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28、アロハな商人が6匹のフェンリルを連れて来た

話が纏り、目的地も決まった所でふとボクは気になった事を口にした。


「さっきの戦いで弾薬とか沢山使っちゃいましたけど、その街で補充できそうですか?」


「いや、アタシが呼んだから。応接室で買い物するわよ。」


そう言うタマさんは応接室のドアを開ける。その先には変わった風貌の男が居た。筋肉質な体を見せびらかすような、大胆なアロハシャツを着こなす金髪のお兄さん。だけど目元は大きなアイバイザーで隠されていて、バイザー上に映し出されたホロウインドウに『いらっしゃいませ』との文字が流れていた。


「おうおう、今日も武器が安いよ!ムカつく奴を蜂の巣にする最適解を求めてんならウチだ!」


勢いの良いお兄さんがケタケタと笑うと、バイザーに『今月のお勧めメニューはビームシュナイダー50本セット』との文字が流れる。


「買った♪」


ちょっと機嫌のいいタマさんがバイザーを指で突けば、収納から取り出されたアルミケースをお兄さんは放り投げた。


「タマはウチの気前の良い太客だ。特別にお前らの面倒も見てやるぜ?正規の軍用品以外なら何でも卸せる俺様に出会えた事に感謝すんだな!」


ケースの中身をニンマリ顔で確認するタマさんを、困った視線で見つめていると説明してくれた。


「こいつはノクターンとも取引してる武器商、ソメヤよ。色々シークレットが多いけど大抵の武器なら仕入れてくれるわ。結構な特殊品も扱ってるから、好きに無茶振りするといいんじゃない?」


すっごいカジュアルな格好のせいで武器商人って感じしないけど、タマさんが信頼しているのなら凄いヒトなんだろう。早速皆が何を補充するかリストに纏めて注文フォームに送信していく。ボクも巻物の中の銃を散々撃ったから注文しないとね。脳波を通した遠隔操作で巻物から直接銃を撃ち放てるのは良いけど、大量の銃を撃ってはリロードしてを繰り返していればあっという間に残弾数が‥‥


「ラフィ向けに幾つか光学兵器を見繕ってくれない?」


タマさんの提案にソメヤさんはパパッと手元のカバンから何丁か銃器を取り出した。どれも洗練されたデザインで、とっても重量が軽い。


「覚えておきなさい。光学兵器の利点は威力と軽さよ。欠点は扱いの難しさ、そして故障しやすさ。あと燃費も悪いわね。」


さっき買ったビームシュナイダーを一本手元に取り出したタマさんは、それを起動して紅い光の刃を形作った。ペンのように細く小さい柄の部分から光の刃が伸びている。


「光を反射する、鏡みたいな膜で包んで形を保ってるんだけど。触れれば耐性が無い限り簡単に両断するわ。軽いからこんな事も出来る。」


何処からか取り出されたリンゴはポイっと宙に放られ、ペン回しの要領でクルクルと指先でシュナイダーが操られれば、これまた何処からか取り出されたお皿の上にリンゴは着地する。リンゴは縦に割れ、お皿の上でバラバラになった。


「今見たように攻撃力は高いけど、物理的な衝撃は実弾と比べて弱いから的確に弱点を撃ち抜かないと怯ませるのも難しいの。でもそろそろラフィも実弾兵器ばっかじゃ心配だし、光学兵器も幾つか扱いに慣れておいた方がいいわね。」


タマさんが言うならそうしようかな?どれもデザインがカッコいいし、なんとか扱いこなしたいな。白を基調とした銃身に、青のハッキリした色のラインの入った武器を幾つか見繕って買う事にした。


「まいど〜。予備のエネルギーパックはおまけにしとくぜ。」


ソメヤさんから受け取ったのはムラマサ工房売れ筋商品。高価な光学兵器の中ではリーズナブルなお値段、安定性の高さ、多数の公式拡張MOD対応、初心者から熟練者まで愛用する幻獣シリーズ。“フェンリル”なんてクールな名前の光学ライフルセット。細く断続したビームを発射する武器で、消費が激しい代わりに継続して一箇所に当てれば並の抗光学装甲すら貫く威力を誇る。


お値段一丁保証込み込みで300万円。用意された数は‥‥6丁?


「こんなに買うんですか?」


「折角巻物と本に収納付けたんだし、雑銃突っ込むだけじゃ勿体無いわよ。確かまだ貯金2000万はあったわよね?」


あ、あるけどぉ。でも買ったらもうお金が‥‥!


