308、ランブルファイト開始!そして早速迫る赤の機動要塞
あっという間に日時が過ぎてランブルファイト当日。トウキョウシティに慣れるために観光も兼ねてあっちこっち回っていたけど、やっぱり治安の悪い都市だって思った。
場所によっては数分毎にR.A.F.I.S.Sが犯罪を検知して、ミニフィーが放たれる。シブサワ圏のB地区内だから警察に通報して、犯人を拘束。証拠の羅針盤の情報を送信して完了。羅針盤にはボクの脳波から状況が刻まれて、そしてミニフィーが見た光景も刻まれる。R.A.F.I.S.Sの進化に伴い、脳波に反応する羅針盤とリンク出来るようになっていた。結局、観光ついでに100件近い犯罪を現行犯で鎮圧していたのだった。
大通りは治安良いのに、少し路地裏に逸れただけで一気にアングラな気配が漂う。身なりの悪いギャングが駐車場に屯して、モザイクで顔を隠した犯罪者が強盗の機を窺う。
路地裏の近くを無防備に通り過ぎようとしたヒトが、いきなり路地裏に引き込まれる所を何度も検知しては助け出していた。
ヤマノテシティでは警察から頻繁に感謝を伝えるメッセの返信を受けたけど、こっちに来てから一通も無い。ちょっと寂しい。
でも困っているヒトが居たら助けたいなって。ランブルファイトに向かう道中も、どんどん現行犯を取り締まっていった。
ランブルファイトの会場は荒野の治外街跡地。街を囲う防壁の外の荒野に出ると、大きなヤマノテシティが遠く見える第2防壁の近くに鎮座する姿が何処からでも見れた。
今でもトウキョウシティからヒトと物資がとめどなく出入りしているみたい。ヤマノテシティは当面はあそこで静かにしているみたいだった。
「ラフィ様、会場に着きましたらそのまま第3待機場へ向かいましょう。」
「はいっ。」
「しかしバトロイド持ち込み禁止とはヌルい戦いで御座いますね。刺激が足りないと思うのです。」
スクトゥムロサであるブランさんは、雪合戦の時と同じく今回もお休み。皆がオモチャの武器で戦っている中、超高級バトロイドのブランさんが暴れ回ったら無茶苦茶になっちゃう。そもそもブランさんはボクの所有物って扱いになっている以上、ボクがバトロイドを持ち込んだ判定になるんだし。参加出来ないのは我慢して!
参加者が多い分、10箇所に分かれて選手達は待機する。ボクもそこへ向かった。場所はビルの屋上階。廃墟の街を見下ろす大きなビルは、古びている以上にやや前時代的なデザインで。内部にはエレベーターなんてものまであるようだった。
既に大勢集まって賑わっていて、ボク達が到着すると皆の注目を浴びてしまう。スマイルカメラを向けるヒトも居て、ブランさんが片手で制していた。
「ラフィに降伏マーク向けない根性ある奴はどんぐらい居るかしらね。」
降伏マーク。戦っても勝てないって始めから戦うのを諦めた参加者を予め登録する事で、遭遇しても見逃して貰えるようにする為のもの。最後に残った自分のチーム以外の参加者が全員降伏マークを出していれば、その時点でランブルファイトの勝者になるんだ。勿論降伏マークを下げた参加者を攻撃してもルール違反にはならない。ただ降伏マークは一旦設定したらもう解除出来ないし、降伏した相手に攻撃した場合はそのままルール違反で失格となる。
ルール違反者はこのゲームのルールに守られる存在じゃ無くなるから‥‥無法を働いた参加者が実弾兵器で頭を吹っ飛ばされてしまっても、文句を言えなかった。これは名を上げるチャンスと引き換えにおっきなリスクも負う荒行事。健全性は無くても、このビッグイベントが中止になる事はあり得なかった。
「降伏マークを下げた時点で生殺与奪の権を渡すようなものに御座います。性根の腐った奴に追い回されて一方的にボコボコにされる可能性もありますので。」
実際にそういう事も起きてるらしいから、降伏する相手は慎重に選ぶ必要があった。でもそんなイジメみたいな事。やってて楽しいのかな?世の中には酷いヒトも居るって、分かっているから。もしそんな現場を見つけたら守ってあげたいなって思う。
「ラフィくん!久しぶり!」
と、声を掛けて来たのはARチューバー3人組。
