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162、常識と現実の狭間で倫理が揺れる、ここは道徳に対して冒涜的な童話の世界

「あんたは私の子じゃ無い!国に産まされただけなのよ!どっか行ってよ!!」


孤児院にセツナを押しやった母親の別れ際の最後の言葉。その一言がセツナを絶望の淵に立たせた。踏み外した先はヤマノテシティの闇。類稀なる銃の才能を持って産まれ落ちたセツナは、その腕で闇の中から這い出す。


自力で掴んだ自由と金が、セツナをこの地獄の戦場へと導いた───





不定期に光学迷彩を纏って透明化するイルシオンが、ラビットT-60A5の出力で急接近したボクの通りすがりに絡みつく。イルシオンの動きを読んで動くセツナさんは、小柄な体をイルシオンの間に滑り込ませて銃を撃つ。


R.A.F.I.S.Sの接続をほぼ完全に絶ったセツナさんの動きを先読みは出来ない。バリア装甲で受け流しつつボクも反撃していた。


民家の屋根の上に着地。ブレードランナーに履き替え、その場で不規則に踊るように駆動すればイルシオンの動きもより変則的に。何度もセツナさんのバリア装甲に掠ってラインレーザーが削っていた。


近距離の不利を悟って距離を離すように動けば、紫電M10をS.S.Sから覗かせながら後を追った。紫電M10、フェンリル共に手元にあるのは1丁ずつ。虎薙は全部あるけど至近距離じゃ無いと当てられない。アレをすれば‥当てれるけど射程短いし隙を窺わないと。


セツナさんと撃ち合いながら童話の世界を猛速で駆けていく。ガラスの尖塔に二人で突っ込み、キラキラ眩い室内で紫電弾とマグナム弾が交差した。イルシオンで全方位を薙げば尖塔の先端が灼け落ちてズルリとずれる。飛び出したセツナさんへブレードランナーで蹴り掛かり、互いの蹴りがかち合った。


セツナさんの強化外装はクラスB規格かな?多分出力は同じ。それに性能も億単位の高性能だと思う。


光学迷彩で姿を消したセツナさんが、一瞬で間合いを詰めて至近距離で銃口をかざした。


タマさんから代表的な駆動魔具について教えられていたけど、多分エアキャットだと思う。ラビットシリーズと同じ方向性だけど会社は違う。最大速度と一回の駆動での移動距離が低い代わりに、より小回りの利く市街戦特化の駆動魔具。


最大速度は瞬間時速100km。MODとかで改造していれば150km前後出る。ラビットT-60A5で慣れてるから目で追えない速さじゃないけど、こまめにブレードランナーと切り替えて間合いを調整してきていた。


戦闘中に2種以上の駆動魔具を切り替えながら戦えるヒトは間違いなく達人の域にいる。


『だってさ。操作感覚コロコロ変わるのよ?普通の脳みそしてるやつじゃ持て余すわね。1種類しか使えくても強い奴は強いしね。』


タマさんが言っていた。


ミスリルシールドを取り出し、構えたままラビットT-60A5で真正面からタックルを浴びせた。EXマグナム弾で撃たれてもミスリルシールドは簡単には貫けない。


ボクの次の行動を回避と読んでいたせいか、一瞬反応の遅れたセツナさんは直撃を受けガラスの尖塔に突っ込んだ!そのままの勢いで尖塔を突き破り、街角の廃墟みたいなボロ屋に叩き付ける。


「ひゃああああ?!失礼!!ななな、なん?!」


驚くウサギさんの目の前、頭部から血を垂らしたセツナさんの蹴りがミスリルシールドを蹴飛ばして隙間から転がり出ていた。


「ッ?!」


S.S.Sから突如飛び出した虎薙の先端が6本。ダマスカス鋼の重厚な一撃が、セツナさんの脇腹と左胸を叩き砕いた。逃げ場の無い狭い屋内から、内側から爆ぜるように突き出した6本の虎薙と一緒に外へ放り出される。


シュークリームを叩き潰したかのように、激しい吐血を噴きながら宙を舞う。S.S.Sから紫電M10で狙い撃ちに‥


突然ボクの左腕がバリア装甲ごと砕き破られて吹き飛んだ。肩から下が全部無くなって、衝撃で吹き飛んでしまう。


セツナさんのS.S.Sからゴツいスナイパーライフルが覗いていた。


更に追撃で撃たれた1発をバリア装甲にヒビを入れながら強引に受け流し、S.S.Sから発射したフェンリルの光線がスナイパーライフルの銃口にピッタリ吸い込まれる。0.1秒持たずに破損した音が聞こえ、驚いた顔のセツナさんに紫電M10を発射した。


