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156、童話の世界を駆けるサイバーパンク

キノコの森に棲まう怪物、大カメレオンとでも言うべきそれは口の隙間から舌を勢い良く射出した。


上顎がズレる。


ビームシュナイダーが通過した後、頭部の上半分が灼き落とされていた。伸びた舌はブランさんのミスリスウィップで切断。音速で振り払われた液化ミスリルはあっさり舌を斬り飛ばしていた。


ボクの周囲の空間に展開した収納、S.S.Sからフェンリルの銃口が一筋の強烈な光線を放っていた。的確に脳から胴体を貫通したその後ろ、しがみついていたキノコまでも灼き溶かしていた。


サイズ的には中型の怪物と同等くらい。だけどあまりにも手応えが無い。このモンスターは公式MODの、『童話の国の誘いMOD』にて追加されるものだった。


「おやっ!キノコの森の怪物を倒してしまうとは!あなた達はどなた様でしょうか?」


わっ?!足元からにゅっとウサギさんが顔を出して、流暢に話した後お鼻をくんくんさせてきた!もぞもぞと下の階層のキノコ傘を掻き分け這い出したその姿は、まさかの紳士服を着こなし二足歩行。


「失礼っ!勇者様のお名前を伺いたい‥ですが!失礼だが今は時間が無い!ですので、失礼!」


ぴゃっ!と大きな足で飛び出すも、頭をむんずとタマさんに掴まれて宙をバタバタ。少しして進んでいない事に気付いたウサギさんは驚いた顔でボク達を見る。その仕草の一つ一つがコミカルで楽しい。


「いきなり現れて何なのよ。知ってる事全部吐かせてやるから覚悟しなさいよ。」


「そうですね。ラフィ様、今後どれ程長引くか不明ですしウサギ鍋を用意しましょう。では先ずはあなたの生を一本締めで終わらせてやりますか。」


「ひええええっ!失礼!急いでいるので!あのっ!失礼!助けて!」


危険度未知数な任務を前に気が立つ二人から、イルシオンがひょいとウサギさんを抱え込んだ。そしてボクの腕の中へ。驚いて暴れるもクラスB規格の強化外装の出力を上回れる訳がなく。もふっとした撫で心地を楽しむボクを前に観念したみたいだった。


「失礼っ!私めはしがない童話の国の記者、ウサギと申します!最近童話の国への不法入国者が多くて!ですから私めが見つけ次第記事にして注意喚起をですね!」


R.A.F.I.S.S越しにタマさんから殺意が伝わってくる。話を聞くだけ聞いたらビームシュナイダーで頭をさっくりしちゃう気だ。


「あの。ボク達はアリスさんに会いに来たんです。」


事前に確認したアリスさんの容姿を伝えれば、ウサギさんは目を瞬かせる。


「失礼!それは女王様の事で御座いますね!謁見をご所望ならまずは然るべき手続きを‥!まぁその前に城下町へ案内しましょう!一端の記者としてあなた達を記事にしたい!」


どうしよっか?と二人を見やれば案内に従うって素振りを返した。先ずは城下町に着かないと話が始まらなさそうだし。


キノコの森は広大だけど、ウサギさんの指し示した先にある小さなキノコで出来た輪へ。輪の中に踏み込んだ先で強い日差しを浴びる。真夏の日差しを浴びた巨大なひまわりの花の上に立っていた。見渡す限り澄んだ青空の真っ只中。上も横も、全部!


