199、ラフィが顔出すCMは視聴率がとっても高い、少年のエゴが幸せを撒いた
夕暮れの街並みをボクは一人でゆっくりと歩く。後ろ手を組んで、鼻歌混じりに。ボクが歩く度に、頭に生えたウサギ耳がゆらゆら。歩幅の小さいボクの体も少し楽しげにトットッ、と。
そして目前の綺麗な一軒家に行き着き、ドアに手を翳した。
顔、手、網膜、遺伝子スキャンによる4重生体認証システムによって完全なセキュリティを誇る理想のマイホーム。
広々とした中庭の空間は拡張空間。お庭に自然公園を造っちゃおう。
滝の飛沫を浴びて、きゃーっ!とはしゃいで笑顔を咲かす。
地下、上階、間取りも変幻自在。シブサワホームなら。
業界お客様満足度、No.1。シブサワホームで、アナタの人生を彩る。
最新建築技術により、耐震、防弾、抗光学性完備。外部からのハッキング攻撃に対する最強のファイアウォール“Sibisawa protect89”搭載。ミヤビ製、光学迷彩タレット付属。
「ボクも住むのなら、こんなお家が良いなっ。」
あったかなリビングのソファーで、足を揺らしながらカメラに微笑んだ。
CM撮影も大分小慣れて来た。今日もCMをパパッと撮り終え、仮組みされた一軒家を後にする。
「CM撮影は毎日のようにやってるわね。」
「ラフィ様の広告動画が動画サイトにどんどん流れて来てます。メディアに露出が増える程ファンも増えているみたいで御座います。」
「皆が応援してくれるのは嬉しい、です。」
この後はそのまま写真撮影だっけ。ボクの写真集を作りたいってモモコさんから直接依頼が来ていた。でもその前に1時間くらい空いてるし、もう一仕事。
「タマさん、すぐ済ませますのでそこのカフェにいて下さい。」
「はいはい、この前グミの運び屋業辞めさせたのに、今度はラフィが運び屋やるなんて。なんか因果感じるわ。」
「合法ですから。変なモノは運んでません。」
アニマトロニクスを起動、今日食べた朝食とさっき食べた間食のカロリー爆弾なパフェセットを消化する。頭に狐耳がピコンと生えて、ふわりと撒かれたシャボン玉がキラキラと眩く。ふよふよ揺れ動くゲートの膜が暗い倉庫内を映した。
パパッと飛び込んで暗い倉庫内を駆け抜けた。床に案内のARが浮き上がって、行きたい場所を脳波から読み取り青い線が目的地まで導いてくれる。
「回収に来ました!ラフィです!」
そこはヤマノテS.T.C本社の研究室。荷物の行き先はタマシティにある支社、S.T.Cタマ研究所。この仕事を受けた時テツゾウさんのプライベートルームの応接室経由で、タマシティの研究所へ向かった事があった。テツゾウさんの社長室から、車に揺られて十数分。
一度座標を登録すれば、大切な機密の成果物を一度も表に出さずに研究所の卓上からそのまま届けられる。以前は機密の漏洩リスクのせいで合同研究が厳しかったけど、ボクが配達するならと企画が動き出していた。流石に毎回プライベートルームを経由させる為にテツゾウさん自身が運び屋する訳にはいかないし。かと言ってセキュリティの都合上、テツゾウさん以外にマスター権限を渡す訳にもいかない。
「いやぁ毎度済まないね。タマシティにゃこんプロジェクトの発案者が居たんだが、まぁ人員と設備の都合で難航しててね。お陰で大助かりさ。」
いつもボクに大事な荷物を任してくれる白衣のケンさんは、整えられた髭を触って笑った。
「今日はこれだけですね?」
「ああ、中身は言えんがプロジェクトの中核を担うモノが入ってる。ヤマノテシティの設備じゃなきゃ作れんし、でも全容を把握してるのがタマシティにいるんじゃ上手くいかなかった。」
タマシティから企画を伝えてヤマノテシティに作って貰っても、遠すぎると届けるのが難しい。勿論距離が長い程奪われるリスクも上がる。タマシティに設備を作ろうにも、欲しいの一言でポンと作れるような設備じゃないみたい。
ケンさんの目の前でゲートを開き、目前に現れた不健康そうな男が出迎える。
「では、これをお願いします。」
