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21、電車のサンドイッチが鉄屑ハンバーグに

カイサツを抜けて更に降り階段を降りていき、ホームのような場所に出た。ベンチに壊れた自販機、錆び付いた駅看板が旧時代の廃墟感を演出している。駅看板の文字は既に汚れで見えない。


「地図によればこのまま線路に降りてあちら側に進むみたいですね。電車とか来ないかな?」


そんなボクに、そんな時は任せろと言いたげにドヤ顔で親指を立てるブランさん。

そんなに覗き込まなくても見えてますって!


「もし来たら一体誰が操縦しているのかしらぁ。」


「少なくとも俺は無傷だろうな。ならば問題ない。」


心配の様子もなくさっさと二人は線路に降りて行ってしまった。ホームに取り残されないようボクも慌てて飛び降りる。線路の先は真っ暗闇。大口を開けてボク達をじっと待ち構えていた。


歩き辛い線路の先をゆく。途中で横道があって非常口のドアから最深部へ向かえるみたいだ。そんな時だった。


最初は線路が僅かに揺れている事に気付いた。直ぐに揺れは大きくなっていき、ずっと後ろの暗闇の向こうから、何か巨大な物が線路の上を通って真っ直ぐ向かう気配を察知する。鼓動がびくりと大きく跳ね、足が自然と速くなった。


「もしかして電車ですか?!」


「線路の上を往来する怪物かもしれんな。」


イトウさんは相変わらず焦らず冷静で、他の面々も走りながらもむしろ状況を楽しんでいる様子すらあった。


「折角だし一目見ておきましょうよぉ。」


「一人でやってな。ほら、少年はあたしが運ぼうか。」


クニークルスさんの伸ばした手を躱すよう、ブランさんがボクはささっとお姫様抱っこしてしまう。


「ラフィ様には当機が御座いますのでご自愛しやがって下さいませ。」


横道までは遠いけどこの分なら間に合うかなって、所で前からも巨大質量が迫る気配が!えええっ?!これって凄いピンチじゃ!というか電車同士でごっつんこしちゃうでしょ!


「どうしますか?!わわわっ?!」


幾ら慌ててもブランさんの腕の中にいるボクに出来ることは無い。が、目の前のカーブに差し掛かった所で徐にボクの体は真上に投げられたのだ。ぴゃあ?!と驚いている間に、一瞬で構えたブランさんのライフルが、直ぐ前のカーブの線路の一部を粉砕する。そのまま重力に引かれて落ちるボクのお尻が地面にぶつかる前に、ブランさんの腕がしっかりと抱きとめた。


目前に迫る巨大質量は線路の上を滑走し、両目のライトがボク達を照らす。押し出された空気に全身を打たれる感触を覚える中、激しい火花を散らした電車が速度を落とさずに脱線。道の脇に身を寄せたボク達の直ぐ横を、傾いた車体が猛烈な勢いで抜けて行く。そんな光景に恐怖以上の興奮を感じ、思わず声を上げてしまった。


「ひゃあああっ?!」


一瞬で電車は後方でのたうち転がっていく。そして金属が悲鳴を上げる咆哮がつんざいた後、文字通り吹き飛ばされるような轟音と共に後方から迫っていた車両がぺちゃんこになった衝撃がボク達を襲った。ブランさんの腕の中のボクは無事だけど、イトウさんが遥か向こうまで吹っ飛んでしまった。いつの間にか何処かへ退避していたルナさんとクニークルスさんは大丈夫みたい。


「イトウさん!お怪我は無いですか?!」


眼鏡にヒビを入れて転がるイトウさんは、持ち上がったお尻をボクに向けて不憫な体勢になってしまっている。だけどむくりと起き上がったイトウさんは埃を叩き、澄まし顔で起き上がった。


