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12、タマを駆けるナイスガイ

目が覚めると、見慣れない天井がそこにあった。ボクの体はあったかな腕に抱かれ、まだ寝ているタマさんとくっ付いていた。スキンシップの多いタマさんとの関わり合いでちょっとだけ慣れたつもりだったけど、やっぱりこの距離で密着するのは恥ずかしい。ふわっと鼻をくすぐる甘い匂いがちょっとずつ鼓動を速くした。


部屋の空調が効いていて、タマさんとお布団の中で温め合って丁度いい感じで。お陰でタマさんの目が覚めるまで起きれず、結局二度寝してしまった。そして目が覚めたのは9時過ぎ。うう、開拓者になるべく頑張るぞって意気込んだのに初日からなんだか自堕落だよ。


「ラフィ、おはよ。」


「おはようございます。朝ご飯はどうしますか?」


「今からリビングに行けば丁度いいわ。」


タマさんの言う事が分からず、キョトンとしたままついて行けば食卓にホカホカな朝ご飯が用意されていた。焦げ目の付いたトーストの上にベーコンと目玉焼き。湯気立つコンポタスープに、サラダまである。


「いつの間に作ったのですか?」


「寝ている間にバイタルを測って、覚醒する時間を逆算して自動で調理してくれんの。‥‥そんなに目を輝かせなくてもいいじゃない。これくらいアタシのプライベートルーム(パンタシア)じゃ基本機能の内よ。」


コーヒー片手にちょっとだけ得意げなタマさん。でも凄いです!こんな設備、一体どういうマギアーツが使われているのか見当も付かない。


「「いただきまーす。」」


黄身の垂れるトーストに齧り付けば、ベーコンの旨味と丁度いい塩梅の胡椒の加減に思わずうっとり。サラダもまるで今日採れたてのようなシャキシャキ食感。


「ルームの一角に野菜を栽培する区画があんのよ。未踏地の探索中に新鮮な野菜が無いと病気の元になるしね。マギアーツで急速成長させてるから、種から数日で収穫出来るわ。量はそんなに無いしそれだけじゃ飢えるけど。」


畑まであるらしい。ここに住む事になったものの、まだまだ知らない事だらけだった。食べ終わったお皿は自動で食洗機に収納される。そして音も無く稼働し始めると邪魔にならぬよう壁の一部に埋め込まれた。


「じゃあ、今後の活動方針について話すわよ。まず一つ。ラフィには正式に開拓者になる為に試験を受けて貰うわ。」


タマさんが言うには年に1度、各都市の開拓者組合本部で試験が行われるらしい。試験は筆記と実技の二科目に分かれていて、特に実技の方は管理されたダンジョンを探索するもので開拓者としての基礎が出来ていないと危険なのだとか。


「だから、普通は試験前に訓練学校に通うもんだけど。アンタにはアタシが付いてるから、実技試験対策は全部現地実習するわよ。座学は夜に教えてあげる。そんなに難しくないから安心しなさい。」


「実技試験の内にクラス別の実技科目もあるからついでに受けといた方がいいわ。ラフィの場合はアコライトでしょ?それにも受かれば資格を取得出来るの。あ、開拓者試験に合格すれば自動で“魔具取り扱い資格””未踏地探索行動資格“とかの資格も取得出来るから頑張りなさいよ。」


他にも色々資格が纏めて取得出来るけど、それぞれ個別に受けるよりお金も掛からなくていいのだとか。


「取り敢えずまずは実技ね。今日も適当な小さいダンジョンの探索に行きますか。この辺り一帯の遺跡を見て回んないといけないんだし。」


タマさんが車を発進させ、ボクの開拓者に向けた実地研修が始まったのだった。


基本的にボクはタマさんの説明を聞きながら遺跡を見て回る。戦闘面では後ろから見ている感じで、タマさんの動きを観察していた。


「これも訓練よ、ほらほら。」


道中の車内では、手をワキワキさせながら迫るタマさんと追いかけっこ。直ぐに追い詰められたボクはわたわたと抵抗するも、タマさんの手が脇をくすぐってきて好きにされてしまう。タマさんはゆっくりと動いているハズなのに、毎回簡単に捕まってしまった。


更に、お昼休憩の合間に射撃訓練も受ける事に。最初は小さな拳銃を貰って試していたけど全然当たらなくて。そこでふと思いついたように、タマさんが巻物を使うよう促してきた。巻物に書かれた収納のマギアーツに拳銃を仕舞い込み、遠くに設置された的まで一気に伸ばす。そして銃口だけ覗かせると、至近距離から撃ち抜いた。


拳銃を含む多くの銃器には脳波遠隔操作機構が組み込まれている。これを使えば収納内に銃身を納めたまま、触れずに操作出来た。ただ狙いは自由自在!って感じじゃなくて収納内から突き出た銃口の向きを変えられないけど。銃口を出した時点で狙いが定まってないと当たらない。


これでいいのかな?


