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273、ファンタジーVSサイバーパンク

100年以上前から存在する古の魔王の一角、豪獣王と呼ばれた獣人族の姿を借りる魔王はその巨体で飛び掛かっていた。5mを越す身長で影を落とす虎男の土手っ腹に、重たい一撃が撃ち込まれる。


ラフィが設置した単装砲、グングニル。買ったものの、万雷と同じく長く使われていなかった破壊兵器は一撃で豪獣王を爆散させた。圧縮ダマスカス鋼製の砲丸が音速を遥かに超える速度で発射され、その質量で魔王だろうが大怪獣だろうが爆散させてしまう。


再生を始める豪獣王も、その場の全魔王が気付く。ラフィを中心に展開された異界が、自身らの異界化を阻んでいると。思うように異界化を操れず、真の実力を発揮できない不利を悟った。


並んだ防弾壁の内側から数多の銃口が覗き、遮蔽の無い平野となったこの場に破壊の豪雨を振り撒いた。


その中から飛び出した数班の精鋭部隊が、魔王の動きを牽制する為に側面に回って十字砲火を浴びせ掛ける。防弾壁の内側に篭っての攻撃では無く、ラビットT-60A4を駆動させた高機動部隊。その縦横無尽な動きに混じって、ミニフィーも数体同行して援護していた。


ニホンコクの生存圏から離れた場所に居を構えた魔王程、ニホンコクの文明を知らない。ニホンコクへやって来た際に知ったジエイタイの持つ旧文明的な火器に関する知識はあるが、多くの魔王は魔法による戦術開拓を好んだ。今では雑銃と呼ばれる旧来的な銃は、束ねた所で魔法を超える大火力を出すのが難しいからだ。


ヤマノテシティへ攻め込んだ魔王はニホンコクへの研究に余念が無く、だからこそ都市産の現行兵器に対する知識があった。ただこの場にいる魔王は、フェンリルの巨大な縄張り圏の遥か遠くの領域を牛耳る面々。


最新鋭の兵器に対する知識や、脅威性の理解が無い。


しかしそれは魔王が無力な存在と言う意味では無かった。


鋼剣(こうけん)王と呼ばれた魔王が狭い範囲に絞って展開した異界から、僅か数秒で無数の剣を生み出し撃ち放つ。それは自在に宙を舞い蟲の大群のように誰をも包んで切り刻んでしまおうと迫った。


迎え撃つは幾多の磁力ドローン。鉄製の投射物に対する対抗策として生み出されたドローンは強力な磁力を展開する。剣の渦中に飛び込みその動きを著しく阻害した。


「何だ‥‥?」


思わず眉を顰める鋼剣王へ、圧縮された大気が肉薄した。辛うじて視線で追った先で、ラビットT-60A5を履いたミニフィーと目が合う。反応する間も無く蹴り抜かれ、赤い霧を残して転がった。


体を再生させて起き上がり、地面から突き出した無数の剣山がその身を守る。が、狭い隙間を通り抜け、エイミとヒゲが迫った。


「お姉さんが相手だよ!」


「よぉ。」


対人戦に特化した才能を持つ2人の急襲に、鋼剣王は両手に剣を携え迎え撃つ。


ラビットT-60A4とブレードランナーを切り替え高速で動く2人の動きは、歴戦の鋼剣王からしても達人のそれだった。振った剣を凄まじい出力で蹴り上げられ、体内から突き出された剣先を顔を逸らして躱し、手にした光学の刃が瞬く間に灼き刻む。


「貴様らは英雄か‥‥?!」


「あはは、ちょっと強い一般人だって!」


「なーにが英雄だ。おじさんには似合わねぇよ。」


腕の可動域を無視した剣技は掠りもせず、背中を蹴られてよろめいた先で目を一閃で斬られて視界を奪われる。鳩尾、顎、喉、と重たい打撃に突き飛ばされ、背後からの幾多もの突きがビームシュナイダーの灼き痕を胴体に残す。


魔王戦のマニュアルとして、格闘戦の際は無闇にバラさず原型を残したまま攻撃をする事で、予測不能な反撃を防ぎやすいと共有されていた。体の構造を大きく変える変形は魔王にとってもリスクであり、消耗激しい切迫した格闘戦でヒト型を捨てる行為に出る可能性は低いと過去のデータから出されていた。


鋼剣王が圧倒されて力を消耗し切るまで時間は掛からなかった。



気付けば3体の魔王は突然薄暗い映画館に座らされていた。血晶(けっしょう)王、闇這(やみはい)王、統界(とうかい)王の目前、1列前に座す燕尾服は大柄な悪魔。逆三角形の胴に開け放たれた胸元から胸筋が覗く。顔を仮面で隠しながらも、声色は楽しげだった。


