160、大人は幻想を忘れて金に染まる、踏み荒らされた秘密基地の住人達は銃を手に取った
お城の惨状は直ぐにチズルさんへ伝わって来ていた。
「あの野郎!!裏切りやがって!ウチを売ったな?!」
ゲイボルグ内の内紛が起きたみたい。すっごい剣幕だけど、ここからどうやってお城まで行けばいいかはアリスさんしか知らない。だけど、アリスさんに強く出る事が出来ない。詳しい事情は分からないけど、管理者権限を持っているアリスさんは別の事で慌てていた。
「お城で銃撃戦ですって?!そんな事したら壊れちゃうじゃない!でもどうしたら‥!!」
この世界で管理者権限を持つアリスさんは強力な力を持っている。でも、それだけじゃ本気の傭兵達と戦うのは難しい。だって。
「ウチを送ってくれ!ウチがなんとかするから。アリスはここで待ってればいいんだよ!」
「貴女一人送った所で何の意味があるのよ!言うこと聞かないなら貴女だってりんごに‥!」
言い終わる前にアリスさんのこめかみに銃が当てがわれた。驚いた声で後退るも、胸ぐらを掴まれてチズルさんの鬼の形相を目の当たりにする。
「自分だけの世界で遊ぶのに強化外装なんて着て来てないよなぁ?ウチをりんごに変えるのと、脳みそぶちまけるのどっちが早いか試してみるかァ?!エエッ?!」
真横から迫ったイルシオンが一瞬で銃口前に差し込まれ、驚いたチズルさんの脇腹がブレードランナーで蹴り飛ばされた!涙ぐんで尻餅をつくアリスさんの前、ボクはR.A.F.I.S.Sを起動して背中で守る。
「落ち着いて下さい!ボクはアリスさんを救う為に来たんです。アリスさんを攻撃するのなら‥!!容赦しません。」
展開したユリシスから紫電を構えたミニフィーが10体飛び出し、チズルさんの前に散会した。
「邪魔するな!部下が全員城にいんだぞ?!ウチはここで殺されるのを見てるだけでいろってか?!」
「だったら管理者の私が行くわよ!アイツら全員りんごに‥!」
「アリスが行ったって死ぬだけだ!管理者が死んだらそれこそ大変なんだぞ!」
管理者が死ねばこの世界の管理者権限が誰に飛ぶか分からない。多くの非正規MODが入り、不明な手段で大量に侵入者が入って来ている以上動作性が疑わしかった。
「‥アリスさん。どうしたいですか?ボクはアリスさんの為に来たんです。遠慮は要りません。」
一瞬死に直面したショックに震えるアリスさんは立ち上がれずにチズルさんを睨む。チズルさんは涙ぐんで膝を突いた。そしてアリスさんに突っ伏して懇願する。
「お願いだ!!送るだけでいいから!!お前はそこで待っていろ!これはゲイボルグの問題だ!お嬢様は首を突っ込むんじゃない!」
アリスさんは複雑な顔で考え込んだ。
二人の関係は分からない。だけど、仲が悪いって感じはしなかった。少しギクシャクしつつも、近くて遠い距離。距離感の掴み方が難しいっていうか、慣れてない感じ。
「チズルさんとはいつからのお付き合いですか?」
「一月前よ。FDゲームで知り合ったの。今回の侵入騒ぎ、狙いは私じゃないの?仕事で私に寄って来たんでしょ?」
アリスさんの棘のある声に、チズルさんは観念したように。
「‥そうだよ。でも今回の侵入は何も知らねえし、ウチはゲイボルグに裏切られた。城の部下が殺されたんだ。ウチを探してるってな。」
「私にお友達が居なかったのも知っててやったの?」
「そうだよ!!仕事ってのはそういうもんなんだよ!」
歯軋りする音が小さく聞こえる。
「それで一緒に遊んだりしましたか?」
ボクの声にアリスさんは、
「一緒にゲームやって、この世界に招待してからは色々やって‥」
「管理者権限で散々脅されたがな。」
「だって貴女が私をバカにするからよ!対して変わらない癖に胸の大きさとか、身長とか、ゲームの腕とか!」
「だっていっつもふんぞり返っててムカついたんだよ!お友達に対する態度じゃねーだろ!」
「じゃあ教えてくれれば良かったじゃない!知らないわよ!どうすればいいかなんて!!」
思わず言葉に詰まるチズルさん、顔を急に赤くして押し黙るアリスさん。
「チズルさんもボクにお友達になろうって言ってました。お友達が欲しかったのではないですか?アリスさんも、お友達との付き合い方が分からなくて変な関係になっちゃったんだと思います。」
「だから仕事だって。」
R.A.F.I.S.Sから伝わってくる。ほんの少し嘘。それだけが理由じゃない。背中をもうひと押ししなきゃ。
