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25、クロネコが奏でるは夜想曲

怪物の群れの間を縫う様に駆け抜けるタマは、足元に転がる赤黒い銃器を蹴飛ばした。宙を舞う銃器は既に居ない、開拓者を目指した誰かの夢の残骸。そんな銃に最後の仕事をさせようとタマは銃を意識した。


──ハッキング。例えセキュリティロックが掛かっていようと関係なく遠隔操作してしまうマギアーツ。無許可で使用すれば都市圏に於いて違法なそれは、タマが一番得意とするマギアーツだった。


自作の“グレムリン”をアップロードしてシステムを書き換えたり、厳重なセキュリティを突破するのが十八番(おはこ)。クイックハックと称する程の早業を真似できる者は早々居ない。タマのハッキングの精度は“組織”の中でもずば抜けたものであり、それは羅針盤の監視を一時的に誤魔化せてしまえるレベルのものだった。


開拓者を目指す受験者達が頼りにした、安い武器をクイックハックする程度。

タマにとっては造作も無い。空中を舞う何丁もの銃は、引き金を引かずとも残弾を全て吐き出す”掃射モード“が設定された。結果、反動のままに複雑怪奇に宙で暴れながら辺り一面に弾丸を振り撒いた。


狙った怪物を倒すにはあまりに不確かな攻撃でも、群れを一瞬怯ませるのなら悪くない一手。宙を舞う銃が怪物達の注意を引き、攻撃でバラバラに粉砕される僅かな間。

タマは強化外装であるパーカーの迷彩を起動。音も無く静かに群れをやり過ごしていった。


少し進むとカイサツ口へ出る。例えどの入り口からダンジョンに入っても必ず通る場所の一つ。開けたそこには怪物の姿は無い。倒された残骸の上で、一人の男がタマを待ち構えていた。


バイクに跨った大柄なナイスガイ。金髪にグラサン、そして屈強な筋肉を覆うメタルジャケット。ダイナマイト・バギーはいつもの快活な調子と違う、シリアスな気配を纏っていた。


「タマgirl。祭り以来だな。随分お急ぎの様だが、一つ話があるんだ。」


「はいはい、後で聞いたげるわ。」


構わず横を抜けようとするタマに、D・バギーは言葉を続ける。


「そうだな。この仕事はお前に、いやぁ‥‥お前さん達に頼みたい。」


ピクリと反応して振り向くタマの目は鋭い。


「どういう意味?」


「言っとくがタマ生命とは別に俺個人での依頼とさせて貰うし、企業は関係ない。だがな。時が来たんだよ。分かるだろ。」


立ち止まったタマの背後に、すっと現れた神社の鳥居。中から紅い影が姿を現す。

紅い燕尾服とシルクハットで固めたノクターンの手先が、ニタリと笑う面の奥からタマに視線を投げかけた。


「もう一度言う。お前達に仕事を頼みたい。魔王を倒してくれないか、ノクターンよ。」


タマは少しの間考え、背後の怪人を尻尾で叩く。


「一応聞くけど魔王は倒した?」


「あやつめ、中々やりおる。新米魔王と舐めておったが妾の捕食を免れおった。」


やれやれと仕草する怪人は、身なりに合わない妖艶な女性の声で言う。タマは軽くため息を吐くと尻尾で怪人を促す。


「どうせ分身体でしょうから結果は変わんないか。脱出するから外の車見といて。あと、バギー。仕事の話は後で聞くわ。こっちから遣いを出すからその時にね。あと‥‥一応言っとくけど、アタシ達がタマシティに来てる時点でアンタに依頼されなくても魔王はぶっ殺す予定よ。」