「アイビーさん!すいません、最近はすっごい忙しくて。」
オシャレな格好のアイビーさんは、ステッキをクルクル回して笑う。
「いやいや、私達みたいな底辺開拓者に気を遣わなくていいって。」
ゾロさんとニコラさんも新装備を買ったのか、前よりも強化外装がしっかりとした感じになっていた。
「俺らはラフィには降伏マーク出しとくから、間違えて撃たんでくれよな?ラフィの人格を信用するで。」
見ればゾロさんの纏うバリア装甲が青く光って見えた。降伏マークを出した参加者は視覚的に一目で見て分かるようになる。3人ともバリア装甲が青かった。
『なんですか、戦う前から弱腰ですね〜。これはちょっとしたお遊びなんですし、挑戦心は大事ですよ?』
フィクサーさんもホロウインドウの中で、“ you are the challenger”なんてタスキを下げて胸を張る。
「無謀な戦いを避けるのも腕ってやつだよ。今回もバリバリ動画撮ってくから、後日の投稿をお楽しみに!」
アイビーさんはふと思い付いたように、屈んでボクに視線を合わせる。
「ゾロはああ言ったけど、私にちょっと誤射するぐらいなら、ね?」
「大丈夫ですって。信じて下さい。」
「大丈夫ちょっとだけ。」
「あの?撃って欲しいんですか?」
言い返さずとも、アイビーさんは少し笑んで踵を返した。どうしたんだろう?首を傾げるボクの首を尻尾で巻いて、タマさんはジト目でアイビーさんを見ていた。
直ぐに開始時間が迫り、ボク達は位置につく。ファイトが始まれば、そのまま近場のランダムな位置に転送されて試合開始となる。一緒のチームを組んで申請した仲間は同じ場所に出るから、離れ離れって事にはならない。
組合警察や警備ドローンが監視しているけど、この広い街全体を見張るなんて出来ないから。有事の際は即座に切り替えて動けるよう身構えておかないと。
アングルスの雪合戦を思い出す。あの時よりも危険なお祭りに参加するのはちょっとワクワク。いっぱい暴れて勝つんだから!
『サカヤ(ランク12)』
遂にランファイ開始
とりま5キルは目指したい
#ランファイ #初参加
『銃名人(ランク17)』
フォロワーさん、見てなって
オモチャ銃でも魅せてやりますよ
#ランファイ #最高の銃捌きに見惚れな
『セツナ』
初参加だけど腕が鳴る
最近ラフィのお陰で体が軽い
ラフィに会えるかな
#ランファイ #ラフィに会いたい
『ルーフス』
ガトリングを両手に暴れるヒト他に居ないかな?
ガトリング使い少なくてちょっと寂しい
#ランファイ #ガトリング仲間募集
『機能食品のユニコーン 公式アカウント』
今回のランブルファイト、当社のラファエルも参加します!
最強の子供開拓者は誰だ?!ヤマノテのラフィとの対決は如何に?!
勿論ラファエルくんを推しますが!
#ランファイ #ラファエル #試合開始
『アイビーチャンネル』
試合開始前にラフィくんに会っちゃった!目線を合わせて顔を近づけただけで赤くなっちゃって可愛い!ギュッとしたい気持ちを抑えて今から試合に向かうよ!
動画にしますんでお楽しみに!
#ランファイ #アイビーチャンネル #大活躍の予感?!
『モモコ』
今回ラフィの参加、他の参加者にとって悲報か朗報か
ラフィは降伏した子を攻撃するようなタイプじゃ無いけど、挑戦はガンガン受ける子だから是非一戦交えてみると良い
楽しみにしてるって言ってたよ
#ランファイ #挑戦者募集 #ラフィ
『ジャックの映えアカ』
ラフィって子気になってるんだよねー
戦ったら絶対映えるよね?倒しちゃったら?
さーあ、試合開始!
#ランファイ #ラフィお覚悟!
ハムハムが一気に賑わい、一瞬後にビルの一画に飛んでいた。試合開始を告げるブザーが鳴り響き、方々から駆動魔具で駆け出す音が!
「皆、行きましょう!」
「はいはい、いっちょ暴れますか!」
「応援していますので暴れ回って下さいませ。」
『見せ場はキッチリ撮っておきますんで!にゃはは、ファイトです!』
ブレードランナー改め、”ステラヴィア“!薄虹に輝くエアスケーターは、時速250kmに速度を増したボク専用機!それを装着して一気に窓から飛び出した!
