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275、未踏の大地へ挑む一大プロジェクトが始動する

樹上世界を探索していたけど、見上げた先は何層か上の大枝があって。空を見る事は出来なかった。だからその上にある浮島の存在に気付けなかった。


探索していたアマツクのずっと先に浮島が浮かんでいて、いつの間にかあの浮島の下まで来れていたんだ。深未踏地の探索を始めた時目指した場所へ、知らないうちに辿り着いていた。


ボク達は一度モモコさんの所まで戻り、そのまま会議室へ直行していた。浮島はずっと同じ場所にある訳じゃなくて、ゆっくりと動いている。今はあのアマツクの真横にあっても、1週間もしないうちにだいぶ離れてしまうだろうと予測された。


白喰みさんに転移させられて遠い場所へ出たから気付けた千載一遇のチャンス。絶対モノにしたい!


「ははは、本当にラフィは最高だよ!この数日でここまでいろんな事件が起きるなんて。キミと一緒に居れて良かったと思ってる。」


モモコさんに手を引かれ、慌ただしく廊下を進む。直ぐ後ろをシグさんとウメさんもついて来ていた。


「もう父上に連絡は済ませてある。直ぐに来る筈だ。他の役員も来るから姿勢を正しく、ね。」


ウインクするモモコさんにちょっとドキリとして。


「にゃはは、ラフィさまったら面白い事を思い付きますよね!あの場で気付けずに撤収していたらこんな話は立ち消えだったでしょう。」


ホロウインドウの中で笑うフィクサーさんも、今の状況を楽しんでいるよう。後ろを歩くタマさんも珍しくテンション高めだった。


「開拓者やってて最近は刺激的な毎日だったけど、浮島に辿り着けたらニホンコク初よ?そりゃアガるでしょ。」


そう。危険な深未踏地に浮かぶ浮島に到達した者は居ない。そもそも帰還時の事を考えると、長期滞在が難しいしそれ程奥地に行く事も出来ない。ましてや奥地で工事なんてもっての外。


「亜人の部落を拠点に奥地を捜索しようって企画は定期的に上がるけど、やっぱり原生生物に怪物と脅威が多いからね。正直浮島が作る影の中へ踏み込めた奴も居ない状況だよ。」


フェンリル達の縄張りに侵入しようとしていた怪物の軍勢を倒したけど、あのレベルの群れが跋扈する場所が深未踏地。大規模な旅団でも樹上世界の探索すら困難を極めていた。


「とは言え、ラフィなら出入り自由と来た。ふふん、ワクワクするよ。手を伸ばせば届くんだぞ?勿論しっかりとした準備が必要だけどね。」


シブサワプロモーション本社ビル、その会議に使われるホールは想像以上に大きかった。大講堂って感じでズラリと並んだ装飾細かい机が何列も奥まで続いている。


「ラフィは初めて来るよね。時にシブサワプロモーションの企画会議は中々規模が大きくてね。普通の会議室じゃ手狭なんだ。とは言っても普段から全部席が埋まる訳じゃ無いよ?」


タマさんとブランさんもはえーって感じに見回し、どこか観光気分だった。そう言うボクもだけど。ボク達はそのままホールの最奥の壇上へ上がった。


「僕達の席はここさ。今回は大規模な短期工事を挟むから関係者の数も多い。ここからの眺めは壮観だろうね。」


一際豪華な装飾の席に着き、次々と入場してくる役員達を眺めていた。


「てかさ、結構古風ね。これ木製でしょ?」


「僕の趣味だよ。木の香りがする大講堂に憧れてるのさ。浮遊する椅子に、テクノロジー輝かしいサイバーテックな会議室。正直落ち着かないだろう?」


全員が揃うまで10分掛からず、講堂はほぼ満員となっていた。でも騒がしく無く(むし)ろ静かで。統率された動きに無駄が無い。


モモコさんは早速、喉内マイクを起動して挨拶を。


「皆、急な呼び出しで済まないね。事前に聞いたと思うが今回は緊急案件だ。それもシブサワグループ全体でも今まで無い、千載一遇のチャンスが巡って来ている。誰もが仕事を抱えているのは分かっている。ただ、今はこの仕事が最優先と心得て欲しい。」


テツゾウさんもモモコさんの隣に着席し、モモコさんの挨拶を引き継いで短めに。


「今度の事業は絶対に失敗出来ない。深未踏地を切り拓いたラフィ、タマ、ブラン、フィクサー。そしてそれを支えた大勢の活躍を無駄にしないよう、最優先で取り組んでくれ。普段彼らの成果を散々享受して来た身だ。ここ一番の勝負所で開拓者達が新天地を切り拓けるよう、総力を上げて挑もうじゃないか。」


早速本題に入り、撮影されたARの映像をキュエリさんが投影した。ウメさんが説明を始める。先ずはこの事態に至るまでの経緯をザックリと。


白喰みとの企業戦争の話は既に周知されていたけど、10体の魔王との決戦の話は初耳なヒトが多かったみたい。流石にどよめき、誰もが驚きを隠せないでいる。


何を言わずともタマさんはドヤ顔で足を組み、自慢げにボクのほっぺを尻尾で突いていた。


「今作戦の目標は、正式名称T.T-5L。通称虹渦島(にじうずしま)への到達となります。」


T.T-5L?って首を傾げるボクに、フィクサーさんがこそっと。


『タマシティ〜トウキョウシティ間で5番目に発見された浮島って意味ですよ。最後のLはそのままサイズを現します。一番大きいラージサイズって事ですね。現状ニホンコク全体で小さいのを含めれば浮島は50程見つかっています。』


