92、もっと高くっ!と蜘蛛頭の拠点上にて跳躍する
「おおっ!キミが噂のラフィくんか!実際見ると‥ふふ、本当に男の子かい?」
開口一番の失礼な質問にぷぅっと頬を膨らまして抗議する。ボクは男の子です!カッコいい開拓者なんだから!
ちょっと吊り目なボクの先、覇気のある快活な声の女性は高笑った。
「あはははっ!すまん!あまりの可愛らしさについ、な。ウメよ!こんな可愛い男子を見た事あるか?」
「無いですけど、早く話を進めましょう。」
抱きつかん勢いで迫る体はウメさんにグイグイ押されて幕舎の奥へ。ふぅ、と一息入れた後。ウメさん達と同じ黒軍服ながらも、一層華美な軍服のマントを翻し優雅に一礼を。
「シブサワPMC旅団大隊、第4旅団・旅団長。シグだ。今回はキミの力を貸して貰うべく、依頼をさせて頂こう。」
プラチナブロンドの長髪を流し、キリッと吊り上がった目元が印象的なシグさん。大きな碧い瞳がボク達の姿を真っ直ぐに映し出す。
「事前にラフィくんの力についてある程度の情報は得ている。私はその力に大いなる可能性を感じた。」
先程のテンションMAXな話口調と打って変わって、お仕事モードな丁寧かつ言葉尻に覇気のある聞き取りやすい口調でシグさんはボクとタマさんを見やった。
「ラフィくんには是非とも私に同行を願いたい。」
「アタシも行くわよ?」
口を挟むタマさんにシグさんは首を振る。
「キミも腕は立つようだが、生憎ただの実力者なら足りているのだ。勿論、この拠点を中心に陽動を兼ねて攻勢に出る計画がある。その際に力を借りたい。」
う、タマさんと離れちゃうの?初めて会うヒトと一緒に地獄のようなダンジョンのお腹の中へ行くのは怖いかも。
「言っとくけど押し問答の時間は無いのよ。もう事は始まってる。」
タマさんが不意に顔に手を当て、スッと手を下ろした時には仮面に素顔が隠れていた。そしてバシュッと紅が渦巻き一瞬で燕尾服に身を包む。さっきまでの猫背と違い、ピシッと背筋を伸ばしたその姿はノクターンの怪人。頭のシルクハットを小突き、ギョッとした顔のシグさん達を睥睨した。
「なっ?!」
その瞬間には幕舎に居た軍人達が全員急に武器を取り落とす。着込んだ強化外装が強烈なクイックハックに一瞬制御権を奪われ、銃を足元に取り落としタマさんの方へ蹴り寄せてしまっていた。
だけど袖下の収納から即座に銃を引き出し全員がタマさんに向ける。が、いつの間に展開された軍用ドローン‥ブラックキャットが一人一人をロックオンして圧を掛けていた。この距離で軍用出力のレーザー砲を受ければタダでは済まない。誰もが引き金を引けずに固まった。
ピン、と仮面を片指で弾き上げ素顔を晒したタマさんが笑う。
「共同戦線と行きましょ。」
ボクも含めて全員のスマイルのホロウインドウが勝手に開き、そこには桜の紋章と“国認機密結社治外行動許可証”の文字が。その下に正式を示すIDコードが並んでいた。
幕舎はざわめき、だけどシグさんの咳払いで静まった。シグさんは動揺を抑えるのが凄い早い。もうさっきの調子に戻って不敵な笑みをタマさんに向けている。
「今、コードを確認した。機密結社の噂は聞いていたが、まさかテロリストが裏で政府とグルだったなんてな。」
「政府は情報を、アタシ達は違法ダンジョンの破壊を。利害の一致ってやつね。」
「だが何故このタイミングで明かす?」
「時が満ちたからよ。ついさっき、アタシ達が表舞台に出る事が決まったの。もう裏でコソコソすんのはお終いって事。」
急な展開にボクもついて行けてないけど、シグさんは鷹揚に頷き楽しげに笑った。
「委細は知らないが、まぁいいだろう!どの道時間が無い。ダンジョン破壊のスペシャリストが居るなら心強い。ラフィと共に私に同行しダンジョンコアを仕留めに行こうじゃないか。」
「話が早くていいわね。」
簡単に話を纏めてしまい、ウメさんが何か言おうとするも鳴らした指がそれを阻む。
