原材料//脱出
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──原材料//脱出
『こちらネメアー・ゼロ・ワン! 未確認の敵性勢力に攻撃を受けている! 本部、本部! 応答せよ! なぜ通じない!?』
メティス・メディカルの工場付近に展開していたゲヘナ軍政府のパトロール部隊が敵襲を知らせようとするも通信はサマエルによって妨害されている。
「敵装甲戦闘車両は全滅です。残りは歩兵のみ」
「残りを殺そう!」
ファティマはクラウンシールドで敵の攻撃を防ぎつつ、敵に銃撃を加えている。そして、デフネもエネルギーシールドを展開しながらパトロールに肉薄。
「畜生! 肉薄された!」
「死んじゃえ!」
デフネは敢えて銃を使わずエネルギーブレードで歩兵の喉を裂き、心臓を貫く。
「全く。勝手に白兵戦をされると援護しずらいです。ここは“赤竜”で」
ファティマの射線にデフネがいるため射撃で援護しようとすると誤射しかねない。そこでファティマは“赤竜”による支援を開始した。
「クソ! またあのマギテク装備だ! 応戦しろ!」
「エネルギーシールドがぶち抜かれた! 助け──」
“赤竜”が踊り狂い次々にゲヘナ軍政府部隊を殲滅していく。
「よし。敵は全滅です。薬品をいただいて逃げましょう、デフネさん!」
「オーケー!」
ファティマたちはメティス・メディカルの工場に押し入る。
「人がいませんね」
「そだよ。ここは無人工場だからね。メティスは旧世界から続く企業でこの手の自動化のノウハウがあるし、エデン社会主義党にもコネがある」
「警備は?」
「無人警備システムがある。それを相手にしなければいけないはずだったけど」
ファティマたちが押し入っても工場の無人警備システムは沈黙している。
「無人警備システムは妨害してるよ。これでいいよね……?」
「ええ。ありがとうございます、サマエルちゃん!」
無人警備システムもサマエルの前には無力だ。
「薬品はこっち! 急ごう!」
デフネがファティマの注意を引くように言って工場の中を薬品を保管している倉庫へと向かっていく。
「どの薬品なのかは分かってるんですよね?」
「当然」
そう言ってデフネが薬品保管庫の扉を蹴り破って突入。
倉庫の中には無数のドラム缶がおかれており、それらが天井から下げられたクレーンや地上を進むロボットによって運ばれたり、棚に収められたりしていた。
「目的のドラム缶を拡張現実に表示するから運び出せ!」
「了解!」
それから仕事の目的である薬品の詰まったドラム缶がイニェチェリ大隊によって運び出される。
「それなりに数がありますね」
「そうでなきゃ襲撃なんてしないよ。押し入り強盗するのはその価値があるから。貧乏人の家にあたしたちは押し入らない」
ファティマが運ばれて行くドラム缶を眺めながら呟くのにデフネがそう返す。
「確かにこの作戦にもお金がかかっているわけですし、黒字にならないと意味がないですね。では、私たちは護衛チームとしてここからは動きましょう」
「商品を無事に持ち帰れば仕事は大成功」
装甲トラックに積み込めるだけ薬品の詰まったドラム缶を乗せ、装甲トラックが出発する。ファティマたちは輸送チームと護送チームはソドム支配地域を目指し、追撃阻止チームのテクニカルは分かれて行動。
「お姉さん。ゲヘナ軍政府支配地域全体に警報が出てるよ。検問を抜けるのは難しくなったかも……」
「どうにかしましょう。サマエルちゃんは可能な限り敵の妨害をお願いします!」
「うん。分かった」
ファティマたちは薬品を積んだ装甲トラックを守るために展開しながらも、かなりの速度でゲヘナ軍政府支配地域からの脱出を試みる。
車が加速し、無人銃座が周囲を見張りながらファティマたちは駆け抜けた。
「ドローンからの情報! パトロールが近くにいる! ぶちのめして突破!」
「了解です!」
デフネが上空に密かに飛ばしたドローンからの映像で報告し、ファティマは“赤竜”を展開させてパトロールとの接敵に備える。
「前方にジェリコのパトロール部隊!」
そしてハウンドドッグ装輪装甲車が4台が前方に出現し、すぐさまHMG-50重機関銃の銃口を装甲トラックに向けて来た。
「撃破します!」
ファティアは一斉に“赤竜”の刃をハウンドドッグ装輪装甲車に向け、そしてそのまま装甲車を八つ裂きにする。完全に撃破された装甲車が炎を吹いて爆発炎上し、パトロールは一瞬で壊滅した。
「あ! ドローンが撃墜された! やば、敵のドローンだ!」
「流石にレーダーなしでドローンの撃墜は無理ですよ」
「ふうむ、見逃してくれるかな?」
上空に存在していたソドムのドローンが敵のドローンによって撃墜された。敵のドローンはイニェチェリ大隊の車列に迫っていることが予想される。
「ボクが妨害してみるよ」
サマエルがそういうとジェリコが運用していたファムトム無人攻撃機が操作不能になり、そのまま墜落していった。
「お姉さん。敵のドローンは落としたからもう大丈夫」
「ナイスです、サマエルちゃん」
ファティマはタイパン四輪駆動車を飛ばし、また別のドローンに攻撃されないように大急ぎでゲヘナ軍政府支配地域を離脱する。
「オーケー! これで脱出だ! 商品は全て無事!」
「ふう。なんとかなりましたね」
無事にイニェチェリ大隊の車列はゲヘナ軍政府支配地域を脱出し、ソドム支配地域との緩衝地帯に入った。
そのままイニェチェリ大隊の車列はソドム支配地域に入り、それからソドム支配地域内にある倉庫へと向かう。既に安全なはずなのだが、ファティマは油断しないようにしている。
以前にもソドムのエルダーの仕事でラザロに襲撃されたし、グリゴリ戦線の仕事ではまさに即席爆発装置で待ち伏せられたのだ。当然だといえるだろう。
「そろそろ目的地だよ。進んで」
デフネがそう言いファティマたちは倉庫の敷地に入った。
倉庫ではソドムの武装構成員たちが警戒に当たっている。CR-47自動小銃で武装した兵士たちが陣取っており、デフネ達を出迎える。
「やあ、デフネ。仕事は無事できたようだね。何よりだ」
「当然だよ、お兄ちゃん」
そしてエルダーと護衛のマムルークが倉庫ではともに待っていた。どうやら薬品を受け取るのはエルダーの役割だったようだ。
「ファティマさん、サマエルさん。今回もソドムの仕事を引き受けてくださり、感謝しますよ。それでついでなのですが後でまた別の仕事を引き受けてくださると助かるのですが」
「ええ。私たちでよければ」
「ありがとうございます。では、後で」
エルダーはそう言ってファティマと別れた。
「お姉ちゃん! ご苦労様!」
その時、デフネがそう言ったかと思うとデフネがファティマの唇に自分の唇を軽く重ねた。
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