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131、原石は神秘の光を放つ

【後書き、名を上げた→名を揚げた】階段を駆け上がり、出世ルートに入ってしまったラフィはアングルスを後にした。日々アングルスの復興模様を配信するリコリコだったが、内心少年開拓者とはご縁が切れてしまったものだと思っていた。


(まぁサキュバス配信者とつるむのは都市圏じゃ面倒多いしね。)


サキュバスは特別指定亜人の一つに数えられる、ニホンコクに潜在的な脅威と見なされた種族。しかし都市の男達はサキュバスを求める。政府は嫌う癖に、個人では鼻の下を伸ばさない男は居ない。その関係性はあまりにも複雑だった。


しかしラフィはリコリコとの繋がりを、リコリコが認識する以上に大切にしていた。ラフィが男だから、というよりも敬愛の念を感じる距離感。

ラフィが普通のヒト種でない事は薄々勘付いていた。サキュバスの魅力の効きが悪い男との接し方にリコリコは自信が無い。純粋な視線を向け、種族を気にせず接してくるラフィと徐々に縮まる距離感が心地よかった。


そんなリコリコは今ラフィに呼ばれてタマシティに居る。アングルスの外に出たのはいつ振りだろうか。久しぶりに会うラフィは変わりなく、こそばゆいくらいの好意を見せてくれていた。


(サキュバスなのに小さな男の子にそういう感情向けるとか‥)


追われるのには慣れているが、追う経験は少ない。サキュバスの性を仕事にするタイプではないからだ。モモコと並んで歩くラフィの姿をジト目で追っていたのだった。


「ラフィくん行っちゃったね。まぁ、後で会えるから!今日はこの後あの有名なアーティスト、“錦鯉”、“ミックスワンダーベリー”、”よふかし“によるライブがあるよ!そしてなんと最後にラフィくんもショーをやるって言うからお楽しみに!現地から生配信しちゃうよ!」


ーよふかしのライブあんの?! ー錦鯉の重低音聴けるのか ーミックスって最近結構伸びてるよな ー元歌い手のよふかしがシブサワグループに招かれるぐらいになるとか胸熱 ーラフィのショーって歌うの? ー最近アイドル開拓者路線に舵切った感あるよな ー芸能系の企業にこっから売り込みに行くんか? ーシブサワグループあんだし何か伝手があるんだろ 


ラフィが皆に認められていく事が自分の事のように嬉しい。カメラに向いたリコリコの表情は自然な笑みだった。


提供された料理はジャンクから高級感あるものまで様々。特に制限無く立食形式で摘んでいける。リアクションに困ることもなく配信は順調。ふと招待エリアへカメラを向けると、ラフィが如何にも偉そうなスーツの男達に囲まれていた。


「今気付いたけどめっちゃ記者がいる!あそことか、あれとか。皆ラフィくん撮ってるんだよね。詳しく無いけどシブサワ生活圏‥の取締役達だっけ?」


関東圏に勢力を広げるシブサワグループは、シブサワPMC旅団大隊が利用するインフラの為に多くの傘下企業や子会社を抱えていた。シブサワフードサービス、製薬会社フェニックス、シブサワエンターテイメント、シブサワ運輸‥食料品から製薬、物流に娯楽までなんでもござれ。


これも各PMCの所有する移動要塞のインフラを整える為。外部の企業が要塞内に入り込まないよう徹底した管理が、その技術を秘匿する。大規模ながらシブサワPMC旅団大隊の詳細は世間に知れていなかった。


この前の第4旅団の配信映像の価値は計り知れず、よく許可を下したなぁとリコリコは考えていた。


著名なアーティスト達が会場奥のステージに姿を現し、歓声の中祝勝を記念して最高のパフォーマンスを見せてくれる。リコリコも思わずテンションMAX!盛り上がった配信熱がネットに波紋を与えていった。





よふかし、の名で活動する若き女性アーティスト。カグヤは熱狂が渦を巻いたステージを後に招待エリアに戻っていた。おじさん達の労いの言葉を片手で受け止め、同じく呼ばれたアーティストの下へ足を運ぶ。企業のおっさん共より同業者といた方が気が楽。ライバルではあるが、同じく音楽に人生を捧げる選択をした同志でもあるのだ。


「お疲れ〜。」


「うーい。」


「ナイスステージ!」


気さくな挨拶を交わし汗を拭った。黒の革ジャンを着こなすグラサンの毛むくじゃら、錦鯉はハットを片指で弾いてステージを見やる。


「んで、次にあそこへ上がるのがシブサワグループ肝入りの開拓者って訳だ。ランク5だったか?どう見る?」


「俺は期待してますよ?だって俺らがヤった後のステージ引き継いでトリやんですよ?半端なもんは出せないって。」


ミックスワンダーベリーはイケてるベルトをジャラリと鳴らして楽しげだ。その視線の先、不健康そうな目が前髪から覗くカグヤはペットボトルを掲げていた。喉越しが伝える清涼感。すっきりした気分で収納内に放る。


「どうでも良いって。正直帰ってシャワー浴びたい。子供ライブなんか見たってどうしろって言うのよ。」


黒い髪はいつにも増してボサボサ。服もだいぶ臭い。適当な椅子に腰掛ける三人の前、丁度ラフィがステージに上がった。


そしてふっと会場全体が暗くなっていく。


(あれ?ステージも暗くすんの?真っ暗でなにも‥)