「ウメよ、この拠点を中心に陽動を掛ける。それから高機動ジープ隊を壁際に展開、四方からダンジョンコアを取り囲んでプレッシャーを掛けろ。勿論機銃程度じゃ無視されるのがオチだからな。ダンジョンコアに有効打となるS-DB砲を積んどけ。」
「ダンジョンブレイカー砲だなんて安直ネームですよね。あいあいさー、ダサ砲はもう手配済みですので。」
急に決まったテロリスト?との共同戦線に色々言いたげ、だけどシグさんの即断に文句も言えず愚痴を溢しながらも幕舎を出て行く。
「ラフィくん、タマは私の指揮下で作戦行動に臨むように。特にタマ、執行者だからと言って先走って戦列を崩されても困る。」
「分かってるって。アタシも大型ダンジョンコアを取り巻きごと殲滅できる兵器は持ち運んでないの。今決まった事の報告と用意があるから時間をくれない?」
「勿論、こちらも準備がある。十分後にここへ。それまでひと休憩いれておくようにな。」
一度解散となり、一先ず心配だった蜘蛛の巣街のシェルターへと向かった。胡蝶之夢に帰還していたヒト達もここに逃げたかな?
「ラフィさん、うう。すいません。また、ですよ。」
シェルター前、ロゼさんとメリーさんに声を掛けられる。
「組合警察はシェルターの警護をやれって話っス。そりゃ軍事作戦と民衆の警護を天秤に掛けて、軍事が優先される訳ないッスよね。」
「ラフィさんの護衛って話だったのに。いざという時に毎回お側に居られないなんて。すっごい無責任と言うか、納得いきません。」
完璧主義なロゼさんはボクに頭を下げてしまう。そして不貞腐れた態度で携えた銃を揺らした。メリーさんのヘラヘラした態度にイライラしたのか肘で小突いていた。
「タマさんも居ますし大丈夫ですよ。気にしてくれてありがとうございます。」
笑って返すボクだけど、ロゼさんの心配顔が晴れることはなかった。
地下シェルター内は頑丈な鋼鉄の壁に四方を囲まれた広々とした空間で、奥に水や保存食の保管された食糧庫への大きなドアがある。皆は体育館みたいに広いシェルター内で思い思いの場所に腰を下ろしていた。
「あっ!ラフィくん!ここまで来たの?!」
わっ!?と抱きついて来たシロさんとハクさん。向こうでイトウさんが壁にもたれかかったまま片手で挨拶してくる。
「無事で良かったです!心配してました。」
「あはは、急に地面がぶっ飛んだ感じに揺れて心臓止まるかと思った。んでそっからは悲鳴と狂乱のカオス状態。急に軍隊が現れるわ、銃弾飛び交うわでなんとかここに駆け込めたけど。」
「こっちは意識朦朧としてるのにハクに散々引き摺られてドロドロで最悪。こんなクリスマス、一生の思い出よ。強化外装は壊れるし、装備も色々故障してるし。」
愚痴を溢すシロさんはより深くボクを抱き締め、ぐいぐいと体重を預けてくる。重いですって。うう。
そのままの体勢でいるとシェルター内に設置されたスピーカーが、ウメさんの声で作戦参加の招集を掛けた。
『えー、八分後にダンジョンコア破壊作戦を実行します。本隊の攻撃の際、怪物を散らす目的での大規模な陽動作戦が開始されますので。参加を希望する方は三分前までに幕舎前へ。この拠点付近での陽動を行って貰います。勿論報酬は出ます。記録された怪物の討伐数に応じて追加報酬もありますので希望者は速やかに集合するように。』
放送にシェルター内はざわつき、早期にシェルターに飛び込んで、表の地獄のような状況を知らない者達は勇んでシェルター外へと駆けていく。さっきのマフィア抗争で強化外装や武器装備を破損したヒトは参加できない。
「ほら、ハクは行ってきたら?報酬美味しそうじゃん。」
「えー、シロは知らないんだろうけど凄いよ、外。今まで色々修羅場は潜ってきたけどあれは生き残れる自信がないんだよね。」
「そんなにヤバいの?」
シロさんの問いにボクがパッとスマイルに自動録画されていた映像を流した。開拓者としてお仕事する時は何かと便利な自動録画アプリがこういう時にも役に立つ。
