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293、嗚呼、神はバイトで金を稼がねばならぬのか

ベッドに体を投げ出してぐっすりむにゃむにゃ。目が覚めたのは翌日のお昼前で。あくびをしながらリビングへ向かえば、豪華なブランチが卓上にあった。


「おはようございますご主人様。5種のウインナー食べ比べセットと、芳醇グラタン、一口パスタ5種並べになります。付け合わせのパンはお代わり自由ですので。」


「おはようございます!美味しそうっ。」


丁度トレーニングルームから出てきたタマさんとも朝の挨拶、尻尾で撫でさすられてそのまま席に着く。


「てか昨晩アタシが寝てる間に神と戦って倒したんだって?ラフィが壮大な戦いに巻き込まれてる間知らずにぐーすかしてたアタシがバカみたいじゃない。」


ブランさんのいつもの毒舌、尻尾ビンタ、ホロウインドウ内で笑うフィクサーさん。


「まったく、当機は事実を申したまでで御座いますのに。タマも達人なのですから、強敵の気配に飛び起きて不敵に笑んだりしやがって下さいませ。」


「隔離された別次元の空間で熟睡してる時に無茶言わないでよ。(むし)ろラフィが呼ばれてる事に気付いたのがビックリね。どうやって交信したんだか。」


「龍の神通力的なものでしょうか?ボクもビビッ!って来て直ぐに行こうってなったんです。待たせたら大暴れして大被害が出るような予感がしたから。」


パンタシアは隔離された異空間だし、普通は外にどんな凄い存在が居ても気付くなんて無理。ここは少年漫画の世界じゃないからね。


「でも、強敵の気配に自然と目を覚ますタマさんを見たかったな。なんて。」


ちょっと冗談な軽い声で突けば、タマさんの片耳が揺れた。


「ラフィまで。アタシは強者の気配にワクワクしたりするタイプじゃないの。」


『にゃははは、ラフィさまの期待に応えられなかった分好感度マイナスしておきますね。』


ギャルゲーのUIのようなボクの好感度ゲージが、フィクサーさんの手のひらの上でスィーっと急降下。大好きっ!から普通にまで減ってしまった。


「何よ普通って。ラフィとの仲は数値化出来るようなもんじゃないの。」


「タマさんっ。」


尻尾が足に絡み内腿をねちっこく擦ってきたのだった。なんか動きがやらしい。恥ずかしいって。


豪華なブランチが楽しい時間と共にお腹へ収まって、プライベートフォレストのツキシロにも朝の挨拶を。大きなフェンリルのもふもふを撫で回し、エンジェルウイングで包んで朝の癒しの時間を過ごす。もうお昼だけど。


ツキシロが寝ちゃったタイミングを見計らったように、大きな猫ちゃんがボクへ擦り寄って来た。ボクと同じ大きさの大きな猫の名前は、アルビス。結局このままここで飼う形になっていた。


その他多くの虹渦島の原生生物がプライベートフォレストに新設された一画で飼われている。基本的にはバリア装甲で隔離されてるけど、ある程度大きな生物はこっち側に来られるよう出入り自由に通過できる設定になっていた。


「癒して欲しいですか?」


にゃあっ、と珠のような声で返すアルビスはそのままボクを抱き締めてくる。前足を使って抱いて寄りかかり、コロンと転がるボクはそのまま抱き枕状態に。強制猫吸いな姿勢で、芝生の上をまったりと転がって穏やかな時間を過ごした。


「ラフィ〜、モモコが呼んでるわよ。」


あうっ。あったかな体温に包まれてお昼寝しそうになっていたのに。名残惜しそうに引き留めるアルビスをR.A.F.I.S.Sで説得して、プライベートフォレストを後にした。


向かった場所は研究センター。ボクと向かい合う龍は顔を合わすなり飛び付いて来た!