「折角だ、一緒に映画を楽しもうじゃねぇか。はははっ、お勧めのサメ映画があるんだ。」


この状況に3者は警戒し、巻き込まれた不可解な現象をそれぞれ考察する。脈々と受け継がれてきたダンジョンの記憶から、悪魔の魔法に対する知識を引っ張り出す。


「これが貴様の異界か?」


その声にヘラヘラと、


「ダイナミックシアターって言ってもわかんねぇだろ?そういう技術があんだけどよ、アレと悪魔の魔法を‥‥マギアーツを組み合わせるとあら不思議。いつでもどこでもダイナミックシアターを楽しめんだ。」


流暢な説明をする悪魔の背後へ殺意が迫り、ふと気付いた時には3者は海洋の真っ只中に放り出されていた。目前のクルーザーの上で悪魔は笑う。


「サメ映画と言えばお決まりの舞台は海だっ!知ってるか?首の数がサメのパワーを決めるんだぜ!」


魔王の目前、大波と共に顔を出した巨大ザメの首の数は10。その巨体は日差しを隠し、真上から齧り付くよう飛び込んできた。


「ふざけているのか!」


サメよりも更に大きいトゲだらけの結晶が生み出され‥‥理不尽にも更に巨大化したサメが結晶ごと血晶王を噛み砕いてしまった。


「これはサメ映画だぜ?サメってのは倒し方ってのがあんだよ。はははっ!」


悪魔の声に気付いた時には、2者の魔王は何処かの都市部の真っ只中。


「コンクリートジャングルは正しくサメの聖地!サメを舐めた都心部の人間を恐怖のどん底に叩き込むのは王道脚本ってやつさ!」


闇這王は暗闇と同化し、霧状になって場を逃れようとする。撃ち出された闇の魔法弾は音速を超すが、銃弾より遅いそれを躱すのは悪魔にとって容易く当たらない。


燕尾服の悪魔はスポーツカーに乗って魔王の周りをぐるりと一周。


「ほらほら!俺に構ってて良いのかよ?!」


統界王が(かざ)した片手の先、飛び掛かったサメが動きを止め爆散した。マンホールから這い出したサメの群れは統界王に平伏し自ら息の根を絶ってしまう。


話し言葉は通じないが、思念が伝わってくる。


『小細工は辞めておけ。』


と。統界王の指した先で、スポーツカーが爆散し燕尾服の悪魔が首で吊るされたよう浮かび上がった。


「ゲェッ?!」


『雑魚が。』


統界王の背後、突然闇這王が霧状を維持できずに転がった。胴体が半分無くなり、目に見えて落ちた再生力が立ち上がらせる事に苦心させた。


一瞬気を取られた間に、悪魔の姿を見失う。統界王の片腕も透明なサメに齧り取られて消えていた。


「サメ映画にスーパーヒーローが登場するとよぉ、その超パワーに妙なメタを持ったサメが現れて苦戦するのは王道なんだよ。だってヒーローが無双するだけじゃつまらねぇだろ?」


統界王の目前に仮面が覗き込んで来た。


地面が消え、大竜巻の中に放り出される。


「竜巻とサメの組み合わせは大人気なんだ!ほら!楽しみな!」


燕尾服の悪魔が中指立てる先で、全方位から迫るサメに対処しきれなかった2者の魔王は赤い霧を残して消えてしまう。再生力を上回る捕食が致命傷を与えて肉片に変えてしまった。



燕尾服に身を包んだタマが緑樹(りょくじゅ)王を蹴り砕く。地面から無数の樹木の枝が生えようが、地に這った根っこが迫ろうが、トレント如き一撃を振り回そうが。


都市最新鋭の最速、舜動で動くタマからすれば何の脅威にもならない。正直タマ生命の魔王の方が遥かに厄介だった。原始的な魔王の抵抗を煌めく文明の技術が否定する。遥か昔。ニホンコクがこの世界に転移してきた時、征伐軍と共にこの魔王は手を組んでやって来た。


征伐軍が敗北しても、人里離れた場所に根を下ろして力を蓄えていた。


しかし‥‥どれだけ力を蓄えようと、技術革新がそれをあっさり上回ってしまう。諸行無常な現実を前に、ビームシュナイダーで灼き裂かれた首が地面に落とされた。


その隣、首都圏の都市警戒区域で暴れ回っていた大怪獣がドカドカと地面を踏み荒らしていた。その脅威性から広く指名手配され討伐依頼が出された大怪獣は、全身に火器を搭載した大百足。


首都トウキョウシティ近郊の魔王達は、捕食した開拓者や傭兵から多くの知識を得て強大な大怪獣を創り出す。その中でも傑作となったそれを、ジョン・ドゥは完全再現していた。


戦う姿の録画映像を何度も確認し、実際に現地で戦いその動きをトレースし、死体を隅々まで解剖して全てを識る。理解が深い程にシェイプシフターの変身の精度が上がる。


ジョン・ドゥはこうして幾つもの指名手配された大怪獣の姿を識り、手札としていた。


その猛威を前に既に鏡冰(きょうひょう)王と呼ばれた魔王が叩き潰され、食い千切られてピクリともしなくなっていた。


激しい戦いの中、ラフィがラビットT-60A5の猛速で駆ける。対するは白喰み。天の雫を飲み込み、取り込んだ白喰みを野放しにすれば戦況をひっくり返されないと考えていた。