「重要なのは遠距離攻撃手段があるって事よ。ま、暫くはそれでもいいでしょ。」


ちょっとずつ距離を離して射撃を試みるけどなかなか当たらない。というより、手で狙って撃つよりも難しく感じた。沢山銃器を仕込んで一斉に撃ち出せば当たるかも。でも弾薬費が嵩んじゃう。うう、地道に射撃訓練を積むしかないか。


次回の開拓者試験の日にちまでまだ大分ある。座学の内容は開拓者の規則とか、未踏地でのルールとか、亜人の集落との関わり合い方とかそういうのが中心だった。座学の方は順調で、元々覚えるのは得意だったからサクサク頭に入っていく。憧れに向かって進むボクのやる気はメラメラ燃えていた。


「試験で必要になるから駆動魔具の免許も先に取っておきなさい。ブレードランナー買っても免許がなきゃ使えないわよ。」


ついでで免許取得までする事に。駆動魔具は主に足に装着して高機動で駆ける為の魔具類。タマさんのブレードランナーもその一つ。とは言え内容は法律に関するものばっかりで、実技に関しては任意で講習を受けるって感じだった。


駆動魔具は本当に種類が多い。ザックリ分けても靴型、エアスケート型、噴射ポッド型、ボード型、そして無限軌道型なんてのも。足がずんぐりとした戦車みたいなキャタピラになって本当に動けるのかな?


種類が多すぎて実技試験が無い。多くはメーカーから買った時点で、講習を店舗で受けられるって感じだった。


免許の方は忙しいながらに片手間でなんとか合格。タマシティにあるムラマサ工房の店舗で受ける事が出来た。それからまだブレードランナーには足を通してないけど‥‥


そんな中、タマさんが変わった依頼を受けてきた。


「企業の開催するショーのお手伝いですか?」


ボクも何度か見た事がある。タマシティの運営委員会、会長を務める巨大企業の“タマ生命”っていう開拓者や都市防衛隊向けの生命保険会社。

あ、都市防衛隊ってのは怪物から街を守るお仕事をしてるヒト達の事ね。一般市民の犯罪者を取り締まる都市警察とは別の組織。つまり危険なお仕事をしてるヒト達のための生命保険会社。

そこが年に一度、街中をキラキラ光るスプレーで賑やかに塗装するお祭りを開催していた。


使用されるスプレーは数日経つと消えて無くなる遅行消滅性。街中が落書きで埋まるこの日は都市防壁の外の住宅街や、未踏地の治外街からも大勢の観光客が来る。事前に申請すれば一般枠で誰でも参加可能で、ボクも昔孤児院の皆と参加した事があった。


現金が大量に電子通貨に両替されて、治外街からやって来たヒト向けに無数の仮口座が作られてチャージされる。お店は繁盛、インバウンドで経済が盛り上がる!


そんな落書きの中に、タマ生命の雇った開拓者が描く特別な落書きがあった。それは一般人が描くにはとっても規模が大きくて壮大で。大きなビルの壁面一面に、タマ生命のマスコット、タマちゃんのイラストが毎年描かれるんだ。生命を司ると伝承のある世界樹の葉と一緒に描かれる可愛い白猫が街を見下ろす事になる。


街中のあちこちにタマちゃんのイラストを描いて回る。ボク達が受けたのはそんな依頼だった。


「アタシ達はあくまで補佐って感じだけどね。メインはタマ生命お抱えのイメージキャラクター枠の開拓者がやるわ。ランク50のベテランよ。」


「知ってます!ダイナマイト・バキーさんですよね。たまに孤児院にも見回りに来てくれるんです。」


「そう。ま、そいつと手分けしてやってく感じになるわ。丁度ラフィ用のブレードランナーの改造も終わったし試運転も兼ねて気軽にやりましょ。」


もう終わったの?!楽しみです!これでタマさんみたいに走り回れるのかな。


「じゃあ、行きましょうか。」


タマさんに連れられて、早速打ち合わせに向かったのだった。打ち合わせではタマ生命の依頼窓口の担当者と報酬内容の確認や万が一の事態を解決した際の特別手当、依頼失敗時の損害補填内容の交渉まで行われる。