「まったく。随分手荒な解決方法だな。車両ごと吹き飛ばしてしまえば良かったものを。」


「後方の車両に対処するのは手間でしたので。ラフィ様も喜んで頂けたようですし、その為なら眼鏡さんがあられもない姿で土に塗れても問題ありません。」


心配するボクの頭をぐしぐしと撫で回したイトウさんは溜息を土埃に混ぜたのだった。


そんな様子の始終をスマイルで録画していたらしいルナさんが、ボクに映像を送り付けてきた。


「面白い思い出ね。後でハムハムに投稿しようかしら。」


こんな状況でもマイペースなルナさんに唖然としつつも、首を傾げるクニークルスさんの呟きに耳をピクリと。


「あんな怪物の情報は無いはずだが。討ち漏らしか?」


「知らないんですか?」


「ん?ああ、普通の受験者が今のに対処できると思うか少年よ。受験前にああいうある程度熟練じゃなけりゃ対処できない怪物の類は一掃する決まりがあるんだが。しかしあんなデカいのを普通見落とすか?」


予定外の怪物との遭遇、嫌な予感がするよ。ダンジョンの中では何が起こるか分からない。気持ちを引き締めなきゃと、ボクは真っ暗闇の先を見据えた。


非常口の先の降り階段は狭く、一列に並んでさっさと降り切ってしまう。その先は闇の通路が続いていて、何回かの襲撃を受けながらも確実に歩を進めていった。ダンジョン内の緊張感に疲れが見えてきた頃。


「地図によればこのマンホールの蓋の下の空間ってあります。」


ボクが足でふみふみして感触を確かめたマンホールをブランさんが照らした。何でこんな所にマンホールが?と思うけど、この真っ暗な通路の途中に突然現れたマンホールに気付くヒトはどれくらいいただろうか。

ちゃんと暗視スコープを用意して足元に注意していたヒトじゃないと気付けないよね。レーダー探知頼りだと、怪物の情報ばっか注意して見落としそう。

最初に気付いたヒトは凄い。もしここを見落とすと、大きく通路をぐるりと回って外周を一周ながらなだらかに降りていくしかない。下手すると1日ダンジョン内に泊まり込みになりかねない距離だ。


「じゃあ早速入ってみましょう。」


ルナさんが指先を軽く動かせば、マンホールの蓋がふわりと浮き上がって壁際に除けられる。


「まずは頑丈さに自信のある俺が行こう。」


光のない細く狭い穴をイトウさんが覗き込む。長い縦穴には梯子が一つあるだけ。なのにイトウさんは梯子を使わず、そのまま背筋を伸ばした姿勢で腕組みしながら飛び降りてしまった。怖くないの?!もし頑丈でもボクだったら絶対出来ないよ。


少し後に激しい着地音が響き、下で安全を知らせるライトが点滅した。


「では当機も参りましょう。」


ブランさんの手がひょいとボクを抱っこし、正面から密着してしまう。ええっ?!な、何?!近いよ!ドキリとしたのはブランさんとくっ付いたからか、それともそのままブランさんが穴に飛び降りたからか。


ぴゃあああっ?!っていうボクの悲鳴が穴の中に消えていった。着地は予想外に静かで、上品に地に足を付けたブランさんはボクを抱いたままでいた。


「このまま二人を待つんですか?恥ずかしいですから一旦下ろして下さい‥‥」


「ラフィ様の抱っこはやはり存外に心地良いです。緊張で疲れたラフィ様を当機が色香で癒しますのでそのまま大人しくしていて下さいませ。」


そう言いつつもブランさんは、抱っこしたボクの頭をふかふかな胸元に抱き埋めてくる。きゃーっ!イトウさん見てますから!そういうイタズラはダメです!


あたふたするも結局ブランさんは離してくれず、二人が降りてくるまで通路脇に座り込んだまま好き放題可愛がられたのだった。


「一つ訊くがそのサービスは幾らで受けれる?」


眼鏡をクイっと上げて質問するイトウさんにブランさんは表情少なく、


「当機の体はラフィ様を包むためにありますので。首だけで良ければ抱えてやりますが、如何でしょうか?」


「断る。」


「どうぞ、ご自愛なさらずに。」


って、ブランさん!中指立てちゃダメですって!


「控えめに言ってふぁっくゆーで御座います。」


少し残念そうなイトウさんに見られながら、ブランさんに可愛がられるのは恥ずかしかった。

短いので今日は2話投稿の予定です

4時頃に出せるかな‥

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