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152、ファンシーなお城が囲うスイーツガーデンへ魔法少女は誘われる

翌朝。パンタシアで一晩過ごした後。朝早く今日の9時まで貸し切りにしたレンタルルームに赴く。ラズベリーさん達との打ち上げを途中で抜けちゃった事をお詫びしないと。


「あっ!ラフィくん!おはよ!」


ラズベリーさん達も丁度起きて朝ごはんを作っている所だった。ラズベリーさんお料理出来たんだ!


「ヤミヨの奴からメッセが届いておったわ。昨晩は随分大変だったようだのぅ。」


ブラックカラントさんの声にグミさんも、


「あの後追加で護衛依頼なんてどんだけ働くのよ。売れっ子開拓者ってこんなもんなの?」


あはは‥と苦笑いで誤魔化した。


「まぁまぁ。ラフィくんも無事に帰って来たんだし。はい、朝ごはんのピヨごはん!」


人形に型でくり抜かれた食材にサッと一振り。すると起き上がって少しの間ヒトのように振る舞いコミカルな反応を返す魔法の調味料。旨み成分たっぷりなそれをお箸で突いて反応を楽しむ。


「ラズベリーって“ウゴくんです”好きよね。旨み調味料なら他にあるじゃない。」


「だってウゴくん可愛いし?面白いじゃん。」


「何でピヨご飯なんですか?」


「ピヨピヨ動いて可愛いから!」


目玉焼きの上で寛ぐ人形ウインナーは、海苔と一緒に巻かれてボクの口の中へ。弱肉強食。つい昨夜ヤマノテシティのシビアな闇を垣間見たお陰でなんとなくそんな文字が浮かんだ。


「もし、ですよ。ギャンブルで破産したヒトの家族が、護衛依頼のターゲットに責任を押し付けて攻撃してきたらどうしますか?」


つい、魔法少女達に訊いてしまう。皆お箸を咥えてじっと天井を見た。困らせちゃったかな?


「うーん、難しい質問するわね。いや、護衛依頼優先じゃない?だってその場の正義感で裏切るなんてしたら開拓者廃業よ。」


「現実的な意見だのぅ。正義の魔法少女としては踏み躙られた弱者に寄り添いたいが。」


「ラフィくん‥その。私達は昨晩の事詳しくは聞いてないんだ。辛かったよね。」


ラズベリーさんの声にうん、と頷いた。青龍街は悪。その一言で全部を割り切れる程世の中は単純じゃないって分かってきた。アングルスで色んなヒトを見たし、治外街を支配するマフィアの中にも正義感に厚いヒトも居た。


昨日の出来事は圧が掛かったようにまとめサイトに載ることもなく、このまま世間に知られないまま埋もれていくのだろうか。


そう思っていた矢先。


スマイルのニュースアプリが速報を鳴らした。


『青龍街、違法賭博の温床になっていた?!青龍街オーナー、セイリュウの一人息子が告発!!』


あの後組合警察に身柄を保護されていたリュウキさんだけど、急にどうしたの?もしかして傭兵達とオーナーの繋がりを何処かで知ったのかな?それで自分の命まで狙われたから動いたとか。そうかも。


「青龍街って昨日ラフィが行った所じゃない。違法賭博って何やってたのよ。」


「R.A.F.I.S.Sで特定のお客さんに勝たせるようにイカサマが横行してたのを感知したんです。でも、R.A.F.I.S.Sの情報じゃ羅針盤に記録されないし証拠にならないって。」


