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303、荒野に残されたタイヤ痕は風に吹かれて消えていく

バーベキューの中、串を上品に食べるモモコさんから今後の予定を聞いた。


「ヤマノテシティにとって、トウキョウシティとの交流はビックイベントだ。一度に多くのヒトに金、企業に権利が動くんだ。」


ヤマノテシティで失敗した企業が離れ、空いた土地に新規参入する企業が割って入ろうとし、ヤマノテで影響力を強めたい企業と競り合う事になる。ヤマノテの土地の所有権はどこの企業からしても業績拡大の為に必要不可欠なものだった。


「ヤマノテシティには廃ビルが散見されていただろう?それはやって行けなかった企業の空き家さ。古参企業からすれば取るに足らない土地だから放棄されたままだけど、新規参入する企業にとってはまずここに根付く為に必要になる土地なんだ。」


だからトウキョウシティから参入した企業達は、まずこの空きテナント探しを血眼になって行うみたい。各地で廃ビルが取り壊され、新築ビルが建って行く。その度にヤマノテシティは発展を遂げていった。


「それでアマツクの木の中で見つけた部落との交流イベントを、ヒトが多く集まるこの機会に行いたい。他にも虹渦島の観光イベント、T &Y EXPO(エキスポ)‥‥色んなイベント事を一気にやっていく。」


それにヤマノテシティ拡張工事計画もあるらしい。下層区域の拡張工事と、将来的な中層の拡張計画の為の基礎工事と大忙しだった。


「ラフィ様もこの機会に一気にトウキョウシティで活躍して、ファンを獲得するチャンスがあります。未だトウキョウシティに於いてはラフィ様の名はそこまで有名では無いのです。」


都市ごとに深未踏地を挟んで結構大きく分断されているから、ネット上の有名人も新天地での知名度は意外と低いみたい。言われてみればボクもトウキョウシティの有名な開拓者さんや、傭兵の事を全然知らない。


「ショーや自警活動でラフィを知ってるヤマノテ民は多いけど、トウキョウシティじゃまだまだ知名度は低いでしょうね。向こうの今イケイケの子供開拓者と言えば、ラファエルだっけか。守護天使だなんて大層なお名前よね。」


「名の通りヤマノテを数々の犯罪組織から守って来たラフィ様は正しく守護天使に御座いますが、かの子供開拓者の名は異名や通り名では無く芸名です。まぁアイドル路線に色気を出した時に名前を変えたのだとか。」


絶対比べられちゃうし可哀想よねー、なんてタマさんは悪い顔で笑った。同じ子供開拓者同士仲良くしたいな。でも気難しい子が多いってお話だし。


「それと自警活動に対してだけど、多分トウキョウシティの都市警察と連携するのは難しいと思う。(むし)ろ難癖を付けてちょっかい出されるかもね。」


警察組織の構造もヤマノテシティとは大きく違うようだった。組合警察の力の大きいヤマノテシティは、武装事件全般を組合警察が取り締まっている。開拓者の起こした犯罪かどうかは関係無く、武装した市民の危険な犯罪の制圧等を専門にしていた。


だけどトウキョウシティの都市警察は規模が大きくて、基本的に全部の犯罪をまとめて取り締まっていた。組合警察のお仕事は完全に開拓者の犯した犯罪の捜査だけになっていて、それ以外の事件には要請を受けない限り関与する権限が無いのだとか。


「本来組合警察はそういう組織なんだし、トウキョウシティのやり方が正しい在り方なんだけど。まぁ機動隊みたいな扱いで便利な武力として駆り出されるのがどこの都市でも常態化してるのが現実ね。」


そう言うタマさんも、自警活動のやり方を変えるべきだって。組合警察との折り合いが悪く、開拓者全般を嫌っている都市警察との連携は無理っぽい。


「普通の開拓者は犯罪者の取り締まりなんてやりませんが、ラフィ様は守護天使ですので。こういう時に借りるべきは大企業の影響力で御座います。」


皆の視線がモモコさんへ向く。


「都市警察だって一枚岩じゃない。トウキョウシティは広いからね。都市運営委員会だって一つの企業グループの独占じゃないんだ。」


首都圏の都市運営委員会会長を務める三本柱。ニッポンイチホールディングス、都市防衛機構イージス、そしてシブサワグループ。


「都市警察もそれぞれの運営委員会が自治する地区によって、組織が3分割されている。勿論一般市民からしたら何の関係もない話だけど、シブサワをスポンサーに付けたラフィには重要な話だよ。」


つまりシブサワグループが運営する都市警察が相手なら、連携が取れないわけじゃない。


「シブサワグループの自治区内なら今まで通りで良いけど、それ以外の場所なら精々犯罪者を張り倒す程度にしておいた方が良い。引き渡すのは余計なトラブルの元だからね。」


犯罪者がまさか犯罪をしようとしたら開拓者に攻撃された!なんて警察に駆け込む訳がなく。もし警察に頼っても羅針盤に刻まれた情報が正しい行いを証明してくれるらしい。でもシブサワグループの息の掛かっていない警察に直接引き渡そうとすると、難癖を付けて過剰防衛だとゴネ倒してくるかもだって。


「警察からすれば自警活動自体が気に食わないのに、子供開拓者のチリトリばっかやらされちゃ更にムカつく。しかも完全合法だった日には難癖付けて嫌がらせしてやろうなんて考えるバカが現れるのが目に見える。」


うう、犯罪を見かけたから救えるヒトだけでも助けたいって思っての行動だったけど。トウキョウシティでは歓迎されないのかな?


