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271、もしゴキブリの巣穴にアシダカ軍曹が潜り込んだら?

約束の時刻がやって来た。アニマトロニクスを起動して、九尾の尻尾が生え揃う。戦争なんてヤだけど、前進む為に戦わなきゃ。


シャボン玉のゲートがシブサワPMC旅団大隊、第4旅団の基地へと繋がった。


大きなゲートから一斉にゾロゾロと兵士達が姿を現して、音が無いのに周囲が騒がしくなる。物々しい気配にプティさんは興奮気味ながら、ボクの背中にくっ付いて身を隠していた。


『プティさん?』


『ナンカヤバイゾ!強ソウ!多イ!』


動きに一切の乱れが無く、誰一人として油断が無い。足を止める事もなくそのまま奥へと駆動魔具で駆けて行った。重武装の5班を先頭に、ミニフィーを同行させてR.A.F.I.S.Sに接続していく。その後ろにアングルス防衛戦で見た身軽なジープが、収納に収まりきらない装備を積んで発進していった。ジープの後にも自走重機関砲台が幾つも姿を現し、後衛を守る班が続々と姿を現した。


そんな中、見知った顔がボクに会釈した。無線が繋がって懐かしい声を聞く。


『おう!ラフィ!久しぶりだな。』


『ロウさん!お久しぶりです!ゴウキさんも!』


刈り上げた薄金髪がオシャレなロウさんに、コウジさんと同じぐらい大男のゴウキさん。防衛要塞で一緒に戦ったロウ班の皆が揃っていた。


『ラフィは顔馴染みの俺らが護衛する。必要はねぇと思うが、万全を期すのがプロってもんだ。』


そして最後に、軍服で身を固めたシグさんとウメさんが現れた。


『ナイトジュエルぶりだな。抱き締めてやりたいが作戦行動中だ。今回は電撃戦、幕舎を張って呑気に構える戦いじゃ無いんでね。このまま私達も後列から全体の指揮をとる。』


作戦参加の人員を送った後、一度ゲートを閉じる。全体へ流れる無線がボクにも聞こえて来た。


『真空地帯での作戦は初めてだが、ここに居るのは無音訓練を乗り越えた猛者達だ。まさかパニックを起こすバカは居ないな?いいか?ここは人類未踏、深未踏地の更に奥地!帰還方法はラフィだけが握っている!常にR.A.F.I.S.Sの感知範囲内で戦うよう意識しろ!』


白喰みの本拠までの道のりはここから1km圏内。あっという間に着く。


『深未踏地の亜人の部落と、シブサワの精鋭部隊。どっちが勝つかな?』


茶化すようなジグゾーさんの声に、ウメさんは呆れた風に。


『そうやって舐めている内は新兵と同レベルですね。』


ホロウインドウの中でフィクサーさんが楽しげに告げた。


『あっ!早速最前線で戦闘が始まったようですよ!』





迫る第4旅団に迎え撃つオオシロアリの群れ。散々蹴散らされたそれは数の暴力を頼りに突っ込むも、足止めにもならずに突破されてしまう。雪崩れ込むどころか、逆に勢い良く突っ込まれ雪崩れ込まれる。


鋭い牙で噛み付く暇もなく、通り過ぎた幾多ものビームシュナイダーが細切れに灼き裂いて行った。オオシロアリの群れは黒の軍団に飲み込まれるよう、小さくなって消えて行った。


邪魔な死骸を後続の部隊が回収し、綺麗になった水路をジープが駆け抜ける。事前のブリーフィング通り、一歩も足を止めることの無い稲妻の攻勢が無駄無く白喰みの喉元へ突き進んだ。


そして振動が近付き、全てを押し流す濁流が迫る。幾ら大部隊でも逃げ場の無い水路で瓦礫と一緒に押し流してしまえば‥‥


『転移陣展開!!押し進め!!』


水路に蓋をするよう、半透明な膜が張られた。これは転移陣であり、繋がった先はシブサワが保有する空の貯水タンク。折角アマツク水が流れてくるのなら確保しない手はない。


濁流がそのまま転移陣へ流れ込み、進軍するままに転移陣も押し上げられる。洪水攻撃は意味無くいなされた。


『敵対行動につき、降伏勧告の権利は我々にあり!いいか?攻撃してくる奴だけを倒せ!虐殺などしてくれるなよ?!』


もう直ぐ先に、白喰みの拠点があった。


中で待ち構える白の貴婦人達は、出会い頭に斬撃の魔法を何百と同時に発動して浴びせ掛けた。旧来の軍隊なら魔法障壁ごと細切れになって吹き飛ぶ火力が、重厚なアダマンタイト製のシールドに防がれた。バリア装甲を纏うシールドに大した傷を付けられず、その後ろから激しい銃撃が飛来した。