体が少し欠けた分もっと身軽になった気がする。この感じ‥そうだ。タマシティ防衛戦で片足を失った時に感じたものと同じような。生命の危機に急激に頭が冴え、R.A.F.I.S.Sが研ぎ澄まされるのを感じた。


2丁マグナムから発射された銃弾の雨は、ラビットT-60A5で激しく動くボクを捉えられない。片腕はあっという間に止血され、だけど治癒させるのに割くエネルギーが勿体なくてそのまま。片腕分イルシオンが使えなくても、S.S.Sの紫電M10とフェンリルだけでも戦える。


光線が薙げばその下をセツナさんの体が潜り、蹴り砕かれた大きな瓦礫片のショットガンをバリア装甲で受け流す。だけど瓦礫片を砕いたのは蹴り投げられたラビットT-60A5のみ。ボクの本体は光学迷彩を纏ってブレードランナーの噴射で宙返りして真上をとっていた。


瞬き一つの間にボクを見失い、レーダーに意識が向いたほんの一瞬。真上から振り下ろされたブレードランナーの踵落としが迫っていた。直感で回避しようとして、セツナさんも肩口から右腕を丸々削ぎ落とされる。


お互いの強化外装がボロボロで悲鳴を上げている状態だった。


この短時間に互いにバリア装甲で受け流した銃弾は100発を超え、衝撃で何度も強化外装にダメージが入っていた。むしろこれ程激しく削り合っても互いの強化外装は壊れずに動作している。バリア装甲が不安定でも、ラビットT-60A5の駆動に掛かるGでダメージを負う事は無かった。


転がったセツナさんの片腕は砂煙を上げ血痕を地面に残す。それでもセツナさんは倒れなかった。


顔色を死人のように悪くしながらも、片腕でマグナム弾を撃ち放つ。至近距離のせいで回避し切れずに被弾。脇腹が抉れたかもしれない。


グラついた上体を強化外装が支え切れずに、ボクの体は折れるように倒れ‥


突如セツナさんの胴体が木っ端微塵に爆ぜ飛んだ。


何が起きたか分からない顔で、血煙と一緒に転がっていく。


片手に装着したアウロラが、S.S.Sで取り出した虎薙を反発のマギアーツで射出していた。それは凄まじい威力のパイルバンカー。射程が短いし狙いの正確性に難があるけど、この距離なら問題なく当てられる。


セツナさんの壊れかけの強化外装は、音速かそれ以上の速度で発射されたダマスカス鋼に吹き飛ばされたのだった。


地面に倒れ伏すボクは血溜まりの中、エンジェルウイングを展開する。


こんなに大怪我するのは初めてだった。ボクは強いんだって自信があったけど、ヤマノテシティにはもっと強いヒトも沢山いるのかも。戦いが終わった後になって驚く気持ちが追い付いてきて。でも何故か恐怖心は無かった。抜け落ちたみたいに。


大量のプチフィーとミニフィーの制御で演算容量に大分負荷が掛かっていたり、武器の殆どをミニフィー達に預けた状態でも戦えるって思ってしまった。


エンジェルウイングが急速にボクの体を癒し、欠けた場所を埋めていく。強化外装が自動で修復し始め、機能不全ながらも見た目だけは元に戻っていった。


一歩間違えたら死んでいたかもしれない。死んだらどうなるのかな?


一瞬お母さんの顔が浮かび、だけど300年先までご先祖様達のお世話をするように頼まれた事を思い出す。‥今日だけでボクは何人未来へ続いていた筈の血を途絶えさせたのだろう。


何が正しいかは分からない。弱肉強食のこの世界で、清く正しい聖人として振る舞うにはもう血で汚れ過ぎてるような。心が罪悪感を感じない分、ボクは少しの間考える。答えは出ないのは知ってる。でも考えなくなるのはヤ、だな。


これはアリスさんの世界を守る戦い。チズルさんも部下を守る為に戦っている。平和な倫理観が齎す正論が通じない世界。ここは童話の中の世界なのに、その世界を守る戦いは余りにも道徳に対して冒涜的だった。


光と愛と希望に溢れたこの世界の住人は毎日楽しく踊って笑い合う。

大半がバラバラになって転がり、モノとして使い捨てられた。


暴力は犯罪だ!殺人者は死刑!消えていなくなれ!!

組合法がやむおえない突発的な戦闘行為に対する法責任を免責する。


銃で撃たれた、痛い。血が怖い。

強化外装が鎮痛して直ぐに治療する。自分の血なのに他人事。


常識と現実の狭間で倫理が揺れる。


なんとなく、タマさんの顔が見たくなった。ブランさんと孤児院の皆も。モモコさんにもまた会いたい。


痛みのない不条理な死が連鎖するこの世界に、またボクは立ち上がった。その片目に演算陣を浮かべたまま、紅い目で崩れかけた城を見上げた。

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