「生活費とか雑費はアタシが出すから心配しないでって。買っちゃいなさいよ。1丁持ってるだけじゃ並の開拓者だけど、6丁持ちなんてまず居ないわよ?一斉発射したら凄い威力になると思わない?数の暴力は偉大よ?」


耳元でタマさんは悪魔の囁きを。一斉発射‥‥絶対カッコいいやつ!


「纏め買いなら250万にまけてもいいぜ?ラフィは長い付き合いになりそうだしな。先行投資で良い武器渡せばがっぽり稼いで返ってくる。タマの選んだギフテッド持ちなら間違いねぇだろう。」


今買えば300万円も安くなるの?あうぅ!ううう‥‥!


「か、買います!!これ下さい!!」


買っちゃった。口座をホクホクさせていた1000万円の大台を切り、500万円くらいになっちゃった。いや、これでも十分大金だし!大丈夫、まだ大丈夫‥‥!


そんなライフルを6丁、ボクは巻物と本に分けて収納した。


「故障した時もムラマサ工房が5年保証で直してくれるから、保証ID付属のメッセは鍵掛けてとっとけ。ま、武器の殿堂ムラマサ工房製の光学兵器は、どれも初心者でも使い易い割には強力だ!十分実戦で通用する性能だから遊びでぶっ放すんじゃねぇぞ〜。」


あ、扱いには気を付けなきゃ。


「それと、気になってたんだがそのメイドさんはやっぱり?」


「そうよ。あのスクトゥムロサシリーズ。何の因果かは知んないけど、ラフィに懐いたのよ。」


「売ってくれるか?めちゃんこ高く買い取るぜ!」


ブランさんが指先で弾いたさっきのリンゴの欠片が、ソメヤさんのおでこにクリーンヒット?!


「胡散臭いチャラ男が当機にNTRを仕掛けるとは片腹痛くございます。ご逝去なさりたくなければ当機を値踏む事ないよう、せいぜい気を付けやがって下さいませ。」


相変わらずな言葉遣いに仰天した顔でバイザーを付け直すソメヤさん。タマさんとボクを二度見した後頭をポリポリ掻いて笑う。


「スクトゥムロサって言葉通り硬い薔薇ってイメージだったけどさ。なんだよ、ユーモアあんじゃねぇか!ますます気に入ったぜ!」


気に入ったの?ボクはチラリとブランさんを見上げた後、ちょっとだけ寄りかかってソメヤさんに視線を送った。


「すいません、ボクのですから。売れません!」


ピャーッ!って感じに主張するボクにソメヤさんは冗談だと告げる。そして急にブランさんに抱きすくめられたボクは、皆が買い物を終えるまでしきりにもふもふと撫で繰り回されていたのだった。



やっと取れた時間で、エステルさんを応接室に招いた。思ったよりもスムーズに招待できてホッとする。これでエステルさんは好きな時に応接室に来れるんだから。


「怪我は無い?痛い所とか無い?肝心な時に側に居れないなんて。」


屈んでボクを覗き込むエステルさんに、ぴょこっと跳ねて。


「大丈夫です。でも、これからが大変そうです。暫くはタマシティに帰れないと思います。」


事情はもう説明していた。エステルさんはぎゅっとボクを抱きしめて目を瞑る。


「開拓者を始めてからこんなに早く遠くに行っちゃうの。ラフィがどんどん遠のいてく感じがする。」


タマシティを統べるタマ生命との戦いはどうなるんだろう。


「エステルさん。お願いです。孤児院を守って下さい。」


「分かってるから。もう少し、そのままでいさせて。」


エステルさんに抱かれたまま暫く。距離が近くて恥ずかしいけど安心する匂いがして。


「ラフィ。いい?頑張りなさい。やると決めたのなら最後まで突っ走るの。傲慢な大企業のハナを明かしてやりなさい!」


「はいっ!」


最後に激励してくれた。


「タマ、言っとくけどラフィを絶対守りなさいよ!アンタが誘ったんだから、責任持ってよね!」


ついでと言わんばかりにタマさんにビシッと、


「ブランさんでしたっけ?ラフィをお願いします。」


ブランさんにはぺこっと頭を下げた。


対応の差に何か言いたげなタマさんと、任せろとサムズアップを送るブランさん。応接室を後にしたエステルさんを見送った後、ボクはブランさんにぎゅうっと抱かれたままでいたのだった。