「あっ?!」


ウサギさんが居ない?!今の転移の合間に消えてしまっていた。


「あ〜、なんか頭痛くなってきた。深未踏地とは別の意味で奇々怪界な場所ね。」


「童話の世界ってこんな感じなのでしょうか。光と勇気と愛情で回る世界に最新鋭の兵器を持ち込むのは野暮で御座いますね。まぁ言い始めたら当機の存在自体が一番野暮って事になりますが。」


ボク達の前でひまわりの種達が寝そべって寝息を立てている。ひまわりの種に棒人間みたいな手足がくっ付いていた。R.A.F.I.S.Sが返す反応に生体反応が無い。これもMODで追加されたNPCなんだろうけど‥確かにこの光景を見て直ぐにそう思っちゃうのは野暮かも。


大きく風が吹いてひまわりの花が揺れる。ひまわりの種達が転がり落ちていってしまった。


キャーッ! オチルー ワー ソンナー 


緩い悲鳴がコロコロ転がる。思わず視線で追った先に、初めて青空以外のものが見えた。チラリと見えた下界は遥か遠くだけど、街が見えた気がした。


「飛び降りましょう!」


「はいはい!」


ブレードランナーを起動して3人で一気に飛び出す!


と、何処からか現れた大量のトランプに行手を塞がれた!!


すっごい大きいトランプは雲一つない青空の中、勝手に組み上がって道を作る。振り向けばひまわりの花の姿は何処にも無かった。動揺しながらもトランプの上に着地、速度を落とさずに真っ直ぐに突っ切る。


「夢の中みたいです!」


「ハイファンタジーが過ぎて逆に不気味よ!」


「ステージ移動のイベントフラグが無茶苦茶なのでしょうか。これじゃ入った奴はそう簡単に女王の下まで辿り着けませんね。」


進む程にトランプが絶えず道を作り、赤と黒のクローバー、ハート、ダイヤ‥と景色が目まぐるしい!トランプの橋を渡り、トランプのトンネルに飛び込む。見上げれば薄暗い中に、見慣れたスペードの黒と赤が高速で流れていく。観光だったらゆっくり見て行きたいのに。


そうだ。旅行アプリ、らくとら!に記録されてるよね?後で確認して見返しちゃおっかな?


トンネルの向こう、光が差した先は暗雲に覆われていた。急に横殴りの雨が降りしきり、トランプの道がガタガタになっていく。


突風がトランプを巻き上げ、その中をブレードランナーの青の軌跡が跳ね回って進んで行った。すっごい壮大なアトラクションに巻き込まれた気分。宙を舞うトランプを蹴った先は台風の中へと続いていた。


豪雨が唸る、風が吹く、稲光が空を裂く!


「皆、掴まって!」


ブランさんを一旦イルシオンに収納、タマさんに抱き付き1、2の、3!!


ラビットT-60A5を噴射して台風を貫く矢となった!


雲の上は星空が輝いていた。にっこり笑うお月様がボク達を見下ろしている。さっきまではお昼だったのに、時間軸が滅茶苦茶だ。イルシオンからしゅるりとブランさんが姿を現した。


「幻想的な世界の旅行は如何ですか?」


「楽しいですけど観光に来た訳じゃないですし。あの神殿についたら何処へ飛ぶのかな?」


「泥沼の真っ只中に放り出されない事を祈った方がいいわねー。」


ボクの指差す先、トランプの橋はそのまま天空の神殿みたいな場所まで続いていた。


「「「あー!ニンゲンだー!食べちゃうぞー!」」」


お空に輝く星々にニュッと笑顔が現れ、流れ星となって襲いかかってくる。


「今度は何よ?!」


3M50を抜いたタマさんの苛立ち紛れの掃射が流星群を砕き割った!それでも抜けてくるお星様をイルシオンで灼き砕きつつも真っ直ぐに進む。


『たーべちゃーうぞー?!』


急に背後のトランプを蹴散らして現れた巨大なお星様が、大口を開けて追いかけて来た。パッと見50mを超えるサイズで、3M50で撃たれても怯みもしない。EX弾頭を使ってないとは言え相当タフだ。トランプが次々と噛み砕かれ、その速度はブレードランナーの最高速度に迫った。


「なら砲丸でもお召し上がりなさい。」


振り向き様にブランさんが構えたそれはDeletio(デーレティオー)。1発で大型の怪物にすら致命傷を与えかねない単装砲。中でも大口径の重砲にカテゴライズされる、純白なる破壊の芸術品。