損害の補填は基本は開拓者組合が受け持つんだけど、開拓者自身も一定の割合を補填する義務があった。事前に総額を交渉しておけばいざという時の支払う額を減らせるって。

とても手慣れた風なタマさんはちゃっちゃと話を進めつつ、報酬金額を少しだけだけど上乗せさせる事に成功していた。大勢の観光客が来る中での仕事だから、業務中に妨害を受ける可能性もある。危険な仕事に対する報酬としてはちょっと安いんじゃないかって感じに言い包め、その代わり失敗時の損害を割り増しにしていた。


「どーせこんなんで失敗するなんてあり得ないわよ。向こうもこういう交渉前提だから、増額分含めて想定通りの額って事。引き出せないようなへっぽこ開拓者が損して馬鹿を見るって話。」


帰り際にスプレー缶を沢山貰った。タマちゃんのイラストは、当日腕に装着するブレスレットにインプットされている。勝手に腕が動いて誘導してくれるから、絵心がなくても安心って話だった。ふふん、楽しみ!


「当日アタシ達以外の開拓者も何組か参加するっぽいから、変なヒトに付いて行っちゃダメよ?アタシだけを見てなさい。」


そう言うタマさんはごく自然に尻尾をボクの首に絡め、お風呂へ連れて行こうとする。恥ずかしいから別でいいって!ジタバタするも、


「これも訓練の内よ。嫌なら自力で尻尾くらい除けられるようになりなさい。」


意地の悪い顔で笑う。タマさんの尻尾を除ける‥‥あったかな尻尾から逃げるのもなんか嫌で。甘えたいのかな?そんな大人しいボクは尻尾に引かれてお風呂へ引き込まれてしまった。


そして当日。


大勢の人集りに飲まれたタマシティの壁の中。郊外の駅から電車で数分行った先のエリア。孤児院のある郊外と比べ、壁の中はまさに摩天楼。ここは商業区だけどそれでも郊外では見られない建物群が所狭しとひしめき合っている。そんな街並みをビルの屋上から見下ろしていた。


「パフォーマンスとか頑張ればちょっとは手当て出るわよ。頑張りましょうね。」


それより、足に装着したブレードランナーの独特な操作感にふらふらしてしまう。


ブレードランナーはぱっと見ローラースケートみたいな駆動魔具だけど、車輪は接地しない。ふわふわ浮いて、独特な操作感を(もたら)した。脳波でスイッチをオンにすると靴の底が青く光る。これはラインレーザーって言って光熱で焼き切る光学兵器なんだ。

一般的な建物は抗光学加工された築材で造られてるから、屋上でラインレーザーを起動させても焦げ目も付かない。

こう言ったラインレーザーを纏う、実体のある魔具類を「半光学兵器」って呼ぶらしい。


タマさんの説明では改造して宙を数歩分踏んで跳躍できる「空歩」のマギアーツを追加。より滑らかで高速に動き回れるようパーツを交換し、色々とリミッターを外してしまった。こういう事をすると保証の対象外になっちゃうから修理費は自腹だけど、アテがあるって気にしてないようだった。


因みに多少の改造は法的にはグレーって話。事故を起こした際の賠償額がいい値段になったり、過失計算ですっごい不利になったりするようで。でも違法じゃない。


「開拓者として大成したいんならギリギリを攻めていかないとね。」


タマさんは悪い顔をしていた。開拓者は皆やってるんだって。


「って!わわわっ?!」


姿勢が落ち着かないよ!こんなのでちゃんと走れるの?


「自力で動けるまではアタシが遠隔操作してあげる。ま、今日は全部アタシに任せなさい。かなり感度のきつい姿勢制御プログラム入ってるから、ラフィが頑張っても自力で転ぶのも無理よ。転んで怪我とか無いから安心ね。」


試しに尻餅をつこうとすれば、勝手に足が動いてちょっと後退した後元の位置に戻ってしまう。何だか面白くてむふ、と口をふんふにさせながらふらふら動いてみる。その横でパッと踏み込みも無くバク宙したタマさんが、によっとしてこちらに視線をやった。


何だか嫌な予感んんんんん?!


