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235、300年後の未来の為に

偶々通りを歩いていた時、R.A.F.I.S.Sが犯罪行為を感知した。ふわりと演算陣が片目に浮かんだボクを見て、タマさんは覗き込む。


「行くの?」


「すいません、重症者がいますのでボクが直接いきます。」


動くボクをシグさんが呼び止める。


「どうしたのだ?」


「犯罪が起きました!武装集団同士が地下街で衝突しています。組合警察に通報後、急行します。」


「ラフィ様は普段からR.A.F.I.S.Sを簡易起動し、犯罪行為を感知次第通報して被害拡大を阻止する自警活動に勤しんでおられます。今やヤマノテシティの守護天使に御座いますので。」


なんだか自慢するような口調のブランさんも、イルシオンの中へひゅっと収納されて消える。ボクが付近の地下街行きの転移陣を踏めば皆もついて来た。


地下街はネオンで怪しく照らされ、懐かしのサキュバスのお店の前を通り過ぎる。丁度小柄なサキュバスのクロエさん達と目が合い、小さく手を振った。


地下街は天井部分が魔具路になっていて、天地逆さまの状態でブレードランナーで滑って行った。青い軌跡に気付いた群衆がボクの姿に驚き、思わずスマイルのカメラが向けられる。



『users1332#212』

今すっごい可愛い男の子が天井を駆けて行った!

これって噂の守護天使ちゃん?

向こうで事件が起きたのかな?



『梨太郎5代目』

ラフィが超速く滑ってった

犯罪撲滅の為に頑張ってくれ

組合警察はいつも事件が起きた後にのこのこやって来るからな



『ラフィきゅん追いかけアカ』

地下街でラフィきゅん発見!

サキュバス店チラ見してたの見逃さなかったよぉ?

興味あるんだね〜♪可愛い!



ホロウインドウ内のフィクサーさんが、ハムハムの様子を教えてくれる。頼んで無いし、反応に困るけど‥最後に『頑張って♡』とメッセージだけ残して消えちゃった。


真っ直ぐに向かうディープネオン、通りの暗がりに身を潜める人々はボクを見ると悲鳴を上げて蹲る。何もしないのに。やましい事情があるのかな?ボクは警察じゃないから探ったりはしないけど。


R.A.F.I.S.Sがすぐ側に犯罪者達を捉えた。まだこっちには気付いていないみたい。光学迷彩でボクの姿が闇に溶けた。ブレードランナーの光学機構を切って、駆動させずに慣性だけで天井を音無く滑走する。


重症者の女性が一人奥に転がって痙攣する姿が見えた。その前で大人数の武装集団がなにやら揉めている。合わせて30人くらいかな?誰もが強化外装を着込んでいて、ぱっと見やや整備状態が悪いけどキチンと機能していた。


タマさん達の気配が後に遅れ、ボクの先制攻撃で混乱した隙に飛び込む意図がR.A.F.I.S.S越しに伝わってきた。文字通りの以心伝心で、事前のブリーフィングも無しにスムーズに戦えるんだ。


「テメェ‥!この落とし前を付けてやる!いいか?!絶対コイツらを逃すな!囲んだままラフィが消えるまでどう殺してやるか会議と行こうじゃねぇか。」


「やって見ろよ数だけ多い腰抜けが。天使様のクソガキが怖いってか?ハッ、子供開拓者がのさばるわけだぜ。」


半グレ同士の抗争かな?後ろの女の人がどうしているのか経緯が分からないけど。とにかく早く救出して手当てしないと手遅れになっちゃう。


『組合警察に説明しましたので、いつも通り自警活動をどうぞ!』


ホロウインドウ内のメッセに寄りかかったフィクサーさんが、小さな体を揺らして笑っていた。


アニマトロニクスを起動。九尾の尾が伸び、その先端にスマートフィストA7が装備されていた。尾の出力規格をクラスで表すならDクラス相当。スマートフィストA7の対応規格もD〜Cクラス。出力過剰にならなくて無駄が無い。


スマートフィストA7に付与された衝撃のマギアーツは、殴った際に更に衝撃を与えて大きく怯ませられる。出力自体低くても十分実戦で使える性能だった。


タマモさんとの手合わせで見えた弱点を補強する為に、タマさんが更に改造を加えてくれた。


追加料金1機100万円でアウロラにも使われる反発のマギアーツの簡易版を搭載。空間に対して指向性を持たせた反発を発動、拳を急加速させる事が出来た。


袖から伸びたイルシオンが、透明なままそっと天井から垂らされ睨み合う二人の足に巻き付いた。


「あん?」


「何だ?!」


光学迷彩を切り、その分の演算容量(リソース)を防御に振る。天井から頭を下にしたまま飛び降りるのと、履き替えたラビットT-60A5の出力でその場で回転したのは同時。


足をイルシオンに絡められたままのリーダーらしき二人は、凄まじい勢いで振り回されて周囲の大勢を巻き込んで吹き飛ばされた。一瞬の悲鳴が暗闇を刺し、誰もが銃を構えるも巻き込まれて体勢を崩す。


