305、5本のビルに囲まれたシブサワ街に招待されて
トウキョウシティへの転移当日。ボク達はシブサワグループ本社からの招待の名目で、転移優先ゲートへと移動していた。今は早朝。道中寄った道の駅で簡単な朝食をつまむ中、集う開拓者達の話題は2日後の大規模な催しだった。
「ランブルファイトお前も行くんだろ?」
「そりゃラフィと戦えるんだぞ?」
「トウキョウシティの連中に一発食らわせてやる。今年のランファイは荒れるぞ。」
「ラフィvsラファエルは絶対やるよな。」
ランブルファイト。ヤマノテシティがトウキョウシティに来るたびに催される、開拓者傭兵問わず参加可能なストリートファイトの祭典。但しヤマノテ式のキャプチャーネットの撃ち合いじゃなくて、ヒーローショーみたいなトイ・ウェポンでの実戦形式だった。
ヤマノテでもトイ・ウェポンでのストリートファイトは行われているけど、それ専用にトイ・ウェポンを仕入れて整備する開拓者が少なくて。誰でも持ってるキャプチャーネットで戦った方が参加率良いからってそんな文化が根付いていた。
キャプチャーネットの撃ち合いは装備差の影響が少ない、純粋な腕が問われる戦いになる。でもトイ・ウェポンは沢山お金を出せば、より質の良い武器を用意出来るから誤魔化しが効きやすい。
「ヤマノテ式は修羅の国で培われた文化で御座います。オモチャの殴り合いでは物足りない者共が考案した腕自慢対決なのですよ。」
チズルさんと対決したストリートファイトは、上級者向けの戦いだったらしい。武器の恩恵に引っ張られてヤマノテ入りした開拓者の鼻っ面を叩き折るニヤさんの洗礼。
「いきなり上級ストリートファイトを押し付けられて、バカみたいな姿勢で捕まった開拓者がその裏にニヤが居たって知ったらそりゃ嫌うわよ。でも危険なヤマノテで無謀な任務を受けちゃわないよう、一度自身の実力を分からせてやってんでしょうね。」
でもアタシはニヤの奴嫌いだけど。愚痴るタマさんの口内へポテトフライが消えて行った。
「モモコさんからはどうせなら魔法少年の衣装で戦うように言われてます。いつもやっているヒーローショーと同じですね。」
ボクもハンバーガーをもにゅっと。マック&ドナルドのバーガーは食べやすくて美味い。他のお店のバーガーは豪華だけど汁気が多くて、最後の方のパンズがびちゃびちゃになって食感が悪いのが好きじゃないんだ。味は美味しいけど。
『毎回行われる荒くれ共の大乱闘は良い興行になりますし。もっちろんここで良い成績を残せれば一気に名を上げられます。大勢の市民が注目する一戦なのですよ!』
ホロウインドウの中でフィクサーさんは、ボクシンググローブを構えてカメラにジャブを打っていた。と思えばグローブを投げ捨てカメラを蹴倒し、華やかな壇上で両手を広げる。
「だから今日明日は向こうへ現地入りする開拓者の数も増えるし、転移タワーは依然として混み合うって事。アタシ達には関係ないけどね。」
食事を済ませたらそのままタワーへ。ビル上からでも長蛇の列が外まで伸びている光景が見えた。空間を拡張したビル内に収まらないレベルの列には何人並んでいるんだろう?皆さん、お疲れ様です。
ボク達は魔具路でそのまま屋上階へ。壁面を駆けると特別許可証の提出を求めるホロウインドウが開いて、そのまま通過すれば認証が通った通知を受ける。屋上階へのガイドラインが魔具路に表示されて、真っ直ぐ上まで走り抜けた。
タワーの屋上はそのまま転移優先ゲートになっている。係員のヒトに転移の説明を受けて、そのまま転移装置を踏んだ。
「それでは転移を行いますので、姿勢を正すようお願いします。そのまま動かないで下さい。3、2、1‥‥」
一瞬で視界が切り替わって、もうそこはトウキョウシティ。トウキョウシティの転移タワーの屋上から見下ろした景色はヤマノテシティと似ていた。でも、サイバーシティ!って感じの華やかさというか。初めてヤマノテシティを見た時の衝撃が無い。
「どうしたのよラフィ。」