「ラフィよ!こやつらが体を弄るわ、囲んで質問攻めするわで鬱陶しいのだ!」


「ニホンコク語話せるんですか?!」


ビックリするぐらい流暢な話し言葉に、一緒に来ていたモモコさんは笑う。


「凄いよね。あっという間にニホンコク語をマスターしちゃった。この調子なら準ニホンコク人国籍の習得も直ぐじゃないかな。」


だけどカテンさんは嫌そうに。


「断る。我はペットとして生きたいのだ!ラフィが面倒を見てくれるって言ったのでな!」


言ったっけ?生きるのを諦めないでって言ったけど、飼うとかお世話するとか扶養(ふよう)家族にするって話はしてないような。


「流暢な言葉を話す高度な知性を持ったペットって倫理観的にアウトでしょ。それが許されるんなら亜人をペット扱いしても合法になんない?」


タマさんのもっともらしい反応に、モモコさんは困った風にする。


「いやね、僕も聞いたんだけど昨晩からずっとラフィに会わせろって。それで実際に会わせたらこれさ。相当ラフィが気に入ったみたいなんだ。」


「死にゆく我を再びこの世界に生かしたのだ。神獣としてその英雄の行く末を見届けたくなるぐらい良いだろう?」


ブランさんは警戒した目で問う。


「言っておきますが、龍が美少女に化けて旅の仲間になる展開はお腹いっぱいで御座います。よもやヒトに化けたりなどしませんよね?」


ネット小説を読み漁るのはブランさんの趣味だった。でも偶に影響され過ぎて変な事を言い出しちゃう。カテンさんも困惑した風に宙でうねった。


「‥‥?我は貴様らの言う所のオスぞ。ヒトの体よりこちらの方が融通が利いて楽なのに何故化けねばならん。大概の機器は脳波操作なのだろう?」


タマさんのチョップ、叩けば直る理論。ブランさんの頭が揺れて変な追及を止める。シェイプシフターなら兎も角、ヒトに姿を変えられる生物ってどれぐらいいるんだろう?でも皆ヒトになっちゃったらそれはそれでなんかヤだな。個性というか、皆同じじゃないから良いのに。


『ペットと言えば、厳密なペットの条件って実は明確になってないんですよね!』


ホロウインドウの中で、可愛いデザインの首輪を付けたフィクサーさんが繋がった紐を両手で引っ張ってアピール。


『亜人の条件に言語を介し道具を操る知性と、一定の社交性が必要とされます。全部満たすカテンさんは法解釈上、亜人という事になるんですよね!無論ペット扱いしたら普通に違法ですので!』


ホロウインドウから顔を覗かせたフィクサーさんが、徐にボクへ紐を手渡す。そのまましゅるんと二次元から出て来てペットのように振る舞った。


「しかし一つ大きな抜け穴があります。ラフィさまは獣人族の人気職業を知っていますか?」


えっと。前にタマさんに教えて貰ったような。リアル猫さんサイズで、見た目も小動物で、でも知性は人並みな種族。それが獣人族。都市ではあまり見かけない、そんな彼らの人気職と言えば‥‥


「そう、富裕層のペットです。」


厳密に言えばペットじゃなく、使用人。身の回りのお世話をするホームヘルパーさんみたいな雇用条件だけど、職務内容はご主人様に媚を売って、美味しいものを食べて、お昼寝して、家族や愛人として一緒に暮らす事。


「そんな気色悪い職業あったわね。愛人とか、ニホンコク人ってケモナー多過ぎない?」


「それはごく一部の富裕層だけだって。まぁ僕の知り合いにも居るんだけど。とは言え獣人族を飼うのは案外人気なんだよね。意思疎通の出来るペットっていうのが良いし、雇用条件良いからモチベーション高いし、愛され方を心得ている分家族として馴染みやすい。」


つまりカテンさんも使用人として雇えば良いのかな?


