32、餌に蟻が群がる、一呑みにせんと口腔が迫る、そして少年は起動する
「んー、思ったより数が多いわね。」
マンションの屋上から見下ろした遺跡のそこかしこに怪物が跋扈していた。こじんまりとした平屋が多くて、ビルの基礎部分だけが残った残骸なんかもポツリポツリとあった。上から見れば怪物の位置も大体わかっちゃう。
向こうはこっちに気付いていないみたい。半身を隠せる大きな盾状の片腕を持ち、ライフルや刀剣を接続した腕の怪物が多い。バラージゴーレムの一種って聞いた。ダンジョン内外で一番多く見かける、亜種の多い怪物種だった。
だからといって油断は出来ない。一番多く見かけるって事は、どのダンジョンもコストと性能が一番安定していると判断したからだし。安定して知的生命体を狩り回れる便利な食指が蠢いていた。
「此処からでも狙撃は出来ますが。」
ブランさんの意見にクニークルスさんは首を振る。
「この建物内にもどんだけ入り込んでるか分からない。下の四方から銃撃を受けながら這い上がって来た怪物とも取っ組み合うかい?あたしは御免だね。」
態度を見るにブランさん一人ならそれでも対応出来てしまいそうな感じだけど、旅団として戦う以上危険を少なく効率的に、ね。
「じゃあアタシが殿を受け持つから、他の面々で正面を掃討しつつマンションの外周部を回りましょ。マンション内部からの攻撃にはブランが対応しなさい。」
タマさんの作戦に異議はなく、早速行動を開始した。一斉にマンションの屋上から飛び出し、外周部の中でも怪物の密度の少ない場所へ急襲を仕掛ける。
「機先を制する!」
タマさんの両手に構えられたアサルトライフル・3M50から放たれたEX弾頭は、2種のマギアーツにより加速し重量を増す。偶に撃っている所を見るけどそれは凄い威力で。弾はソメヤさんから仕入れた特別規格って話だけど、お値段相応の苛烈な火力を叩き出した。
速度、質量ほぼ同じの対物ライフルの銃弾の雨、とソメヤさんは語っていた。怪物達が此方を向く前に地形ごと粉微塵になって四散する。住宅街の一角が瓦礫の山となってしまった。
「うひゃあっ?!何その反則武器!」
驚くハクさんにタマさんは得意げに笑う。
「どうせ定期的にここら一帯ダンジョン化して元通りになんだから、遠慮なくぶち壊しなさい!建物ってのは生えてくるもんなのよ!」
一帯に響き渡る轟音にダンジョンの食指が興味を示し、怪物達の足音が四方から迫ってくる。
早速正面から5、6体の怪物が。盾状の腕を構えて陣を組み、質量に任せて轢き潰そうと迫って来た!
咄嗟に伸ばした巻物から突き出た銃口が、乱雑に弾をばら撒くものの硬質な音と散った火花がダメージの無さを教えてくれた。盾状の腕は非常に硬く、生半可な銃撃を容易く弾く。ダンジョンが最も量産する怪物種の性能は折り紙付きだった。
「私達に任せて!」
迫る硬質な質量の前に飛び出したシロ、ハクさん。腰のラインレーザーを纏うバリア装甲が、刀剣状に変化して正面を薙ぎ払う。質量の無い白熱の剣は、驚く程の速度で盾ごと敵を灼き裂いてバラバラにしてしまった。
盾を持つ前線が崩された事で、後方から射撃をしていた両手銃のバラージゴーレムが無防備となった。バリア装甲で薙ぎ払いつつ、撃ち出された二人の2丁拳銃の弾丸が後方にまで大打撃を与えたのだった。
「凄い‥‥!」
手慣れた動きで盾を崩し戦線を前に押し上げる二人の連携はぴったりで。ボクも援護だけでもしなきゃ。
意気込むボクの前の敵集団が突然吹き飛ぶ。びくっとして見やればクニークルスさんが爆弾付きベルトを片手に戦場を駆け回っていた。クニークルスさんが飛び出して道を作り、シロ、ハクさんが道を押し広げる。ブランさんがボクを庇いながらもマンション側からの攻撃に対応し、タマさんが一人で後方の敵を翻弄している。癒しのギフテッドを出来るだけ広範囲に撒いているけど、ちゃんと届いているかな?やっぱりちゃんと援護しないと。