「すいません。でも、ちょっと拍子抜けというか。首都って聞いてどれだけ凄いんだろうって期待してて。」
「そりゃヤマノテよりもずっとデカいのよ?都市全体を超ハイテクサイバー化させる予算が無いのよ。」
転移タワーはD地区にあって、先ずはB地区のシブサワグループの本社へ行かなきゃ。道中この街について色々とタマさんとフィクサーさんが説明してくれた。
「沢山車が走ってますね。逆にタクポは少ないです。」
「タクポは最新技術だし、タマシティ同様車を使う都市が主流なの。この広い都市全体にもうある車道を撤去してタクポメインにすんなら、都市計画を根本からひっくり返さなきゃ。」
車を久しぶりに見る気がする。そっか、車って本来地面を走るものだよね。空を飛ぶヤマノテシティが変わっているんだっけ。
2層に分かれた高速道路を横目に、魔具路に青い軌跡を残して風を感じていた。バリア装甲に覆われたヤマノテシティってあんまり風が吹いていなかったっけ。一応大気循環の為に循環風が定期的に吹くけど、こういう気まぐれな自然の風は無かった。
B地区に入って一気にガラリと雰囲気が変わる。明らかにタクポの数が増えて、サイバーシティって感じがしてきた。やっぱり中心部は文明レベルがガクンと高くなるのかな?なんというか、街づくりの気合いの入り方に大きな差を感じた。
目前に建つシブサワグループ本社ビルは、中央の巨大な球体を囲むように5本のビルが繋がったような凄いサイズ感で。聞けば重役達の居住区や、生活する街、子供の通う学校まで全部この中にあるのだとか。流石シブサワ生活圏。全部を本社ビルに詰め込んでいた。
「5重のバリア装甲に全体を守られ、警備は正規のPMCの本社防衛隊。未だテロ被害0件の巨大防衛要塞で御座います。ここ勤めの幹部は数年この建物から出ずに過ごすのも当たり前なのだとか。地下内部に生産区すらありますので、極論都市が落ちて包囲されても数年は持ち堪えられる造りになっているのです。」
便利でもそれはそれで息が詰まりそう。お外へ行けないのはちょっとヤだなって思った。でも都市の中に都市がある感じはちょっと面白い。箱庭の中の家というか、家の中にあるちっちゃな家というか。そういうのって好き。
近付くとホロウインドウに案内が出て、そのまま地上へ。広々としたエントランスホールは朝から沢山のヒトで溢れていて、誰もの身なりが良かった。ホール自体が建物全体から独立している感じで、直接ここからビルの中へ入れる感じじゃなかった。
ホロウインドウに案内がピコンと表示されて、自動で用件が認証されたのかガイドラインが地面に表示された。
「そういう案内も全自動ね。随分なセキュリティだわ。」
案内のヒトを襲って人質に‥‥とか出来ないようにする為かな?用件が不明なヒトをここで弾けるし。内部犯が居ない限りここで不審者の侵入を防げるみたい。ボク達が案内された転移陣は踏み込んで静止すれば、そのまま生体認証がされてスマイルに特別滞在許可証とレベル5セキュリティライセンスが紐付けられた。
瞬き一つ後の景色は、緑の多い広々な街だった。上には空が広がって、壁は大きな球状。ビルに囲まれた球体の中にシブサワ街があった。
「わあっ!凄いです!広い!賑やか!」
「歓楽街かしら。マップによればここには500を超える店舗があるそうね。エビスタウンを真似て作ったそうだわ。」
そっか、エビスタウンを初めて見た時と同じような感動を感じていた。エビスタウンと比べると流石に狭いけど、だからこそ密度が凄い。街を見下ろせる転移ホールを一歩出れば、立ち並ぶビル群。ビルとビルの間にも隙間を埋めるように、ビルを支柱にした足場が設置されていて。空間の無駄を極力無くすように無数の店舗が散りばめられていた。
ボク達はアレ見たい!コレ見たいってお話しながら街を行く。そこら中に転移陣があって、色んな場所へ手軽にアクセス出来た。先ずはモモコさんの待つ招待制のカフェへ。
「早く行きますよっ!」
一歩前で出たボクは笑顔でタマさんの手を引いたのだった。