「ラフィさまはそのままで良いのですよ?ま、やっている事が合法なら腐った都市警察でも手を出せません。冤罪を被せようものなら企業戦争待ったなしですよ?ムカつく程度の理由でそんな大それた事はしません。そもそもトウキョウシティも面する深未踏地からの怪物の軍勢と日夜戦っているのです。」


そもそも内輪揉め出来るほどの余裕が無いようだった。


「ラフィからしてもトウキョウシティでの活躍はリスクがあって簡単じゃないって話さ。その分チャンスも多いだろうし、上手く見極めて立ち回ってくれ。」


トウキョウシティ進出を目前に、まだまだ知らなきゃいけないことは沢山ある。バーベキューのついでの歓談は、そのまま勉強会のようになっていった。





【ヤマノテシティの守護天使・トウキョウ入り】


: 名無しの都民

犯罪者達めっちゃ震えてそう


: 名無しの都民

ヤマノテの天使君だっけか?知らんがなw

トウキョウシティじゃ通用しないよ


: 名無しの都民

過去にも自警団気取ってたバカな開拓者も居たけど皆消えたな

日本一の犯罪都市を舐めちゃいけない


: 名無しの都民

だって運営委員会の組織構造複雑過ぎて都市警察の挙動も怪しいし

プライドだけ一丁前な都市警察からしたら開拓者の自警活動とか絶対許さんだろ


: 名無しの都民

事件が起きてからじゃなきゃ動かないデクの棒に対して、事件の被害を超高精度に未然に防ぐラフィ

今回のトウキョウ入りで子供開拓者に負ける都市警察の泣きっ面が拝めそう


: 名無しの都民

ストーカー被害に遭ってます!→いやー犯罪性はこのぐらいじゃ無いから→ストーカーに自宅に凸られました→刺されてから通報して下さいね?(キレ気味)→刺されて死んじゃいました→うーん、犯人が荒野に逃げちゃったぽいし迷宮入りで!


: 名無しの都民

先月のストーカー殺人事件で警察の無能さが浮き彫りになったよな

ハムハムに公開された音声の「刺されてから通報して下さいね?」とかほざいたアホは結局何の処分も無しだってのが更に胸糞


: 名無しの都民

警察が合法犯罪教唆組織なのはいつもの事


: 名無しの都民

ストーカーがどっかの大企業の縁者だって噂本当かな?

あいつら金を積めば大半の犯罪を無かった事にしてくれるし


: 名無しの都民

前の轢き逃げ事件は露骨過ぎて笑ったわ

飲酒運転で数人轢き逃げした上その足でバーで大乱闘&追加数人銃殺でも不思議な力で不起訴処分やXD


: 名無しの都民

都市警察の中でもイージスの警察は完全に腐敗しきって全自動下級国民虐待装置になってるのウケる

前の薬でイカれた警察が路上で市民を警棒で撲殺した事件がなんか有耶無耶で終わりそうなの異常だろ


: 名無しの都民

殺されたのが亜人だったしまぁええかの精神

流石に薬中が警察やるのは無理だからソイツは懲戒食らったぽいけどその後起訴はされなかったな


: 名無しの都民

ラフィがトウキョウ入りしたら地獄絵図になりそう

ついでに警察の権限をオモチャにする屑共もまとめて倒してくれや


: 名無しの都民

近頃名を鳴らすバイカーキャラバン、可愛いけど性格ドクズのラファエルくん、色々キナ臭い感じになって来たアナグマ、ランブルファイト

既にトウキョウシティはカオスなのにヤマノテシティ迫ってどうなってしまうのか


: 名無しの都民

恒例のEXPOこの状況で出来るん?

学園祭どころじゃないだろ


: 名無しの都民

シブサワが新設した大学の入学者募るから絶対意地でもやるだろ

トウキョウの優秀な人材を根こそぎ頂いちゃおうねーXD


: 名無しの都民

こうしてまたトウキョウにバカと貧困ばっか残って更に治安悪化するんだよなぁ

今の治安もヤマノテシティが来る度に金持ちとイケイケベンチャー企業と秀才を吸い上げてきた結果でしょ?


