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185、エンジェル・ベリー♡!!はバナナで都市を滅ぼすゴリラに挑みかかった。プロレスに高度な脚本は要らないのだろうか

そこはタカダタウンの某所。撮影につき当日貸切りとなったレンタルオフィスから、黒装束の二人が眼下を見下ろす。


黒い外套をはためかせ、顔を目深に被ったフードで隠す。実際、フードを被ればホロウインドウ製の影が目元を隠してくれていた。


宙を泳ぐ小型ドローンカメラの前、ヤミヨは既に集まった観客達に小さく手を振ってケラケラ笑う。


「これでヤマノテシティが今度こそ私達のものになる。ふふふっ、ぷっくすくす。」


演技のノリはいい方だが、ヤミヨは素を隠しきれない。開拓者であって役者じゃない。素人なりに台本を読み上げるも、これから行う“子供騙し”な悪の組織の計画を考えると笑ってしまう。


「ノン、ノン。ヤミヨちゃん。ダメよ、笑っちゃ。私達はとっても悪いデビルズ・エコーなんだから。悪しきヒトの心が“デビルバースト”した選ばれし悪の使者なのよ?」


マモンはフードの暗がりの下に隠れた薄いグラサンの奥で、鋭い眼光で見やった。


「あっはっは、そうだっけ?今から下界の奴らを蹂躙してデビルズ・エコーにひれ伏せさせてやるぜ〜☆」


ヤミヨの素人芸は界隈で案外人気があった。適当言いながらもラフィの事を考える。


勝ち負けは興味無いが、ラフィとの戦いは最高に楽しい。全力の攻撃に真正面から全力で受けてくれる。命の危険無く、ラフィと戦えるヒーローショーにヤミヨは心を踊らせた。


マモンもラフィの事を考えていた。


(ラフィがCMに出る度にメイクアップしてあげてるけど、今は敵役。しっかり役をこなさないと。)


マモンに改名した後も、シライシの旧名を好んで名乗っていた。器用になんでもこなすマモンにとって悪役もお手のもの。ヤミヨが演技に期待できない以上、私が。


(脚本はいつも通りって感じだけど、ラフィと戦えるって思うだけでドキドキしちゃう。命のやり取りはしたくない相手だけど、プロレス相手なら大歓迎なんだから。)


悪の使者として見下ろすマモンは堂に入っていた。





私立ヤマノテ学院高等学校。ラズベリーさん達が通う中高一貫校。学生街なタカダタウンにある沢山の学校の中でも一際大きく、偏差値の高い学校だった。


開拓者として活動し始めてからは、週3で授業に出て残りを開拓者としての時間に使っていた。けど、魔法少女の芸能依頼を皆で受けてからは再び学生生活に勤しんでいた。


「ラフィくん!」


ぱあっ!と目を輝かせたラズベリーさんが手を振る。ボクもパパッと駆けて校門前まで一直線。もう撮影は始まってる。劇場型ヒーローショーは基本的に生配信。それぞれ台本を読み上げながらも、アドリブで日常会話のキャッチボールを続けていた。


「こっちで会うのは初めてですね。初めまして!えへへ、ラフィです。魔法少年なんて変ですけど、頑張りますから!」


ラズベリーさんの手がそっと伸び、グミさんの手にさっと払い除けられる。


(そんな動き台本にないから!)


(だってぇ‥!)


二人が目線で会話。


「今日はラフィの歓迎会だのぅ。お姉さんが可愛がってやるぞ?」


からかい顔でボクを見下ろすブラックカラントさんに、少し照れながらも笑顔で返した。


設定的に変身するまでは普通の女の子だから。ボクは開拓者って設定だけど。移動は徒歩かタクポになる。てくてく歩く感覚は新鮮で。孤児院にいた頃を思い出していた。


(開拓者になってからは短い距離しか歩かなくなったな。直ぐにブレードランナーを使っちゃう。)


駅前まで歩く道のりは徒歩15分。その間は雑談配信みたいな形で4人で話題のリレートークを回し続ける。


「新しい仲間に!かんぱ〜い!」


ラズベリーさんの掛け声でかち合うオシャレなグラス。学生街なだけあってリーズナブルな値段帯で、SNSで映えそうないい雰囲気のカフェ。まずはお店の宣伝から!