「らふぃーずとは便利なものだのぅ。」


「じゃあクロって事なんだよね。摘発されるといいけど。魔法少女の出番はないかな。」


あくまで悪の組織デビルズ・エコーからヤマノテシティを守る為の自警団だしね。そういうのは管轄外かも。


「自警団って‥いや、そうだけどさ。なんか胡散臭い組織みたいじゃない。」


「正義の矛先は敵を選ぶって事よ。魔法と奇跡は法に弱いぞ。」


茶化す態度のブラックカラントさんにラズベリーさんは苦笑した。


今日にはもう組合警察と都市警察の合同捜査が入るらしい。もしかしたらもう入っているのかも。騒ぎに気付いた青龍街が証拠隠滅を図る前に動くと思うし。


それだけの証拠をリュウキさんは持ってたんだ。抜けたがっていたし万が一の備えとして色々確保してたのかな?この騒動は暫く掛かりそうって思った。


「じゃあ、一先ず次のショーまで各々健康第一に開拓者やっていきましょー。解散!」


ラズベリーさんの音頭にはーいっ!と返すボク達のスマイルが同時に鳴った。


『エンジェル・ベリー♡!!の皆っ!ウマミMAX社からの挑戦だ!ヤマノテシティに鎮座する花の古城を調査してきて欲しいんだ!』


ええと。ボクも?今日の予定はなんだっけ‥


「ラフィ様の今日の予定は引き続きエンベリに参加するようにと、シブサワグループからお達しがありました。」


お仕事いっぱいになってから、すっかり秘書みたいになったブランさんがもぞっとイルシオンの中から腕を伸ばす。


「ひょわっ?!」


びっくりしたラズベリーさん達に構わずブランさんの指先がビデオメッセを開いた。


『やっほー。昨晩は大変だったねぇ。』


ボクに手を振るモモコさんの姿に、驚いて跳ねたように姿勢を正す魔法少女達。これは録画だから大丈夫だよ?


『いや〜、ラフィったらすっごい人気でさ。取り敢えず続投してくれるかな?勿論嫌だったら僕から断るよ。でも今日の分はウマミMAX社が大枚叩いてね。ゲリライベントを開催した訳。それだけは参加してくれると助かる。』


『まぁ、ヤマノテシティの観光と魔法少女達と親睦を深めるのを兼ねて行ってきてはどうかな?楽しい場所だから心配しないでいいよ。ほんと、昨日は大変だったのにごめんね。』


ホロウインドウの向こうで片手で謝るモモコさんの反応に、グミさんは呆れた風にしていた。


「モモコ‥様とそんなに仲良いの?」


「あはは‥色々あって。」


今日一日、ウマミMAX社の看板商品、“ウゴくんです”を振り掛けた料理が行き先を示す。‥知っていれば朝食の時間に確認出来たけど、もうお腹の中だよ。もう一回作る?


「いや、羅針盤があるぞ。羅針盤は身辺の映像情報を常に記録し続ける。ラフィが暫く突いて遊んでいた分、何か記録されてるやもしれぬ。」


ブラックカラントさんの助言に従い早速起動。お願い、記録されてて!もう一回朝ごはん食べるのはちょっと。


羅針盤から宙に投影されたホロウインドウに朝食に様子が映し出された。配信カメラで撮ったような俯瞰視点で、気になった場所をズームしたり自由に記録された映像を早送り巻き戻し出来る。


人形のウインナーにズームイン!魔法少女達も情報を見逃すまいとじっと覗き込む。ボク達の視線の先で、ピヨご飯なウインナーは手近な目玉焼きに何かを書き記していた。


「もっと近くで‥!」


視点を真上に変更してギリギリまで拡大する。目玉焼きの上に”ギンザ・フルーツガーデン“と書かれていた。


フルーツガーデン‥気になった時にはブランさんが答えをくれる。ぽん、とホロウインドウが開いた。


「わあっ!フルーツスイーツ専門店?!経費で行っていいの?やった!」


思わず歓喜の声を上げるグミさんに、ラズベリーさんも楽しげに笑う。フルーツガーデンはウマミMAX社が経営してたっけ。ウマミMAX社の子会社にフレッシュスイーツ工房MAXって会社があって、そこが多様なフルーツスイーツ専門店をニホンコク中に展開していた。

ボクは基本的に多忙で予定の隙間を作るのが難しいから、丁度差し込めそうな今日に急ピッチで企画を立ち上げたのかも。ヤマノテシティで長い間生き残ってきた企業なだけあってフットワークが軽い。一瞬の商機を逃さない鋭い目を持っているみたい。


