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299、苔這いの地下峡谷で1分間の死闘にエンカウント

夜になっても、地底湖の様子は変わらない‥‥と見せかけて大きく様相が変わっていた!


「わっ?!凄い!光ってます!」


理由は全く分からないけど、地底湖全体が強く光っていてエメラルドブルーな光に洞窟全体が満たされていた。天井から伸びた結晶に反射する様はまるでミラーボールのよう。コレには皆も驚いて思わずスマイルカメラで撮影していた。


ーなんの光ィ?! ーナイトクラブかな? ー自然の神秘ってすっごい ーなんの魔力が反応してるのか謎過ぎる ー爆発とかしないよね? ーラフィが居なかったら誰にも知られなかったであろう浮島地下深くの秘境


流石に降りて調べるのは怖いな。このまま横穴を抜けて奥へ進もう。


横穴は少し進むとまた狭くなり、ずっと下まで降って行く感じになっていた。でも大人でも屈めばなんとか通って行ける幅だし、皆で色々なお話に花を咲かせながら足取りは期待に満ちて軽く。


「あっ、抜けました。ここも大分光ってますね。」


エメラルドブルーな光でちょっと眩しい空間は、結晶で地面が凸凹しながらも通って行ける。途中見上げた先に15mぐらいの崖。そこから滝が降っていて、音が洞窟内にぐわんぐわんと。崖は階段みたいに何段も続いていた。


『昔のヒトはこういう段差にロープを引っ掛けて、地道に体を固定しながら登ったそうですよ?足を滑らせて骨折するのも珍しく無かったとか。』


片足を掛ければ駆動魔具がピタリと吸い付く。重力の方向が変わったみたいに、ボク達の体は地面に水平になって歩いて登って行く。慣れないリコリコさんはブランさんが後ろに付いて、よろよろしながらも登って行った。


「この感じ違和感ヤバい!うわっ、壁に立ってるんだけど。滝が真横にある!開拓者の目線ってこんななんだ。」


「滝に触れると衝撃で弾き飛ばされますよ?当機の救出は気紛れですのでアテにし過ぎないように。」


思わずリコリコさんは滝から手を引っ込めた。勢いが激しいし、掛かる水の水温は相変わらずマイナス10℃。すっごい冷たいけど凍りもしない。昔のヒトだったら絶対こんな場所進めなかっただろうなって思った。


3段ほど崖を登ると、50mも行かない内に今度はかなり深い地下峡谷にぶつかった。滝の水はもっと上から降ってきているけど、折角だし下に進もうかな?


「上と下、多数決です!」


上2票、下3票。匿名で投票出来る多数決アプリは下を指した。


峡谷は深いけど、このまま壁に足を付けたまま歩いて降って行く。横を見ればずっと向こうまで峡谷が続いていて、果てが見えなかった。


『浮島の発生には諸説ありますが、浮島として地表から切り離された際の衝撃でこういった地形が出来たのかもしれません。興味深いですね。』


皆でこの地形に対する考察を言い合い、そんな中でも色々な発見が。


「苔が動いてる?」


気になってしゃがみ込んだ先、小さな苔の破片がうぞうぞ動いて岩壁を這っていた。イルシオンがそっと持ち上げてみれば、苔を背中に生やしたナメクジだった。ここはどこもじっとりと湿ってるから?でもこの水温でも活動出来るんだ。


ー苔のカツラ被ってるみたい ーこんな小さな生物でも苔を生やしてるというのにお前らときたら ー髪無し苔無しの時点で俺らよりも上位者 ー苔も何種類かあるね ー未知の生態系面白い ー誰も知らないんだよな ー人類初公開の生物達だよ


他にも見つけた小さな生き物達は皆、背中に苔を生やしていた。苔と共生関係にあるみたいだけど、取り敢えず映像だけ残して先へ進んで行った。


「ここは苔這(こけは)いの峡谷って名付けます!」


「ラフィくんが新しい地名を付けたよ!これが先人の特権ってやつだね。」


ー名前そのまま過ぎ ー変に捻っても黒歴史感あるし ー偶にある無駄にオサレな地名よかマシ ー地名って分かりやすさ重視だからね ーでも苔這いの峡谷って聞くとどんな場所か興味沸くわ ーそれな ーここも結構綺麗だし行ってみたい


