原材料//ソドム
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──原材料//ソドム
ファティマにソドムのデフネから連絡が来たのはフォー・ホースメンの仕事が終わってから数日後のことだった。
「デフネさんから仕事があるとのことです。行きますか」
「うん」
ファティマたちはデフネの求めに応じてソドム支配地域の拠点を訪れた。
「ああ。あんたか。ボス・アヤズが待ってるぜ」
「どうも!」
ファティマたちは歩哨に立っているソドムの武装構成員に通されるとアヤズの執務室に向かい、そこに入った。
「ああ。来てくれたか、ファティマ」
「ようこそ、お姉ちゃん!」
アヤズとデフネがファティマたちを出迎える。
「仕事があるとお聞きしたのですが」
「そうだ。君が受けてくれるなら任せたい仕事がある。君の活躍についてエルダーからも聞いた。信頼できる人材のようだ。我々はそのような人材を高く評価しているし、報いるつもりもある」
「それはなによりです」
アヤズの言葉にファティマが満足そうに頷く。
「仕事についてお聞きしても?」
「強奪だ。ある品を我々のために奪って来てほしい。こちらからも応援を出す。詳細はデフネから聞いてくれるかね」
「はい。では、お願いします、デフネさん」
アヤズはそう言い、ファティマはデフネの方を見る。
「こっちで話そう、お姉ちゃん。イニェチェリ大隊も作戦には参加するから」
デフネはそう言ってファティマを拠点内のブリーフィングルームに連れて行く。
ブリーフィングルームにはイニェチェリ大隊の兵士たちが揃っていた。
「さあ、野郎ども。仕事だ。あたしたちはこれからゲヘナ軍政府支配地域にあるメティス・メディカルの工場を襲撃する」
そして、早速デフネがブリーフィングを始める。
「このメティス・メディカルの工場にはとある薬品がある。この薬品からは最高のドラッグが作れるんだ。そして、ゲヘナ軍政府とグリゴリ戦線やフォー・ホースメンが衝突する中、ドラッグの需要は高まっている」
なるほど。そういうことかとファティマは納得。
グリゴリ戦線は派手に動いたことでゲヘナ軍政府からの報復を受けているし、フォー・ホースメンは契約拡大を目指すMAGの動きのせいで戦闘に巻き込まれている。
この手の戦闘で必要なのは武器弾薬だけじゃない。医薬品もそうだ。その医薬品の中にはただ傷を治すだけのものではなく、精神的にダメになりそうな兵士から恐怖を取り除く向精神薬も含まれている。
それを大規模に供給して荒稼ぎしようというのがソドムの狙い。
「グリゴリ戦線からも供給を受けるけど全然足りないからね。情報によればここ最近丁度その薬品を仕入れたみたいだから、トラックの荷台をいっぱいにして帰るよ。では、作戦について説明」
ブリーフィングルームの拡張現実にゲヘナ軍政府支配地域にあるメティス・メディカルの工場の位置と構造が表示される。
「まずこの情報は最新の情報じゃないってのを知っておかないとね。情報は事前の偵察で集めることになる。具体的な作戦立案はその情報が入ってから」
まだメティス・メディカルの工場付近に関する情報はないようだ。
「想定されるリスクは強奪のために工場に突入したときの戦闘と積み荷を運び出して持ち帰るときに追撃されること。曲がりなりにもゲヘナ軍政府支配地域だから当然警備はそれなり以上」
特にゲヘナ軍政府支配地域内にあるメティス・メディカルの工場からトラックで薬品を持ち出す際が危険だ。トラックはいくら装甲トラックを使っても防げるのは小銃弾程度で、本格的に狙われたら積み荷ごと吹き飛ぶ。
「対抗策としては囮の車列を準備することなどの小手先の戦術はやるとしても、大事なのは完全な奇襲にすることだ。奇襲すればほとんどの問題は解決するからね」
デフネはそう言ってニッと笑った。
「じゃ、偵察からね。偵察はあたしとファティマお姉ちゃんでやるよ」
「そうなるのですか。なら、サマエルちゃんも一緒にお願いします」
「ええー。まあ、いいけどさ」
ファティマの言葉にデフネが渋々というようにそう言う。
「基本的に偵察が終わってから動くけど、その前にこちらの車両を侵入させておく。トラックは早めに動かしておかないと間に合わないからね。車両部隊はスケジュール通りに車両を定位置に配置しておけ」
「了解」
デフネの命令にイニェチェリ大隊の将兵が頷く。
「んじゃ、行こうか、お姉ちゃん!」
「ええ。そうしましょう」
ファティマたちは早速偵察に向かうことになった。
タイパン四輪駆動車に乗り込み、ゲヘナ軍政府支配地域を目指す。
「検問は買収済み。で、メティス・メディカルの工場まではファム大尉に車を出してもらう」
「なら、戦闘は避けれそうですね」
「それはそれで退屈だけど奇襲は大事だからね」
そう、今回重要なのは奇襲を確実に行うことであり、そのための情報を集めることである。間違っても敵に攻撃の意図を悟られないようにしなければならない。
「そろそろファム大尉と合流だ」
ゲヘナ軍政府支配地域に入ったファティマたちはゲヘナ軍政府の汚職軍人であるファム大尉と会うために古い倉庫に入った。
「よう、デフネのお嬢様。今回は楽な仕事で稼がせてくれるって聞いたぜ」
「ファム大尉。楽な仕事だよ。私たちを運ぶだけで大金ゲットだ」
ファム大尉はゲヘナ軍政府のタイパン四輪駆動車とともに待っていた。
「そいつはいいな。どこまで運べばいいんだ?」
「メティス・メディカルの工場。位置情報を送ったよ」
「ここか。大した警備はいないぞ。すぐに行くか?」
「イエス」
「乗れよ」
ファム大尉に促されてファティマたちがタイパン四輪駆動車に乗り込む。
「あれからラザロの方はどうです?」
「ああ。相変わらず汚職摘発を頑張ってる。面倒な話だ。ちょっとした小遣い稼ぎぐらい許してもらいたいもんだけどな」
「ふうむ。しかし、汚職摘発も民間軍事会社任せとは」
「そりゃあな。ゲヘナ軍政府内は汚職軍人でいっぱい。憲兵監部からも逮捕者が大量に出てる。酷い状況だよ。俺が言える義理じゃあないがね」
ファティマの言葉にファム大尉がけらけら笑いながらそう返す。
ラザロは依然としてソドムとつながりのあるような汚職愚人の摘発に励んでいるらしい。当面は厄介の種になるだろう。
「それよりメティス・メディカルの工場に何の用事何だい? 俺も噛める仕事ならやらせてくれよ。小遣いが欲しいんだ」
「やめときなよ、ファム大尉。小遣いなら今回の仕事でたっぷりあげるから。あんたみたいな信頼できる汚職軍人を危ない仕事で失いたくないし、さ」
「そりゃどうも。じゃあ、さっさと済ませようぜ」
ファム大尉はそう言ってタイパン四輪駆動車でゲヘナ軍政府支配地域を走り抜け、メティス・メディカルの工場を目指した。
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