タカダタウンの駅前徒歩2分。木管楽器をイメージした落ち着く内装の店内はいつも学生さん達で賑わう。『カフェ・クラリネットの音の葉』は木管楽器をメインにしたジャズが耳に優しい皆の休憩所。


「んっ。美味しいです。」


チョコとクリームで白黒縞々な“クラリネットケーキセット”、お値段500円(税込)。好きなドリンクも選べて、女子会がより楽しいひと時に。


「私達もここによく来るんだよ?ほら、駅前だし学校近いし!お気に入りなんだ〜。」


半分台本、R.A.F.I.S.Sが察知した本心。実際によく来るみたい。ここで一番高いセットも1000円くらいだし、開拓者の収入があれば毎日遊んでも大丈夫かな。


「デビルズ・エコーの悪事を放っておけません!ヤマノテシティに来たのですから、お世話になる以上平和を守りたいです!」


起立っ!宣言っ!前半は台本通りだけど、後半に追加したセリフはボクの本心からくるアドリブだった。ヤマノテシティに来て賑やかな毎日を送って、好きな街だなって思えたから。ボクの手は小さいけど、守っていけたらいいな。


「ラフィったら。口元にクリーム付いてる。」


笑うグミさんの前、パッと動いたラズベリーさんに口元をハンカチで拭われてしまった。あう。格好付かないよ。


「一緒に平和を守って行こう!だって私達は魔法少女なんだから。」


人差し指を口元に立ててこそっと言うラズベリーさんのウインクはどこか無邪気で。


そんな時、外が急に騒がしくなった。


しゅぽん、と姿を表す宙に浮いた小さな白猫がボクの肩を叩く。キャウルンさんは慌てた風に捲し立てた。


「デビルズ・エコーが現れた!!早く変身して迎え撃とう!ラフィ!ラズベリー達とエンジェルスピリットを共振させるんだ!!」


キャウルンさんは仕事とオフを完全に分けるタイプだから面識が浅い。マスコット枠だけど意外と出番が少ない。メインは開拓者同士のプロレスだからか、戦闘に参加しない役回りのキャラの扱いは良くなかった。


確か浮遊のマギアーツと転移のマギアーツを駆使する獣人族だっけ。身長様々な種族だけど、こんなに小柄な方も居るんだってキャウルンさんを見て初めて知った。


「いけないっ!行くよ、ラフィくん!」


「はい!」


皆でお店を飛び出す!自動で口座から食事代が引き落とされる!経費だから後で補填される!そして皆で声を合わせて!!


「「「「エンジェル〜!チェンジッ!!」」」」


ボク達の姿は眩い光に包まれ、展開されたARのカーテンの中衣装を着替える。ボクは元々着ている強化外装を登録しておいた衣装の外見に変更するだけだから楽ちん。ラズベリーさん達は短い時間の中、学生服を脱ぎ捨て収納から魔法少女の強化外装を呼び出して自動着衣していた。学生服は自動着脱に対応してないんだ。結構忙しそうだった。


カーテンから出たボクは王子様風衣装!水色と白のフリフリが気になるし、カッコいいより可愛い系なデザインだけど。両手には星空を思わせるキラキラデザインの二丁拳銃!名付けて“スピードスター”!


キラッ☆とウインクをカメラに送って変身完了。ちょうど駅前、観客達が見上げる先でビルにしがみついた巨大なゴリラが大声で吠えていた。


このヒーローショーのスポンサー、ギャラクシー・トイズの最新技術。繊毛AIによって自立して動く巨大なお人形さんは、その頭にデビルズ・エコーの悪の使者を乗せていた。


「アッハッッハッハ!!さぁ行きな!デビルズゴリラよ!ヤマノテシティ中にバナナの皮をばら撒き、人々の安寧を奪ってやるのさ!」


楽しげに声を上げるヤミヨさんの元へ一気に駆ける!ラズベリーさんの放ったマジカルライフルの魔法弾がキラキラと、ゴリラのおでこを弾いて体勢をぐらつかせた。


お人形さんだけどそれなりに頑丈に作ってある。トイ・ウェポンで攻撃する分には簡単には破損しない。振り抜かれた腕の間を潜って頭頂部へ。


待ち構えたヤミヨさんは手をヒラヒラさせて笑っていた。


「魔法少女のお嬢ちゃんと、可愛いラフィくん。私達の計画を邪魔する気かな〜?」


デビルズ・エコーの悪の使者は、ヒトの持つ悪の心がデビルズスピリットに触れて暴走してしまったダークサイド。社会を混乱させ、悪の道を突き進む事に至上の喜びを感じる可哀想なヒト達。


社会悪を極め公益性を踏み躙る悪を、正義の魔法少女は許さない!