目の前で戦うシロ、ハクさんに意識を集中させる。動きを観察して、次の瞬間にどう動くかを予想する。そうしていると、前にブランさんを援護した時のあの感じ。まるで思考を共有したかのように一挙手一投足を直感的に理解出来る不思議な感覚が湧き上がってきた。癒しのギフテッドとは違う何か別系統の力。胸の内に眠るその力の本質に指が引っかかりながらもうまく引き出せない。だけど、その一端だけでも援護するには十分なものだった。
ボクは数歩前に出て両手の袖から巻物を勢いよく発射した。忙しい脳内の演算処理に従い宙で弧を描く帯が硬質化し、二人に向けられた銃弾を的確に防ぐ。一瞬目線の高さに張られた帯に視界を遮られ、怯む怪物の群れに二人の銃撃が刺さる。地面を這うように薙がれた帯が怪物達の足を絡め取り次々転倒させ、無防備な頭に弾丸が撃ち込まれる。
「ラフィくん!やるじゃん!」
「あはは、何で私達の動きが分かるの〜?」
集中しているボクの援護は常に二人の銃口の向いた先に向かう。格段に戦い易くなったお陰か二人の猛攻はより激しさを増し、先頭を切り開くクニークルスさんに追いついてしまう程になった。
「おいおい!急にどうしたよ!」
「私達、ラフィくんと相性いいのかも〜。」
「ほらほら、全部私達で倒しちゃうよ?」
激しい戦闘を感じさせない、いつも通りな二人はけらけら笑ってクニークルスさんを挑発する。クニークルスさんも一層気合を入れたようで、もっと沢山のベルト爆弾を取り出して笑った。
そんな中、ボクは力を使う程に不気味なくらい精神が静まり返るのを感じていた。体の奥底から何か得体の知れない力が徐々に湧いてくる。最初は二人だけだったけど、徐々に戦場全体を俯瞰して見ているような錯覚を覚え始めていた。皆の動きは達人のそれで、ボクにはまるで理解出来ないようなものの筈なのに。だけど一手先の動きが分かってしまう。次の瞬間にタマさんが狙う敵を一瞬早く理解したボクは、通りすがりに帯で薙いで怪物達の視界を一瞬塞ぐ。
「ラフィ、アンタどうしたの?大丈夫?」
短時間で急激に動きの変わったボクを尻尾で捕まえ、引き寄せながらタマさんが覗き込んできた。
その時ボクはどう返したかよく思い出せない。だけど、直後に酷くギョッとした顔をしたタマさんが驚愕の声を上げる。
「ラフィ?!アンタ!一体?!」
同時にボクの視界にも異常が起きていた。
視界の端に急に難しい文字が沢山流れ出し、何かのシステムを再起動するって表示が浮かび上がっていたのだった。
Rafi type Armed Forces Innovative Support System/: ラフィ型軍用革新的支援システム(R.A.F.I.S.S)ヲ起動シマス。
途端、ボクの視界は何処までもクリアになった。意識が遠のきそうになり、それでも手放さないよう時間の流れが遅くなった世界で必死にしがみつく。一体ボクはどうなったの?何が起きたかも分からないまま戦場の様相は急変していく。
思えば誰も疑問に思わなかった。何故怪物達が人気の無いこんな市街地の遺跡に度々現れるのか。街のヒトが目的なら直接街を叩けばいい。分断されやすい遺跡の街にわざわざ集合して、過去幾度も掃討されて。これじゃ殆ど無駄死にを繰り返しているだけ。
本当に無駄なの?
怪物が集まる所に、大勢の開拓者を始めとした人々が集まり大規模な掃討戦を行う。もしも、この場にいる怪物の群れそのものがただの囮だったら。
ダンジョンが自らの内部に宝物を生み出して獲物を誘うように、同じ事を地上の遺跡で行なっていたとしたら。
ブランさんが叫び声を上げ、同時にマンションが揺れた。
住宅地を見下ろす巨大なマンションが生き物のようにぐらぐらと揺れ始め、地盤を砕き真上のマンションを倒壊させながら、巨大な怪物の口がボク達を一呑みにせんと地上に突き出される。20メートルもありそうな巨大な怪物が、鉄筋と瓦礫を纏って餌に誘き寄せられた知的生命体へと喰らいつく。
掃討戦はそのまま怪物の餌場と化した。




