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265、いつもピンチは突然に

モモコさんの紹介で、追加でシークレットサービスの一員を同行させるように勧められた。モモコさんが勧めたのに、何だか微妙な反応で。ただ、信頼は出来る奴だから大丈夫とだけ。


警戒するブランさんに守られるボクの前、ボクと同じ背丈の少年が黒スーツを纏って現れた。ネクタイ代わりの蝶ネクタイがオシャレ。艶のある銀髪は整っていて、とても綺麗で可愛い顔立ちをしていた。


「ハイハイ、お初にお目にかかります。シークレットサービス、短期バイトでやって参りました!ジクゾーと申します。あははっ、キミが噂のラフィくんかー。」


後ろでを組んでステップは軽く、急に顔を近付けられてふんふんと嗅がれてしまう。ぴゃっ?!と後退るボクに舌を出して両手をひらひら。


「居ないのに、アイツの匂いがべったり!はははっ、こんなので牽制したつもりかな?ま、今日は危険な場所へ行くんだ。ぼくが少しばかり守ってあげよう。」


ブランさんの視線がモモコさんを射抜く。口に出さずとも、目は口ほどに。


シークレットサービスには変なのしか居ないのでしょうか?


モモコさんも苦笑気味に、


「ジグゾー、立場相応に弁えてくれよ?僕とラフィの関係に水を差さないように。」


「分かってるって!無理を言ってここに来たんだ。ラフィに傷一つ付けさせないよ。」


お調子者なジグゾーさんをブランさんが覗き込む。


「言っておきますがラフィ様は貴方よりずっと強いので、邪魔にならぬよう視界の隅にも映らぬように後ろを付いてきて下さい。」


とん、と。急にボクの腰を叩かれてそのまま体を片手で支えられて仰け反ってしまう。ブランさんの前に居た筈のジグゾーさんの顔がすぐ目の前にあった。


転移の気配も無い、タマさんの使う舜動でも無い。ごく自然な動きに驚いて瞳の中を見つめた。


「可愛い王子様のエスコートは任せてって。」


わたっ、と腕から抜け出るとブランさんに飛び付いた。ブランさんは不満そうだけど、今のやり取りでジグゾーさんの力を少しは認めたみたい。


「面白い技ですが、当機を出し抜いた腕は認めましょう。」


「そりゃどうも。」





キュエリさん、コウジさん、そしてジグゾーさんの3人に守られながらアマツクの大枝内部を進んで行った。偵察にミニフィーを四方に放って、白喰みの居場所を探って行く。


『白喰みの本拠の場所は結局曖昧なままです。ですが、まぁ真空地帯の何処かしらってのは明らかですし?』


開いたホロウインドウに、フィクサーさんが大枝内部のマッピングデータを表示した。とっても大きい枝の‥‥多分深いところ。ボク達の目前には滝が見えていた。


アマツク水の滝が、真っ暗な空洞のずっと下まで落ちていっている。勿論音は無いし、激しい水流を前に不気味な程静かだった。


ふと、気になった。


『前にコウジさんが言っていましたけど、真空下では水は凍結するんでしたよね?アマツク水はどうして流れているのでしょう。』


その場の誰もがうん?と改めて疑問に感じたようだった。


『確かにおかしいな。深未踏地故、魔法の力だと言えばそれまでだが。そもそもこの真空地帯自体、発生原因が不明なのだ。大気中の魔素の暴走という説が一番有力だが‥‥それだとこの水が流れる現象の説明が付かん。まさか都合良く水が凍らないよう魔法が掛かっているなんて無いだろうし。』


普通に流れているのをずっと見てたせいで、そういう物って皆認識していた。でも改めて考えると不思議。フィクサーさんもふーむと唸った。


『妙な話ですね。水が凍ってしまうとアマツクの大枝が枯れてしまいますし、アマツク自体の何らかの防衛機構が働いた‥‥という仮説が有力でしょう。』


ここで頭を捻っても多分分からないかな。パパッとジグゾーさんがボク達の前へ。


『さっさと行っちゃいましょう。』


一足先に飛び降り、コウジさんも一言警告をしてくれる。


『この深部から邪気眼が邪気を捉えました。警戒をお願いします。』


『はいっ!』


ブレードランナーで壁面を滑走。滝の飛沫を浴びながら一気に最下層まで真っ直ぐに。滝壺からそのまま幾つもの支流に分かれていて、中でも足が付くくらい浅い場所をコウジさんが指した。


『ミニフィーの斥候がこの先に大きな空洞を察知しました。白喰みの拠点だと思います。』


『そして、向こうもこちらの侵入を察知したようですね。鋭い。』


オオシロアリがわらわらと動き出し、その振動で水面が揺れ始める。


『ラフィ様、交戦の準備を。』


『はい。宣戦布告は‥‥まだです。』


オオシロアリ達からは知性を感じない。多分白喰みの本隊が放し飼いにしている便利な兵隊みたいなのかも。けしかけられたのか、ただの防衛行動なのか分からない。


反対側の支流からも大群の気配がした。


『んじゃ、挟まれないよう後ろはぼくが持ちますんで。』


『はぁ‥‥だったら私も行きます。キュエリ、ラフィ様を任せますよ。』


『問題ない。』


エクエス自走機関砲を展開。ユリシスから出てきたプチフィーが50体ほどサブマシンガンとショットガンで武装して防衛線を築いた。


通路を埋める白の津波を、激しい砲火が迎え撃つ。一斉に撃たれるサブマシンガンの分厚い弾幕は、射程に入ったオオシロアリを瞬く間に粉砕して押し戻して行く。


そしてエクエス自走機関砲が更に重たい弾幕を張って、近付けないよう激しい攻撃を加えた。


『真空下でも、私の魔力は燃えるんでね。』


キュエリさんが放った巨大な火球が、砕けた死体諸共消し去ってしまった。その後からも白の津波が押し寄せるけど、戦線は安定していた。(むし)ろ徐々に前進していって通路の奥へ蟻達を押しやっていった。


