16、落書きの汚れも疲れも溶かす月明かりの温泉
シャンタルさんの精操のマギアーツ。それは吸収した精力を物に付与して遠隔操作出来るものだった。一時的に生命を得た無数の服がシャンタルさんに呼応して一斉に動き出す。セシルさんは隠変のマギアーツを使う。気配を消し物に姿見を変化させる事が出来るのだ。服に紛れたセシルさんが男の足を攻撃していた。
そしてクロエさんは吸精のマギアーツ。それは自身の精力を流し込み同調させた物を介して生物から精力を吸収する物だ。シャンタルさんに操られる無数の服は同時にクロエさんの食指でもあった。そしてボクの伸ばした巻物を天井に隠して待ち伏せ罠完成。巻物内にはタマさんに沢山雑多で安物の銃器を予め詰め込まされていた。
「数撃ちゃ当たるでしょ。」
だなんて言って渡されていたんだ。結果的に活躍したけど、やり過ぎちゃったような。し、死んじゃったかな。
恐る恐るって感じに物陰から出て来たボクらが生首になって転がる男を見下ろす。首からは出血が無く、何らかのマギアーツで止血済みになっている。これが前に聞いた生命保険によるものかな?首だけになっても暫くは生きていけるって聞いてたけど、実際見てみると不思議な感じがした。
ほっと胸を撫で下ろすもこの後どうしたらいいか。まずはビルを脱出しないとね。
そんなボクの襟首をクロエさん達の伸ばした指先が摘んでくる。あう、嫌な予感。
「どこにいく気よ?沢山精力使っちゃったんだから勿論補充させてくれるわよね?」
「そうだね〜。ラフィって何だか癒し系だし、精力がどんな味がするか気になるんだよね。」
「‥‥吸わせて下さい。」
そう言われても。
「変な事はしませんよ?恥ずかしいのはヤ、です。」
どうしよう。でも減った分はなんとかしなきゃダメだよね。でも、会ったばかりの女の子と変な事は‥‥
悩むボクにお構いなしに3人は抱きついてきて、ふにふにとほっぺにキスをされてしまう。
「あっ、やっ、うう。」
恥ずかしいけどそれくらいなら?うう、ふわりといい匂いがして頭がぽぅってしちゃう。それに力が抜けるし、でもその分だけ恍惚とするような快感がじわりと広がっていく。むずむずする‥‥うう。
「ふふ、ラフィの精力って不思議な味ね。甘くて心が溶かされる感じがするぅ。」
「蜜の味がするね。クセになりそう。」
「おいしい‥‥もっと。」
好きにされるボクは何だか気持ちよくてふにゃふにゃ。その合間にもこっそりと3人の指先が服に手を掛けていて。恍惚とした顔で暗がりを見つめるボクはその向こうから誰かが歩いてくる事に気付いた。
「おや。お取込み中ッスか。でもウチのラフィ助に手を出すなんて命知らずなサキュバスっス。」
綺麗な白髪を揺らしながら姿を表す一人のスーツの女性。それは見知った顔で。メリーさんは手元で弄っていたそれをボク達の前に放り投げた。
「仕掛けられていた爆弾ッス。何処の企業か知らないスけど大胆な事を。」
爆弾?!ぴぃい?!とその場で跳ねるボク達にケラケラとメリーさんは笑う。
「ウチが弄ったからそれはもうただの鉄屑ッスよ。で、テロリストを倒したラフィ助のお手柄を祝う前に。」
片足で床を軽く小突くメリーさん。すると黒い稲妻のような閃光が一直線に、地を這い右側に取り付いていたシャンタルさんへ向かう。
ボクはメリーさんの得意なマギアーツを知っていた。それは触れたモノの形状を自在に変える変形のマギアーツ。物体に沿って這うように、マギアーツの影響が黒い閃光を放って広がっていく。
