35、文明的な二人の鬼は大怪獣に対峙する、天使はそんな漢の背中に内心憧れを抱いた
隣の地区は既に瓦礫の山と化していた。あちこちに倒れた街の住人や小型の怪物が転がっていて、戦いの激しさを物語っている。
「あちゃー、こりゃ手遅れかしら。」
そういうタマさんは爪痕だけが残された戦場跡を見回し、一際大きな瓦礫に寄りかかる。既に誰も居ないみたいだし、大怪獣も別の区域に行っちゃったのかな?何処に行ったんだろう。
と、その時。
ぐらりとタマさんの寄りかかった瓦礫が揺れ、
「うひゃあっ?!」
よたよたと押し退けられたタマさんの後ろで、大きな瓦礫が徐々に持ち上がっていく。その真下にはクリムゾン・イシダさんが筋肉に唸りを上げて立ちあがろうとしていた。
「おぉおおぉおおお!!」
紅い裸体の上半身を震わせながらも、信じられない力で瓦礫を投げ捨ててしまう。
「オラァッ!!!」
イシダさんの怒号と瓦礫が遠くで爆ぜる轟音が響くのは同時だった。イシダさんのいる空間には少しだけ隙間があり、中から蒼いゴムフルプレートアーマーを着込んだ巨漢も這い出て来た。
「クッソォー!!あの牛野郎、何処行きやがった?!」
「兄貴ィ!俺の鼻は向こうを指してますぜぇ!今度こそとっちめて‥‥」
サファイヤ・コバヤシさんと目が合った。ボク達を前に紅蒼の二人は一瞬固まる。そして案の定、
「おいタマァ!!何しに来たんだ!今忙しいんだ、邪魔すんじゃねぇ!」
「いや、救援依頼飛ばしたのアンタらでしょうが。」
早速いがみ合う二人。そこに割って入るクニークルスさんとシロ、ハクさん。伸びる鼻先。閑話休題。
「‥‥という訳で、タマはともかく。共同戦線を張ろうじゃねぇか。おい、ボウズ。テメェも戦えんのか?」
「はいっ!戦えます!」
「オレはガキに危ねぇ事をさせたくねぇんだ。いいか?危ないと思ったら迷わずオレを頼れよ?オレの目の前で怪我すんじゃねぇぞ?」
イシダさんの紅くて硬い指先がボクのおでこを突く。イシダさんはすっごい強面だけど意外と優しいのかな?何となく、イシダさんは信頼出来るってボクは思っていた。
「おい、ボウズ!こっち向け!」
急にコバヤシさんに肩を叩かれ思わず振り返る。ビチっと跳ねる蒼いゴム鎧。いつの間に下半身がお魚さんに変化したコバヤシさんが、陸の上の魚として振る舞っている。大きな尾びれでビチビチと跳ねる姿が何だか可笑しくて。
「あははっ。」
吹き出してしまった。そんなボクにコバヤシさんはグッと親指を立てる。
「緊張ばっかしてちゃ持たねぇぞ?怖い事は俺らに任せて援護を宜しくな!」
蒼い鎧がぐもぐもと動いて、コバヤシさんは瞬く間に元の姿に戻った。
「兄貴、悪いな。ボウズの笑顔を先取りしちまって。」
「ハッ、こんにゃろ。俺の変顔24手が炸裂すりゃあ‥‥」
イシダさんの後頭部にタマさんの蹴りが。
「いいから話を進めなさいよ!」
「テメェ!タマァ!」
舞う土煙、悪い顔で薄ら笑うブランさん、クニークルスさん達の漏れる溜息。話し合いは思いの外長引いたけど、ターゲットの大怪獣の情報は纏まった。
巨大な体躯を持つ二足歩行の牛頭。両手がガトリング砲になっていて、軽く振り回されただけでこの辺りが焦土と化したらしい。本当に勝てるのかな?他にも角の辺りに機銃が付いてたり、脚にも多連装ロケット砲が積まれてたり。歩く要塞そのまんまだよ。強い要素をひたすら掛け算して出来上がった化け物相手にどうするか。
「二足歩行なんでしょ?ならやりようはあるわ。いい?人型の怪物で、上半身がずんぐりしてる奴はね‥‥」
「足払いに弱い!!」
足払い専用の弾力ゴムベルトを片手に、瓦礫に紛れて一瞬で横切るクニークルスさん。ピンと張られたゴムベルトは大怪獣の足を絡め取り、傾いた巨大な体が何軒かの住居遺跡を破壊して倒れ込む。一帯に広がる土煙りと吹き飛ぶ瓦礫の雨。その中をボク達は一斉に飛び掛かった。
脚の多連装ロケット砲はこの瞬間は地面にめり込み機能しない。両手のガトリング砲も近くの廃墟に引っかかって少しの間だけど動かせない。うつ伏せだから角に付いた機銃も地面に狙いを付けている。
無防備な背中に向けて、まず一番に突っ込んだのはイシダさん。両手に付けた巨大なガントレットが唸りを上げて振り下ろされる。
「さっきのお返しだぁ!!喰らいやがれ!クリムゾン・ナッコォ!!」
一瞬時が止まった錯覚を覚える程の衝撃が巨体を波立たせた。続いてコバヤシさんが大きく口を開けて長い舌を噴出する。強力な溶解液を含んだ舌が機銃の群れをペロリ。限られた時間の中で出来る限りの武装を舐め溶かしてしまう。
「ほらほら、連携決めてくよ〜!」
シロさんがバリア装甲を変形させつつ脚周りを駆け回り、ハクさんが上から威力の高い榴弾砲を掃射して切り込みの入った脚を吹き飛ばした!