ケースの乗った台座をそのままスライドして、ゲートの向こうへ押しやった。
「ひひっ。未来の技術は便利なもんだねぇ。これで超時空バスケが完成する‥ひひひっ、世界よ慄くがいいさ‥」
超時空バスケ‥面白そう。シブサワエンターテイメントで活用されるのかな?完成したらやってみたいな。
ついでにそのまま顔合わせて情報のすり合わせをプロジェクトの面々で行い、その間ボクは用意された沢山のカロリー満載なお菓子をもしゃもしゃ。お菓子食べ放題って楽しい。
1時間掛からず会議は終わり、ボクはタマさん達の元へと戻ったのだった。
ヤマノテシティ1のオフィス街、ユウラクタウン。image egg YURAKUにて、そのまま次の仕事に向かう。今日は朝からこの倉庫スタジオでお仕事に励んでいた。
「おー、ここで撮影すんのね。」
何故かちょっと楽しげなタマさんが眺める先、拡張空間で広がったスタジオビーチリゾート。とは言っても申し訳程度の海が波を寄せる小さな砂浜、3種のプール、ビーチパラソルの寛ぎ空間があるのみ。
早速強化外装にインストールした水着衣装に姿を変えた。一々着替えなくても、衣装のデータだけインストールすれば、ボクの強化外装は機能そのままにデザインが変わる。布面積の少なさに限界はあるけど、一般的な男性用の水着くらいなら。
「今日はお願いね。ふふっ、可愛く撮ってあげる。」
撮影専用の本格的なカメラドローンを浮かせるのはシライシさん。多才なシライシさんはカメラマンもやってるみたい。
「芸能依頼をやっているとよく顔を合わせますね。」
「だって可愛いラフィの芸能活動を支えるのってやりがいあるじゃない?こう見えて色んな業界で私ったら有名人だから。私が手を挙げれば即決よぉ。」
刈り上げたオシャレな髪を揺らし、薄いグラサンの下でニッと笑いかける。ボクもパァッと笑顔で返した。
「撮影する内容は先に決めてあるけど、どれだけラフィの魅力を引き出せるかは腕次第。期待してて。」
「お願いします!」
ボクの好きな男性アイドルグループも、こういう感じの写真集を撮ってた。カッコいい感じになるのかな?わくわく、ドキドキ。
肩から白いカーディガンの薄布を羽織ったボクは、青い海パン姿で砂浜を歩く。表情は楽しげに、海の向こうに視線をやった。風が金髪を靡かせる。耳に掛かった髪を指先で払った。
波際で飛沫を上げてはしゃぐボクは、後ろ手を組んだままカメラを見下ろした。カーディガンから覗くお腹は水滴で濡れていた。
浮き輪に腰を通して海を背に笑う。頭には白いツバの大きい帽子。風で少しズレて、片手で押さえていた。
砂浜で20枚も写真を撮って、そのままビーチパラソルに寝転がった。カメラが頭上に向かえば、ボクは自然と目で追う。なんだか上目遣いな写真が一枚パシャリ。
カメラが顔に急接近!すぐ近くでお話ししているような1枚に。
仰向けなボクを、足側から見上げるようにカメラが動く。海パン履いてるし見えないよね?角度が際どいよ‥カメラを見下ろしながらも、海パンの裾を両手で押さえていた。
ビーチパラソルの下でも写真を15枚くらい撮っていく。
そしてプール。
プールサイドに腰を下ろして見返り美人的な。男の子だけど。金髪が揺れ、背中が覗く。
プールの中で泳ぐ所をカメラが追従して色んな角度から。クロール、平泳ぎ、バタフライまで。スポーティに撮れたかな?カッコいいといいな。
片足にラビットT-60A5を装着、一瞬低出力で駆動させてボクの体は飛沫を上げて打ち上がった!カメラが真下から笑うボクを写し、そのまま何度か色んな体勢でプールから飛び上がってカメラを覗き込んだ。
「あはは、OKよぉ。ラフィったら、私が欲しいって思うやつ全部直ぐにやってくれるの。」
R.A.F.I.S.Sで繋がってるから、シライシさんが説明しなくても欲しい絵が直感的に理解出来た。お互いに特に指示もなく撮り直しも無しにサクサク撮影を進めるボク達に、周辺のスタッフさん達はむしろ心配そうにしていた。
