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133、サラリーマンの生涯年収が1着の強化外装に投じられた

ヤマノテシティの到着まであと数日。タマシティの瓦礫の多くがざっくりと片付けられ、復興に向けての準備が進められていた。ボクもスケジュールがスッキリして、孤児院を訪問してモモコさんと細かい孤児院再建のやり取りをしていた。難しい話は分からないけど、共同出資者として顔を見せないとダメだから。


孤児院の皆は仮設住居に滞在している。シティ住人全員分とはいかないけど、住まいが全壊してしまったヒト向けに仮設住居が用意されていた。都市の緊急事態用に備えられた住居の組み立てに数日。何箇所かに分かれて大勢が避難していた。


孤児院の皆もその中の住居2つ分に分かれて過ごしている。正直狭くて窮屈だけど、贅沢は言えないし‥パンタシアは大人数で過ごす事を前提に作られてないから、中に匿うのも難しかった。せめてボクのお金で快適な暮らしを‥と思ったけどサラ先生に断られちゃうし。


「孤児院にはある程度の清貧さが必要です。孤児達が収入の低い家族層より良い暮らしをしていれば相応に妬みを買います。子供に良い暮らしをさせたいからと孤児院に子供を押し込める家庭が出るかもしれません。子供達が健やかに過ごせる環境さえあれば良いですから。」


実際に孤児院の年上の皆は、アルバイトをして贅沢する分を稼いだりしていた。将来お金をアルバイトで稼いでスマイルを買うっていうのが憧れみたいな所があった。


「しっかりした先生だよ。過去に資産に自信のある慈善家が贅沢な孤児院を建てた事があったけど、あれは酷かった。ネットじゃ叩かれまくり、近隣住民の孤児院への嫌がらせも続いて最後には破綻したよ。貧すれば鈍すると言うけど、頑張って働く自分より良い暮らしをする孤児を許せないヒトも沢山いるんだ。」


親が居ない辛さをお金で埋め合わせする事は悪じゃないと思うんだけどね、とモモコさんは言った。


孤児院の皆がボクの武器を見たいって言うから、難しいお話が終わった後に皆の所で披露していた。


ずしっとした紫電M10は高級感ある分結構重い。両手を使っても持ち上げられないヒトも多かった。強化外装を普段から着けてると感覚がマヒしてくるけど、どの武器も結構重いよね。扱いに気を付けないと。


そんな様子をモモコさんがスマイルでパシャリ。ハムハムに今日のボクの活動を上げていた。カメラを向けるとピースしたブランさんが入って来ようとする。タマさんが後ろから羽交い締めに、わちゃわちゃする二人を皆が指差して笑っていた。皆の顔は暗かったけど、笑顔に出来て良かった。




「よっ!」


パンタシアに帰り、呼び鈴の鳴った応接室でソメヤさんと顔を合わせた第一声。元気そうな声で挨拶するソメヤさんはいつものアロハシャツを着こなしていた。アイバイザーに流れるホロウインドウが今日の特価を教えてくれる。


『都市向け開拓者装備一式今なら10%割引!!』


「かっ買います!」


思わずぴょんと飛び付くボクの後ろ襟にタマさんの指が掛かる。


「キリよく2割引しなさいよ。どうせラフィだから6個ずつ纏め買いのお得意様よ?」


「ラフィ様の可愛さに免じて値下げをするのが常識でしょう。」


まだ値段も商品も見てないのに。無茶言って困らせないでって。


だけどソメヤさんは気にせず笑い声を上げた。


「はははっ!じゃあタマがビームシュナイダー50本セット買うんならラフィ分は2割引でいいぜ。」


「はいはい。買うから寄越しなさい。」


放られたケースがタマさんの収納へそのまま消えた。タマさん凄い沢山ビームシュナイダー買うよね。確か使い切りの光線銃みたいな使い方するからだっけ。改造して光線に出来るのはいいけど、1発で内部が焼けて壊れちゃうんだとか。


