194、魔法少女の闇に天使が光を差す
エビスタウンを行くグミの足取りは軽く、手を引かれるヒミコは見ない間に様変わりしたメインストリートの様子に視線がふらふらと。
「ママ、昔とお店の雰囲気とか全然違うでしょ?」
「こんなにARが賑やかな感じじゃ無かったね。ほら、おっきな龍が泳いでるよ。何処の企業のだい?」
「知らなーい。」
親子水入らず、丁度開拓者がお休みになる日にエビスタウンへ遊びに来ていた。
「私的にはギンザタウンも結構見所多いんだけどねぇ。」
「んー、ギンザタウンはちょっと大人向けっていうの?こっちの方がイケてるし。」
景気の良い笑い声。
「あーっ!さっきまでここでラフィが歌ってたって!もー、見逃した。」
「ラフィが気になるかい?」
茶化す声に、急に静かになるグミ。耳まで赤くなってふとヒミコから距離を取った。
メインストリートは幾つもの細道に枝分かれし、求める物によって向かう先が変わって来る。年頃の女の子が向かうはジュエルリゾート。そう、ファッションと化粧品の専門街。映えるスイーツショップに、オシャレな飲み歩きドリンク。レンタルペットショップなんてのも。
オシャレを思う存分楽しんで、カワイイ思い出を種りまくりたい乙女に大人気の一画だった。
「ラフィはどんなのが好みなんだい?」
「もぅ、からかわないでって。タマって奴大人っぽい感じの黒パーカー着てたけどああいうの?でも黒は私に似合うかなぁ。」
鮮やかな金髪をホロウインドウに映し出す。インカメラに映るグミの顔は正しく乙女だった。
インカメラに映る自分の顔に注目するグミは、偶々すれ違ったラズベリーとブラックカラントに気付かなかった。ヒミコは気付いていたが、親子水入らず。敢えて声を掛ける訳でもなく、向こうも気付いていないのならいいかと目を瞑った。
「グミはお母さんと楽しくやってるかな?」
概念的タピオカドリンクを片手にラズベリーは休日を満喫する。元々開拓者業は芸能依頼の契約の都合上、必要最低限だったが。だけど今日は土曜日!ラズベリーの通う学校はお休みだった。
「全く、そんなに気にせんでもよかろうて。私だけじゃ不満かぇ?」
「違うってぇ!でも、やっぱり気になっちゃうじゃん。」
ブラックカラントがポイっ、とタピオカドリンクを宙へ放る。一回転して手のひらに収まるも、一滴すら漏れる気配は無い。中にタピオカが入っているらしいと聞く。蓋を開けて確認することは出来ず、オシャレな装飾の凝った容器は不透明だった。
タピオカという情報を、概念を独特な食感や喉越しと共に味わう。美味しければ中身にさほど興味を示さないのは、情報がパンクした世界だからか。そんな情報に興味を持つ暇があったら、ハムハムを追っかけた方が楽しかった。
「ラフィくんのライブ見たかった〜。うう、暫くハムから目を離してただけなのに。」
片目で追ったホロウインドウの話の種は、既に終わってしまったラフィと錦鯉の路上ライブを遅ればせながら伝えてきた。
「ならそこのラフィグッズ専門店はどうだ?」
ブラックカラントが指した先、ラズベリーの行きつけのグッズショップが可愛いを振り撒いていた。グッズ展開の早さは流石天下のシブサワグループ。既に魔法少年verも店頭に並んでいた。
「行くけどさー。」
不甲斐ない自分へちょっと拗ねながらも、足は好きへ真っ直ぐ。
そんな中ふと思い出す。
『魔法少女モノ劇場型ヒーローショー、今回はハズレ枠か』
1 : 名無しの大きなお友達
高校生開拓者が数年ぶりに揃ったからって勢いだけでショーやるのやめろや
学芸会演技のジャブ、覚束ない格闘戦の右ストレート、手を抜いて貰ってギリ引き分けのアッパーカットで試合終了
見る苦痛だろコレ
2 : 名無しの大きなお友達
は?戦隊ヒーローと比べて“可愛さ”はあるから‥
なお素人ステゴロ勝負じみた格闘戦はまぁ
3 : 名無しの大きなお友達
顔だけはマジで当たり
グラビア撮影まだー?
