原材料//実行
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──原材料//実行
「ここがメティス・メディカルの工場だぜ。一番デカい工場だ」
ファム大尉が運転してきたタイパン四輪駆動車を止め、ゲヘナ軍政府支配地域で一際大きな建物を指さした。
「警備はそれなりだね」
「ハウンドドッグ装輪装甲車、ヘカトンケイル強襲重装殻、タイパン四輪駆動車、そしてトレーサードッグ。軽装の機械化歩兵ですね。規模は2個小隊」
メティス・メディカルの工場付近には警備のゲヘナ軍政府部隊が展開していた。民間軍事会社ではなく、ゲヘナ軍政府の正規部隊だ。
「どうします?」
「もっと情報が欲しい。見て回ろう。ファム大尉、ここで待っておいて」
ファティマが尋ねるのにデフネがファム大尉にそう頼んだ。
「オーケー。じゃあ、後でな」
ファム大尉はタイパン四輪駆動車を走らせて去った。
「では、偵察と行きましょう」
ファティマたちはメティス・メディカルの工場の周囲を探る。
「生体認証スキャナーです。よそ者は近づくだけで通報されそうです」
「近づけるラインはある程度分かるのがお得と思っておこう」
メティス・メディカルの工場付近には生体認証スキャナーがあちこちに設置されていた。それに加えてトレーサードッグを有するパトロールが警戒している。
「概ねの位置は把握できましたし、記録もできましたね」
「だね。そろそろ帰ろう」
ファティマたちは偵察を終えて、待っていたファム大尉に合流すると彼の運転するタイパン四輪駆動車で警戒地域を離れてからソドムの支配地域に戻った。
「さて、計画、計画」
デフネはそう言いながら動員するイニェチェリ大隊の規模とその部隊の配置、起こすべき行動を計画していく。
「オーケー。準備完了。ブリーフィングを始めよう」
そう言ってデフネはファティマたちをブリーフィングルームに案内した。
「よく聞け! 作戦はシンプルだ」
デフネがイニェチェリ大隊の兵士たちを集めたブリーフィングルームで声を上げる。
「まずグリゴリ戦線の犯行に見せかけてゲヘナ軍政府支配地域内でテロを起こす。それによって警備部隊を釣ってメティス・メディカルの工場付近を手薄にする」
まずは陽動。テロを起こしてゲヘナ軍政府部隊を釣り上げ、目的であるメティス・メディカルの工場における警備を手薄にさせるのだ。
「それから潜伏させておいた車両を使って工場を奇襲。一気に制圧して薬品を根こそぎいただくよ。ここまではまだゲヘナ軍政府も対処が間に合わない。けど、ここから先は間違いなく対処してくる」
テロが陽動だと発覚するのはこの辺りだろう。
「つまり、ここからが重要。まず部隊を3つに分ける。薬品を運ぶ輸送チーム、それを護衛する護衛チーム、それからゲヘナ軍政府の部隊を足止めする追撃阻止チーム」
デフネがそう説明した。
「輸送チームは全力で薬品を持って逃げる。護衛チームは全力で輸送トラックを守る。追撃阻止チームはとにかく追手のゲヘナ軍政府部隊を攻撃して輸送チーム脱出まで妨害し続けること」
簡単にそれぞれの役割が命じられる。
「では、それぞれのチームへの人員配置について命令を送る」
イニェチェリ大隊の兵士たちにそれぞれの担当するチームが言い渡された。
「私は護衛チームですか」
ファティマとサマエルは護衛チームに配属された。
「で、何か質問がある?」
「大丈夫です。もう準備はできているのですか?」
「車両は輸送済み。いつでも始められるし、すぐ始めるつもり」
「了解」
そして、作戦開始となった。
ファティマたちはまた密かにゲヘナ軍政府支配地域に侵入し、それから車両を配備してある倉庫に向かった。
「おお。またよくこれだけの車両を」
「準備は万端だよ。派手にやろう。まずはテロだけど既に準備してある。こっちが潜伏させている工作員を使う。ドカンと一発爆弾を爆発させるだけだけどね」
「十分では? ここ最近ゲヘナ軍政府支配地域は毎回荒らされていますから。今回も何かしらの大事に繋がると思って動きますよ」
「そうそう。最近の情勢はあたしたちに味方している」
「いいことです」
デフネがにやりと笑うのにファティマも意地悪く笑った。これまでゲヘナ軍政府支配地域で暴れて来たのはファティマ自身もなのだから。
「派手にやろう。テロの知らせがあったらすぐに動くよ」
デフネはそう言い、ファティマたちは車両を集めた倉庫で待機する。
「──来た。爆弾が盛大にゲヘナ軍政府の建物をふっ飛ばしたよ。作戦開始!」
「了解!」
命令がデフネから下され、一斉にイニェチェリ大隊の兵士たちが動く。当然ながらファティマたちも動いた。
「行きますよ」
「無人銃座は任せて!」
ファティマはタイパン四輪駆動車の運転を、デフネはHMG-50重機関銃マウントされている無人銃座を担当。サマエルは通信を傍受し、ファティマに送信している。
「今のところはまだゲヘナ軍政府はメティス・メディカルの工場について警戒していません。さくっとやってしまいましょう」
「もちろんだぜ!」
ファティマはタイパン四輪駆動車を飛ばし、その後ろを装甲トラックやテクニカルが続き、一気にメティス・メディカルの工場を目指す。
「お姉さん。上空に偵察衛星がいる。その画像が見れるけどいるかな……」
「是非ともください。メティス・メディカルの工場付近の警備が引き抜かれたことを確認しておきたいのです」
「分かった」
サマエルから上空の偵察衛星が把握したメディカルの工場付近の映像が来る。
「おっと。あまり引き抜かれていませんね。ほぼ2個小隊がそのままです。どうします、デフネさん? このままだと強襲になります」
「まあしょうがないよ。強襲と行こう。ふっ飛ばして、撃ち抜いて、ぶち殺す! 全部隊突入だ! 皆殺しにしろ!」
デフネがそう言ってイニェチェリ大隊に向けて叫ぶ。
イニェチェリ大隊のテクニカルが前方に出て無反動砲をマウントした車両がハウンドドッグ装輪装甲車とヘカトンケイル強襲重装殻を狙って砲撃。
『敵襲だ! 交戦、交戦!』
ハウンドドッグ装輪装甲車は撃破されたがヘカトンケイル強襲重装殻はアクティブ防護システムが作動して無反動砲弾を撃墜した。
「ぶちのめせ!」
「ゲヘナ軍政府の犬にくれてやるのは苦痛と死だけだ!」
装甲トラックから降車したイニェチェリ大隊の兵士たちがSRAT-140携行対戦車ロケットを一斉に発射し、ヘカトンケイル強襲重装殻を狙う。
「私たちも行きましょう! “赤竜”!」
ファティマはタイパン四輪駆動車を運転しながら“赤竜”を展開。その刃を生き残っているハウンドドッグ装輪装甲車とヘカトンケイル強襲重装殻に向けて放った。
『クソ! アクティブ防護システムが飽和状態だ! 攻撃を迎撃できな──』
ヘカトンケイル強襲重装殻が爆発炎上。パイロットごと燃え上がる。
「行け行け行け! 突入だ!」
デフネもCR-47自動小銃を構えて叫ぶ。
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