「意外な手の内ってのは対人戦のキモよ。こんくらいの出費で殺し合いで勝ち上がれるんなら安いもんでしょ。」


タマさんの尻尾がボクの頬を摩った。


「じゃあ早速ラフィに商品を見せるが、その前に。都市内での開拓者の活動について説明するぜ。」


ソメヤさんが開拓者初心者なボクへ分かりやすく説明してくれた。タマさんからも事前にザックリ聞いてたけどちゃんと復習しないと。


都市部では開拓者の戦い方に大きな制限が掛かる。爆発物、一定以上の規格のEX弾頭、一定以上の出力の光学兵器の放射‥つまり都市を破壊しかねない兵器の運用が法で制限されていた。勿論都市の建物はデフォルトで凄い衝撃耐性、抗光学耐性を持ってるからそう簡単に壊れたりはしないし、軽度の破損だったら自動で修復するんだけど。


都市内に怪物が居ない都合上、都市での戦闘は対人戦を想定したものになる。つまりスマートに戦える武器が必要になるんだ。


「そこで!まずラフィにお勧めしたいのは対人制圧用兵器、キャプチャーネットだ。ムラマサ工房製、スパイダーネット。展開したミスリル糸が絡め取って壁に貼り付けにするぜ。クラスC規格の強化外装を止めたいんなら2発は撃ち込む必要があるが、一度捕まえちゃえば簡単に制圧出来る。どっちかというと強化外装を着込んでない暴徒鎮圧用だけど、ラフィにゃ敵が多いだろうし持ってて損はない。」


「一般人が襲ってきても無駄に流血沙汰にせずに制圧出来るって便利よ。ラフィのイメージに血生臭い印象付けたくないし。この前のシブサワの件で馬鹿は大体掃けたけど、ヤバいやつって何処にもいんのよ。強化外装も着てない一般人が弱者の立場を盾に突っかかってきたらこれで捕縛して都市警察に通報すればいいわ。」


大経口のハンドガンみたいなデザインのそれは、白と青で彩られた洗練された意匠だった。都市住まいの開拓者の中でも名が売れたヒトは大体こう言う捕縛系武器を携帯するらしい。開拓者同士の戦いは兎も角、一般人との流血沙汰の事件は悪評が付きやすいんだって。例え向こうが殺意を向けてきていても。


「治外街でチンピラしばく感覚でぶっ倒したら面倒になるの。銃を向けられたら容赦なく頭を吹っ飛ばしていいわよ?それは正当防衛の範疇。でも簡単な刃物鈍器程度なら打撲以上の怪我は避けた方が無難ね。」


ま、アタシは気にせずぶっ殺すけど。


最後にタマさんが悪い顔をする。アングルスの時は犯罪を検知したら直ぐに急行したけど、これからは都市警察に通報する感じになるのかな?


「現行犯の犯罪を止めるのは良いわよ?でも怪我は最低限、スパイダーネットで捕縛、必ず先に通報して現行犯を制圧する旨を伝えなさい。ラフィは見て見ぬ振り出来ないでしょうから。」


「はいっ!気を付けます。」


スパイダーネットは‥ミニフィーと使う用に6丁あれば十分かな?お値段1丁当たり20万円。ミスリル糸の値段が殆どだけど、最低でもこれじゃないと強化外装持ちを制圧するのは無理って話だった。装弾数は5発で意外と連射が効く。マガジンも多めに買ったら全部で170万円くらいになっちゃった。今は沢山お金あるから大丈夫!


「ラフィ様。金銭感覚が狂いそうですから補足しますと、新人開拓者の初期投資額が凡そ150万円前後となります。勿論開拓者訓練校の学費は別ですが。」


あう。そう考えると捕縛用だけでこんなに‥高い買い物をした気分。ううん。値引きされてるんだし得したんだから。


「さてさてお次だ。懐に余裕の出てきた開拓者がまず何を買うか?それは当然、強化外装だ!質の良い強化外装はそのまま仕事の生還率に直結する。これから深未踏地を目指すんなら中途半端な性能のもんはナシ!最初にデカい買い物しようぜ!」


ソメヤさんも高級な装備品のお披露目にテンションアゲアゲ、ボクも思わず目をキラキラさせてうずうずしちゃう。


パッと宙にホロウインドウが投影された。そこには1着の強化外装が。いつも着ている海兵さんのセーラー服がブラッシュアップ!袖先と裾が薄らと青く光り、青く光るラインが袖先から肩口、首下から真っ直ぐ正中線に伸びている。