「メイドは当機一機で十分で御座いますが、まぁパシリが入れば役立つのは間違いないでしょう。パンタシアヒエラルキー最下層にご招待しても良いのですよ?」


カテンさんの頭越しに話が纏まって行く。カテンさんは口を挟みたいけど、でもこの話を蹴ったとして行くあてがない事を理解しているって風で。諦めた顔で大人しくしていた。


「相場は幾らよ?」


「月当たり360万円前後かな。正直人気の子かでかなり金額に差が付くからね。高けりゃ青天井さ。」


獣人族達の派遣会社があって、そこに支払うらしい。だから実際に全額が獣人族の取り分になる訳じゃなけど、それでも巨額の年収だった。


「ハッ、高給ニートとはよく言ったもので御座います。」


「じゃあ250万円で決まりね。あんま安いと面倒なツッコミが入りそうだけど、派遣会社に納める金が無いならこんなもんでしょ。今のラフィの収入から見れば、動画収入だけで賄えるわね。」


「何を言っているんです。業務の中に動画投稿を含め、自身の給与を自力で賄って貰うのはどうです?にゃはは、世にも珍しいミニ龍ですよ?間違いなくバカ売れしますって。」


バックに会社のいないフリーランスだからこそ、雇用関係はダイレクトに互いの力関係が影響する。多分世間的なカテンさんへの認識は獣人族。そして獣人族を安値で雇うっていうのは、今話題に上がった通り相場を混乱させる行為だとして(はばか)られる。それと沢山稼いでいるボクが、あまりに安値でヒトを雇うというのも世間からの反感を買いやすいって。


お金の話になって少し黒い雰囲気の3人にカテンさんは文句を言う事も出来ずに項垂れていた。


「労働は知っている。しかし神獣たる我が労働に勤しむ事になるとは。‥‥働きたく無い。」


「何抜かしてんのよ、高給ニート。とは言っても雇用形態は使用人だから、容赦無く仕事ぶっ込んでいくわよ。250万払うんなら元取らないと。」


降って湧いた月250万円の扶養家族‥‥ならぬ高給使用人さん。けど、ボクが拒否すればこのままシブサワグループへ就職だけど。モモコさんは酷い事はしないって信頼出来ても、その生態に興味津々な研究チームがどうしちゃうか分からない。


亜人さんの条件を満たしていても、それを知る者は少ないし。正直に世間に公表しない限りは、このまま未知の原生生物として研究されちゃうんじゃないかって思った。


そしてモモコさんもそれを止めて保護する理由が薄い。ボクのお友達って程親しく無いし、(むし)ろ殺し合った仲だし、島に大被害を出そうとしたんだし。


ボク自身は憎めないって思ったから。このまま雇っても良いかなって。生きるように説得したのはボクだから、責任持って支えてあげないと。


でも我儘を言ってチャンスを全部棒に振っちゃたら‥‥支え続けるのは難しいかも。ボクが皆を癒して支えたいって動くから、タマさんもブランさんもラインを決めるように言っていた。


『ラフィは優しいけど、そういうヒトの下には依存気質な我儘メンヘラが寄ってくるのよ。何処までも面倒見るってお世話してたらボロボロになっちゃうわよ?』


『勿論ラフィ様に迷惑を掛けるアホメンヘラが近付いて来たら当機がこっそり排除致しますが、ラフィ様も支える回数を決めて自立を促すよう心がけをお願い致します。ただの底抜けの優しさは美徳では御座いません。時には容赦無く突き放してしまいましょう。』


2人の言う事は分かったし、沢山のヒトが必要とする癒しを誰かが独占するのはダメだって思う。回数制なんてストイックにするつもりはないけど、自分で立たずにボクに依存しそうなら‥‥ごめんなさいって。お互いの為にならないと思ったから。


R.A.F.I.S.S越しにボクの考えがカテンさんに伝わる。カテンさんも観念したように、現状を受け入れる覚悟を決めたようだった。


「だったら先ずは亜人として入都手続きを。未知の種族となれば手続きが大分変わってくるけどそこはシブサワで持とう。そして生体情報の登録とシブサワ銀行への仮口座の開設も。当面はオンラインショップに対する制限が掛かるだろうけど真面目に働けば半年で解除されるかもね。」