「させないよ!」


グミさんが拳にはめたマジカルナックルを振りかぶって突進。しかし拳は突然現れたもう一人の悪の使者にいなされてしまった。


「マモン!!」


「掛かって来なさい、魔法少女達。ラフィは後で相手してあげる。」


扱うトイ・ウェポンは黒塗りでトゲトゲカッコいいギター。掻き鳴らせば指向性の音圧が魔法少女達を吹き飛ばす。


「はぁい!ステージはあったまって来たわよぉ!!」


「今日こそやっつけちゃうんだから!」


ビルの谷間で激突する魔法少女達を背後に、ボクはR.A.F.I.S.Sを本格起動させてヤミヨさんへ向かい合う。


ヤミヨさんの使うトイ・ウェポンは“何でもアリ”。複数種の近接武器のトイ・ウェポンバージョンを収納に隠し持っていた。


「じゃあ、始めましょうか!」


収納から取り出すと同時に突き出された槍の穂先はボクを逸れた。スピードスターから撃ち出された魔法弾が、穂先を弾いて狙いを逸らしていた。突く動きは最小に、より激しく。


僅か5秒間に10回も突きがボクを狙い、手首の動きだけで撃ち出した魔法弾が穂先を弾き続けた。そして最後の一撃を軽く飛び上がって躱し、ラビットT-60A5を軽く駆動して真上に飛び乗る。穂先がひん曲がってぬいぐるみの頭にブスリ、次いで飛び掛かったボクの蹴りを柄で受け止め後方に飛び退いて衝撃を殺していた。


ヤミヨさんは槍を収納にしまい、取り出したヌンチャクで反撃を。軌道を予測し辛い不規則な動きで翻弄し、放ったボクの魔法弾を叩き落としてしまう。


「ほらほら!もっと強く当たっていいよ!お姉さんが受け止めてあげる!」


前へ!とボクは飛び出した。ヌンチャクをスピードスターで直接殴り弾き、そのまま肉薄したままヌンチャクと銃身での弾き合いを加速させていく。

スピードスターの銃種はいわゆる“殴り拳銃”。打撃や刺突による近接格闘戦に対応した、非常に頑丈な作りの銃だった。衝撃で曲がらず暴発せず、一般的な拳銃と比べ長めの銃身が使い易い。

ヤミヨさんの手が突然無手になり、投げ捨てたヌンチャクの代わりに青龍刀が握られていた。


対するボクもスピードスターをS.S.Sに仕舞い込み一瞬の無手。

振り下ろされた青龍刀を白羽取りで押さえ込み、S.S.Sから覗いたスピードスターの銃口が至近距離でヤミヨさんのお腹を穿った!


直撃。


「うわっ?!」


体勢を崩すヤミヨさんから青龍刀を奪い取り、その間もS.S.Sから連射したスピードスターが、何発もヤミヨさんのバリア装甲に直撃を入れてヒビを入れていた。


青龍刀を投げ捨てるボクは両手に再びスピードスターを。ヤミヨさんも怯みながらも収納から2mはある棍を。


「そろそろ交代だのぅ。」


何処からか声がした。


ブラックカラントさんの得意なマギアーツは“相転移”。座標を捉えた二つの物体の場所を入れ替える。本来座標の把握が難しくて、中々決まらない技だったらしいけど。R.A.F.I.S.Sに繋がれた今なら。


ヤミヨさんの目前にラズベリーさんとグミさんが、マモンさんの目の前にボクが相転移する。


「えっ?!」


驚いた顔のヤミヨさんは、ラズベリーさんの射撃で棍を取り落としグミさんの拳が直撃してしまった。


「あらっ?!」


マモンさんのギターを蹴り上げ、スピードスターを至近距離から連射した。動揺が生んだ隙に叩き込み、苦し紛れに鳴らされたギターの音圧をラビットT-60A5の軽い駆動で飛び退いて躱す。ウサギのように飛び回るボクはマモンさんの周囲をぐるぐると回って、四方八方から魔法弾を叩き込んだ。


「そうこなくちゃ‥!」


ギターを構えたマモンさんはボクに狙いを定め‥ボクとマモンさんの場所が相転移で入れ替わった。四方八方から攻撃されたマモンさんはその場から殆ど動けず、相転移の座標把握に捕捉されてしまっていた。ボクは初めから真後ろにスピードスターを向けていて、マモンさんは無防備に背を向けてしまっている。


バリア装甲が破壊されて転がるマモンさんは悔しげに。だけど、小声で「ナイスファイトよ。」とだけ言って黒黒しいエフェクトを残して消えてしまった。


ヤミヨさんが倒された情報がR.A.F.I.S.S越しに伝わってくる。スッと影から現れたブラックカラントさんとパチっとハイタッチ。今回はブラックカラントさんの相転移を主軸に戦ってみようって作戦会議していたんだから。


敢えて目立たないよう潜んで貰う事で存在を希薄にし、ここ一番で相転移で刺す!


ゴリラのお人形さんは戦いに巻き込まれて既にボロボロ。何度も流れ弾を大きな体で受け止め、ビルにくっついたまま機能停止していた。


「勝ちました!魔法少女の勝利です!!」


皆でオーっ!と声を上げてヒーローショーは幕を閉じた。


モモコさんからのお仕事第二弾終了。ボクのヒーローショー参加は予定がいっぱいで不定期になるかもだけど、出来るだけ顔を出したいなって思っていたのだった。


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