研鑽を積んだ魔法を、引き金一つで否定する文明の利器。音速の何倍もの速度で迫る、面制圧の特殊鉛の銃弾。一瞬の交差で10人以上の白の貴婦人達が消し飛んだ。


頭部を無くし、体がバラバラに砕け、体液を撒き散らして消滅する。


後詰めの白の貴婦人達が、白喰みの指示に従い身軽に飛び回りながら側面に回ろうとした。


重機関砲台が到着し、ジープから降ろされた防御バリア装甲発生装置が起動される。瞬く間に防衛陣地が構築され、激しい砲火を振り撒く要塞を貴婦人達は目の当たりにした。


『いいか?柱やデカい建造物、崩落の危険のあるものは撃つなよ?!ちょこまか動くアリどもを狙え!狙撃班!』


陣の後方、スナイパーライフルを構えた班員が飛び回る身軽な影を(ことごと)く叩き落とした。


プティはラフィと共に戦場に到着し、その様子に愕然とする。


プティの認識では良い勝負をする、と考えていた。白の貴婦人達は皆魔法の達人。天才的な素養を得て生まれ育った彼女達は、外界の大賢者と呼ばれる猛者に比肩する実力者揃い。もし仮にかつてニホンコクに赴いた征伐軍が彼女達と戦えば、とんでもない大損害を出してしまっていただろう。


あらゆる魔法を無詠唱で使い熟し、その威力は英雄の纏う防御すらも両断する。なのに‥‥


プティの目で追った先、必死の形相で逃げ惑う白の貴婦人は数秒後に撃ち抜かれて壁に激突する。そして飛来した弾丸が頭部を粉砕して止めを刺された。

数人掛かりで戦略級の対軍魔法を発動しようとするも、瞬き一つの合間にミサイルが突っ込み粉微塵に。陰で隠れてコソコソしようが、R.A.F.I.S.Sに接続されている限り行動は筒抜けだった。

堪らずに街の奥へと逃げれば、後続の部隊が陣地を護る代わりに入れ替わりで重武装の班が追撃に入った。


ゴツい強化外装に身を包みつつも、その動きは非常に身軽。あっという間に奥まで向かってしまう。


いつの間にラフィの袖をプティが手汗を激しく握り締めていた。その顔は絶望し、勝てないと恐怖していた。偶然の出会いが無ければ、間違いなくプティも向こう側で転がっていただろう。





───そんな中、緊急の通信が入る。


『最奥にてプティからの情報通り天の雫を確認!大規模な魔法を操る厄介なのが居る!一度退避する!』


奥からの激しい振動が地を揺らす。流石の重装班も危険と判断してこちらまで戻って来た。けど、ボクは彼らとすれ違って一気に加速して奥へ向かう。R.A.F.I.S.S経由に意図が伝わり、援護射撃の中真っ直ぐに突っ込んでいった。


天の雫の力を使って、この辺り一帯を転移で何処かへ飛ばしてしまおうと魔法陣を構築する様子を感知していた。この場で一番速いのはボク!それに多分止めるのは間に合わないから、仮に飛ばされても直ぐに戻ってこれるボクが行かないと!


小刻みにラビットT-60A5を駆動しながら一気に駆け抜ける。突っ込むボクから逃げるよう、白の貴婦人達がわちゃわちゃと子蜘蛛のように散った。


静謐の揺籠と違って、街並みは起伏が激しい割には全体的に簡素で“巣穴”ってイメージの強い場所。その奥、大きな広場を見下ろす巨大な天蓋があった。儀式的な祭壇にも見えるその中で、今まさに巨大な転移魔法が発動されようとしていた。


この世界で最も速い攻撃手段はレーザー光線!S.S.Sから覗いた6丁のフェンリルが、天蓋に灼き穴を穿った。反応させずに直撃させた筈なのに魔法の発動が止まらない。上半身を一瞬失うダメージを負いながらも、その体が急速に再生していった。


天の雫‥‥賢者の石と呼ばれたそれは無尽蔵の力を撒き散らす。個人を再生させるぐらいなら容易いみたいだった。


魔王の力を引っ張り出して、ボクを中心に異界化させる。天蓋ごとボクの領域に封じ込めれば、転移魔法の指定した範囲がボクの世界の中だけで完結する筈。透明な異界が場を飲み込み、流石に動揺を見せた白喰みさんはそのまま魔法を発動させた。