地名があると何だかテンションが上がっちゃう。苔這いの峡谷の深さは100mぐらい。気温は氷点下でかなり寒いのに凍ってる場所は無い。滝の音が全体に反響していて、巨人のいびきを真近で聞いているみたいだった。


バリア装甲のノイズキャンセリング機能でお互いの声は普通に聞こえるけど、リコリコさんの距離がずっとボクにべったりだった。


「だって音がすっごい響く峡谷ってなんか不気味じゃない?明るいけどそこもかえって怖さ増してる。ラフィくん、守ってよ!」


「大丈夫です。タマさん達も居ますから。」


リコリコさんの手を握って、一緒に歩けばタマさんの尻尾が開いた片手を取ろうとする。でも、ブランさんがさり気無く払って。


「探索中に両手を塞ぐ危険性は分かっているでしょうに。後でラフィ様に相手して貰うよう、自重しやがりなさいませ。」


なんて。ぐぬぬ顔のタマさんの尻尾がボクの背中を突いた。


峡谷の底の方は流れの強い地下河川があって、ごうごうと渦を巻いている。エメラルドブルーな輝きが眩しいけど、その流れは凶悪そうだった。壁から濁流を見下ろしたまま、ずっと向こうまで真っ直ぐ。


その先の遠くの岩壁に大きな亀裂があって、通れそうに見えた。


ピクリっ!R.A.F.I.S.Sに反応があった!R.A.F.I.S.Sで繋がった皆も即座に気付いて、一斉に濁流の水底を凝視する。沢山のお魚さんがこっちを見て、興味本位じゃなくて明らかに敵意があって、その口腔(こうくう)に勢い良く水を吸い上げていて?!


「走ってっ!!」


水龍の水流レーザーが脳裏を過ぎる。そして案の定、無数の水流レーザーが発射された!獲物を撃ち落とすそれは、着弾すると岩壁の広範囲を飛沫で濡らして張り付いていた色々な小動物を叩き落とす。テッポウウオってレベルじゃ無い破壊力の豪雨は、時速150kmで突き進むボク達のすぐ後ろを追った!


ー?! ー!! ー?! ー?! ーヤバ ー攻撃?! ー急展開 ーこれ死ぬやつ ー襲って来た ーこわ ー激し過ぎぃ ーあれ水?!


「きゃああっ?!なになに?!襲われてる?!ラフィくん!」


「リコリコさん!掴まっていて下さい!絶対守りますから落ち着いて!」


イルシオンで引き寄せられたリコリコさんは、そのままボクの腕の中で抱えられている。


「クッソ!どんな危険地帯よ?!」


堪らず3M50で反撃するタマさんの砲火は果たして、濁流に飛沫を残しただけに終わった。相変わらず攻撃が激しいし、全然効果無い!!


ー銃が効かないとか絶望 ー逃げて ー危ない! ー放送事故? ー死人出るやつだろ ーむしろこんだけバチくそ撃たれて未だ脱落者無しか ーそれな ーすっげぇ避け方 ー曲芸かな? 


「ラフィ様、このままあの裂け目まで!」


だけどそれを読んでいたかのように、攻撃目標が目前の裂け目へと移り簡単には逃がしてくれなさそうで。一旦Uターンで距離を取りながら、ツキシロを指して呼び出す。爆発的に広がった濃霧がボク達を隠した。


霧のお陰で大分狙いが大雑把に、数撃てば当たるって感じに拡散する。けど霧は数秒しか持たない。ポイントマンの簡易的な転移は数秒間に制限する事で、遠隔地からの自在な転移を可能にするものだから。長時間出すなら相応に演算容量を食うけど、この状況で防御性能を落とすなんて出来る訳がなかった。


見下ろせば幅数十mの範囲の濁流から水流レーザーが放たれていた。R.A.F.I.S.Sでツキシロと短いやり取りを。そして直ぐに次の手を打つ。


再度転移して姿を現したツキシロは、そのまま薄く広く広がって濁流の上をふわりと覆って行った。ボク達を隠すんじゃなくて、目隠しちゃえば当てられない筈!


