132、有名になるって良い事も沢山ある
ショーを終えたボクは汗を拭う。皆は大盛り上がりで、耳が痛い程の声援と拍手に圧倒された。誰もが喜んでいる。沢山の笑顔がある。頑張って練習してて良かった。ちゃんと出来たみたいでホッとした。
展開したユリシスの中へミニフィー達が帰っていく。ぺこりとお辞儀をしてステージを後にした。
目立つのは楽しい。皆を笑顔にするのも嬉しい。専門ってワケにはいかないけど、アイドル開拓者みたいな事をするのもいいかも?そういうお仕事あったら積極的に受けようかな?
憧れの男性アイドル開拓者旅団みたいに公演出来たらなぁって考えた。
「ラフィ!ナイスステージ!最高だったよ!」
モモコさんがタオルで汗を拭ってくれて、
「ほら、喉乾いたでしょ?」
タマさんの先出したスポドリで喉を鳴らす。
「ラフィ様の好きなチュッパアイスです。」
ブランさんが吸い出すタイプのアイスキャンディーをボクの口へ突っ込んだ。‥甘くて美味しい。
ボクは真剣な顔でステージを見ていたヤナギさんの所へ小走りに。
「あのっ!どうでしたでしょうか?!紫電M10をメインにカッコよく演武をしました。」
ヤナギさんは即答した。
「ラフィさん、ヤマノテシティに移動した後出来るだけ最短でミヤビのCMの撮影を依頼させて頂きましょう。紫電M10開発の過程で枝分かれした市販用ではありますが、デザインの似た雷電というライフルを発表する予定があるのです。その宣伝にご協力して頂ければ報酬を出しましょう。」
えっと?!認めてくれたのかな?
「はいはい、商談なら組合通しなさいよ。じゃなきゃラフィのキャリアに換算されないの。CM撮影を通して組合の開拓者が注目されれば組合にとってもプラスになるし評価されるわ。」
嬉しくて二つ返事しそうなボクをタマさんが押さえて交渉してくれた。
「ああ、すまない。気持ちが早ってしまいました。後日正式に依頼として指名させて頂きましょう。では、失礼します。」
ヤナギさんは早速忙しそうにスマイルで通信しながら会場を後にした。モモコさんはやれやれといった風に。
「ヤナギは私情を挟まず評価する男さ。ラフィはミヤビの看板を掲げるのに相応しいと見られたようだね。」
モモコさんが片手を出せば、ボクもぺちっと手を合わせる。やった!ってハイタッチに、ブランさんも両手を出してそわそわ。ブランさんの手もぺちっと合わせた。
リコリコさんにも会いたくて、一般エリアの方へ足を運ぶ。腰の高さのフェンスを挟んでリコリコさんと顔を合わせた。ボクが笑顔で両手を出すと、ちょっと驚いたリアクションのリコリコさんは腰を屈めてぺちっとハイタッチしてくれた。
「ラフィくん!凄い!凄いよ!サーカスみたいっていうか、一人でやる規模のショーじゃないでしょ!あんなの初めて見た!」
「頑張りました!」
ー動きの統率感パネェ ーあれを全部一人で操るん?どういう演算容量してんだ ー容量あってもスパコン並の演算出来なきゃ無理だろ ー可愛い&カッコいいでサイコー ーあの紫の武器なんなん?欲しいわ ー画像検索したらミヤビ製か ー思いっきり高級ブランドでXD ーでも欲しいわアレ ーデザインといいリロード音といい最高
コメント欄も早速ミヤビの話題で持ち切りみたい。ふふん、いい宣伝になったかな。
『青い薔薇』
勤務中ですが!ラフィのライブだけは配信見ちゃいました
最っ高です!結婚したい‥!
#ラフィ #タマシティ祝勝会
『(フォロワー数30万人突破!)ARチューバーリコリコ』
めちゃくちゃ盛り上がってヤバい!!!アガりまくりで汗ドバドバ!!
これでもプロじゃないし、芸能未所属の新参開拓者だよ?!
ラフィきゅん推しまくり!というかお前らも推せ!!
#ラフィ #天使 #タマシティ祝勝会
『爆裂シャインマスカット【フォロワー数10万人】』
クッソ、リコリコのやつマジ羨ましいぜ
アングルスから配信視聴リアクション配信しか出来ねぇ!
現地で見たら絶対飛ぶ奴だろこれ!
#ラフィ #タマシティ祝勝会 #配信勢
『黒猫』
アタシの相棒がめっちゃ伸びてて気分最高〜
今晩は目一杯可愛がってあげないとね〜
#ラフィ
『シブサワ・モモコ』
只今ショーは終わったけど、どのアーティストも最高のパフォーマンスを見せてくれた!
これで一層タマシティの復興に力が入りそうだ
最後にラフィがショーで使っていた武器は紫電M10というアサルトライフルだけど、残念ながら市販はまだされていない。けど、近日中にミヤビが新商品を発表するから楽しみにしていてくれ
#タマシティ祝勝会 #ラフィ
『ニホンコクケツだけ歩きで一周の旅』
ショーの配信見ましたけどヤバいですね
酷使されてきたケツも歓喜に震えています
#ラフィ
『メリーさんの羊』
ラフィ助の可愛さが世間に完全にバレちゃったッス
孤児院にいた頃はウチが独占して毎日可愛がってたのにぃ
#ラフィ
『錦鯉』
いやこいつは次世代を引っ張っていくアーティストになる才覚がある
いつか一緒にライブをやってみたいぜ
#ラフィ
ブランさんがハムハムの様子を共有モードで見せてくれた。わわっ!すっごい注目されてる!ラフィタグがトレンドトップになってるぅ!嬉しい!きゃーっ!