敵襲がひと段落ついた頃、振り返ればジグゾーさん達も戦いを終えて合流して来ていた。跡には叩き潰された残骸が転がっていた。ユリシスへプチフィーを仕舞い込み、再び前へ進む。白喰みの本拠はすぐそこだった。





樹上世界を探索する際、群れを成して遭遇する可能性のある危険生物「オオシロアリ」。しかしその生態は知れず。アマツク内部の探査があまり行われていない以上、そこを巣にするオオシロアリの生態も謎に包まれていた。


ニホンコク語に直訳すれば“白の貴婦人”と言われるオオシロアリのメス達が、オオシロアリを産み落とす女王アリを管理する。オスは攫って来た他種族を取り入れ多様性に満ちた遺伝子を取り込み繁殖していた。


通常のアリは交尾用の極少数のオスを除き、ほぼ全てがメスである。文明的な高度な知性を持つ彼女達も、オオシロアリを含め全てメス。(むし)ろ同族のオスを産み落とす事すらせず、より強靭な子孫を産むために他種族の子種を求めた。


‥‥多種族というのは別にヒト型に限った話では無い。フェンリルだろうがキメンだろうが、オスなら何でも。勿論相性悪く子を成さない事もある。ただ彼女達は生殖に貪欲だった。


オオシロアリにサキュバスの血を混ぜたらあら不思議。面白生物の出来上がり。


白喰みという呼称を“名”として冠する真の女王は、天蓋の中から異常事態を面白そうに見下ろしていた。


『兵隊ガヤラレタ!』


『凄イ強イ!』


『向カッテ来ル!』


『オスガイル!戦ウ!犯ス!』


白の貴婦人達は騒がしく、見目麗しい少女のような見た目で駆け回る。サキュバスの血が混ざり、世代を重ねる毎にヒト型に近づいていった。興味深い。


ヒト型を保つメリットはヒトのオスを誘惑する為。ここに居るのはヒト型から離れた種族ばかりなのに、どうしてなのか。白喰みの考察は止まず。


『龍主様!ドウスル?!』


白の貴婦人達の思念伝達魔法が白喰みの脳を揺さぶった。純粋な思念伝達魔法のみで繋がった白喰み一家のコミュニケーションは円滑。身振り手振りなやり取りを必要としなかった。


『娘達よそう喚くな。遠方より水の奇跡が到達する。』


先ずは小手調べ。白喰み一家の拠点近くに水を堰き止め貯水したダムが幾つかあった。いつでも枯れることのない水を享受出来るこの環境に於いてダムの役割とは。


魔法の遠隔操作でダムの放水が始まった。


『久方ぶりの里からの来訪者‥‥この程度で終わってくれるなよ。』


最後に会ったのは何百年前か。風変わりな文明を持つニホンコクへ来訪し、一通り楽しんだ後深未踏地へ探求の為引き篭もった。


特異な適応力を持つオオシロアリに惹かれ、その可能性を何処まで高められるかつい没頭してしまっていた。


丁度良い。娘達が銃とやらにどれ程対応できるか小手調べといこう。見積もりではかつてのジエイタイとやらなら圧倒できる力を持つ筈。白喰みは天蓋の中で、研究成果のお披露目を楽しみに待った。





初めはちょろちょろ。直ぐに水位が膝丈に。音も無く水位が急激に増えて行った。


『何だ。どこか遠方で豪雨でもあったか?』


『これは良くない傾向ですね。一度退避しましょう。』


『はい!今ゲートを‥‥』


振動を感じた。そしてボク達の視界を鉄砲水が塞いだ!!


激しい水流の中ラビットT-60A5を駆動して流れに逆らう。けど、一緒に木の残骸が沢山流れて来た!


『ブランさん!』


『ラフィ様!』


冠水した枝分かれする水路の中、完全に離れ離れになってしまわないよう必死だった。目前に迫った木片を蹴り壊し、S.S.Sから飛び出す虎薙が退かしていく。水中でしっかり機能する銃が欲しいだなんて。こんな時に考えちゃう。帰還したら絶対買うんだから!


ハッと思い付き、一緒に流された皆よりも先へラビットT-60A5で跳躍する。そしてアマノムラクモをS.S.Sから展開。水路に剣先を突き立て壁にした!伸ばしたイルシオンが流されて来た皆を巻いて、剣にしがみついて長い時間を過ごした。


巻き上がったいろんな物で視界がゼロなまま水流が止むのを待ち、次第に流れが緩やかになって徐々に冠水状態が収まっていった。


『皆さん!大丈夫ですか?!』


イルシオンにはジグゾーさんと‥‥白くて首元がふわふわした昆虫っぽい女の子が巻かれていた。目を回して伸びちゃってるけど息はあるみたい。でも‥‥他の皆とは逸れてしまった。


深未踏地の未開の地で、会ったばかりのジグゾーさんと見知らぬ女の子と3人ぽっちになってしまったのだった。

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