: 名無しの都民

いい加減都市間の移動になんか規制法案出せや

ヤマノテはもっと居住税爆上げして上澄み以外全部弾け

今のままだと中間層すらも吸われるんだよ


: 名無しの都民

そうなっても結局優秀な人材は企業が補助金出して買ってくし、やって行けなかった文無しが降りてくるし、税が高かろうが企業はモリモリヤマノテに進出していくけどなXDXD


: 名無しの都民

ヤマノテシティがニホンコクの首都定期

トウキョウシティ住まいは所詮敗北者なんだよね





───バニーマン、89歳。


焔のウサギ、バーニスはボロ小屋の割れた窓ガラスから外の様子を伺っていた。走り屋を思わせる身軽な衣装を纏う体は、男の理想を具現化させたような華奢ながらに豊満。谷間を覗かせるハリのある大きな乳、引き締まった腰回り、しかし大きな尻に魅惑的な太もも。


そんな体の上に乗った、深いシワの刻まれた老獪(ろうかい)な女傑の顔。


アンチエイジングはいつまでもバーニスに全盛期の体を提供し、維持費は高くともサブスクとしてバーニスに払わせ続けた。


「ああ、外の方は大分片付いたようだねぇ。ヒッヒ、ウチの若いモンは優秀だろう?」


振り向いた先で(うずく)る1人の男はまだ30になったばかりの“ひよっこ”。


「クソババァが‥‥!」


またぐらを抑えながらも立ち上がる。低質な強化外装の痛覚鈍化の効果は弱く、特にまたぐらに負ったダメージは重く響く。


「ギャロップだね?前に都市で亜人を警棒で撲殺したイカれ野郎。」


男は睨むばかりで返答しない。


「クライアントはアンタの命を欲しがって、ワシらを金で雇った。アンタの行動が需要と供給を生んだのさ。ヒッヒ、荒野に逃げたのに狙われるなんて相当恨まれてるね。」


「薄汚ねぇ賞金稼ぎがっ!」


男が収納から取り出したのはサブマシンガン。その銃口がバーニスに向く前に、指先で摘まれた警棒で叩き落とされてしまう。ついでに振るわれた一発が、男の頬骨を砕いて再び床を舐めさせた。


「年寄りが話してんだ。黙って聞きなボウズ。」


「かはっ‥‥!ゲッ!」


タバコの煙がふわりと宙に溶けた。都市内じゃ吸えない紙タバコはバーニスの心の清涼剤。警棒で宙に絵を描くようふらふらさせる。


「どこまで話たっけか。ああ、そうだね。ワシらは賞金稼ぎじゃなくキャラバンなんだが、こういう依頼だって受け付けている。」


這いつくばる男を前に、スマイルカメラを起動してビデオ通話を繋げた。


共有モードになったホロウインドウに、10人ほどのの亜人の顔が映った。歩く豚と形容されるオーク達が、血走った目でホロウインドウの奥の男を睨んでいた。


「クライアントさんよ、この男で間違いないかい?」


『コイツだ!アジャを殺しやがったクソ野郎!!』


『アジャをいたぶって殺したんだ!』


『わざわざ俺らの部落にやって来て月に何度も嫌がらせしてたゴミクズ!』


『ギャングに匿われて逃げられると思ったか?!』


男の顔に怯えが見えた。激しく動揺して思わず収納に手を突っ込み、次の瞬間には腕を蹴り壊されて再び倒れた。収納から取り出そうとして宙を舞った、小瓶詰めの薬物。それをチョイと警棒で器用に掬って手のひらの中へ。


「コイツは質の悪い。悪酔いするやつだろうに。元警官の情報を売り込んでギャングに匿われたは良いものの、家畜同然の扱いだったって事かい。」


『オプション!忘れないで!』


通話からオプションサービスの催促が聞こえる。ターゲットを警棒で殴り殺して欲しい。目には目を、歯には歯を。男の悲鳴が暫く室内に響き、血の滴る警棒が放られた。この警棒は男の所有物を奪ったもの。そんなゴミを持ち帰る気は無かった。


「これでお仕事は終了だね。報酬を頂くよ。」


直ぐにバーニスの口座に多額の金が支払われ、画面越しのオークの顔は満足げだった。


『また宜しくな!』


「あいよ。バーニス運輸をご贔屓に。」


小屋を出れば、戦場を漁るひよっこ達が出迎える。


「全部燃やしておきな。」


「ひゅーっ、バァちゃんおっけねぇ。」


髪を整える男は壮年。片手で構えた火炎放射器が瞬く間に全部を灰に変えた。


「あーっ!燃やすの早いって!撮って上げれば映えるのに!」


顔半分をマスクで隠した少女の抗議の声は火炎放射の男には届かない。


「姐さん行きますよ?婆様は怒ると怖いですから。あーしがバイク取って来やす。おい!オメェら!!いつまで漁ってんだ!姐さんのように分別付けてとっとと動かんかい!!」


マスクの少女にぺこぺこする同年代の女子は、ヒトが変わったように威勢良く男衆へ吠えた。誰もが制服姿の女子の遠吠えに逆らわず、慌ててバイクへ向かって行った。

急に引き合いに出されたマスクの少女も、思わず背筋を伸ばしていそいそとバイクへ向かった。


バーニス運輸がタイヤ痕を残して荒野へ消える。トウキョウシティの荒野は無法だった。

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