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34、知っていた筈の天使の羽は遠い所からの贈り物

戦っている最中に意識が朦朧として、半分反射で戦っていたボクはいつの間に何処かの廃墟で寝かされていた。目を開けると、覗き込むタマさんと視線が合う。


「気分はどう?」


「ええと、まだちょっとぼんやりします。」


タマさんの尻尾は掛けられた毛布の下に入り込み、ボクの服の中に突っ込まれている。


「そんなにお腹を摩らないで下さい‥‥」


恥ずかしいよ。起き上がって見回すとクニークルスさんがベットに寝かされていて‥‥って、えええ?!体が!半分無い!あわわわ!


「応急手当てしたから大丈夫っしょ。」


「大丈夫じゃないですよ!意識無いし!急いで治療しますから!」


ベットを転がり降り、本の中から手術台を引っ張り出す。と、不意にもっと便利な物を持っている事に気付いた。いや、気付いたっていうのは変かも。何だろう?思い出したのかな?

ボクは幼少の頃の記憶が酷く曖昧だった。覚えているのは歪んだ景色をいっつも見ていて、手を伸ばしても届かなくて。そんなふわふわした記憶だけ。だけど、ボクは自身に収納のマギアーツが仕込まれている事を思い出したのだ。


マギアーツが仕込まれているって変だけど、その中に役立ちそうな物が入っていた。使い方も分かっている。クニークルスさんのベットの前に立ったボクは、収納の中から治療に特化した拡張パーツを呼び出した。


ボクの背中側の空間が小さく裂けて、ふわりと純白のふわふわが現出した。それは一対の天使の羽。


「あっ?!んんっ‥‥!」


天使の羽が神経に接続される感触はこそばゆくて、思わず変な声が出ちゃった。神経の繋がった羽は意識すればピクピクと動かせた。


「うぇえっ?!ラフィ、何よそれ‥‥!」


後ろのタマさんの声が震える。手をワキワキさせて、ボクの羽を思いっきりモフってしまおうとしているのが背中越しでも分かるんだ。羽からはキラキラと薄っすら輝く医療用ナノマシンが散布されている。ルナさんのナノマシンと違って迷彩効果とかは無いし、攻撃力は皆無だけど周囲のヒトの生態情報をボクに送ってくれた。タマさんが急に興奮し出してるのも全部バレてるんだから。


「邪魔しちゃ、ヤです。」


背中越しにタマさんに視線をやり、治療に専念する事にした。クニークルスさんは大量の血を失い、生命保険の手術により脳に埋め込まれた医療マギアーツによって生かされている状況だった。早く治さないと。


汎用血液パックを本から取り出し、手早く輸血を開始する。同時にナノマシンが手荒に巻かれた包帯を外し、損傷した部位を修復し始めた。体の回復力を言葉通り激烈に引き上げて高速再生を実現させる再生のマギアーツ。しかし、その分とんでもない量のエネルギーを消費させる事になるから、これを。懐から取り出した濃縮点滴補給食。これを臓器に直接注入して強制的にエネルギー源を確保する!


もっと良いやり方もあるんだけど時間がなさそうだし、まだ操作に慣れないから力技で治療する事にした。


欠けた臓器は手っ取り早くスペアの代用品を使おう。臓器さえ確保すれば他の血肉は再生力でどうにかなる。医療ナノマシンに体を包まれ、クニークルスさんはキラキラな光の中で元の姿を取り戻していく。治療はあっという間に終わり、傷一つない姿を光の中から現した。


本人から直接培養したスペア品を使わないと、馴染むまで時間が掛かるしそれまで体機能が低下しちゃう。だけど、エンジェルウイングの性能のお陰か汎用品のスペアパーツは、既に体の一部として馴染んでいたのだった。


「目を覚ますまで安静にしましょう。」


手術を終えたボクが振り向けば、いつの間にシロ、ハクさんにブランさんも集まって見学していた。


「ラフィくん!きゃわわわっ!」


「ひゃいっ?!あっ!ちょっと待ってぇ!」


白猫な二人に揉まれ思わずジタバタ。視線でタマさんに助けを求めるも、ニヤケ顔のタマさんはボクの羽をモフモフを撫で回してくる。んっ‥‥!撫でられるのちょっと気持ち良いかも。でも皆で揉みくちゃにしないでぇ!