あまりに早く撮影が終わり、一旦スタッフと監督さんを交えて内容の精査を。その間はボクは出されたお菓子を齧っていた。こくまろ醤油味のお煎餅が乾いた音を鳴らす。
「タマさんもどうですか?」
「あのね、アタシはラフィと違って食べたもんが肉になって付いちゃうの。最近宴会とか多かったからちょっとね。」
「タマは只今プチダイエット中に御座います。どうして世の女性は程よく肉が付いてた方がモテるというのに、鶏ガラ体型を目指すのでしょうか。」
ブランさんはデリカシーの無い事を、
「理想通りに肉が付くならね。実際はキモい太さの脚に顔、奇形になるよう太るもんよ。ロボのアンタには無縁な話。」
タマさんのグーがブランさんのおでこを軽く小突いた。
暫くの精査の結果、全部採用という事になった。けど、監督さんはもっと攻めたのも欲しいって。用意されたデータはまさかの女児用のヒラヒラした水着。こんなのインストールするの?うう、恥ずかしい。
「嫌なら断っちゃっても大丈夫よ。監督さんラフィの色んな顔が見たいって。ラフィの熱烈なファンなの。でも断ればちゃんと聞いてくれるから気にしないで。」
シライシさんはそう言うけど‥
開拓者は目立ってなんぼ。無難じゃずっと2流ってタマさんも言っていた。このままじゃ写真集は地味な彩りになっちゃうかな。その道のプロの監督さんが女児用水着が似合うって判断して、シライシさんも反対はしなかった。
それがボクをもっと前へ押し出す力になるのなら。恥ずかしいけど。‥恥ずかしいけど!
「‥やります。少しだけですよ!」
顔が熱い。タマさんがニヤニヤしながら見てきてる。女の子の姿を見て楽しいのかな?
薄青色の、ヒラヒラが付いた可愛い水着に強化外装を変化させた。ワンピースタイプだけど、やっぱりお股の間が少し膨らんで。腰回りのヒラヒラをもうちょっと大きくして軽く隠した。
「これでいいですか?」
「あらあらあら。イイわよ!似合ってるじゃない。いい?これは恥ずかしい事じゃ無いの。女性用の水着が似合う男って悪い事?何が似合おうがそれって自分の魅力を引き出す幅が広いって事よ。引き出しの多さを恥じるなんて、少ないヒトに失礼なんだから。」
そう言うと、シライシさんはTシャツを脱ぎ捨てた。体に纏うのはまさかのビキニ。でもかなり男性的な体格のシライシさんには‥その。
「言わなくても良いわよ。似合ってないの知ってるから。でも、私は好きよ?この格好。パンツ一丁ってなんか落ち着かないのよね。乳首丸出し恥ずかしくない?」
見やればタマさんは引いていた。ブランさんはいつもの無表情だけど‥口元がちょっと嘲笑するようニヤってる!
「ブランさん!」
「何でしょうか?奇抜なスタイルは結構ですが、相応の周囲の評価を受け止める度量と責任は必要になります。周囲の配慮をアテにするなんて無責任で御座いましょう。」
シライシさんは軽く笑った。そしてパッとTシャツを再度着込む。
「大丈夫よ。ラフィも気を遣わなくて。私の格好で周囲を不快にさせるなんてNo、でしょ。これは自己満足だからTシャツの下でも十分よ。」
その顔は寂しげでもなく、あっけらかんとしていた。
「大丈夫です。撮って下さい!」
ボクは覚悟を決めた。恥ずかしいけど、でも本当は絶対にヤ、じゃない。可愛いは好きで、カッコいいも好き。ふと女性と男性の衣装をどっちも着こなすモモコさんを思い出した。
「大事なのはTPO!オシャレはまずその場に合わせた衣装を選ぶ所からよ!」
オシャレのプロ、シライシさんの格好はTシャツに短パン。そして麦わら帽子。このリゾート風のスタジオに馴染んだ格好で、どこかアロハな柄も相まって素直にカッコいい。ボクと並ぶとリゾートに遊びに来たお父さんって風にも見える。
「お願いします!」
撮影が始まった。
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ラフィ、まさかの水着解禁
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21 : 名無しのヤマノテ民
96枚3900円!!