案の定攻撃が明後日の方向へ乱雑に飛び始め、大きな裂け目が無防備になった。そのまま一気に接近するも、今度はぐらりと地面が揺れる。揺れたのは地面というか、壁!激しい水流レーザーの集中砲火で崩落が起きていた。


「ああっ?!崩れる!」


「皆さん!もうちょっとです!!」


足を付ける地面が急激に剥がれるように傾いて行き、見上げれば岩が沢山降って来ていた。ユリシスから飛び出したプチフィー達が、手に持ったアサルトライフルとショットガンを激しく乱射して迎撃!砕けた石片が散らばって散弾のように降り注ぐ。


バリア装甲で受け流せるよう、ボクはリコリコさんを抱いたまま踊るように滑走!直撃を避けられればこれくらいなら。


矢継ぎ早手に繰り出されるプチフィー達は、僅か1秒2秒仕事をして次の瞬間には瓦礫に潰されて消えて行ってしまう。ボロボロの足場を迂回して裂け目へ迫る10秒も無い中で、何十体ものプチフィー達が消えて行った。


ボクも紫電M10をS.S.Sから構えて迎撃するけど、威力が高過ぎて逆に更なる崩落を起こしそうになってしまう。そして裂け目はもう目の前!


皆で飛び込むのと、崩落した壁の一部が対面の壁に激突して大崩壊を起こすのは同時だった。裂け目の中は真っ暗で、そのまま奥へと続いている。皆で地面に転がったまま、暫く水が噴き出す轟音や、瓦礫が崩れる音に耳を澄ましていた。


『にゃはは、皆さんご無事で?体が千切れちゃったヒトは手を挙げて下さい〜。』


ホロウインドウの中のフィクサーさんが戯けた声を出せば、やっと皆一息付いて起き上がった。


「リコリコさん、大丈夫ですか?」


「あはは、ラフィくんが全力で守ってくれたから怪我は無いよ。本当、死ぬかと思った。こうして生きてるのが奇跡みたいだよ。」


目の前のタマさんも、ブランさんもバリア装甲を消耗しながらも無事みたい。何とか切り抜けられた。


ー怒涛の1分間だった ー俺がこの場にいたら死んでた自信ある ー俺なら落石で頭無くなってたわ ーこれで生き残る猛者だけが深未踏地の探索が許される ー実際深未踏地に踏み入るのはごく一部の上澄だけじゃ ー俺も深未踏地探索長いけど今のは死を覚悟する ー言うて水龍と戦ったラフィはこれ以上の死地を超えたのよな


コメント欄もすっごい状態。褒めてくれるコメントが多くて嬉しい気持ちになる。


「結構消耗しちゃいました。また銃を買い足さないと。」


プチフィーと一緒に消えちゃった武器は戻って来ないから‥‥


「モモコに発注しておきましたので大丈夫で御座います。安全圏から成果だけ享受するヤローに精々良いものを用意させてやりましょう。」


一度撤退するか、どうするか話し合うも結局先の様子を見てからって話になった。今度はR.A.F.I.S.Sの警戒をもっとしっかり、例え小型でも群れには近付かないように。


暫くエンジェルウイングの中で、皆は息を整える。興奮しっぱなしだったリコリコさんも大分落ち着いてきた。


「なんか凄い体験をしたよ。臨死体験的な。人生観変わっちゃったかも。今のに比べたら、大抵の事は怖くないよね!」


「あはは‥‥そうですね。」


闇の中、ボク達は再び立ち上がる。まだ見ぬ神秘を求めて、裂け目の奥へと進んで行ったのだった。

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