大手まとめサイトの記事に動悸が怪しくなり、観客の誰もが悪意ある冷笑を浮かべているように見えた。意気揚々と高校生開拓者デビューした直後の芸能依頼。だけど、現実は辛辣。
素人丸出しなダメ出しが飛んでくるハムハムのアカウントに鍵を掛けた。活字を見るのが怖くなってスマイルを起動するのも億劫に感じた。皆の前、明るく振る舞うけど常に心は闇の中。
ヒトを怖く感じ始めていた。
そんな時、ブラックカラントが。
『ほれ、治外街にラフィとかいう面白い開拓者が頭角を現したぞ。ハムハムで段々と話題になりつつあるのぅ。』
なんの気無しに共有されたラフィの動画は、天使の笑顔で歌う少年が誰もを歓喜させていた。皆を笑顔に変え、その中心で無邪気に振る舞う。
ラズベリーの心に光が差し込んだ。魔法少女の芸能依頼を受けて、自分が目指していた姿がそこにあった。誰もを笑顔にする存在に憧れた自分は何処へ。無責任に書き散らされたネットの悪口なんて‥
それ以来ラズベリーはラフィに心酔し、魔法少女として一層の輝きを放った。その活躍振りは徐々に大衆を振り向かせ、ファンを増やしていく。一時は打ち切りの危機もあったが、こうして居られるのも。
(ラフィのお陰。会いたいなぁ‥)
眺める先にはラフィ人形の山。様々な表情の小さな可愛いが積まれた山は既に半分程減っていた。
実際に顔を合わせて更に好きが加速した。可愛くて頼りになって、無防備に寄って来ると目一杯抱きしめたくなって手をワキワキさせてしまう。
「買ってくれるんですか?」
隣からの声。
「一個くらい欲しいよね‥いや、もう全種類買ってるしぃ。でも布教用がまだ揃ってない‥」
その声はブラックカラントでは無く、思わず振り返る。見上げるラフィと目が合う。驚いて隣のブラックカラントに目で訴え、二度見。
首を傾げるラフィはお人形を摘めばパァッ!と笑った。
「ラフィくん?!なななな?!」
思わず声を上げるラズベリーに場が注目。そしてラフィに気付くとスマイルカメラを向けて寄って来る。
「タマさんがこっちも寄って行きたいって。折角の休日ですから皆が行きたい場所を回ってみようかなと思ったんです。」
「はえー、こんなに沢山グッズあったのね。アタシは本物が居るから縁が無いけど。」
これ見よがしに尻尾が細い首に絡み、ラフィもくすぐったそうに甘えた。
「ラフィくん!ええとぉ。きょ、今日はお日柄も良く‥」
しどろもどろなラズベリーに、ブラックカラントはため息を一つ。
「プライベートで会うなんて縁があるのぅ。ちょっとそこの喫茶にでもどうだ?」
ラズベリーの腕を肘で小突いて誘い文句を投げ掛けた。
「良いですよ。丁度ボク達もちょっと甘い物を食べて休もうかなと思ってました。」
周囲を囲む少女達の、いいなぁーという声の無い声をブラックカラントは飄々と受け流す。挙動不審なラズベリーの腕を引いてさっさと店を後にしたのだった。
喫茶、“サファイヤ・ローズキッチン”。ジュエルリゾートの人気店舗であり、高級感溢れるジュエルウインドウが売りだった。サファイヤを加工して作られた、薄っすら青く透き通ったジュエルウインドウが通りに面した部分を大胆に飾り立てる。
内部の大人びたシックなデザインが、ジュエルリゾートに通い詰める乙女達の琴線に触れた。
ラフィ達が来店し、囲んだソファー席の数席後ろ。
ロゼはメリーとクリハラに囲まれ、一息入れて休息を取っていた。何もなければ今日は皆早上がり。どうせだから夜に飲みにでもとふんわりと話が持ち上がっていた。
「先輩がジュエルリゾートに行きたいなんて言った時はびっくりでしたが。良いお店ですね。」