買うわ
22 : 名無しのヤマノテ民
今日はこれでいいや
30 : 名無しのヤマノテ民
>>22
俺もこれでいいわ
44 : 名無しのヤマノテ民
ラフィも本格的にアイドル開拓者路線に入ったな
っぱ可愛いは最強よ
ルッキズムの勝利だ
55 : 名無しのヤマノテ民
>>44
可愛い顔の奴が顔を武器に名を上げたらルッキズムって言葉武器にしてゴネる層ってどんなグロ面なんだ
嫉妬丸出しかよ
60 : 名無しのヤマノテ民
まさかの女装もありという
これは本格的に俺の展望台が火を噴いちまう
102 : 名無しのヤマノテ民
ビーチパラソルの顔接写破壊力ヤバいわ
思わずホロウインドウにキスしちまった
120 : 名無しのヤマノテ民
お姉さんの心のイチモツがラフィを推せと言っている
取り敢えずスマイルの壁紙にした
155 : 名無しのヤマノテ民
プールの写真どう撮ったんだ?
めっちゃ跳ねてて神秘的
177 : 名無しのヤマノテ民
>>155
インタビューにあったけどラビットで飛び出して1発撮りだってよ
イルカみたいに跳ね回ったんだとさ
266 : 名無しのヤマノテ民
てか撮影時間めっちゃ短かったって話だったよな
1時間も掛かってないという
271 : 名無しのヤマノテ民
>>266
夢の現場だわ
すっげぇ早上がり出来そう
300 : 名無しのヤマノテ民
乳首ありお腹丸出しの海パン姿か、あざとい女児水着か
可愛いが溢れてて尊い
鼻血出た
330 : 名無しのヤマノテ民
売れっ子開拓者がまさかのグラビア系やってくれるとは
てっきりもっと健全路線かと思ったらめっちゃ際どい
364 : 名無しのヤマノテ民
女児用水着は意外性ヤバいよな
この話題だけでどこのまとめサイトも大盛り上がりだ
382 : 名無しのヤマノテ民
ニュース記事も上がったよな
◼️まさかのラフィが水着姿に?!更には●●●の水着までお披露目?!
◼️可愛いが一杯の今をときめく美少年開拓者の写真集発売!お値段3900円!
◼️インタビューも収録、撮影の驚きに満ちた裏話も必見!
◼️このフルボリュームで、撮影時間まさかの●時間‥?!
456 : 名無しのヤマノテ民
ラフィのCMなんか飛ばせなくない?
つい見ちゃうわ
あの笑顔が私を狂わせる
479 : 名無しのヤマノテ民
この前のシブサワホームのCM好き
滝の所のきゃーっ!が堪らん
あとなんかラフィと同居してるようなコマ割りというかあの雰囲気
521 : 名無しのヤマノテ民
確実にラフィがニホンコク民の性癖を歪めてる
付いてるがマイナス要素じゃなくなってきてる気がする
562 : 名無しのヤマノテ民
付いてるからお得なんだろうが
あ、私はお姉さんなんで
601 : 名無しのヤマノテ民
このスレの何割がお姉さんなんだろうなぁ‥
性に多様なニホンコク民の闇は深い
───オシャレとは。
結局は自分を輝かせるエゴであり、しかしそれはTPO整った時に公益性を纏う。周囲の人々の目を楽しませ、ムードを良くする。むしろ自身を眼福とする周囲すらもオシャレの一部として巻き込んで、更なる高みへ至る楽しさに酔いしれる。
ラフィのオシャレは多くのヒトを幸せに、まとめサイトを賑やかし、世間に反響を呼んだ。一介の可愛いが、誰もが共有するアイドルに。アイドルは大勢の心を掴み、楽しいへ導く指導者でもある。
芸能事務所に所属せずともラフィは既に立派なアイドルとなっていた。ヤマノテシティで開花したラフィのオシャレは、より目立って前へ進みたいエゴと共にあまねくニホンコクの民に幸せを振り撒いたのだった。