「こういうお仕事は結構あるのですか?」


「そうだのぅ。魔法少女はぶっちゃけ戦隊モノと比べると広報系のお仕事が多めなのは確かよの。前は遊園地のお化け屋敷レビューみたいな事やらされたわ。」


「あはは、怖かったね。バラエティチャンネルみたいなお仕事も多いよ。皆を笑顔にするのが魔法少女なんだし、これもお役目だから。」


「魔法少女のクセに芸人みたいな扱い受けんのはなんか腑に落ちないけど。」


これはアレだ。グルメバラエティチャンネルの生配信のお仕事。ボクもすっかり芸能人!開拓者のお仕事とはなんだかイメージが違うけどちゃんと頑張らなきゃね。


そうと決まればギンザまでGo!


シナリオとしてはウマミMAX社からの挑戦状に魔法少女が受けて立つ!ヤマノテシティにそびえ立つ花の古城を調査する!ってお話。本筋に絡まないサブシナリオ的な。朝ごはんで埋まったお腹を少しでも軽くする為、道中は激しめに駆動魔具をふかしてアクロバティックに突き進んだ!


ギンザタウン。そこはヤマノテシティ有数の芸術と文化の街。ショッピングとリゾートに特化したエビスタウンに対し、ギンザタウンは異質な繁華街となっていた。


KABUKI一座、華美能楽館ではニホンコク古来から伝わってきた”歌舞伎“と ”能楽“を体験できる。特にKABUKI一座はおっきなビル全体が歌舞伎一色で、歌舞伎グッズとお菓子が揃うKABUKIストリートはヤマノテシティの観光名所として有名だ。


他にも星群劇場はニホンコク有数の巨大ホールでミュージカル、演劇、コンサート、お笑いライブまで毎日のように予定がぎっしり。

無数の熱帯魚が泳ぐ大小様々な水槽と、AR技術を組み合わせたAR artアクアリウムGINZAなんて美術館も。

後はシブサワグループの傘下、グループ全体の技術の牽引を引き受けるS(シブサワ).T(テック).C(カンパニー)のマギテック・シブサワヤマノテタウンが有名。

シブサワグループが開発した最新技術を体感出来る、小さな超未来都市って話だった。


どこも時間があったら行ってみたいな。


エビスタウンに引けを取らない有名なスイーツ街、ギンザ・フルーツガーデン。フルーツのスイーツを中心とした喫茶が並ぶ場所。だけど全部同じ系列店で、扱うメニュー毎に専門店がある。フルーツパイ専門、フレッシュパイカフェ。フルーツクレープ専門、キューティークレープ。フルーツ和菓子専門、水菓子甘味処‥って感じ。

ニホンコク各地で展開していた店舗の支店がここだけ大集合!そんなスイーツの遊園地。


開店時間になると平日でもすっごい混むけど、その前にグルメリポートを出来る限り進めちゃおう。普段と違う静かなフルーツガーデンで朝からまったり。カメラの前で寛ぎ過ぎちゃいそう。


「スイーツに釣られて一直線に街を駆ける魔法少女ってのもなんか食いしん坊キャラよね。」


「目をキラキラさせ、口から涎を垂らしながら飛び回るのも愛嬌あってよいぞ?」


「もー!そんなんじゃないって!これはあくまでウマミMAX社からの挑戦状だからね!」


誤魔化すように言うラズベリーさんも、ワクワクを隠せない顔色だった。


「楽しみですね!」


「魔法少女はいつだって負けない!なんだから!挑戦に打ち勝つよ!」


ビル街の一画にドンと鎮座する巨大な西洋風なお城。それはARによってその姿に無数の花を纏っていた。外壁に絡んだブドウの木が身を垂らし、巨大な桃が鐘の代わりに下がっている。現代に幻出したファンタジーワールドに目を奪われながら、入場ゲートの方へと足を向けたのだった。

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