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259、右腕に暗黒龍、左目に邪気眼を宿す37歳8ヶ月の大男

そして2日後。積まれていた芸能依頼は絶えず、朝から夜までヤマノテシティ中を飛び回る。あくまで開拓者で芸能人じゃないってスタイルだけど、それでもボクを皆必要としていて。ブランさんが選んだ依頼を片端からこなしていった。


そして遂にモモコさんから声が掛かる。ボク達は朝からモモコさんのお部屋へ招かれていた。


「おはよう、ラフィ。朝から悪いね。」


「モモコさん、キュエリさん、おはようございます。‥‥そこの方は?」


部屋にはモモコさんだけだけど、その後ろに光学迷彩で姿を消したキュエリさんともう一人が居た。屈強な大男がどっしりと構えてボクを見下ろしていた。


タマさんも何となく気配を察していたみたいで、ボクの反応を答え合わせ代わりに安堵の息を吐く。前にワタルさんの護衛の気配に気付けなかった事にショックを受けて、夜の時間に鍛錬を積んでいた。成果が出ているみたいで良かった。


「ま、ラフィなら気付くと思ったよ。時としてラフィは僕の身を案じてくれるけど、僕だって私兵を持っている。シブサワPMCから引き抜いた精鋭に、僕が才能を見抜いた者。普段の僕の護衛を引き受けてくれるシークレットサービスだ。」


光学迷彩を解いて二人が姿を現した。


「アンタは外交官でしょ?」


タマさんの声に、キュエリさんは。


「兼任している。ま、闘争の場が多いのは良い事だ。」


もう一人も自己紹介をしてくれた。キュエリさんと同じスーツ含め黒黒しい装いで、敏腕ビジネスマンが殺し屋の格好をしているような。そんな印象を受けた。オシャレなメガネをクイっと持ち上げ、七三分けの髪が僅かに揺れる。


「シークレットサービス、コウジと申します。此度はキュエリとラフィ様の深未踏地探索護衛を引き受けさせて頂きました。私の右腕に宿る暗黒龍、左目に宿す邪気眼共々、粉骨砕身尽くさせて頂く所存です。」


えっ?何それ。今ドキッとするワードが聞こえたような。わっ!とコウジさんへ前のめりになりそうなボクを片手で押さえて、タマさんが胡散臭いものを見る目を向けた。


「アンタ何歳よ?」


「37歳8ヶ月になります。いえ、厳密には8ヶ月と16日です。」


「チェンジで。」


タマさん何で溜息吐くの?!開いたホロウインドウの中で、フィクサーさんも片目に手を翳すカッコいいポーズを無言で取ってニマニマ。


「モモコの懐刀はホビー製でしたか。振れば光って音が鳴りそうで御座いますね。」


ブランさんもあからさまにバカにした態度を取る。ヘラヘラと小馬鹿にして、小説の小悪党のようなチンピラを装う二人。読んだ事ある。凄い主人公にこう言う態度で接する悪いヒトは大抵‥‥


モモコさんが呆れた顔でスッと片手を上げ、同時に急にタマさんがソファーの上から吹き飛んで地面に転がってしまう。ブランさんも見えない何かに投げ飛ばされてアラレもない姿を晒してしまった。


「ぎゃっ?!」


「ぎゃふん!で御座います。」


突然現れて即座に霧散した気配に二人とも反応出来なかったみたい。ビックリしてボクもソファーの上で飛び上がっちゃった。


コウジさんが深々と頭を下げる。


「モモコ様のご指示がありました故、少々手荒をさせて頂きました。私の右腕の暗黒龍を少しばかり紹介するようにと。‥‥こういう誤解を受ける事は多々ありますので個人的な遺恨は御座いません。慣れていますから。」


突風がボクの頭上を飛び越えて行く。タマさんの蹴りがコウジさんの目前で止まった。そのまま当たってたら大怪我だったのに、靴裏はギリギリの距離で空気を踏んだだけ。


「‥‥そう言う事ね。妙なマギアーツを使うじゃない。」


「私のこれはマギアーツでは御座いません。話せば長くなりますが、暗黒龍を実際に封じているのです。」


宙で5回ブレードランナーが青い軌跡を描き、床に指先を付けたタマさんの蹴撃は嵐のような激しさ。そして、ソファーにそのまま着席して足を組んだ。悪い顔で見やる先、コウジさんの頬に灼き斬られた後が残っていた。


「ハッ、合格よ。アンタ、ウチの組織でもやってけるんじゃない?悪いわね、やられたらやり返さないと気が済まないタチなのよ。」


コウジさんはメガネを片指で上げ、


「気が収まったのなら幸いです。どうかモモコ様を恨まぬよう、お願い致します。」


丁寧な口調に反して視線は氷のように冷たかった。ハッキリとタマさんを脅威として認めたような、そんな気配があった。


ってわわわっ!喧嘩しちゃダメです!