まぁ、そうだけどよ。と、D・バキーは顎を指でさすった。


「タマ生命とやり合うんなら俺が敵に回るかもしんないだろ?魔王をどうにかしたいのは俺も同じだ。変な誤解無いよう共同戦線と行こうじゃねぇか。」


「戦力なら足りてるから。とは言え、万が一の事態にタマシティを守れるのはアンタでしょうし。情報交換くらいしてあげる。」


「ハッ!そうかい。じゃあ俺は行くぜ。やらなきゃいけねぇ事が山ほどあんだ。先ずはここの怪物を蹴散らして掃除しねぇとな!!俺の予定はいつでもファッキンホット!」


D・バギーはバイクを駆動させあっという間に走り去ってしまう。そんな様子を見送ったタマはさっさとラフィの元に駆け出した。





既に防弾壁の残りがあと1枚。厳しい戦いが続いていた。頑丈さに自信のあったイトウさんも度重なる被弾により強化外装を損壊し、残り少ない銃弾をどう使うで皆悩み始めていた。


「ラフィ様、そろそろ決断の時かと。ふぁっくな賭けになりますが怪物の群れに突っ込んで、血路を開いて脱出しましょう。このまま後退しても逃げ場のない最奥の部屋に閉じ込められます。」


皆で戦えば怪物の群れが幾ら多くても倒し切れるって思ってたけど、現実はそう甘くはなかったみたい。でも、あの群れの中に突入するの?やだよ!死んじゃうって!どうしたら。


こんな時、ボクはタマさんの事を考えていた。きっと助けに来てくれる。だからギリギリまで粘ろうと思っていた。


そんな時だった。突然怪物の群れが後方から吹き飛ばされ、将棋倒しになるように一気に転倒する。そしてボク達の前に一人の燕尾服の怪人が降り立った。どこかで見た紅いその姿に首を傾げる。片腕を隠すマントには見覚えが無いんだけど、その顔は不気味に笑う仮面で覆われていた。


「ノクターンか?!」


クニークルスさんの声でやっと思い出した。企業の管理するダンジョンを狙うテロ組織、ノクターン。その1人が今ここに居る。でも、何で?!動揺するボクの耳に聞こえたのは意外な声で。


「ラフィ、行くわよ。」


少しずらされた仮面の下にはタマさんの顔があった!どういう事?!他の皆も流石に驚いた様で声も出さずに固まっていた。そんな中、タマさんが放ったブラックキャットが紅い光線を放ち四方から怪物の群れを容易く切り裂く。


「ほら、早くしなさい!」


タマさんの伸ばした手がボクを抱き上げ、それでハッとした皆が直ぐに脱出する用意を整えた。見た目はすっごい攻めたファッションをしていても、タマさんの腕の中は落ち着いて。立っているのもやっとな程に消耗していたボクは、大人しく腕に抱かれていたのだった。


「ここが最後の正念場だよ!」


ボロボロな皆は体を引き摺るように後を付いてくる。そんな中タマさんはクニークルスさんの背中を指先で叩いた。


「ほら、正面突破するからアレやりなさい!」


「はいはい、防衛戦じゃ出番無かったあたしの得意技!」


収納のマギアーツから取り出したのはじゃらりと長いベルトのようなもの。その長ベルトには一定間隔でグレネードがくっ付いていて、クニークルスさんは繋がった紐を引いて一斉にピンを外す。


そして姿が掻き消える程のスピードで怪物の群れに突っ込み、そのまま背後にまで回り込んだ。群れの中に通された長ベルトが広範囲を巻き込んで爆発。皆で駆け抜けられる大きな隙間を作ったのだった。バニーマンの瞬発力を活かしたベルト爆弾置き去り殺法は強力で、その突破力はすっごい頼りになった。


それだけじゃ群れを全滅は出来ないけど、数秒でも陣形に穴が開けば駆動魔具で駆け抜けられる。タマさんが突破してきたって事は、向かう先の怪物の数は少ないって事!だから一目散に逃げる選択肢に飛び付けた。


誰もが残った強化外装のエネルギーをバリア装甲に全振り、レーダーすらも切ってがむしゃらに出口へ走った。駆動魔具のエネルギー残量も使い切るくらいの出力で飛び出していく。