苦笑して引き下がるシロさんにハクさんは安堵した。
「こんな状況でここまで来れるって、ラフィくんはやっぱ凄いね。」
急にとん、とボクの頭を片手でモフッたシロさんにちょっと顔が赤くなるのを感じる。素直に褒められると嬉しい。
「ああ、居た居た。こんな事になるなんてね。」
兵士を連れたモモコさんがシェルターに入ってきた。怪我が無いようで良かった。
「こうして保護されているよ。ラフィ、作戦に参加するんだろう?シグはちょっと変わった奴だが頼れる。信頼してくれて大丈夫だよ。」
いつものラフな格好と比べ、とても身なりの整った上品な格好。一目で大企業の重役だと分かる高級スーツ姿に思わず見惚れちゃう。そんなボクにモモコさんはぱちっとウインクで返した。
「ラフィは僕の恩人だし、その実力も認めている。そうだね。お近付きの印にプレゼントでも。」
パン、パン、と手を叩けば兵士の一人が収納内からズラリと6着のブーツを並べた。薄っすらと赤い光を出す長靴みたいなブーツに、シロさん達も興味津々に見下ろした。長靴と言っても重量感が凄い。重機みたいな威圧感を感じる。
「シブサワグループ傘下、タイガーステップ。まぁ駆動魔具の開発専門企業だ。そこが作った最新式の駆動魔具でね。発売はまだ先だけど既にテストが済んで量産体制を整えている品さ。商品名は“ラビットT-60A5”。タイガーステップ型番60番に登録されているラビットシリーズの5世代目なんだ。」
「重量は50kg。クラスD規格の質量兵器に相当する重量級の駆動魔具だね。勿論これを履いて歩くのは大変だから、ちょっとした移動はホバー移動でも出来るんだよ。ほら、ここに噴射口あるでしょ。これと浮遊のマギアーツを組み合わせて動くんだ。」
モモコさんが指差した場所に幾つか小さな穴が。ここから炎とか出てぼしゅーっ!って移動できるの?!カッコいい!わくわく‥そわそわ‥!短い時間に出来る限り説明しようと早口なモモコさんは、体を揺らすボクに少し楽しげな視線を投げかけていた。
「最高速度は時速300km。駆動した瞬間最高速で射出されるから扱いには気を付けて。宙を蹴って駆動出来るけど、衝撃が凄いから足場に注意して。勿論ラフィの着ている強化外装なら大丈夫だけど、あまり質の悪い強化外装で駆動すると大怪我するから注意ね。」
まだ発売されていない魔具の先行入手‥!ドキッとして思わず目をキラキラ。そんな様子にちょっと満足げなモモコさんはむふん、とした顔で続ける。
「ラフィの使うブレードランナーとは違い、直線方向の瞬間的な加速・跳躍力を重視した代物でね。それをミニフィーで使う分も含めて用意させて貰った。今回の作戦に於いて速さは重要だし、凸凹したアングルスを移動するにもブレードランナーよりこっちの方が便利な場面は多いだろう。」
それとぽん、と小さなチップを手渡してくる。
「これは脚部に付ける収納のマギアーツ。ブレードランナーと使い分けてくれ。それと急激なGの負担を和らげる事に特化した簡易バリア装甲発生装置だ。ミニフィーに付けてくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
大はしゃぎするボクにイトウさんがぼそっと。
「要するにシブサワグループの広告塔にするつもりか?こんな時に新商品のPRなど、企業の考える事は理解できん。というかそんな代物ポンと渡されてまともに使えるのか?」
あはは、と笑って返すモモコさんは気にせず踵を返した。
「ラフィが喜んでくれるんならそれでいーの。末長くお付き合いさせて貰うんだから。それとラフィは初めて使う魔具でも簡単に使いこなしちゃうし、ボクの見立てならこれくらいのものは余裕だろうさ。」
いてもたってもいられず思わずシェルターの外へ。まだ時間がちょっとあるから試運転しなきゃ!R.A.F.I.S.Sのお陰か少し試せば直ぐに使い方をマスター出来ちゃう。ボクの足取りは軽かった。