「コウジさん!治しますから!」


「お気遣いなく。強化外装で治療可能な範疇です。」


直ぐに傷が塞がって、澄まし顔でボクに会釈をした。


モモコさんの拍手がタマさんへ送られる。


「あはは、こうでもしないと納得しないだろう?コウジも僕が見出した腕利きの信頼できるシークレットサービスさ。暗黒龍と邪気眼を併せ持つ特異なエージェントでね。凄いじゃないか、初見で傷付けられるなんて。」


タマさんははぁっとため息を吐いた。いつの間に復帰したブランさんも呆れた顔をしていた。


「‥‥色々抗議したい事が御座いますが、まずはそこの気色悪い発情トカゲ女を押さえてくれないでしょうか?」


キュエリさんが紅潮した顔で手をワキワキ。その熱い視線がタマさんに注がれる。


「キュエリ。弁えてくれ。」


「承知致しました。ふふ、一瞬だが激しい闘争だった。ああ、体が火照って仕方ない。」


‥‥ボクは闘争の楽しさなんて分からないけど、でも。


「タマさんにも、ブランさんにも手を出さないで下さい。」


一瞬だけど、企業の秘める暴力を感じて‥‥モモコさんが怖く感じた。R.A.F.I.S.Sに敵意が混じった事に気付いて、そんな気持ちを抑え込んで誤魔化した。


だけどそんな僅かな間に、コウジさんとキュエリさんが臨戦体勢をとっていた。そしてモモコさんも驚いた顔で仰け反っていて。


タマさんの尻尾がボクの首を巻いていた。


「ラフィ。」


「ごめんなさい。」


「これぐらいの荒っぽいやり取りは業界じゃじゃれ合いの範疇よ。心配は嬉しいけど、過保護になられる程アタシは弱くないわ。」


キュエリさんがタマさんに手を出しそうな雰囲気に、このままモモコさんの気紛れでけしかけられたらって感じてしまった。モモコさんはそんな事するヒトじゃないのに。あんなに弱ったタマさんを見たのは初めてで、ボクが守らなきゃって内心思っていて。


だって、大切なヒトだから。


「その、ラフィ。本当にすまなかった。僕もラフィの大切なヒト相手に軽率だったと思う。」


モモコさんが急に立ち上がって頭を下げてきた!思わずボクも立ち上がって頭を下げる。


「ボクもごめんなさい!タマさんの事もモモコさんの事も信じられなくなってて!」


もしかしたらモモコさんは大切な部下をバカにされて見返してやりたくなったのかもしれない。そんなやり取りに、R.A.F.I.S.S越しにボクの想いが伝わったのかタマさんも気恥ずかしげにコウジさんへ謝った。


「‥‥悪かったわね。バカにして。こんな場でふざける訳ないってのに、舐めてたわ。」


コウジさんは驚いた風に目を見開いて、戸惑いながら謝罪を受け入れていた。


「当機も謝罪します。ですが、次回から自己紹介する際は誤解を生む表現を控えるべきかと。腕と目に自信があるとでも言いましょう。」


「‥‥はぁ、いえ。私の暗黒龍は紹介を省くと拗ねるのです。邪気眼も同様。私個人にもう二つの意思が別に宿っていると言いますか。」


コウジさんは疲れた口調で項垂れた。


「疲れているのでしたら癒します。モモコさん。」


モモコさんはクスリと笑い、


「命令だ。ラフィに癒して貰え。」


命令と言う言葉を前に、身を引こうとしたコウジさんは動けず。そのままボクのエンジェルウイングに肩を包まれてしまう。キュエリさんが羨ましそうにしているけど‥‥


「キュエリ、弁えてくれないかい?ラフィの仲間に闘争心を向けるのには関心しないなぁ。」


口調は柔らかいけど、笑顔の裏に圧を感じるモモコさんに引き止められてしまった。


「ははっ。先程のラフィ様の威圧、私が寒気立つのは久々でした。これがラフィ様と敵対した者達だけが感じれる天使の威。お見事でした。」


キュエリさんは楽しげで。あーあ、って顔で頭を抱えるモモコさんを他所にボクへさっきの一瞬の感想を長々と述べていたのだった。


ボクの姿が大きく見えたとか、魔王のようだったとか。さっきのは失敗談だから。褒められても嬉しくないよ!


「キュエリさんを癒すのは後で、です。」


後回しにしちゃうもんね!‥‥もぅ。

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