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30、少年のお仕事は癒し系抱き枕

熱い、熱い、熱い。


あの防衛戦以降何かのスイッチが入りっぱなしになってしまったように、体の奥から熱気が湧き上がるのを感じていた。汗だくになるようなものじゃないけど、熱を力に変えて思いっきり動き回りたくなる感覚。夜眠れない時は何も伝えていないのに、ブランさんが枕元に立ってそっと額に手を当ててくれる。すると不思議と熱が収まって楽でいられた。


この街に暫く滞在する事が決定したものの、お宿にお世話になるにはお仕事をしなくちゃいけない。あてがわれた部屋の壁に、ぽつんと取り付けられた不釣合いな豪華なドア。その先はプライベートルーム、パンタシアに繋がっていた。車の接続を一時的に切って、壁に入り口を新たに取り付けたのだ。寝泊まりはここで出来るけど、この目立つドアを隠す為にも部屋は必要だった。


「ラフィくん、今日は宜しくね。」


座敷の広間になっている泡屋敷の休憩所にて。ちょこんと座り込むボクに、綺麗なお姉さん達が寄り添ってきた。最初は恐る恐るって感じに指先で突かれ、ボクは大きく長い袖で照れ顔を隠してジッとする。


「わぁ、不思議な感じ。」


「ええ〜?何これ、凄いじゃん。」


ボクの癒しのギフテッドに触れたお姉さん達は段々身をくっ付けて来て、疲れた心身を癒し始めた。


正直すっごい恥ずかしい。大人の女のヒトに囲まれて好きに撫で繰り回され可愛がられる。ボクのやる事は癒しの力を意識して放出出来るよう練習しつつも、座ってなされるがままになる事だけだった。


タマさんは以前やっていたように泡屋敷の用心棒、ブランさんも用心棒兼賄いとかの厨房仕事、クニークルスさんはお嬢として返り咲いていた。既に予約殺到して大変なんだとか。ルナさんは女将のミケさんの下で色々街の情報を集めるお仕事に就いているらしいけど、イトウさんは何をやっているのか教えてくれなかった。最後に見たのは色街で何人かのお嬢を連れて路地裏に消えて行った所だけど、大丈夫だろうか。


一応ボクはアコライトとして泡屋敷に常駐していたけど、やる事は控え室の癒し抱き枕担当だった。


「ラフィくん、ほらほら。お姉さんもラフィくんの事、癒しちゃおうかな〜?」


なんて言ってしきりにボクの顔をふわふわな谷間に埋めてくるのはシロさんとハクさん。真っ白な毛並みの耳と尻尾が自慢の人気者。姉妹な二人が部屋に来るとちょっぴり警戒して身構えちゃう。だって、危険な感じがするんだもん。時折夜にタマさんが指をわきわきさせて迫って来るけど、その時感じる気配と同じ感じ。変な事は禁止って、鬼の形相でタマさんが睨みを効かせていたものの、タマさんを恐れないお嬢はよりぐいぐいとボクを好きにしてきた。


「だってぇ、こんなに可愛い子見るの初めてなんだもん!さっき相手したおっさんの口直しにモフらせて。」


「というか。さっき散々匂い擦り付けたのにもう別の子の匂いがするんだけど。」


二人の体の方が大きく、力も強いから大人しく全身に尻尾を這わされる事しか出来ない。こそばゆい二人の尻尾に絡まれてふにゃっと涙目で振り回されていると、タマさんのチョップが二人の頭に鉄槌を下した。


「あぎゃっ?!」


「何すんの?!」


「アタシのラフィにべったりマーキングだなんて良い度胸してるじゃない。店外で立ちんぼやらせるわよ!」


ふしゃーっ!とキレたタマさんと二人が取っ組み合い、放り出されたボクはいつの間にか居たブランさんに抱えられる。


「狼藉を働くメス猫は三味線にでもしてやりましょうか。」


「ううっ。ボクは大丈夫ですから。」


普通のお嬢ならタマさんと取っ組み合えば勝負にならない。だけど、ここで働くお嬢は休業中の開拓者だっている。話を聞くに普通に開拓者やるより、こっちの方が安全で稼ぎも良いからだって。まぁ、銃弾の雨を降らして来る怪物と撃ち合うよりは安全かもだけど。シロさんとハクさんは何か実入りの良い依頼を見つけたら開拓者やるって言ってた。