───僅かな転移酔いで眩んだ視界が元に戻る。


「おや、随分と可愛い魔王様だね。」


ハッとして見た先は柔らかな肌色。肌けたお姉さんの上半身に顔を埋めて寝転んでいた。きゃっ?!と離れ、胸を曝け出したままの白喰みさんを見下ろした。


キュエリさんにどこか面影のある雰囲気は‥‥多分ドラゴニュートかな?R.A.F.I.S.Sが感知した生体データは同じような感じだった。


揶揄(からか)うように笑った後、目の前で衣服を魔法で再生させた。目のやり場に困っちゃうから。やっと直視出来る。


キュエリさんと違って黒い角を側頭部から生やして、片側の角に巻かれて垂らされた黒のベールが顔半分を隠す。白喰みって言うからもっと白っぽいイメージだったけど、服装は黒っぽい色合いのドレスだった。健康的な肌色に綺麗な銀の長髪。髪は白喰みってイメージ通りだけど、全体的な印象は黒々しかった。


「ははっ、念話で話さずとも良い。ここには大気があるのでね。」


あっ、そうか。確かにここは真空じゃない。と言う事はかなり遠くに飛ばされちゃったのかも。少なくとも幅50数キロある真空地帯の外だった。辺りは薄暗いけど、無数の樹晶が仄かに照らしている。


見上げた先に10個の直立した高い座席と、そこに腰を下ろして見下ろす様々な影があった。小さな女の子から、巨大な獣人のような者まで。でも分かる。その全員が魔王だった。


「彼らとは付き合いが長くてね。久しぶりにヒトを食えると誘ったら勢揃いさ。しかし‥‥まさかヒトどころか魔王1人だけ釣ってしまうとは。」


白喰みさんは困った風に笑った。


飛び交う言語は様々。ニホンコク語を話す魔王は少数派で、大半が未知の‥‥多分深未踏地の知らない部落の言語とかかな?互いに念話でやんわりと意思を伝え合えるけど、話し言葉は個性豊かだった。


そっか。魔王だから普段は話す必要も無いし、捕食して得た文明の言語を必要に応じて模倣して使っているだけ。ここはもうニホンコクと断絶された深未踏地のど真ん中だから、この魔王達はそもそもニホンコク人を知らないんじゃ。


でも、1人だけニホンコク人の面影のある少女の魔王がボクの側まで降りて来た。面影があるってだけで肌は紫色だし、目はどことなく爬虫類っぽい。トカゲのような尻尾まで伸びていた。

それでも整った綺麗な顔が近付けば、魔王って分かってても緊張しちゃう。


「この気配‥‥ヤマノテシティだっけ?あのデカい動く城。その中から同じ気配感じたんだよね。」


警戒して黙ったままのボクに少女の魔王は続ける。流暢なニホンコク語で聞き取りやすかった。


「あの中につい最近魔王が1人侵入した筈なんだけど、会わなかった?」


あの魔王のお知り合いかな?誤魔化しても多分バレちゃうよね‥‥


「ボクが食べました。」


オーバーリアクションに驚いた顔をパッと咲かせ、手を叩いて笑う。


「あはは!食べた?そっか!ならいいよ。あの都市は胡散臭いって感じてたんだ。」


そんな会話に他の魔王は特に興味を示さず、白喰みさんを口汚く非難していた。白喰みさんは反論出来ずに困り顔でされるがまま。不意に飛んだ魔法が白喰みさんを燃やしてしまうけど、天の雫がその体を直ぐに再生させてしまった。


「ここは何処ですか?」


ボクの声に少女は笑う。


「ヤマノテシティから遠く離れた場所っ。ねぇ、もう帰れないしさ。キミの事、私が貰ってあげようか?近くにいるだけでなんか気持ちいい。」


「すいません、ボクには帰る場所があるんです。それと‥‥」


強大な魔王に囲まれる絶体絶命のピンチ。けど、ここに飛んだのがボクだから。


「もし消えたくなかったら、逃げて下さい。」


驚いた顔で少女はボクを見る。


「今からここは大変な事になりますから。」


アニマトロニクスが起動して、九尾の尾が生え揃う。


ゴキブリの巣穴に放られたアシダカ蜘蛛‥‥ううん、例えがヤだな。ネズミさんの巣に飛び込んだ猫さんのように。白喰みさんは連れて来てはいけない子をここに招いてしまった。


ボクの敵意に空腹感が混じった。

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