形状を歪める破壊光の魔法をマギアーツ化した物って聞いた事がある。太古の時代に魔族の英雄が使っていた魔法も、この時代では習熟すれば極論誰でも使えるものとなっていた。だけど、それを実戦レベルで使いこなすにはとんでもない量の訓練とセンスが必要で───
閃光の通った部分が突然ぐにゃりと変形し大きく波打つ。吹き飛ばされたシャンタルさんは、背中から生やしたコウモリのような羽をバタつかせ、宙で体勢を立て直した。同時にボクを抱えてクロエさんとセシルさんがあたふたと逃げ出す。
「ヤバい!背広組だ!逃げろ〜!」
「あのっ?!待って下さい!逃げなくても!」
抵抗したけど力が抜けて上手く動けない。だけどメリーさんは慌てず楽しげに笑っていた。
「追いかけっこッスか?」
驚愕の声を上げてクロエさんが立ち止まる。迫り上がった床が壁になり退路を塞がれていた。
隣を走っていたセシルさんの背中に飛び蹴りが刺さった。声も出さずに伸びるセシルさんは白目を剥いて転がってしまい、背後を狙うシャンタルさんの腹部に迫り上がった床の一部が刺さる。
一瞬の嗚咽を残して転がるシャンタルさんに脇目も振らず、メリーさんは袖下から伸びた黒い棒をボクを抱えたままのクロエさんに突きつけた。
変形のマギアーツによって自在に姿を変える液化アダマンタイトは瞬く間に姿を変え、螺旋状の針となってクロエさんの目の前ピタリと止まる。
つ、強い。メリーさんが戦う所は初めて見るけど、あの3人組が一瞬で蹴散らされてしまった。
「おたくらは開拓者じゃないッスね?特別指定亜人都市在留パスポートのご提示を。」
ふぇっと涙目になったクロエさんはボクを離し、慌ててパスポートを取り出した。
「あー、このパスポート期限切れッスね。」
「そんなわけないでしょ?!」
ポンっと投げ返されたパスポートには期限が2001年と記されていて。それって何百年前ですか?!もしかして。
「変なマギアーツで弄ったでしょ!こんなの嘘よ!」
「アハハ、まぁこういうのは都市警察のお仕事ッスから。ウチはラフィ助を回収しに来ただけ。まぁ見つかる前にとっとと退散するッスね。」
「問題になるわよ!」
「あはは、不干渉権があるッス。」
不干渉権と聞いたクロエさんはグッと言葉を詰まらせ、悔しそうに地団駄を踏む。それは亜人の人権を否定する言葉。ある筈の人権が蔑ろにされてしまう悪魔の言葉。
軽薄な態度でボクを抱き上げたメリーさんはさっさと立ち去ってしまう。ハッとしたクロエさんも伸びた二人を抱き起こしてその場を離れたようだった。
先程の騒ぎの起きたビルを離れ、メリーさんに連れられて適当なカフェに入っていた。タマさんにもスマイルで連絡したし、直ぐに来るそうだ。その間小休憩しながら今後のお話をって事だった。
「変なのに攫われて、攫われた先でテロ事件を未然に防ぐだなんてラフィ助はやんちゃッスね。」
「あう。あのビルは大丈夫ですか?随分壊されちゃいましたけど。特にメリーさんのマギアーツで。」
ジト目のボクの視線を笑って流すメリーさん。
「都市の構造物は復元のマギアーツ組み込まれてるッスよ。放っておけば直るッス。」
結構がっつりボコボコにしちゃってたけど大丈夫なんだ。ホントかな?
「事件は都市警察に通報しといたから後始末はお任せッスよ。武装してても無力化済みの首坊主はチリトリ持ちが回収するべきッス。ラフィ助にもウチが適当に事情聴取をしたし面倒はこの程度でいいッス。」
メリーさんはいつも通り適当な感じで。だけど表情を明るくして続けた。
「それよりサキュバス達はいなかった事にした分、ラフィ助一人で解決したって事になったんで。開拓者じゃないッスけど特別褒賞を貰えるんじゃないッスか?」
そうなの?