クニークルスさんが先導し、置き去りにした爆弾ベルトがカイサツを吹き飛ばした!バラバラになった機械片を踏み越えて先を急ぐ。道中銃を殆ど撃つ機会は無かった。爆弾の撃ち漏らしはタマさんのブラックキャットが灼き貫き、それでも飛び出してきた分はブランさんが純白のライフルを抜き撃って対処していた。


撃ったと思った時には既にブランの手には盾が。ライフルは一瞬で収納にしまわれていた。極力銃を構えず盾の装備を維持するよう務めていた。すごい早業!カッコいい!タマさんの腕に抱かれていたお陰でちょっと落ち着いたボクはこっそり目を輝かせていた。


地上へと駆け上がるボク達はそのまま入った時とは別の入り口から飛び出した。そして目の前に停められていたタマさんの車へ一斉に飛び込む。同時に車は発進して狂乱のダンジョンを後にしたのだった。


見慣れたパンタシアのリビングで、ボク達は暫く荒れた息を整えていた。何とか生き残れた。まさかこんな事になるなんて。未だに手が震えていた。


「取り敢えずお風呂にでも入って落ち着きなさい。その間に料理くらい用意するから。」


そういうタマさんはいつの間に普段通りの黒パーカーに戻っていて、ボクの手を引いてお風呂へ連れて行く。色々聞きたい事があるけど、まずは汚れを落とさなきゃ。


ボク達と一緒にお風呂へ向かうイトウさんを、不意にタマさんが通せんぼした。


「いやいや、アンタは後にしなさい。言っとくけど男湯と女湯に分かれてたりしないから!」


「ラフィは男だが?」


「ラフィは小さいしいいの。家主のアタシが言うんだからいいの。でもアンタは後!アンタに素肌見せる気は無いから!」


ほんのりと眼鏡にヒビを入れたイトウさんが肩を落として戻って行く。うう、可哀想だけどタマさんを説得できる気がしない。ごめんね。というより、ボクも皆と一緒は恥ずかしいんだけど。でもタマさんにもう会えないかもってどこか思っていたから。今は甘えたい気分だった。


ボクと一緒に入る事にはルナさんもクニークルスさんもブランさんも何も言わず。というより、ブランさんはお風呂の前に修理とかしなくていいの?ブランさんは散々ボクを守って身体のあちこちが損傷していた。


「‥‥ブラン。ラフィを守ってくれてありがと。一応言っとくわ。アンタはムカつくけど、そんなになるまで守るあたりラフィにはちゃんと尽くすつもりのようね。」


「ラフィ様をご主人様と認めた以上、尽くすのが当機の存在意義でもありますので。まぁ、ペットの面倒もついでに見てあげますよ。」


ブランさんの手がタマさんの頭をぽふっと撫でれば、タマさんは中指をブランさんへ見せつける。と、同時に突然ブランさんがバク宙しながら宙で3回転!リビングの方へ転がっていってしまう。


「当機をクイックハックですか。天才は案外在野に居るものですね。」


パンツ丸出しの霰もない姿でそんな事を言っていた。


「てかお風呂上がる前に全員分料理作っておきなさいよ!アンタのご主人様は空腹なんだから!」


「了解しました。」


変な方向に首を曲げたまま答えるブランさんを、一同は苦笑いで見ていたのだった。

ーノクターンー

出自に謎の多いテロ組織。少なくも世間はテロリストとして認識している。

紅の燕尾服にシルクハット、そして三つの三日月で構成されたニタリと笑う仮面。“執行者”の仕事着は酔狂で派手。何かのコスプレを思わせるこの制服は組織の団長の趣味によって決められた。団長曰く、

「だってカッコいいじゃない。ミステリアスって良いよねぇ!」

との事。

カッコいいはヒトを惹きつける。どうせ仕事着を着るのならデザインが良いものがいい。賛否両論ありそうなこの衣装を、少なくともタマは内心気に入っていた。態度に出さずとも、タマもカッコいいが好きだった。

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