頭から落ちたボクは片手で地面に倒立して、勢いのままに横に一回転。9つの拳が空を斬って周囲の誰もの顔を殴り飛ばした。


更にユリシスを起動、飛び出したミニフィーがミスリルシールドを構えて女性の下へ。その間もラインレーザーを纏った純白の帯が大きく回転!複数人を灼き裂いて転がす。顔を殴られた皆は避ける事が出来ずに半身を失った。


「ラフィだっ!!!来やがった!!」


「俺たちを殺す気だ!!」


「逃げるな!!戦え!!」


逃げようとした数人が、ふらりと姿を現したタマさんの凶刃に倒れた。だけど気配を薄く、逃げ損ねた数名がどうなったかに意識が向く前に背後から3M50を撃ち放った。


スパイダーネットを構えたミニフィーがユリシスから次々に飛び出し、ボクの攻撃で怯んだ先から捕まえて行く。


ブレードランナーでスイスイと駆けるボクは猫耳。しなやかな動きは、人口密度過多なこの空間内でも軽やかに動き回れる。群衆のど真ん中、銃を撃てば味方に当たるこの状況。背の小さなボクを体格で押さえ込もうと数人が銃床を振り上げた。


狐耳に一瞬で変更するのと、九尾の拳が振るわれるのは同時だった。銃床振り上げる腕を掴んで、バリア装甲越しに顔と喉を2連撃でボコっ!囲んだ3人は直撃にバリア装甲内で鼻血を噴き上げながらも、軽傷で済ます。


でも尻尾の動きとボクの動きは別で。S.S.Sから6本の虎薙を噴出。直前に殴られて怯んでいた3人は直撃を免れなかった。更に巻き込まれた数人も虎薙の直撃に吹き飛んで動かなくなる。それぞれネットで地面に固定されて確保された。


「わあっ?!」


ボクに群がる十数人は慌てて距離を取り銃を構えるも、横合いから飛び込んできたミニフィーの蹴りがバリア装甲ごと顎を砕いた。隣のヒトに重傷を負わせたミニフィーがすぐ隣、正面のボクも撃ち放たれた銃弾を正面から躱しながら接近して九尾を伸ばす。


どうすればいいか分からないって風に混乱した顔で、伸びた拳に銃を殴られて取り落としてしまった。数人が瞬く間にミニフィーに組み伏せられネットを被る。


「調子に乗るんじゃねぇ!!」


初撃で吹き飛んでいたリーダーっぽい大男がボクシングの構えでボクに対面した。


「捕まってたまるかよ!」


もう片方のリーダーもショットガンを構えボクに向ける。周囲の仲間を巻き込もうが知った事じゃないって風に引き金を引いた。


「ゴミの始末はお任せを。」


イルシオンから飛び出したブランさんの手には透明なシールドが。激しい衝撃を軽く防いで、そのまま飛び掛かる。


残った大男もボクへ突っ込んできた。


ステップは軽く、拳に付けたのはラインレーザーを纏うセスタス。振り抜かれた拳で器用にイルシオンのラインレーザーを殴ってキックバックを引き起こす。


ラインレーザー同士の接触の反動でイルシオンは吹き飛び、S.S.Sから銃を抜き撃つ間も無く格闘戦の距離に大柄な体躯を滑り込ませて来た。


多分強化外装の出力はBクラス。リーダーかなって思った理由は装備の良さだった。振る拳は凄まじいスピードで、音速の数倍の速度のジャブがボクの逸らした頭のすぐ側の大気を貫いた。


「ヒュウッ!」


九尾が迫るも、クラスBの出力を前に押さえ込むのも難しい。片腕を5本で掴み掛かって一瞬止めて、4本が殴りつけるも3本をジャブで迎撃される。残った1本が大男の顔を横殴りにした。


横を向くも、余裕の表情で向き直る。ボクとの距離が少しだけ離れ、冷静に構え直した。


ボクの手にはS.S.Sから取り出された鳳凰刀があった。液化ミスリル製の紐を手のひらに巻き付けて固定し、刀剣の先を大男に向けて構える。


「ハハッ、何だその構えは?アチョーッ!ってか?!」


再び突っ込んで来た拍子に、不意を打って剣を投げた。反射神経でジャブで迎撃するも、弾いた瞬間に紐を引く。ラビットT-60A5の出力で体ごと跳ね上がってその場で回転したボクに引かれて鳳凰刀は真っ赤な円を宙に描いた。


一瞬の剣閃で大男の片腕がアッサリと、バリア装甲が無かったかのように切断されてしまう。更にS.S.Sから突き出た紫電が一発、鳳凰刀を狙い撃って跳ね上げた。不規則な動きの鳳凰刀に惑わされ体勢を崩す。


途端に伸びたイルシオンが大男の両足を拘束、ラインレーザーで削りながらも動きを止めた。地面を這って動くイルシオンをジャブで迎撃は出来ない。体勢が崩れているから飛び退く事も出来なかった。