休業中とはいえ元々ランク20を超えてた二人は格闘戦の心得もあるようで、タマさん相手に一歩も引かずに互いに生傷を増やしていた。後で治すのはボクなんだけど‥‥簡単な治療は日当の範囲内って事で追加料金を取らずに行っていた。


拳を額に掠めたタマさんの渾身の蹴りが、空振らせたシロさんの腹部を打つ。背後から襲い掛かるハクさんの腕を尻尾が絡め取り、勢いを殺さないよう胸ぐら掴んで背負い投げ。起き上がり際のシロさんに勢いよく激突して転がっていく。ああ‥‥完全に二人とも伸びちゃってる。


「ちょっと腕が立つくらいで用心棒に敵うかっての。」


吐き捨てるように言い放ったタマさんはさっさと休憩室を後にしてしまった。有名な泡屋敷の休憩室で起きたとは思えない惨事。ミケさんに見つかる前に、慌てて二人を治療したのだった。


そのまた別の日にもボクは不思議な雰囲気のお嬢に好きにされていた。


いつも無口で考えの分からない綺麗なヒト。アモルさんは気付けばボクの隣に居て、尻尾に巻かれて初めて存在に気付く事が多い。夜空色の綺麗な長髪と猫のお耳と尻尾を揺らし、澄んだ瞳でボクを見つめてくる。アモルさんの方が大きいけど、ボクの顎を尻尾で支えて視線を合わせてきていた。


「‥‥‥‥ぎゅってするね。」


「は、はい。」


しゅるんと顎を支えていた尻尾が背中を巻き、広げた腕の中に抱かれてしまう。優しい抱き方は何だか心地が良くて、ふわりと香る甘い匂いにとろんと思考が溶けて甘えてしまった。ほっそりとした曲線美を感じさせる体格のお陰か、妙に密着感があって。一度抱かれるとアモルさんに指名が入るまで、脱力したまま抱き枕にされてしまっていた。


「ねぇ、そろそろラフィの休憩時間よ。一体いつまでそうしてるつもりかしら?」


タマさんの声にボクとアモルさんはうたた寝を中断して目を開く。


「‥‥‥‥一緒に。」


アモルさんの尻尾が近くの鞄を突き、中からおにぎりの入ったお弁当箱を取り出した。そして片腕をボクの肩に回したままおにぎりを咥え、もう一つボクにも差し出す。


「アンタねぇ。それじゃラフィが休めないでしょ。」


「‥‥‥‥分かった。」


くるりと巻くアモルさんの尻尾に引き寄せられ、おでこにキスを一つ。きゃあっ?!驚くボクは解放されてよたよたとタマさんに向かった。アモルさんに抱かれるのは心地いいけど、休憩を取れなくなっちゃいそうになる。だからよくこうしてタマさんが迎えに来るのだ。タマさんも不思議な雰囲気を持つアモルさんに強気に出ずらいのか、扱いに困っているみたいだった。


「あらぁ?ふふっ、お疲れのようねぇ。」


休憩室でお昼にしていると、ルナさんがひょっこりと現れて隣に座って来た。


「ルナさんも休憩ですか?」


「そうよぉ。でも、疲れるような事はしてないから。私の力を使って色々調査するよう頼まれちゃったけどぉ、中々面白い事になりそうねぇ。うふふっ。ミケは何を考えているのかしら。」


楽しそうに笑うルナさんは詳しい事は教えてくれなかった。ルナさんの迷彩ナノマシンは広く薄く街中に散り、各所で得た情報を取捨選択する。ルナさんは一日中そんな事をしているみたいで。疲れてないなんて嘘だよね。


ボクは隣のルナさんに少しだけにじり寄って寄り掛かる。少しでも癒せたらいいな。


「あら。もぅ、そんなに遠慮なくペタペタくっついちゃ。」


ぺったりと並んでお昼を食べるボク達を、目の前で小魚を咥えるタマさんがジト目で見やっていた。ルナさんとくっ付くボクの足に机の下で伸びた尻尾がこっそり絡む。ボクの足はルナさんの片足に絡められ、タマさんの尻尾に引っ張られて落ち着かなくしていた。


毎日癒しの力を意識して使い続けた成果もあってか、段々出力を調整出来る様になってきた。無くせたりはしないけど、半径数m先までならなんとか届く。この調子で続ければもっと皆を癒せるようになるかも。


ボクの修行は始まったばかりだった。

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