T(TAMA).T(TOKYO)-5(5番目)L(ラージサイズ)って事なんだ。疑問が解けてスッキリ。


「尚今作戦は当該目標への到達が第一目標となっていまして、継続的な到達は先ずは度外視で構いません。作戦へ協力して下さるラフィさんは優れた転移能力を持っていますので、どれ程ヤマノテシティと距離が開いたとしても継続的な到達が出来る見込みとなっております。」


少しざわつく。ボクのアニマトロニクスの力を知るヒトは少ないから。


誰かの頭上に挙手マークのARが浮かんだ。ウメさんが承認すればARが青く光って、質問内容が大きな文字で壇上の壁面スクリーンに映し出された。


『質問 つまり片道切符でも大丈夫との事でしょうか? シブサワ重工特化工科部総部長 : シゲモリ』


ウメさんのホロウインドウにも同じ内容が共有されているみたいで、振り返ったりせずにそのまま返答する。


「はい。構いません。帰還時は転移を想定しています。転移の詳細については本作戦の実行委員会の方のみに説明します。」


実行委員会‥‥!なんかカッコいい!キュン、とするボクにモモコさんが小声で。


「因みにラフィは実行委員会の会長だよ。」


えっ?!


「ラフィの発案だし、一番重要な部分もラフィ頼みなんだよ?他に適任は居ないさ。」


急に責任感が出てきて思わず椅子の上でジタバタ。ブランさんにそっと手を握られてやっと落ち着いた。


「大丈夫だって。取り纏めとかは僕がやるし現場指揮はウメが執る。」


タマさんは同情する顔でウメさんを見た。


「アイツ軍属でしょ?こんな企画の執行部長だなんて大変じゃない?」


「あはは‥‥今回の作戦実行部隊は第4旅団なんだ。少数精鋭での動きが得意だし、あそこで戦った分土地勘もある。となると‥‥こう言うのが得意なウメに白羽の矢がね。」


モモコさんもちょっと申し訳なさそうにしてるけど。後でウメさんを目一杯癒すんだから。


「虹渦島への到達は、ニホンコク未踏の地の開拓という重要性もありますが名誉以上の圧倒的な価値を秘めています。」


先ずは法律の問題。


現状全ての浮島に所有者は居ない。どれも到達しようがないし、深未踏地の奥地に浮かんでいるから。権利を主張しても虚しいだけ、権利に付属する管理責任を全うする術が無かった。


つまり最初に到達した事を証明出来たヒトがその島の所有者を名乗れる。そんな名誉欲しさに大勢の開拓者が企業のバックアップを受けて奮戦したけど‥‥現状全て失敗に終わっていた。


「───つまりここに我が社が最初に到達できれば、そのままシブサワグループの所有とする事が可能です。これは深未踏地開拓法第6条、浮島の扱いに対する法律で保証された権利となります。」


今この千載一遇のチャンスに手を出せる企業はシブサワグループのみ。他の企業はただ見ている事しかできない。場所は深未踏地の奥の奥。フェンリルの巨大な縄張り圏を抜け、真空地帯を更に抜けた先。ボクだけが到達できる場所。


次に実利に対するお話。


「浮島の環境に対しては長年の観測によって、深未踏地内と同じ環境にあるとされています。つまり、独立した深未踏地の広大な土地を得られるのです。深未踏地に対する研究、多くの作物の栽培実験、畜産‥‥シブサワグループの更なる躍進に繋がる筈なのです。」


夢のある話題に皆の表情が明るくなる。そしてやる気が昂るのを感じた。


「先ずは肝心な到達方法について検討したいと思います。2時間後、プレゼンを行いますのでシブサワ重工の方はお願い致します。その前に一度ラフィさんと現地の視察を行いますので、隣の部屋へお越し下さい。シブサワプロモーションの役員方はこのままで、今作戦のプロモーションに対する会議を行います。外交官各位もそのまま、会議に参加して下さい。」


ウメさんがそれぞれ指示を飛ばして、ボクはモモコさんに手を引かれて一緒に隣室へ。ゾロゾロと30人ぐらいの老若男女様々なヒト達が付いてきて、誰もが期待した目でボクを見た。


「プロモーションの連中会議中でしょ?アンタも来て良いの?」


タマさんのツッコミにモモコさんは肩を竦める。


(むし)ろ僕自身が実際に現場を見てないでどうするんだい。あっ、向こうの環境は既に第4旅団が前線基地を作って整えてあるから心配しないでいい。それと、帰還時に除染室を経由しない事に関しては‥‥」


口元に指を当ててイタズラっぽく笑う。皆も同じような仕草をして和気藹々(わきあいあい)といった風だった。会社のヒト達と仲が良いのかな?皆に慕われてる感じがした。


「じゃあワープゲートを開きますので。」


アニマトロニクスを起動。しゅるん、と九尾の尾が伸びれば誰もが声を出して驚く。なんだか黄色い声を上げるヒトも居た。


シャボン玉が輪っかになって大きなゲートを開く。その先の光景が水面のように揺らいで、前線基地の様子が窺えた。


一足先にブランさんが入って、今から視察が入る事を伝える。ここからじゃ直接電波は届かないから、こうしてゲートを繋げる必要があった。


「準備大丈夫で御座います。中へお入りください。」


恐る恐る‥‥って風に誰もが足を運んで、向こうの土を踏んだ誰もが感動の声を漏らしていた。


「あっ、すいません。はは、深未踏地に行くのは流石に初めてで。憧れはあったんですけどね〜。ここがそうなんですね。」


おじさんが照れた風に頭を掻く。


「僕も来るのは初めてさ。未踏地とはやっぱり空気が違うねぇ。おっ。アレが虹渦島か。近い近い。」


皆して見上げる。巨大な虹が渦巻く浮島は、アマツクの頂上の直ぐ隣に浮かんでいた。

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