手元のアイスコーヒーフロートをチクチクと弄るロゼ。向かい合うメリーは欠伸を一つ。
「警察にも息抜きは必要ッスよ。ウチの乙女センサーがこの良店を引き当てたッス。ロゼも精進が必要ッスね〜。」
また適当な事を。と呆れるロゼとクリハラは同じ顔。メリーはここに来て早くも変人枠に入れられていた。
「でも、ラフィさんが来てから本当にこの辺りは治安良くなりましたよね。犯罪が起きるとバババッ!ってちっちゃなラフィさんが飛んでいくんですよ?」
大分打ち解けたクリハラの口調は軽い。初見のヒトにはオドオドしがちだが、身内と認めた者には案外気安かった。
「偶々居合わせましたけど、悲鳴を聞いて駆けつけたら降ってきたんです。銃を持った暴漢がいきなり脳天を蹴られて失神して。ぺこってして直ぐに消えちゃいました。」
バリア装甲越しに的確な直撃が入り、意識を手放した拍子にロゼに確保された。その鮮やかで無駄の無い鎮圧っぷりには舌を巻く。
「この辺りの管轄のヒト達がちょくちょく見てますけど、犯罪者の元へ突然飛んで来るんですよ。最近は通報を受けても既に無力化済みの犯人を逮捕するだけですね。ヤバい奴と路地裏で被害を出さないように格闘‥なんて事はめっきり減りました。」
平和が一番です‥とクリハラはコーヒーゼリーパフェをもそもそと口に運んだ。
「エビスタウンはディープネオンの関係で、ヤマノテでも屈指の警戒エリアだったのに。クリハラさんもそろそろ別エリアに飛ばされるんじゃないですか?」
「うーん‥どうでしょう。ラフィさんは組合警察じゃないので、それありきの配置には出来ないんです。ふらりと活動圏を別のタウンに変えるかもしれませんし。」
ラフィの気ままな自警活動はあくまで法の範囲内の、現行犯に対する緊急を要する私人逮捕のみ。今まさに銃を撃とうとする暴漢、集団でヒトを連れ去ろうとする半グレ集団、周囲を巻き込みかねない喧嘩の仲裁。通報が入ってから動く組合警察ではどうしても後手に回ってしまい被害が出る凶悪なものばかり。
しかしラフィがエビスタウンにいる間は、そのどれもが未然に防がれ血を流す被害者は現れなかった。志半ばで現実に打ちのめされ、開拓者崩れとなるチンピラは多い。スペアパーツの確保の金を工面する為に、羅針盤を置いて犯罪に手を染めようとする者も少なくなかった。
「ラフィ助に組合警察からスカウト来ないんスか?」
「5度ほど。ですが、シブサワグループのお抱えですから正直望み薄かなって。ラフィさんの志望は開拓者ですし。」
視界の隅で見慣れた白い影が店外へと駆けて行った。思わずロゼが目で追えば、ジュエルリゾートの往来の真っ只中でヒトが揉めている。
少女の手を強引に引っ張る威丈高な男が、激昂しながら収納から拳銃を取り出し‥
「あっ?!」
ロゼが思わず立ち上がるのと、男が拳銃を蹴り落とされたのは同時だった。驚いて少女を逃がそうとする白い影に襲い掛かり、再び背後から襲来した3体の白い影に呆気なく組み伏せられスパイダーネットで捕縛されてしまった。
立ち上がったロゼは数席前で、楽しそうにお喋りしながら笑うラフィを見た。
「通報が来たッスね。あはは、チリトリのお仕事ッス。組合警察形無しッスね。」
おどけるメリーに、苦笑するクリハラ。
(ラフィさんが組合警察に来てくれれば、ヤマノテシティ全体犯罪率0%とか出来そうですね。まぁ、そうなったらそれでディストピア感ありますが。)
犯罪は無いに越した事は無い。しかし徹底管理された微罪も許さない社会は言う程理想郷か。施行される法次第ではとんでもないディストピアが生まれてしまいそう。そんな妄想に耽る時間がある程、ロゼは余裕のある仕事をしていた。