そんなカグヤの思考は、ふわっと広がった巨大な天使の羽に遮られた。薄っすらと光る天使の羽の後ろから歩み出てきた、二人の同じ顔がホロミュージカルを展開する。そして流れる静かな旋律。


まさかの生演奏。


綺麗な音色の中袖下から伸びた白光眩い帯が宙に展開していく。暗闇を照らす純白の羽と神秘的な帯はまるで天使のよう。そんな中ラフィは歌い出した。


バッ!と後ろから次々ステージに駆け込むミニフィー達。一人一人がホロミュージカルの楽器を手に、鳴った音色は音圧すら感じる狂騒。一気に火がついたステージで光の中、ラフィは負けない声量で激しく歌う。


途端に紫電M10を携えたミニフィーの一団が更にステージに上がってきた。一糸乱れぬ動きで銃を放り投げ一回転させながら互いに渡し合う。暗闇に映える紫光の軌跡。紫電M10をテキパキと動かしリズムを刻む。鳴らした足音さえも楽器に、一斉に行われたリロード音も楽譜に加え軍靴の音が迫り来る。


錦鯉が思わず声を上げて立ち上がった。ミックスワンダーベリーも口を半開きに眺める。


曲調が3拍子に、タマシティでの激しい戦いを思わせる演舞。銃を向けラフィに突っ込むミニフィーを次々歌いながら躱してステージの前まで進んだ。


これを個人がやっているのか。詳しい事は何も理解出来ないが、ズルい。まさに才覚。音楽の天使。あまりに躍動的なリズム感は見る者全てに訴えかける。高揚しろ!立ち上がれ!踊れ!今を全力で楽しめ!

ヒトの持つ原始的な何かに訴えかける。声を上げろ!燃え上がれ!座っていては勿体無い!


高揚した気分は勇気を与え、会場を熱狂させた。


圧倒される武の気配、銃を構えてステージを高速で跳ね回るミニフィー達に銃撃音を空耳する。


まさしく激戦の中ラフィが声を高鳴らせ、一斉に鳴ったリロード音が一拍置いて曲をピタリと止めた。


そして再び静かなメロディーの中、スッとミニフィー達は天使の羽の後ろへ消えて行く。ラフィの独白のようなエンドロール。


「この戦いを忘れないで下さい。」


そんな一節があまりに印象深かった。綺麗な音色は高揚した心を鎮めながらも、洗われるよう。


その場の誰もが惹き込まれていた。ステージの上の世界観に、タマシティの激しい戦いの様相に。感動は鮮明な記憶と共に心に刻まれる。タマシティの悲劇を忘れてはならないと。


全てが終わったと思った間際。


曲調が跳ねた!


明るい音色の中ミニフィー達が躍り出て、手に持ったタンバリンとマラカスで盛り上げる。ラフィが笑顔で頭上で手を叩けば、思わず皆も真似して手を叩く。これまでの繊細な曲と比べてざっくり楽しく明るい。だけどそれでいい。

明るいこれからの未来を示唆するような、まさにハッピーエンドを祝うような陽気。


ライブの最高潮の中、ミニフィー達がバズーカ砲から噴射した紙吹雪が終わりを伝えた。


楽しいが伝播する。陽気に陶酔し、拍手が鳴り止まない。


「きゃーっ!!!ラフィくーん!!サイコー!!!」


一般エリアの誰かが叫べば口々に声援が飛んだ。想いを声に出して言い放つ気持ち良さよ。


「はぁっ‥!はぁっ‥!!ぜぇ‥ぜぇ‥!!」


興奮のあまりカグヤは息が切れていた。確信する。


(ラフィはまさしく今後爆伸びする音楽界のエース!だけどまだ!まだ歌が未熟!演出は神掛ってるけど!まだ原石!)


錦鯉の方を見やれば、同じ考えに至ったようで顎を摩って楽しそうにしていた。


同じく音楽を愛する者同士。ライバルであれど、音楽性は違えど、原石を前にしたら手を伸ばさずにはいられない。

あの澄んだ声に本格的な技術が加わればどうなってしまうのか。知りたい。自分の手で育てたい。


ミックスワンダーベリーは惚けたままでそこまで思い至らなかったが、素直な賞賛の気持ちをボソリと呟く。さっさと席を立ってラフィに声を掛けようと動く二人に気付かなかった。


二人は獲物を見る猛禽の目をギラリと光らせた。

ーアーティスト達ー

ーよふかし

元歌い手。学生時代の頃から歌はいい、顔立ちも良い、けどなんか不潔と評判だった。大人になっても結局周囲の評価は変わらず、それでもその歌唱力と、作詞作曲の独創性で頭ひとつ抜けた評価を受けた。

実際癖毛が酷く肌が色白なだけで、毎日お風呂に入っているしちゃんと綺麗に見えるようお化粧している。


ー錦鯉

既に中年の彼はいぶし銀な声が繰り出す重低音響くパフォーマンスが受けて名を上げた。業界歴10年を超す大御所で、今まで多くの若手アーティストの面倒を見て才能を開花させた経歴も持つ。面倒見が良く、彼に色々な悩み事を解決して貰ったアーティスト達が錦鯉を慕う。ヒトの面倒を見れる余裕を見せるスタイルは評判だった。


ーミックスワンダーベリー

最近急成長して名を上げた若きポープ。自信満々ながら何処か初々しい彼の歌は見る者を惹きつける。

彼にとって声を上げるその瞬間こそが人生であり、歌を心底愛する好青年だった。

ただのカラオケ好きが転じて、オーディションが人生を変えた。

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