「クソッ?!やめっ!!」


紐を掴んで横薙ぎに振られた鳳凰刀の一閃で首が落ちた。


名前を聞いてなかったけど、凄い強かった。ラビットT-60A5で飛び蹴りをしたら迎撃されてたかもしれないし、銃の間合いにならないようにグイグイと距離を詰めて来ていた。相当対人戦の経験を積んでるんだと思う。鳳凰刀を買っておいて良かった。


知らない武器の初見殺しな動きに対応が一瞬遅れたのがそのまま致命傷になった。ボクも気を付けなきゃ。


ふと見ると追い詰められたショットガンの男が、ブランさんのミスリルウィップで両腕と首を寸断された所だった。悠々と追い詰め、首が地面に落下する前に片手でキャッチしてボクに献上する。


「ラフィ様、そのデカブツと首を並べて記念写真でも1枚。」


「撮りません。他の方と1箇所に纏めておいて下さい。」


「いいじゃない。1枚首塚をバックにパシャってやりましょうよ。」


悪い顔のタマさんが首を一つ、指先で弄んでいた。あっという間に他のヒト達を倒しちゃったみたい。タマさんは凄いんだから。


「えっと、治療しますから待っていて下さい。」


全体的な装備の質はあまり良く無かったのに、誰もが必死の抵抗をしてネットで綺麗に捕まえるのが難しかった。死者は居ないけど、重症者は沢山出してしまった。


『にゃはは、心配無いですよ?武装集団の鎮圧に対する緊急対応の範疇内です。死者を出そうがお咎めありませんし。武装集団の命を心配してテロを止めろって?あはは、ラフィさまの戦闘力を基準に法が作られている訳じゃありませんので!』


「そういう事じゃ無いですよ。法が許すからじゃなくて。なんて言えばいいのかな‥誰かを救うのに大勢が血を流すのがなんだか嫌なんです。」


アリスさんの一件を思い出していた。アリスさんは救われたけど、大勢の方が亡くなった。後悔はしていない。でも忘れないようにしようって心に刻んでいた。


嫌だけど、苦しんでいるヒトがいるのなら。ボクは無視できない。


例えそれがボクを恨んでいるヒトでも。


髪型も違うし、雰囲気も様変わりしているけどあの場に居た皆の顔を覚えている。ミキさんの大切なヒトはボクを恨んで挑み掛かり、クロキさんに倒されロゼさんが逮捕した。元凶となったボクを恨んでいるんだろうなって思うけど、見殺しにする理由にならない。


ヤマノテシティに来てからヒトを何人も殺してきたボクが言うのも変だ。それでもお母さんに託された大事なご先祖様達の一人なんだから。銃を向けられたら戦う。でも救えるのなら救いたいと思った。


「あー、こりゃ中毒ね。どうせディープネオン産の変な薬打たれたんでしょ。どう?ラフィ。仮に助けても医療費払えるか怪しいわよ?身なりからしてどっかの底辺傭兵団の下っ端かしら。貯金なんて無いでしょうね。」


背後からシグさん達がやって来た。戦いの間後ろから見ていた二人は、重篤症状に苦しむ女性を見下ろす。


「助けるのか?もし貯金が無く払えなかった場合、あらゆる収入に対し割合での差し押さえが発生する。生き地獄と聞くぞ。」


「完済する前に自殺してしまう割合が凄い高いんですよね。まぁ保険に入っていれば‥仮に差し押さえになっても完済は難しく無いでしょうが。」


アコライト専用アプリにミキさんの顔写真をアップロード。保険の加入状態を調べるも、情報が出ない。未加入か、こういう所に登録もしていない怪しい保険会社か。


アコライト試験の時、もしお金が無いヒトが倒れていたらどうしようかって考えていた。悩んで、ボクは答えを出した。


「ボクのこの自警活動も、正義も、今から行う治療も。もしかしたら全部ただの独りよがりなエゴかもしれません。それでもボクは、未来をボクにとって良いものにしたいから。」


300年後で待っているお母さんの魂が、安心して暮らせる世界に繋げる為に。


「だから犯罪はダメですし、助けられるヒトを助けたい。それでお金に困ったとしても、生きていなきゃ困る事も出来ないんですから。可能性を潰したくないんです。」


横たわったままのミキさんをエンジェルウイングで包み込んだ。キラキラとした粒子が宙に散布されて辺りが神秘の光で瞬く。光の中、ミキさんの目が僅かに開いてボクを見上げていた。


金がヒトを不幸にする所は沢山見てきた。だからこそ、もし金を持っていなかったら‥そんな憶測で命が消えていくなんて嫌だと思った。


『当たり前ですけど無償の治療は御法度ですよ?そういうのって絶対漏れるんですから。チンピラをタダで治したのに、何で俺から金を取るんだってここから先ずっと言われます。』


フィクサーさんがホロウインドウの中から心配そうにボクも見る。


「ちゃんと請求します。その代わり、伝手を使って働き先を斡旋します。」


傭兵じゃなくても、生きていけるんだから。モモコさんへ相談のメッセを送り、組合警察が到着するまで待機したのだった。

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