思わず笑みが溢れて。喜びを表現せずにはいられずにその場でフリフリと体を揺らしてしまった。
「はい!ラフィくんのきゃーっ!頂きました!嬉しくなっちゃうと体が動いちゃうんだよね。天性のダンスの才能の成せる技?それとも可愛いで癒しを振り撒く為?ああ、フェンスが無かったら思いっきり抱きしめられたのに!」
そんな事を言うリコリコさんからちょっと距離を取ると、タマさんが後ろから抱きすくめてきた。
「大舞台を成功させられたんだし、ヤマノテシティにいく前に1発デカい話題を作れたわね。アンタの名が売れる程、孤児院を良い所に建てられるわ。影響力ってのはどんなもんにも響いてくんのよ。」
そう、これも孤児院を安全な場所に再建する為!エステルさんと皆が安心して暮らせるように。ヤマノテシティの出来る限り内側に土地が欲しいから。その為だったら幾らでも頑張っちゃうよ!
と、誰かが走ってきてボクの手を掴んだ!驚いて振り返ればボサっとした黒髪を伸ばしたお姉さん。あっ!さっきステージに居たよふかしさんだ!急な事に一瞬タマさんが身構えるも、リコリコさんがフェンスから身を乗り出して声を上げた。
「ちょっ?!よふかしさん?!ええっ?!急に───」
「ラフィくん!その声!勿体無い!本格的に磨けば最高になれるのに!鍛えるから弟子になって!」
驚くボクに、誰もが急な発案に声が詰まってしまう。
「あの。弟子って。ええと。」
「取り敢えずラフィ様の手を離しやがりなさいこんにゃろで御座います。5秒以上の手っクスをするには好感度が足りてないで御座いますよ。ご逝去されますか。」
表情薄くジト目でヤンキーみたいに覗き込むブランさんに、よふかしさんは思わず手を離した。
「弟子って芸能系企業に所属もしてないラフィに何をさせる気よ?あくまで一般開拓者よ?歌の稽古で数ヶ月単位で休業出来るワケないでしょ。」
タマさんもあーん?って感じに詰め寄る。よふかしさんはしどろもどろで。歌は凄いのに、話慣れてる感がしなかった。
「ええと、話を聞かせて欲しいです。沢山時間を取るのは難しいですけど、よふかしさんに歌を見て貰えるのなら、絶対やりたいです!」
威嚇する二人の間をするりと抜けて前に出た。するとちょっと安心したようによふかしさんが言葉を繋いだ。
「あの‥ですね。ラフィさんは原石なんですよ。凄い良い素材なのに、まだ技術がですね。ケチを付ける訳じゃないですよ?!ただ、もっと伸ばせる筈なんです。ああ、でもどうしたら。一緒にずっといるのは難しいし!」
慌てるよふかしさんの前、タマさんに許可を求める。目線だけで何を言いたいのか分かっちゃったみたいで。
「好きにしなさい。」
とだけ言った。ありがとう。
「すいません。よふかしさん!事情があってボクはプライベートルームに住んでいるのですが、応接室のコードを送信しても良いですか?そこでなら夜の時間とかに歌の練習が出来ると思うんです。」
驚いた反応をするも、少しだけ考えてよふかしさんは頷いてくれた。
と、その後ろからもう一人が声を掛ける。
「なぁ、ラフィ!俺にも見せてくれねぇか。よふかしと違って男の歌い方をレクチャー出来るぜ。」
錦鯉さんも?!と驚くボクは思わずうんうん頷いてしまう。
ジト目で見やるよふかしさんと、ニッと笑い返す錦鯉さん。
「そ、その気なら交渉は貴方がしてくれても良かったじゃないですか。」
「お前ももうちょっと人見知りを治せるように努力しろって。良い機会じゃねぇか。」
そんな二人に後ろから黙って見ていたモモコさんが声を掛けた。
「面白い話じゃないか。今時のヒトと言ってもいい有名アーティストのお二人方がラフィの指導をしてくれるなんて。そうだ。折角だしラフィの歌が良い感じになったら一緒にまずはCMに出るのはどうだい?CMソングを担当するんだ。」
「良いなそれ。ま、そういう話はマネージャー通してくれ。おれは企業所属なんでね。」
「私も今は企業のアーティストですので安請け合いは出来ません。が、絶対やりたいです。」
「あはは、打診しておくよ。楽しみにしている。」
ボクの将来のお仕事の話が次々決まっていく。これが有名になるって事なのかな?良くないヒトに目を付けられて、有名になる事の悪い面を見せつけられていた。だけど、良い面も沢山あるって今日の出来事で実感が湧いた。
「ラフィくんがどんどん天上のヒトになっちゃう‥!ええと、今晩は!」
「今晩はリコリコさんとの配信をしたいです。パーティーが終わったら応接室でやりますから!」
でも、やりたい事をやっていきたい。どれだけ有名になっても配信はやるんだから!アングルスにいた時から応援してくれたリコリコさんと、ファンの皆はボクの大切なヒト達だった。