ピャーっ!って慌てるボクをブランさんがひょいと抱き寄せて地面に降ろしました。


「ラフィ様をあまり困らせないように。」


一旦落ち着いた皆は一度状況の確認をする事にした。だけどその前に。


「ラフィくん、ありがとね。お陰で助かったよ〜。」


「えへへ、こんな美少年が命の恩人だなんて。お姉さん達が何でもしてあげるから、帰ったら色々ご馳走するよ。」


シロ、ハクさんに手を握られてブンブンと振られる。あの時は意識が朦朧としていたけど、いの一番に二人を助けなきゃって思っていた。ちょっとこそばゆいな。


「私も、礼を言わせて貰うよ少年。」


目を覚ましたクニークルスさんも体を起こしてボクの頭を撫でてきた。


「ラフィ、医療費はクニークルスに後で請求しなさいよ。なんか見た事ない新技術っぽいの使ってたから相当額いくんじゃないの?」


ボクの頭を撫でる手が止まる。あの、手汗かいてますよ?


「ええと、お手柔らかに‥‥あっ!少年、体で返すって言うのはどうかい?今なら永年抱き放題で手を打つぞ?」


「い、いいですっ!お代はその。後で計算します。保険会社に請求しますので3割負担になると思います。ですが、お値段は他のアコライト同様の料金になると思います。」


タマさんは溜息を吐いてクニークルスさんを軽く小突く。


「てかアンタ泡仕事に精を出し過ぎて鈍ってるでしょ?パンタシアのトレーニングルーム貸してあげるから暫く訓練してなさい。」


「うぐっ。まぁ副業ばっかりだったのは認めるさ。ラフィ少年を心配させないよう、ちゃんと勘を取り戻さないとな。」


そんなやり取りの後、外を見回っていたブランさん達の報告を聞いた。どうやら他の区域にも複数の大怪獣が出現し、緊急援護依頼がひっきりなしに飛び交っている状態なんだとか。最低でも3体以上の大怪獣に手を焼いているそうだ。


「この地区の小型の怪物は巡回ついでに掃討しておいたよ〜。ま、大部分はさっきの大怪獣の出現時の衝撃で散っちゃってたけど。」


「つまり、我々で請け負った任務自体は既に達成済みです。雑魚共など放っておいて帰投してもお咎めを受ける(いわ)れは無いのですよ。ラフィ様、これ以上体に負担を掛けず、一度帰投した方が。」


さっきはたまたまうまく行ったから大怪獣を倒せたけど、どうしよう?救援に行ってもボク達も無事で済むか分からないし。でも、ここで背を向けるのは‥‥少しでも助けになりたいな。


「ま、近くの救援依頼くらい受けてやってもいいんじゃない?ラフィはどうする?別に無理せず帰ってても良いわよ?」


「行きます。さっきの力、もっと使って慣れないと。帰ってからたっぷり寝れば良いんです。」


ボクはさっきの感覚を反芻しつつ、覚悟を決めた。これからタマシティを運営するタマ生命とも戦うんだ。こんな所で逃げたら、多分戦えなくなっちゃう。何処までも前に進まないと。懐から羅針盤を取り出し、その針の指す先をじっと見つめた。


さっきは力の反動で意識がぼやけちゃったけど、今度こそ上手く出来る気がする。


「では当機はラフィ様の援護に回りますので、他はどうぞお好きに。」


ふと、ブランさんがさっき巻物の中に入っていたのを思い出した。入れたんだ。


「当機はバトロイドであり、モノですので収納のマギアーツに対応しています。一定以上の容量が必要となりますが、その巻物の中なら問題ありません。見た目によらず軍用レベルの容量していますから、当機の保有する武装ごと入れちゃうんですね。」


モノって言い方好きじゃないな。でも、今はそういう事を話し合う暇は無い。ボク達はさっさと準備を整えて、隣の区域で暴れる大怪獣の討伐援護へ向かったのだった。

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