それから半日後。やっとアングルスの街に近づいてきた。車は住宅街と思わしき遺跡の、ボロボロになった道路を走っている。聞くところによると街に接近した怪物の群れとはよくこの辺りで戦うんだとか。確かに遮蔽物が多いし戦いやすそう。幾度も補強された跡のある廃屋が、戦いの激しさを物語っていた。


住宅街の遺跡を抜けて少し行った先に、アングルスの街である巨大なスポーツドームスタジアムが見えた。放棄された広大なドームの遺跡をそのまま街に改築した、多様な亜人達の住まう街。そして後ろ暗い羅針盤無き開拓者達の住処。都市警戒区域の近郊にあるお陰で、付近に大規模な怪物の群れが出現せず何とか頑張れば住める土地。深未踏地の手前にあるこの街にタマさんの知り合いが住んでいるらしい。


車は街のゲートで止まり、小さく収納されてタマさんのポケットに消えた。ゲートでの手続きをタマさんが済ませてくれる間ボクはきょろきょろと辺りを見回った。


タマシティから遠くにあるというのに、ゴブリンの部落と比べて近代的というか。マギアーツの内蔵された魔具が色濃い文明色を出す反面、どこか雑然とした空気感を感じる。レンガ敷きの通りはタマシティと比べて落書き塗れで薄汚く、ホロウインドウ製のネオン看板がそこらをギラギラさせていた。あうう、眩しいよ。街全体が裏通りのような空気感に包まれている。


見上げればドームの丸い天井が空を覆っていた。ドーム内の限られたスペースでやり繰りする為か、木造だか鉄筋だか分からない建築物が互いを喰らい合う様にくっつき合って積み上げられていた。それでも入り切らない分は壁を一部壊して外に倉庫街とかを広げていってるみたいだけど‥‥整然とビルの並ぶ都市内と見比べればやっぱり雑然という感想が出てきた。でも、この街なら身を隠すには都合良さそう。


「いや〜、久しぶりだな。」


懐かしみの視線で見渡すクニークルスさん。クニークルスさんもこの街を知ってるの?


「ああ、お互い生まれは違うけどさ。色々あってこの街に流れ着いて、ここで育ったのさ。ふふっ、因みにあたしもタマも同じ色街出身さ。」


色街?ええと、それって地名ですか?


「あ〜、ほんっとに可愛い反応するなぁ。首を傾げちゃってあざといじゃん。ほら、耳を貸せ。」


急に黄色い声を上げたクニークルスさんに抱き上げられ、ジタバタする間もなく耳元でやらしい言葉を囁かれる。ふわぁって顔を熱くしたボクは、地面に降ろされるなりよろよろとタマさんに向かう。


「ん?どうしたの、ラフィ。顔を赤くしちゃってさ。」


「タマさん、その。ええと。」


つい話し掛けちゃったけど何を言ったらいいか分かんない。ボクは指先の出ない長い袖で顔を隠してブランさんの背中に隠れてしまった。


「・・・クニークルス。アンタ、ラフィに何を吹き込んだのかしら?」


「おいおい、ちょっと身の上話をしただけだろ?」


すると急に顔を真っ赤にしたタマさんの蹴りが、クニークルスさんのお尻を吹っ飛ばす!


「言っておくけど、アタシは用心棒担当よ!お嬢じゃないから!」


大声を出すタマさんにびっくりしたボクは、尚更ブランさんの背にぴったりと隠れていたのだった。

ー武器商・ソメヤー

変人に定評があるノクターンの団長が、どこからともなく拾ってきた風来坊。多くの大企業にコネを持ち、あの手のこの手で商品を格安で仕入れて売り捌く。取り扱う商品には軍の廃棄品等正規の手段では入手困難な物もあり、ノクターンの執行者達に精強な兵器を流していた。


ービームシュナイダーー

近接戦で使用される光学兵器類の中では最も手軽かつメジャーな武器種。本体はペン程に小さく、起動すれば光の刃が1m前後伸びる。多くの企業が様々なタイプのビームシュナイダーを売り、ものによって刃渡りから出力規格まで違う千差万別の武器でもあった。

ただ、怪物退治に使うには刃渡が心許ない。主な使用用途はDIYからヒトのスプラッタまで。サイコロステーキを作る最適解として有名だった。

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