モモコさんが今後の流れを説明してくれるけど、ヒトの社会に対する理解が怪しいカテンさんは良く分かって無いみたいで。


「人界のルールはよく知らん。良きに計らってくれ。」


全部お任せする姿勢を見せた。


「全部任せちゃっても?良いの?そうね、だったらアタシがアンタの口座管理をしてあげるわよ。仕方ないわね〜。」


タマさんの悪い顔。そもそもお金がどんなものか分かってないんだから。


「タマさん、悪い事はダメですよ。」


「冗談よ。でもお金ってのはね社会を生きるのに超大事なモンだから他人に管理を任せちゃダメよ?管理手数料として6割頂いちゃう事も出来るんだから。」


ボクとブランさんとフィクサーさんの視線がタマさんに刺さる。モモコさんも呆れ顔。だから冗談だってば!ってタマさんは念を押した。


「カネか。覚える事は山程あるようだな。250万って言うのはどれ程なのだ?」


「一般的なサラリーマンの月収は100万どころか50万もいかないのが普通さ。生産区の中央値だったら20〜30万円じゃないかな?50いったら中流、250超えたら十分高給取りと言えるね。まぁ、上方向へは青天井なんだけど。」


人並みよりずっと上。そう聞くとカテンさんはちょっと機嫌良くなって、やぶさかでも無いと言った。


「因みにラフィ様の今月の収入は2億5000万円程で御座います。まだ虹渦島関係のラフィ様への利益還元をどすうるかが決まっておりませんが、それだけでも月収が億を超えるかと。」


ブランさんがしっかり管理してくれてるからお任せ状態だったけど、そんなに稼いでいたんだ。口座の数字が大き過ぎて把握がイマイチだった。深未踏地・虹渦島探索に於ける成果物の歩合報酬、各種CM撮影にインタビュー、怪物や魔王を撃破した際の組合から出る常設依頼報酬‥‥今月は魔王9体倒したのと虹渦島の探索成果でかなりお金になっているようだった。


カテンさんは信じられないものを見る目でボクを見る。苦笑いで返すしかないけど、モモコさんの方がもっと稼いでいるから!


「そうかな?僕だって結構色々ボーナスが入ったりするけど開拓者と違って、基本はお給料だからね。投資で足りない分をガンガン増やしたりはする分月毎に結構変わるかな。でも今月は間違いなくラフィの方が稼いだと思うよ。」


そうなの?


「ラフィ様ったら超成金開拓者に御座います。やはり当機の見立ては間違いありませんでした。」


「ラフィさまの収入があればプライベートフォレストを改造し放題、ペットもなんでも買い放題、どんな武器もすぐ手元に来ますよ?にゃはは。」


そう言われても実感が湧かない。でも沢山あるのなら使わないとね。どうしよう。


「我の給料の桁を一つ増やしても‥‥」


「それはそれ、これはこれよ。労せず大金稼いでもロクな事にならないわよ。言っとくけど250万でも高過ぎるぐらいだから。メイドの雑用して媚び売るぐらいなら15万円が妥当よ。」


タマさんの尻尾に叩かれ、お金の価値が分からなくなっているようだった。


「このままいきなり250万円受け取る生活にするのは危ないと思うんですよ。まずは人並みのお金を稼ぐ経験を積ませるのは如何でしょう?」


フィクサーさんの意見にモモコさんも頷き、試しに研究センターやこの虹渦街でのお仕事をやらせてみる方向で決まってしまった。


ボクもお金で不幸になったヒトを沢山知っているから。未だに孤児院に居た頃の金銭感覚を失わないよう自制している。お金は使うけど、それが大きな金額なんだって意識して動かすようにね。じゃないとボクもお金で不幸になっちゃうかもだから。


こうしてカテンさんは働く為の基礎知識として、数日間に渡る勉強の日々が始まったのだった。ニホンコク語の正しい理解、法や社会常識、モラルやマナー。まず目指すは自分でお稼いだお金でスマイルを買う事!


最新機種のお値段は25万円!頑張って!!


虹渦街で働く神獣がバイト掛け持ちの日々を送る事になったのだった。

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