その大口にとんでもない威力の巨大弾頭が発射された。


空に亀裂が入ったような衝撃音と衝撃波を背に、神殿へと駆け込んだ。神殿の奥には水鏡の壁が。その水面に広がる街を見下ろした光景を映す。


足を止めずに勢い良く突っ込み、飛び出した先は案の定大きな“城下町”の上空だった。目の前にはお城が見えて、眼下の街ではパレードが行われていた。


カラフルな屋根色のやや古風な西洋仕立ての街並みは、際限無く飛ばされる無数の風船で綺麗に彩られている。街中から聞こえる陽気な音楽、楽しげな笑い声、童話の中の世界から飛び出して来た可愛い住人達。今が落下中しゃなかったらずっと見ていたくなる風景だった。


R.A.F.I.S.S経由で一瞬逡巡。ボク達の意見はまずは様子見で固まる。このままお城に突っ込んでも状況が分からない以上何が起きるか不明だし、この世界についてもっと情報が欲しい。


多分クニークルスさんもこの城下町の何処かにいる。危険が一杯な世界だったけど、クニークルスさんならやられちゃう事はないと思うし。一人じゃ解決出来ない問題だと判断して、通信が繋がらない中応援を待っているのかも。


「まったく、アイツもこんな依頼を受けるなんて物好きよね。」


「合流すれば情報の一つでも持っているでしょう。」


ブレードランナーを駆動し、空歩のマギアーツで宙を踏みながら着地点を短い時間で吟味。3人揃って人気の無さそうな廃屋の上に着地した。屋根は踏み抜かれ、そのまま床を踏み砕いてやっと地に足がつく。


「ひゃああっ?!」


素っ頓狂な声の正体は紳士服のウサギさん。丁度ボク達が踏み潰した機械?を前に口をあんぐり開けていた。


「お久しぶりですね。無事到着できたようでなにより。で、失礼しますがタイプライターから足を退けて貰っても?」


「あ、はい。すいません。」


ぴゃっ、と退けばぺちゃんこになったタイプライターっていう機械が、ボヨンと軽快なSEと共に膨らんで元に戻る。タマさんはえもいえぬ顔で、


「どうなってんのそれ?」


「どう?とは。失礼、こういうものとしか。失礼しますがこれは商売道具でしてあまり具体的な事はですね。」


そーいう事じゃなくってさ。ぼやくタマさんの尻尾が癒しを求めるようにボクを巻いた。


「対象年齢10歳向けの世界観はスレた大人には厳しいようですね。ラフィ様は楽しんでますよ?」


「ええと、だって。綺麗な場所ですしコミカルっていうか。こういうのも良いと思います。」


ちょっと恥ずかしくなり、両手の指先をくっ付けてしどろもどろに。


「あの!褐色肌のウサギ耳を生やした女のヒトを見ませんでしたか?!長身で、カッコいい感じのヒトです!片目を眼帯で隠してるんです!」


話を進めれば前の話題は流される。タイプライターを忙しく弄るウサギさんは、うーんと唸った。


「昔見たような、ああなんでしたっけ?失礼、あったかな紅茶を一杯頂ければ記憶の奥底から引っ張り出せるかもしれません。ああ、クッキーも欲しいですね。街のお菓子屋さんで売ってた筈ですので失礼ですがそれもお願いします。」


覗いた銃口がウサギさんのお口に突っ込まれた?!ってタマさん?!


「もがっ?!」


「質問じゃなくて拷問してんのよ!サブクエに付き合ってられないっての!紅茶とクッキーの代わりに血と鉛弾でどうかしら?!」


「しれっとラフィ様をパシろうなどとは不敬罪で強制ご逝去の刑に処しましょうか。急にヘンテコ空間に飛ばして自分だけ自宅でのうのうとか万死に値します。」


ウサギさんを虐めないで下さいって!ちゃんとお話ししましょう!


慌てるボクが二人を説得するまでウサギさんは散々振り回され、毛並みがボサボサになってしまったのだった。


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