「うーん、何だか受け取るのは気が引けます。」
次にクロエさん達に会ったらその時渡そう。一緒に戦ったんだから報酬も等分しないとね。
ボクの前に出されたゼリーケーキがお皿の上で揺れる。
「ウチからのお祝いッス。あ、有名人になったラフィ助とのツーショットもいいッスよね?」
今日食べるケーキ2個目‥‥美味しいからいいけど!ふわっとしたクリームで着飾った緑色のゼリーの中にはフルーツが詰まっていて。スプーンを咥えたボクは上機嫌に体を揺らしていた。
その後も迎えに来たタマさんと一緒に街中を駆け回り、彩色豊かな絵で街中を彩った。
観光客達が歩道にスプレーで大きな落書きをしている。普段は赤レンガな歩道も、お祭りの最中はホワイトボードに切り替わるのだ。ホワイトボードを埋める誰かの名前、キャラクター、一人一人の創作意欲。ビルの壁面から道の先までずっと続く賑やか楽しいお祭りロードを見下ろしていたのだった。
お祭りの最後の方、ウィッチワークス旅団の皆さんと一緒に空に大きなイラストを描くことになった。箒型の駆動魔具で空を自在に駆ける魔女達は、何個ものタマちゃんを空に描いていく。ボク達も青い軌跡を残して飛び回りそんなタマちゃん達の足元に世界樹の葉っぱを書き足して回ったのだった。
仕事を終えたボク達は、郊外の孤児院付近の空き地に車を出して寛いでいた。車内に接続されたプライベートルーム内に飛び込むなり、ボクの体はタマさんの尻尾に巻かれてお風呂場へ。
「今日工事が終わったのよ。温泉で一汗流しましょ?」
「ああ、アレですね。楽しみです!」
今日だったんだ。ほっぺを汚したボクはもそもそとお洋服を脱ぐ。タマさんと一緒に入るのは恥ずかしいけど、押しの強いタマさんに流されて結局いつも一緒に入っていた。
ドアを開ければそこは湯気立つ大きな露天風呂。見上げれば満月の浮かぶ星灯りが天井を埋め、壁の代わりに外周を埋める竹藪が丸く夜空を縁取っていた。白い砂利道の上に敷かれた石畳みが洗い場に続き、岩に囲まれた露天温泉が隣で湯気を立てている。温泉を挟んだ反対側には開けた中庭があって、そこに和傘の差された赤敷きの長い腰掛けが設置されていた。
「オプションも色々付いてるわね〜。」
タマさんが宙を弄ればふわりと風が吹く。風は温風から冷風まで温度を調整できるみたいで、タマさんはちょっと寒めに設定した。そっちの方がより楽しめそうだしね。照明も昼間のような明るさから、月明かりだけの暗さまで調整出来る。色々試した結果やや暗めに全体を調整。温泉の縁に置かれた小さな灯籠と、月明かりの照明をメインの設定にした。
夜風で湯気の揺れる月明かりの下の露天温泉。雰囲気出るなぁ。見ているだけでワクワクしてきちゃう。
「ほら、まずは洗いましょ。」
タマさんの尻尾に引かれ、ボクサイズの木椅子に座らされる。洗い場も木の匂いがほのかに香る木製で、木組みの屋根まで付いていた。そして驚いたのはタマさんがボクの体を洗い終えると同時に、屋根から降り注いだあったかなシャワーが泡を綺麗に洗い流した事だった。シャワーの機能は屋根に格納されていたらしい。
「あの。タマさん、尻尾を洗いますか?」
ふと思いついて訊いてみた。いつもタマさんは尻尾を最後に洗っていたし、どうせなら体を洗う間に済ませちゃえばいいかなって。するとタマさんは急に顔を赤くし、その後に口元をふにふにさせながらボクの手元に尻尾を添えた。
「優しくしなさいよ。」
「優しく、です。」
濡れていてすべすべする尻尾を手で包めばピクリと反応して巻き付いてくる。毛並みに沿って尻尾を撫でれば、時折背を逸らしたタマさんが気持ち良さげな声を漏らした。
「それくらいにしなさい。」
尻尾を泡立てる事に夢中なボクは頭からシャワーを被ってしまう。滴る水をぷるぷるして払っていると、タマさんに手を引かれ温泉に身を沈めたのだった。
はふぅ‥‥気持ちいい。頬を撫でる冷たい風とお湯の下のあったかな心地良さの調和にリラックス。
「ラフィに尻尾触られてると癒されすぎて、なんかダメになっちゃいそうになるのよね。牙を抜かれるっていうかさ。」
「そうなんですか?えへへ、癒されてくれたら嬉しいです。」
タマさんはぐいっとボクを抱き寄せる。頭の柔らかな感触に羞恥を感じながらもどこか心地よくて。ボクも癒されてる、のかな?でも何だかムズムズするよこれ。
頭をタマさんの脱力した吐息が撫でた。ボクもつられるようにはふぅっと息を漏らし、温泉に日頃の疲れを溶かしていった。
どうせならと中庭の腰掛けで少し涼み、腰掛けの下に付いていた引き戸内から清涼水を一杯飲み干す。タマさんは小さな徳利を取り出し、桶に入れて温泉に浮かべた。
酒気を感じる‥‥熱燗っていうものかな?ボクは飲めないけど、タマさんはちょびちょびと幸せそうに楽しんでいた。
温泉は素晴らしいものだった。だけど居心地が良すぎてつい長々と入ってしまう。お風呂上がりのタマさんは既にカタログを指先で弄っていた。
「ジャグジーとかも欲しいわよね。釜風呂なんかも置こうかしら。」
「サウナもどうでしょうか?水風呂セットであります。」
温泉上がりに二人でカタログを眺めていると、早く開拓者になってボクも稼ぎたいって思う。今回はあくまでタマさんのお手伝いって事でボクの分の基本報酬は無い。だけど色々目立ってパフォーマンスとかも頑張ったから特別手当てが20万円出た。部落での活躍が無かったら大金に感じる額だけど、早くもちょっとだけ金銭感覚がズレてしまったかも。手当のお金で何を買おうかな?
