に加算されている筈です。」


こういう危険な存在と偶発的に出会して倒した際に、赤字になってしまわないよう常設依頼から報酬が出る。額は大きくは無いけど、黒字にはなるぐらいだった。


「差し引き50万前後の臨時収入かしら。そんな強く無かったし割の良い仕事だったわね。」


グミさんの魔法少女らしからぬ発言に、キャウルンさんが咳払いを。


「魔法少女の皆は世界を悪から守る使命を果たせて、深まった絆に笑顔を咲かせるんだ。お金よりも大切な絆に喜ばないと。」


「絆で飯が食えるのなら苦労しないのぅ。」


ブラックカラントさんがぼやけば、キャウルンさんは無言で睨んで抗議する。


「深まった絆とやらを確認する為に、打ち上げにでも行きましょう。当機がセッティング致しますので。」


絆ご飯の話題に皆の顔が明るくなったのだった。



『ほら!皆、記念撮影といきましょう!』


フィクサーさんがスマイルカメラでパシャリ。グルメが豊富な高級カラオケではしゃぐボク達を写真に収める。


「タマさんの初出演は次にお預けですね。」


ソファーに並んで座るボクとタマさんは、フォークを片手にカットステーキと向かい合う。


「折角衣装も用意したのに。ラフィが好きそうなやつ。」


ステーキが一枚消えた。んぐっ、美味しい。ガーリックソースが良く合う。


「見せて欲しいです。」


「初出演でね。ま、今回のショーは中止になったけどすぐ次が来るでしょ。」


タマさんはモグモグしながらお肉の旨みを味わう。


「当面はEXPOへ向けた、各校からの雑務依頼が中心となりますので。この機会に思う存分満喫致しましょう。」


ブランさんもモソモソと肉寿司を味わっていた。それボクも一個欲しいです。


「そう!暫くはラフィくんと一緒にお仕事出来るんだよ!宜しくねっ!」


マイク片手にラズベリーさんがVサインを送って、ボクも合わせるようにピースで応えた。


「次こそ私も出るんで、よろ。」


アマネさんは歌うよりも食い気多めにお皿を綺麗にしていた。


「次の依頼のついて話しましょうよ。どうせ後で会議すんのも、ここでやんのも変わんないでしょ。」


グミさんの声に反応して、ホロウインドウ内のフィクサーさんが依頼一覧が纏められた画面を用意してくれた。まとめサイトみたいなデザインに纏まってて、どれも気になって皆の視線が移ろう。


『魔法少女達のカッコいい短編映画撮影!!トウキョウ大学映画研究サークル』


『オリジナル新作マギアーツ試運転のお願い!ヤマノテ中央大学マギアーツ・シュミレーションプロジェクトサークル』


『新作レースゲームのテストプレイ募集!来たれ魔法少女!トウキョウ工科大学魔具工学部』


‥‥どれも気になる!!


依頼が20個ぐらい並んでいて、どれを取るかはボク達が決めていいって話だった。


「短編映画撮影が気になります!」


ボクの声に4つのいいね!が集まる。


「レースゲームも面白そうだよね。どんなものなんだろ。」


ラズベリーさんの声にも4つのいいね!が。


「楽しそうで良いわよね〜。」


しらー、とするタマさんはハンバーグのステーキサンドを齧っていた。


『二十歳越えの魔法成人やっちゃいます?』「キッツで御座います。」


アニメーションのタライがフィクサーさんの頭を揺らし、ブランさんの胸元を裏拳がどついた。


「タマさんなら魔法少女の姿も似合いますよ!」


尻尾がボクのほっぺを撫で上げる。


「はいはい。ラフィはアタシが何着ても褒めてくれるでしょ。」


タマさんは着てくれないみたいだった。


カラオケで沢山騒いで、夜が更け‥‥パンタシアのベッドへそろそろ向かおうかなって時にブランさんが明日の予定を確認して来た。


「前々からお話が進んでいましたが、明日美羽の一族をヤマノテシティへ招待致します。その際のワープゲートの作成、そして観光案内係をラフィ様が担当しますので。」


そっか。明日だった。アマツクの巨木の中で出会った、静謐の揺籠の住人達。彼らを取り纏める美羽の一族は、シブサワグループとの異文化交流をする為にヤマノテシティへ何度か来訪する事になっていた。


前はボク達がおもてなしして貰ったんだし、今度はボク達がおもてなしをする番なんだから。


「今度の異文化交流会のガイド役は、R.A.F.I.S.Sで円滑なコミュニケーションがとれるラフィ様が適任で御座います。」


ガイドさんなボクのスマイルへ、当日の予定表が送られてくる。向かう施設には予め連絡が行っているから、貸し切り状態で使える筈。


明日が楽しみになってきたっ!どこを紹介するかは、モモコさんと話し合ってボクがチョイスしたんだから。


『田舎臭い魔法都市のお貴族様を、未来都市の文明力でぶん殴ってやりましょう!どんな反応をするか楽しみですね!』


フィクサーさんの手のひらには、漫画のコマが乗っかっている。目ん玉が飛び出した美羽の一族の皆が「どひゃーっ?!」とか叫んでいた。


「あのヒト達は叫んだりしませんから。」


でも静謐の揺籠と都市とじゃ文化が全く違う。実は時刻や日付けという概念も無くて、予定を合わせるのにすっごいキュエリさんが苦労したって話を聞いた。


ザックリ、朝・祈りの時・昼・羽ばたきの時・夜・就寝の時の6つに分かれていて。0時〜23時みたいな細かい時刻分けが存在しない。しかも場所は陽の差さない木の中だから、朝の時間そのものが段々とズレこんでお外が真っ暗な時間に朝を迎える事も多いみたいだった。


定期的に外へ刻合わせの任を受けた者達が向かって、無茶苦茶になった朝の時間を調整したりするらしいけど。でも時間という概念に無頓着だった。そもそもあの多様性に満ちた揺籠の住人達は、種族によって昼に元気か夜に元気かが違うらしいし。


時間という概念を特に共有せずに、それぞれが揺籠の掟だけを守りながらそれとなく歩調を合わせて生きていく。あの場所は緩やかな時間が流れていた。


「つまり交流会で一番驚かせちゃうのは、都市の時間という概念かしらね。ここじゃ誰しもが駆け足に生きているように見えるんじゃないかしら。」


ベッドに寝転がったまま、タマさんの指先がボクの裾を引っ張る。


早く寝ちゃいましょうよ。って急かして来て。寝る時もボク達は駆け足なのかも。時間が皆で共有されたお陰で、時計の針に追われて生きる事になった。あの長針があそこを指すまでにベッドに潜り込まないと。


静謐の揺籠を知って、ボクは新しい考えを持つようになった。


今まではヒトはお金に支配されて、誰もがお金に振り回されて生きているように思えたのに。実はヒトを支配していたのはお金じゃなくて、時計の針だったのかも。


スマイルの時計機能の数字が、就寝の時間を告げた。


‥‥多分ヒトを支配しているのは、ヒトが作り出した傑作の発明品。数字なのかもしれない。時計の針よりも正確に、ハッキリとベッドへボクを送り出す。


寝室のドアをフィクサーさんとブランさんがパタリと閉じたのだった。

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