背中に展開したアクアマリンが神々しい輝きを放ち、神秘の光輪を解き放つ。両手には殴り拳銃のトイ・ウェポン、スピードスター。出来る限りユリシスは使わないように、装備をフル活用しながらもブラックボックスアーツ頼りにならない戦いをしなきゃ。
アクアマリンも攻撃に直接使わなければ大丈夫。煙幕、チャフグルネード、光学迷彩、フラッシュバン!戦いをサポートするアイテムの使用はルール内なんだから。
早速眼下で遮蔽を挟んで撃ち合っていた10人以上の参加者達が、思わずボクを見上げて口を半開きに。薄虹の足場の上を最高速度で滑走!
20m頭上から、宙で半回転しながらあっという間に地上へ。皆が反応した時には目前の3人が、スピードスターの銃撃の直撃でバリア装甲を破損して転がってしまった。
「わっ?!ラフィ?!」
ボクへ銃口が向くけど、その背後に音もなくタマさんが飛び降り‥‥
「後ろがガラ空きよ!」
両手に携えたトンファーで殴り倒してしまった。脳天を叩かれ、棍が側頭部を打ち据え、首に引っ掛けて地面に叩き付ける。所詮トイ・ウェポンだから質量兵器みたいな破壊力は無いけど、バリア装甲の破壊だったら十分な威力だった。
装甲越しに殴られた衝撃で怪我を負いながらも開拓者基準では軽傷。一般人だったら重症かもだけど、これぐらいなら少しすれば強化外装の応急処置で回復出来るから。
でもバリア装甲を失った時点で失格、頭上に大きなバツマークが表示された。
「クソッ?!いきなりかよ!」
タマさんにのされた2人はKOされちゃったけど、ボクが倒した3人は意識に問題なく起き上がる。
「不意打ち気味ですいません!戦いが終わるまで、ボクを応援して下さい。」
屈んで笑顔を送れば、悔しそうにしながらも手を取ってくれた。
「逆にラフィに引っ張り起こして貰ったって自慢出来るかもな。絶対勝てよ!」
少しすれば警備ドローンが、負傷者も纏めて会場の外へ連れ出してくれた。
「先ずはこの辺りの戦いで生き残らないとね。」
タマさんはトンファーのグリップ側を構え、直ぐに来た襲撃者達へ一発オモチャの散弾を撃ち放つ。
「タマさんはそういうのも使いこなすんですね。」
宙を舞って襲撃者へ肉薄、言い終わる前に至近距離からのスピードスターの直撃があっという間にバリア装甲を割ってしまった。
「対人戦のプロよ。武器はなんでも使えるわ。ま、トンファーも扱い易い部類ね。ビームシュナイダー程の手軽さは無いけど、防御性能は高いわ。」
トンファーを構えれば、トンファーに積まれたバリア装甲が展開して盾になった。実弾の直撃を何度も耐える性能じゃ無いけど、傾斜装甲で受け流すのならかなり耐えられるらしい。
急襲を受けないよう、速度を上げて移動しつつ索敵するボクらの前。早速魔女帽子の一団が現れた!
ガトリング砲で薙がれた魔法弾の弾幕は分厚く、散開して土煙舞う中対面する。
目の前のルーフスさんは大きなヘビーカーボンを纏い、赤い魔女帽子は相変わらずだった。マントの下から2丁のガトリング砲が覗く。
「ラフィ。久しぶり。」
「お久しぶりです!」
「先ずは腕比べから。」
「はい!お願いします!」
宙に残った軌跡はキラキラと。瞬き一つの間にルーフスさんの背後に回り引き金を引く。バリア装甲を纏っていないヘビーカーボンが、あっさりと魔法弾を防いでガトリング砲で薙ぎ払った。
そのまま宙を滑走したボクの体は、弾幕の外側をぐるりと一回転してガトリング砲に肉薄。片手を銃身に付いて至近距離からルーフスさんへ銃口を向けるも、顔を逸らして直撃を避けられた。
超重量のルーフスさんが跳ねれば凄まじい衝撃で、吹き飛ばされながらもその勢いすら付けて加速。宙に現出した薄虹の足場を滑走しながら宙へ逃げたルーフスさんへ更に肉薄する。
「速い。」
「ルーフスさんも速いです!」
機敏に動いたガトリング砲がボクを牽制し、魔法弾の豪雨の中ボクの小さな体はかい潜ってすり抜けた。楽しい気分で銃口を突きつけ合い、再開を激しいじゃれ合いで祝ったのだった。