勝手に足が動き、気付けば天地逆さまに!重力に逆らう感触はなく、立ったまま天地がひっくり返ったような錯覚に陥る。そして綺麗なフォームで着地!驚いて心臓バクバクなボクはちょびっと涙目で抗議した。


「タマさんっ!!」


「今日は一日中そういう動きで街を駆けるから、ちょっとは慣れておきなさい。」


そう言われても!っと急発進したボクはジタバタしながらも、ビルの縁をぐるりと片足走行で滑る。そしてタマさんに向けて大ジャンプ!お尻から落ちそうなボクはそのままお姫様抱っこで抱えられてしまった。


「慣れれば気持ちいいわよ?」


怖いけど、足元の安定感が余裕をくれる。ちゃんと乗りこなせれば楽しそうかも?タマさんに追いつけるよう、練習しないとね。


開始時間までそうこうしていると、急にバイクのエンジン音が迫って来た。ピクリと耳を揺らして見やるタマさんとボクの視線は同じ動きで、空中を駆ける大型バイクを見つけた。スマートなフォルムに大きなタイヤのバイクに跨るのは、筋骨隆々の大巨漢。刈り上げた金髪が僅かに靡き、日光に反射するグラサンをこちらに向けている。


宙でグルンと回転したバイクが、ボクの目の前に着地。そして急にボクの手を握ってブンブンと勢いよく振ってきた!


「oh!!ラフィboyじゃねーか!開拓者するために孤児院出たってマジなのかYO!!」


「は、はい!まじ、です!ええと、会えて嬉しいです!」


目を輝かすボクと巨漢に目を細めるタマさん。


「知り合い?」


「このヒトがタマシティ一番の開拓者、ダイナマイト・バキーさんです!カッコよくて、優しくて、街の皆に人気なんです!」


「ハッ!照れるぜ、boy。オウ、そこのgirlは‥‥」


一瞬手元で羅針盤を弄るバキーさん。


「タマgirlかい。boyを見てくれてありがとよ!でもよ、オレに言ってくれればboyの開拓者支度の世話くらいしてやったぜ?」


「すいません!でも、ボクはタマさんに誘って貰ったんです。」


するとD・バキーさんは楽しげに笑った。


「丁度いい機会だ!今回の祭りは荒れるぜ?沢山開拓者が集まったからなぁ!boyもgirlも開拓者達に揉まれて成長するチャンスだ!Across(未知を) the road(越えて行け)!!」


HAHAHAHA!!


バイクの駆動音と共にD・バキーさんは去って行った。カッコよかったなぁ。えへへ、手を握っちゃった。


にへにへするボクをタマさんはジト目で見やる。


「ラフィの憧れのヒトねぇ。ランク50の開拓者。タマ生命お抱えの広告塔兼、用心棒。バイクと人馬一体の傑物、聞いた通りの人物ね。」


D・バキーさんは凄いんですよ!数年前も突然発生した怪物の群れを一人で倒しちゃったんですから!ニュースにもなったんですよ!ふんす、ふんす、と興奮するボクのブレードランナーが急に操られ、よたよたと前のめりにタマさんに抱きついてしまう。


「アタシだって凄い開拓者だから、今日みっちり教えてあげる。」


照れるボクの頭をモフモフと撫でるタマさんは、尻尾でほっぺを突いてきたのだった。

駆動魔具ザックリ紹介

靴型‥短距離を瞬発的に移動するタイプ。駆動すると即座に最高速に達する。加速するのは駆動した瞬間だけ。

エアスケート型‥滑らかな動きが特徴の加速が持続するタイプ。駆動中短時間で最高速に達する。

噴射ポッド型‥小さな噴射口を幾つも全身の強化外装等に装着し、駆動と同時に噴射して進むタイプ。扱いが難しいが、靴型よりも精密な動きが可能かつ飛行能力がある。瞬間的に加速もするし持続的な加速も可能。

ボード型‥板状の駆動魔具に乗っかって移動するタイプ。持続的な加速力が高く、操作が簡単。ただ機敏な動きが難しく、戦闘向けではない。

無限軌道型‥装着者の戦車化を想定した軍用品。反動の大きい火器の安定運用が可能。加速力が見た目に反して高く、機微な動きも可能。但し立定的な動きは苦手で平地運用が前提。


なお大体の駆動魔具は時速100kmを超え、軍用品は300kmを超える物もある。改造ブレードランナーは最高速150km。駆動魔具の多くは強化外装で強烈なG耐性を得る事を前提に設計されている。勿論自転車感覚で乗れる一般人向けの低速の物もあった。なお車の類は駆動魔具に含まれず、必要になる免許も違う。

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