天の雫の力は魔王一体よりも強大な力を与える。放った魔法がこの一帯の地形ごと全てを粉砕する可能性もあった。しかしマギアーツでない以上、発動には魔法陣が必要になる。威力を上げるのなら相応の詠唱も要求された。


肉眼で捉えられない速度で周囲を駆けるラフィを、100を超える放った斬撃が追い掛ける。一瞬前に居た場所に深い斬り跡が残されるも残像しか捉えられない。


「まったく、可愛らしいのに随分凶暴じゃないか。」


「抵抗を辞めて降伏して下さい!」


また、だ。


戦いながらラフィの姿が一瞬遠のき、代わりに撒かれた数体のミニフィーが紫電M10の銃口を向ける。その相手をする合間に、倒れて動けなくなった魔王の元へラフィが姿を現す。恐怖する顔で見上げる魔王を、無表情なままラフィはシャボン玉で包み込んで姿を消し去った。


胃の中から僅かに消化する音が聞こえた。


紫電M10の攻撃を躱しもせず、無理矢理な反撃でミニフィーを両断。ほぼ同時に遠方からの狙撃で頭部を吹き飛ばされ視界が闇へ。再生した時にはS.S.Sからフェンリルを展開するラフィと向かい合っていた。


「魔王は何処へやったのかい?!」


「秘密です!」


ラフィの指した先で急に霧が渦を巻く。白喰みの片足が食い千切られ体が不意に傾く。紫電M10の集中砲火で体がバラバラになった。


イルシオンから飛び出したブランの液化ミスリルの鞭、vitis(ウィティス)が音速の数倍の速度で振われ、再生する白喰みを更にバラバラにしてしまう。両手に爆裂の魔法陣を展開し、自爆気味にブランを巻き込んで爆発。しかしバリア装甲シールドで受け流され、続く一撃で顔を縦に斬り裂かれてしまった。


小刻みな転移で距離を取り、再生の時間を稼ぐ。そして放った燃え盛る火球がラフィに向かうも‥‥急に減衰したように消え去ってしまった。


ホロウインドウから電子の悪魔の腕が生え、その指先が白喰みを指していた。


その場でラフィがラビットT-60A5の出力で回し蹴りを、一瞬で距離を圧縮された白喰みの頭部が丁度蹴り抜かれた。引き寄せられた‥‥というより空間が折り畳まれ距離を誤魔化されたような。一瞬で地面に叩きつけられ、衝撃で全身の骨が粉砕された。


痛みを魔法で消しても、激しい衝撃を全身に叩きつけられるショックは変わらない。白喰みは怪我を恐れないバーバリアンでは無いし、戦闘民族でも無い。どちらかと言うと研究者気質の引き篭もり。か弱くは無いが、そもそも闘争を好むタイプじゃない。


体が再生する間、目前で一切情け容赦なく動くラフィに今までに無い刺激を感じていた。ラフィの全てが興味の対象。戦いながら考察を重ねて行く。体が吹き飛ぶ恐怖より、研究者としての好奇に意識が傾いていき次第に攻め手が弱まってしまう。


オオシロアリの研究に没頭して、長年忘れていた肉体の躍動。ラフィと素肌が触れ合った時の胸の高鳴り。強烈な攻撃に晒され死線を彷徨うような死闘。


その全てが懐かしく、新しく、ただ楽しかった。闘争を好まずとも、純粋な好奇心が白喰みを高揚させた。


どう斬撃を放ってもラフィに掠らず、紫電M10の銃撃を躱し切れない。天の雫の力は戦って消耗する程度では枯渇には程遠く、このまま何十年でも戦い続けられる余力があった。


オオシロアリの研究の傍ら、深未踏地を縄張りとする魔王と知り合った。魔王の生態に興味を惹かれ、片手間に魔王の研究も始める。サンプルが11もあり、研究は非常に捗っていた。


しかし今日。予想外の事態が重なり白喰みの実験場はパァとなってしまった。知識が頭にある以上大して惜しいとは思わない。それ以上の興味の対象が目の前にいるのだから。


接近戦になって激しい猛攻を交わし合う中、ふと白喰みは敵意を無くして両手を広げた。戦う意志が無くなった途端ラフィも攻撃をピタリと止め、勢い余って胸の中へ飛び込んでしまう。


抱き締め、驚くラフィの顔を真近で覗き込んだ。


「投降しようじゃないか。ラフィ、キミを研究させてくれ。」


急に近付いた綺麗な顔にラフィは困惑し、赤面し。後ろからブランに抱き取られるまで、わちゃわちゃと優しく抵抗していたのだった。

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