225、TPOを弁えれば例えセクサロイドと繋がったままパーティーに出席してもバレない‥本当に?
エレベーターが使えない!重量200kg超えの一心同体となったツナヨシさんとアケミは、ボクのバリア装甲内でもぞもぞ蠢いている。
『ラフィさま、まずは転移を試しましょう!』
「それはダメです!」
ボクの着る強化外装は億単位の超高級品。バリア装甲内への転移阻害システムが搭載されている。つまりボクが転移した際、バリア装甲内にツナヨシさんが転移して来たら、問答無用で弾き出されてあられもない姿を通りを歩く群衆に見られるハメに!
かと言って一時的にツナヨシさんをバリア装甲外に出すと、光学迷彩で隠された裸のアケミが晒されちゃう。そんな姿を誰かに見られたら通報されてパーティーどころじゃなくなっちゃう!
『じゃあ窓から失礼しましょう!建物の入り口はアイデアの数だけあるものですよ!』
「窓からダイブした経験は?」
「あるわけ無いだろ!う、わわっ?!アケミ!走るなぁ!」
一度動かし易いように、イナバウアー体勢のから通常の体勢へ移行。全身をバリア装甲内に隠したまま、踵を返して動き出す。
タマさんの制御下にあるアケミはズシズシと廊下を疾走、元いた部屋に飛び込むとそのまま窓を押し開けて飛び出した。
アケミに腰を抱き上げられて繋がったままのツナヨシさんは短い悲鳴を上げ、パッと飛び付いたボクはラビットT-60A5を装着した。
そしてクラスB規格の出力で抱きついたまま、硬質な駆動音を残して隣のビルの壁面に着地。重くて叩きつけるような感じになったけど、大丈夫かな?そのまま再び飛び出し、タクポが駐車された地面へと着地した。
急いでタクポ内へ入ろうとするも、アケミに抱えられたツナヨシさんが乗った時点で車内がぎゅうぎゅう。これは個人用のタクポであって、大勢で乗る事を前提としたバスポじゃない。
それに重量もボクが乗ったらカツカツ。ちゃんと飛ぶかな?タマさんはどうしよう?
「当機はラフィ様の収納内へ入りますので、タマだけ現地集合と致しましょう。」
「待ちなさい。このセクサロイドのセキュリティはどこのよ?」
ツナヨシさんの振り絞るような声。
「知らねぇよ!」
「あのね。同じ機器にハック仕掛けるのは難しいのよ。都市産の多くの機器には自動学習AIセキュリティが積まれてる。今ローカルネットワーク圏外に出て再接続しようとすれば、より手の込んだハックじゃないと入れなくなる可能性があんの。」
スマイルとかならともかく、高級品のこういうヒューマノイドの自動学習AIセキュリティはかなり堅固。出来る限り接続の切れる回数を減らさないと、ハック自体が難しくなったり場合によっては予期せぬエラーを吐くかもっていう話だった。
『ではタマはポッドに張り付いて行くしかないですよねー。重量制限的にギリですがまぁ赤翼の品質を信じましょう!』
ホロウインドウ内のフィクサーさんはなんだか楽しげ。
「こっちに乗ってくから。」
そう言って取り出したのは懐かしい駆動魔具。板状の、空飛ぶ絨毯よろしく上に乗って移動するスカイボード。ボクも持ってるけど都市内じゃ空域規制で乗れる場所が無くて、結局プライベートルームの一画に置きっぱなしになっていた。
『都市航空法をご存知で?タクポ飛び交う空域に、ボードに乗って突っ込む事を法が許すと思うのならラフィさまに無関係な場所でどうぞお好きに。』
舌打ち一つで暫くぶりに陽の目を見たボードが収納内へ消える。あまりに短い出番だった。
結局タマさんはタクポの上部にしがみ付き、そのまま発進した。風で靡いて尻尾がゆらゆら揺れる。道行く人々が好奇の視線でスマイルカメラを向ければ、光学迷彩を起動して宙に消えた。
そんな様子をフィクサーさんが楽しげに報告してくれる。タクポ内は狭っ苦しく、ボクの真横でギシギシと恥ずかしい行為を続けるツナヨシさんを思わずジト目で見やる。‥ちょっと楽しんでない?
「楽しまされてるんだよ!ああっ?!アケミ!今はダメェ!」
『モウ泣キ言?マダ始マッタバカリヨ!』
アケミの口からAI合成音声感が凄い声が漏れた。うう、早く着かないかな。狭いし、湿度が凄いし、ぬちゅぬちゅする音を聞いてると変な気分になっちゃう。
耐荷重ギリギリの積載タクポがギシギシ宙で揺れる。絶対目立ってるよね?スマイルを起動してハムハムを確認‥って、ホロウインドウの映りが悪い。再起動してやっと様子が見れた。スマイルの調子がまた一段と悪くなったような。
やっぱりかなり目立っていたらしく、ハムハムに動画が幾つも上がっていた。
『すもも』
なんかタクポ内で明らかになんかヤってる怪しいの見かけた
動きで分かるんだよこっちは
『クスノキ(ランク12)』
真昼間からタクポ内でギシアンしやがって
そういう事案ちょくちょくあるからバレてるんだよ!
通報してやろうかクソ!
『猫好きのアイちゃん』
ヤマノテ名物ヤリポ目撃しちゃった!
窓のカーテン下ろしてればギリ違法じゃないんだっけ?
ほんと動きですぐ分かるのおもしろすぎ〜!XDXD
ぴぇぇ?!バレてるよ!大丈夫?通報されないですか?!こんな状態でロゼさんやメリーさんと顔を合わせたらどうしよう!