デザインは海兵さんのセーラー服を踏襲しているけど、ワンピースタイプだった。孤児院に居た頃に着ていたお洋服と同じタイプに懐かしさを覚えちゃう。


「あのっ!飛んで跳ねたりしたら見えちゃうんじゃ。」


「男性用スパッツもセットだから気にすんな。デフォルトのデザインはコレだが見た目は好きに弄れる。」


ワンピースなんて、女の子みたいかな?デザインは洗練されてて、女子服って雰囲気は無いけど‥質感もすっごい豪華な感じで、前のとは素材からして違うって分かった。


「前の強化外装は快・活・堂製だったが、生憎あそこは超高級品は取り扱ってねぇ。こいつはあの超高級品ブランド、龍玉製の強化外装オーダーメイドタイプだ。事前に送って貰ったラフィの羅針盤の実戦データを元にデザインされた一品だ。」


「出力クラスB規格、高速移動時のG緩和性能がずば抜けている。高精度の弾道予測AIが直撃以外の弾丸を傾斜バリア装甲で受け流すが、今着てるもんとはAIのレベルが違う。雑銃なら直撃でも全弾受け流すし、都市産のモンでもハンドガンの汎用弾頭程度なら直撃を躱せる。」


バリア装甲の高度マニュアル操作対応、空気中の魔素を吸って高速・高還元率エネルギー自動補充機能、既知の毒素・悪臭に対する空気清浄機能搭載。


数日分の酸素生成システムのお陰で長時間の真空地帯での活動可能、バリア装甲は何層にも分かれた、複合装甲型。高温、極低温、高電圧にも強い耐性があって、抗光学装甲も安心の2重バリアで防いでくれる。長時間照射を受けなければそう簡単には貫かれない。


光学迷彩・レーダージャミング機能も付いてて便利だし、顔や声を隠せる匿名化システムもある。


中でも気になった機能が二つ。


衣替え機能。これは強化外装の見た目をその場で変形出来る機能。予め登録しておいた見た目なら即座に、その場でスキャンした衣装にも少し時間を掛ければ変化出来る。勿論サイズや構造の都合上限界はあるけど、その場のTPOを弁えた衣装に変化させるくらいなら簡単。気分でオシャレも出来ちゃう。


もう一つは全身の周囲1m範囲に大容量収納のマギアーツ空間展開機能(空間収納システム/Space storage system)‥S.S.Sが面白そう!今まではイルシオンや腰の本から武器を取り出してたけど、これがあればもっと効率率良く武装を展開出来る。今までの戦いで腰回りの本がボロボロになってきたし、丁度いいかな?腰の本は引退時みたい。


「ここに保証期間内無料点検、修理サポート保証5年分のおまけ付きだ。」


今着ているものとは明らかに次元の違う超高級品。お、お値段は?!


「お値段1億9880万円!割り引いてこの金額だ!今の懐事情ならギリ買えるだろ?」


きゅう‥?!こここ、口座に残ってるのが後1000万円くらいに‥!あれ?そんなに残るの?それだけあれば当面お金に困らないし。少し前は口座に3億円以上あったのに、これを買ったら残り1000万円。凄いお金の使い方だなぁ。


「買います!」


ちょっとやけっぱちな気分で大枚を叩いた。1000万円。凄い大金の筈なのに何故か口座がスカスカに見える。これが開拓者の金銭感覚なの?開拓者は世間から妬まれやすいって聞いたけど、確かにそうかも。今買った強化外装1着で普通のサラリーマンの生涯収入に近い金額だし‥


「かなり良い買い物よ?龍玉製の強化外装なんて普通に買ったら2億強は掛かるし、ソメヤが上手い事安く仕入れてくれたからこの値段で買えるのよ。どういう伝手があるんだか。」


「開拓者向けの商品は懐事情知ってか、全体的に高値に設定されてんのよ。俺は値引き方には自信あってね。ま、これでも利益がっぽがぽだから気にすんな。」


凄い値段のお買い物をしたボクは暫く気分が高揚して落ち着かなかった。早く着てみたい!ってそわそわ、うずうず。


「ラフィ様、落ち着いて下さいませ。」


ブランさんの両腕に抱かれるまではしゃいでいたのだった。

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