タマさんと並んでソファーに腰を掛けるボクはお買い物の内容に思いを馳せたのだった。
───そこはタマシティを見下ろす、都市最高の見晴しを誇る一室。一仕事を終えたD・バギーは乱暴にドアを開けて、窓から祭りを見下ろす一人の男に笑顔を向けた。
「ヘイ、テツオ。お祭りはどうだったかい?」
「そうですね。まぁ、今回も無事終えられて良かったんじゃないですか。」
立派な身なりの男は景色を見下ろしたまま振り返らず。その声はどこか覇気がなく、疲れたような声色を隠そうともしていなかった。
「オイオイ、来年で50周年迎えるんだぜ?今からテンションアゲてこうぜ!」
「‥‥先日の一件、後処理はちゃんと終わりましたか?」
会話の流れを無視した男は、この時初めてD・バギーへ視線を向ける。先程まで快活だった口調のD・バギーは口をつぐみ、深いため息を漏らした。
「テツオ。そろそろもう限界なんじゃねぇのか?いつまでも隠してらんねぇぞ。」
「ええ、分かってます。分かってますとも。その件については目下検討中ですよ。」
「いつまで検討してんだよ!」
D・バギーの口調に怒気が混じる。常人なら思わず縮み上がって反射的に謝ってしまうような形相を前にしても、ただ無表情に男は見つめ返していた。
「タマシティの運営を支える一番の大黒柱は鉱山業です。ええ、我が社の保有するダンジョンを今失えば結局は都市の運営が立ち行かなくなりますとも。だから、代わりの産業が無いか検討中なのですよ。勿論、現状を維持しつつね。」
「例え都市の人間が全員餌になってもか。」
「そうはさせませんよ。まだしないはずです。話はついてますから。」
サングラスの下でD・バギーはギラリと睨み、そして背を向ける。
「これが最終通告だ。金が足んねえならとっとと運営委員会を降りて、都市の運営権を他の都市の競売にかけろ。タマ生命のメンツなんぞ犬に喰わせちまえよ。こんなクソでかい本社ビルをおっ建てて、無計画に都市を広げちまったのが原因だろ。金と命、どっちを取るかかよく考えるんだな。」
男は乱暴に閉められたドアから目を離し、再び景色に視線をやる。
「そんな事、分かってますよ。分かってます。分かってるのと出来るのとでは違うんです。いくらカズオの忠告だとしても私の会社を手放す訳にはいかないんです。」
言い訳する様な独り言は誰の耳にも入らず消えていく。タマシティ運営委員会会長、タマ生命代表取締役テツオの悩める夜は続いていた。
〜癒し空間・露天温泉〜
購入者レビュー 新規順
【迷ったら買ってヨシ!!】
竹林、休憩所、多機能洗い場、そんでお風呂!値段めっちゃ高かったけど後悔の無い買い物だった。
ウチの可愛い彼との混浴タイムが格段に良くなった!
追加コンテンツのジャグジー風呂を購入予定。サウナも入れちゃおうか。
選べる動物との混浴セットとか、水球温泉プール機能とか拡張性高いのも気に入った。
ー開拓者ランク25・タマ