『そんなヤリポの上に掴まってお空を散歩中のタマはどんな気分でしょうか?!にゃはは、面白いですね!日頃からラフィさまにセクハラするから天罰を受けるんですよ!』
急にARで投影されたフィクサーさんが、ボクの目の前に現れた。ぶかぶかな白タキシードの美少女は、ウインクを送ってボクに顔を近付ける。
『ムラムラしちゃったら、ワタシがお付き合いしても良いんですよ?』
わっ!と顔が熱くなって慌てるボクの袖下。イルシオンの中からブランさんの声が。
「AR風情が何言ってるんですか。タンパク質の一欠片でも得てから誘惑しやがって下さいませ。」
『にゃはは、次までに体を用意しましょう。実体あった方が良いですよね?長いお付き合いになるんですから、頑丈でイイ物を見繕いましょう。だから‥買って!』
フィクサーさんの口座は凍結されちゃったんだっけ。まぁ、色々助けて貰ってるしいいかな?仮に実体を得ても、ボクのスマイルに本体が封じられているんじゃ逃げられないだろうし。
『お礼は体で支払いましょう。ふふふ、悪魔の技はヒトを容易く骨抜きにするんですよ?誘惑は十八番ですので。』
「変な事はしませんから。でも、いつまでも体が無いのも不便ですし。お金は出しますから用意はお任せします。」
ブランさんの声が差す。
「悪魔の誘惑を舐めてはいけません。これは前振りでしょうか?そういう展開は当機のお役目です。」
ずっと変な音を聞いてるせいで会話も変な方向に‥この話題はお終いですから!
そうこうしているうちにタクポがやっとパーティー会場のビル前に着いた。案内のヒトがそっとドアを開け、お出迎え。
タクポ内にはツナヨシさん一人だけ。光学迷彩で顔だけ出し、ARが整ったスーツ姿を投影する。ぱっと見違和感は無く、頑張って表情を整えるツナヨシさんが引き攣った笑顔で応えていた。
招待状のチェックが済み、ドスドスと妙に重たい足音を立てて案内のヒトの後を付いていく。側に控えるタマさんは護衛として既にツナヨシさんが登録を済ませていた。
厳重な警備‥という程でもなく、そのままパーティー会場へ入れてしまう。ここに集うのは大企業の重役達だけど、会長レベルの招待は無いみたいだし。思ったよりもこじんまりとした印象を受けた。
「ああ、ツナヨシさん。暫くぶりです。」
「あ、ああ。ワタベさん、この前はお世話にぃ、ん。んっ。なりました。」
いざとなったらブランさんがツナヨシさんの顔もARで誤魔化すけど、ARも無敵じゃ無いから多用し過ぎると発覚する可能性が上がる。一部でも生の部分があると疑われにくいって聞いた。
「こういう場所で一番見られるのは顔で御座います。その表情の微細な動きをよく観察し合い、商談に活かすのです。しかし服装は最低限TPOを弁えていれば気にされません。商談中、ボサっとしながら胸元のネクタイを注視しますか?そんなボンクラはこの場に居ないでしょう。」
つまり顔さえ出していれば、セクサロイドと凄い対位で繋がったままパーティーに出席しても意外とバレない!本当に?
立食形式で、既にグラスを片手に身なりの良いヒト達が歓談している。時折タマさんを気にするヒトもいるけど。
「護衛、ですか。しかしわざわざ獣尾族なんて。危なくないですか?ヒトの開拓者は沢山いるんですよ。」
まるでタマさんはヒトじゃないみたいな口ぶり。タマさんを気にせずそんな事を言う酷いヒトからは、一切の悪意を感じなかった。純粋にツナヨシさんを心配しての発言だった。
タマさんは表情に出さず、慣れた風に受け流す。けど、心の奥が冷たくなるのを側で感じた。
「いえいえ!この者は凄い腕でして!それに本人の前でそんな事を言うのは流石に無作法と言いますか。はは、ご容赦を。」
ツナヨシさんは引き攣った表情で嗜め、なんとか話題を変えようと悪戦苦闘していた。上流層からすれば亜人に対する偏見が強いのかな。アリスさんも、ビャクヤさんもそんな気配無かったから油断してた。
『ま、こういうやり取りで知見の狭さが露呈するんですよ。あの者は大成しないでしょうね。』
小声でフィクサーさんがチクリと。タマさんに嫌な思いをさせちゃった分、後で一杯癒さないとね。
「では、今はこれ程で。後に伺います。」
ツナヨシさんが進みたい方向を、スマイルのメッセでタマさんに指示を出す。タマさんが操ればドスドスとアケミが別のヒトの場所へ足を向けた。
皆そんな重たい足音に少し疑問を感じるけど、それより商談の方が大切みたいで直ぐに頭を切り替える。ブランさんも光学迷彩モードで姿を隠しながら、違和感ないようにARのツナヨシさんボディを上手く投影して誤魔化していた。
「これはこれはツナヨシさん。以前の合同企画では大変お世話になりました。」
ふくよかなおじさんがツナヨシさんの前に立ち、イナバウアー状態のアケミさんはぶつからないよう横向きに。つまりツナヨシさんは目一杯真横に首を捻って視線を合わせていた。凄い苦しい体勢だけど頑張って。
「次の企画では是非ともクライさんの手腕を貸して頂きたっくぅん?!」
あっ?!搾精モードが始まった?!
思わず首を傾げるクライさんの前、慌てて誤魔化しに入ったのだった。