「アリスさんと一緒にゲームをしてて楽しくなかったですか?」
「‥っ。あーっ!なんだよもぅ。認めれば良いんだろ?!楽しかったよ!くそッ!」
その言葉に驚いた顔をするアリスさん。ボクは二人を見回した。
「だったらやり直しましょう!もう一度お友達として付き合い直しです!」
「はぁ?!」
変な声を出すチズルさんを無視してアリスさんへ問い掛ける。
「お友達が困っているのならどうしますか?」
「もぅ‥強引ね。いいわ。お友達の為だもの。お願いラフィ。この世界を救う為に助けて。」
アリスさんがボクの袖を摘む。
「この世界に土足で踏み入って、チズルを泣かせた悪い奴らが許せないの!ムカつく事もあったけど、初めてのお友達と遊んだ世界よ?!どんだけ大切な思い出があったと思うのよ!これ以上好き勝手させないわ!叩き出してやって!!」
「言っとくけど私は行くわ!ここで待ってろなんてナシよ!チズルを泣かせた奴をりんごにしてやんないと気が済まないの!」
「大丈夫です。ボクが護りますから。チズルさんも一緒に行きましょう。童話の国の逆襲の時間です!」
侵入者がどれだけ居るか分からない以上、アリスさんをここに置いて行くのは危ないと思う。ボクがお護りすればいいんだから!アリスさんの急な態度にしどろもどろなチズルさん。
「急になんだよ‥!」
「貴女が私の事をどう思ってようが、私にとってチズルは大事なお友達なのよ!腹を割って話したでしょ?もう誤魔化さない。」
どこか吹っ切れた顔のアリスさんは勇ましく、この世界の主の顔をしていた。
「私が死んだら困るんでしょ?だったらチズルも私を護りなさい。背中を預け合うってやつ!」
「‥くそっ。あー、分かったよ!」
銃の怖さを知って尚アリスさんは前へ一歩踏み出す。降ってかかる大人達の勝手な都合、金が生んだ理不尽、社会が敵になって立ち塞がったような怒り。R.A.F.I.S.S越しに色んな感情が流れてくる。
尖って反抗して、脅威に背を向けたくないと意思は頑なに。頼れるものはなんでも頼って、この世界をただのおもちゃ箱と嘲笑う誰しもに拳を振り上げる。
「アリス!強化外装だ!これ着とけ。ウチの予備品だけど、体型似てるから着れるだろ。‥悪かったな。胸の事とか色々言って。ウチのがぴったりじゃ何も言えねぇや。」
「ありがと。そうね、終わったらこれはそのまま買い取らせて貰うわ。」
「はぁ?」
「記念品だもの。言い値を出すわよ。」
今度は近過ぎる距離感にチズルさんは呆れるも、ボクの肩を叩く。
「焚き付けたのはお前だろ。絶対アリスを護れよ。」
「大丈夫です。護るのは得意ですから!」
ユリシスから次々と出てくるプチフィーの軍隊。
「ああ、どうせなら私も軍勢を貸すわ。」
アリスさんも管理者権限を弄り、宙に開いたゲートから大勢の童話の世界の住人が姿を現した。赤備えの近衛兵な格好をした犬の兵隊さん達、騎士の格好をした剣閃眩い猫達、ドーナツから手足が生えたドーナツ兵がフォークを振り上げる。あっ、キノコの森で襲って来たカメレオンもいる!
「銃に対抗できるか分からないけど、数の暴力は侮れないでしょ。こっちは在庫の繊毛AIが尽きるまでは大量に出せるんだから。」
ルーム内の空間収納で発注があれば即座にメイキング。そしてアリスさんの手元へ送られる。そしてそんな軍団に非正規MODの力で仕入れられていた雑銃を持たせたり、AIを弄って攻撃性を強化したりと仕込みは万全。
並ぶプチフィー、取り出されたエクエス自走機関砲台、紫電やオオワシM100、フェンリルを構えたミニフィー。そしてそれ以上の数の童話の国からやってきた童話の世界の住人達。カラフル賑やかな軍勢は500を超し、その中央の巨大な象に備え付けられた玉座にアリスさんが座る。
「見た目だけは頼もしい軍隊だな。マジで頼りにしてるぞ、ラフィ。」
「皆でお城を取り戻しましょう。」
「出陣っ!不法入国者を退治するわっ!!女王様が直々にね!」
アリスさんの号令で、作り出された巨大なワープゲートが開いた。そしてお城の近郊へ一斉に飛び出していく。
今、サイバーパンクに染まった大人達がファンタジーの鉄槌を受ける時が来た。大人達の勝手な事情で、子供の秘密基地にまで銃を構えて踏み込むんじゃない!!
開いた童話の本の中から銃を持って襲ってくる。金に染まって忘れてしまった幻想を。その姿をもう一度目に焼き付ける為に。