と、両腕のガトリング砲がけたたましい発射音を鳴らし、咄嗟に飛び退いて伏せたボク達の頭上を一瞬で横薙ぎに。逃げ隠れ出来そうな付近の遺跡が粉々になってしまった。脚を失っても片肘で体勢を支えながら、十分脅威となるガトリング砲を豪速で振り回してきたのだ。
一瞬“撤退”の二文字が脳裏に浮かぶ。今まで見た事のない暴力に腰が抜けそうになる。だけど、前へ!
ラフィ型軍用革新的支援システム(R.A.F.I.S.S)ヲ起動シマス。
一瞬視界が紅く染まり、直ぐに元に戻る。感覚的に周囲全ての地形、敵味方の動きが理解出来るようになる。そしてその動きのシュミレートも。一瞬先の皆の動きが分かるから、ボクは前へと飛び出した。皆は距離を取る事を選択したけど、ここで一度でも距離を離したら多分もうまともに攻撃できる隙を生み出せない。
普通なら無理な弾丸の雨の中も、飛んでくる軌道が丸見えなこの状態でなら駆け抜けられる。1発1発はボクを精密に狙ったものではなく、あらん限り弾をばら撒いて粉砕する動きだった。ならば隙間がある。
伸びた巻物の帯でブランさんを回収。同時に地面スレスレを滑り込むように、後頭部を打ちそうなくらいのイナバウアー姿勢で無理やり弾丸の波の下を潜る。ソニックブームがボクのバリア装甲を削っていった。
ブレードランナーの出力を一瞬だけ上げ、ボクの体を斜め上に跳ね上げる。一瞬後に襲い掛かった弾丸が、つま先に掠らず通り抜けていった。
宙で片足のブレードランナーを踏み込み蹴り飛ばす。ボクの体はその場で三回転し、無造作に飛んできた弾丸をギリギリでやり過ごせた。全身にとんでもないGが掛かるものの、3000万円した強化外装の性能が負荷を和らげてくれていた。
硬質化した巻物の帯を一気に伸ばし、片足で宙を蹴って勢いよく縦回転して薙ぎ払う。狙うは射程内に入った、上体を支える肘。
「ブランさん!」
「牛刺しにしましょう。」
巻物内の収納からブランさんが突き出したのは、タマさんから何本か貰っていたビームシュナイダー。光学兵器の強みは軽さ!速度を殺さず突っ込み、肉を簡単に灼き斬る光学兵器が遺憾なく威力を発揮した。
肘がバッサリと灼き斬られ、唸り声を上げながらぐらつく牛頭の体勢が崩れた!
そのお陰で牛頭のガトリング砲の狙いが大きくズレる。反動で明後日の方向へ銃口が向き、大きな隙になる。同時に皆も駆け出し、追い討ちを掛けに向かっていた。
巻物内から飛び出したブランさんはビームシュナイダーを片手に巨体を駆け上がり、首元に深い斬り痕を残して背面に飛び降りる。一撃で寸断とはいかないか。刃渡り以上には斬れないし。
ボクも付近に転がっていた瓦礫を目一杯巻物内に収納し、ガトリング砲を目掛けてぶつけてやった。
「よぉくやったボウズゥ!!後は任せろ!」
イシダさんの声に振り向けば、コバヤシさんの口内に半身を突っ込んだ状態で腕を回している。
「行くぜ!カタパルトォ‥‥」
ギリギリと何処からか引き絞る音が鳴る。そして、
「クリムゾン・ナッコォ!!」
イシダさんは紅い矢となり真っ直ぐに。
もげた牛頭の中央に突き刺さりながらイシダさんはぶっ飛んでいく。そして頭部を失った大怪獣の胴体を皆の一斉攻撃が粉砕したのだった。
ークリムゾン・ナッコォ!!ー
当たり前だが技名を叫ぶ必要は無い。ただ、叫べば闘志が燃え、カッコよく戦う自身に酔える。
命懸けの闘争は文明人にとって酔狂なもの。とどのつまり酔ったもん勝ち、叫んだもん勝ち。
が、タマはそういう暑苦しい所も嫌っていた。
タマにとって闘争はスマートに無駄なく捌くものであって演劇でも少年漫画でもないからだ。




