ピクニック//プリズン
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──ピクニック//プリズン
ファティマたちはハーピーの乗り込んだハミングバード汎用輸送機でガーゴイルたちが連れ去られたロック基地を目指していた。
「具体的な作戦はあるのか、少佐?」
「ない。各自できることをやって何としてもガーゴイルたちを取り戻す」
トロルが尋ねるのにグレースがそう答える。
「お姉さん。ちょっといい?」
「何ですか、サマエルちゃん?」
サマエルがファティマの耳元で何かを囁く。
「なるほど! それはいいですね」
そして、ファティマがグレースの方を向く。
「グレースさん。現地の警備を担当している無人兵器の制御権限をサマエルちゃんが上書きできるそうです。それで敵の警備体制を破壊しましょう」
「最高ね。そうしましょう」
その提案にグレースが同意。
「ついでだから他の囚人どもも逃がしてみたらどうだい? 混乱を可能な限り広げてやれば、敵の対応能力は減るだろう?」
「そうね。そうしましょう、エキドナ」
少しワクワクした様子でエキドナが提案するのにもグレースは同意。
もはやガーゴイルたちを助けるためならばグレースは敵に対して何の容赦もするつもりはないのだろう。
『間もなくロック基地だが少し不味い。敵は接近に気づいている。目視で見つかったな。敵の防空部隊が動いているぞ』
「どうにかして突破して、ハーピー」
『あいよ!』
グレースがハーピーに命じ、ハーピーは一気に降下して地形追従飛行を開始すると敵の防空部隊による攻撃を避ける。
『不明機接近中! 繰り返す、不明機接近中! 指示を求める! どうぞ!』
『クソ。どこにもつながらねえぞ!』
ロック基地にいる防空部隊は混乱のただなかにあった。
『オーケー! 突っ込むぞ!』
ハーピーが操るハミングバード汎用輸送機は口径30ミリ機関砲を防空部隊の有する自走対空砲に向けて叩き込み、さらにMANPADSで武装した部隊に向けて口径70ミリ多目的ロケット弾を掃射した。
『畜生! 撃て、撃て!』
やけくそになってMANPADSをファティマたちを乗せたハミングバード汎用輸送機に向けて放つMAGのコントラクターたち。ミサイルが宙に打ち上げられ、ハミングバード汎用輸送機は回避行動を取る。
「今、狙いを逸らせるよ!」
サマエルがそう言うと放たれた地対空ミサイルは目標を見失って明後日の方向へと飛んでいった。
「ちょっと無茶をしますがやりますよ、“赤竜”!」
ファティマはハミングバード汎用輸送機の外に“赤竜”を展開し、それを以てして自分たちを狙うMAGの防空部隊を攻撃。
『なんだ、こいつ──』
十本の赤いエネルギーブレードはMAGのコントラクターたちを惨殺し、MAGの防空部隊は本当に壊滅した。
『オーケー! タッチダウンだ!』
ハーピーはハミングバード汎用輸送機をロック基地内に着陸させる。
「サマエルちゃん! 無人兵器の制御権限の上書きを!」
「うん!」
サマエルがすぐさまロック基地内の無人兵器に関する制御権限をMAGから取り上げ、自分たちのものに上書きする。
無人兵器は基地のMAGコントラクターたちを攻撃し、離陸しようとしていたオウル攻撃機が友軍の防空コンプレックスによって撃墜されるのが見えた。
「敵は大混乱。今のうちにガーゴイルたちを助け出す」
「サマエルちゃん。監獄の開放を!」
ロック基地は巨大な刑務所だ。鉄筋コンクリートの無機質な建物の中に何千人もの囚人たちが拘束されている。
「監獄のカギを全て開いた!」
「では、行きましょう!」
ロック基地内は大混乱となっていた。
無人兵器は警備に当たっているMAGコントラクターたちを攻撃し、さらには逃げだした囚人が死んだコントラクターから奪った武器で警備を攻撃して逃げようとしている。
「少佐! 端末があった! ここでガーゴイルたちを探す!」
「了解。エキドナ、あなたたちはハーピーと一緒に脱出地点を防衛しておいて。ウェンディゴ、トロルは一緒に来て」
「了解」
エキドナが端末をハックしてガーゴイルたちを探す。
「いたぞ。ガーゴイルたちのいる牢獄の位置情報をそっちに送る」
「確認した。行きましょう」
グレースがファティマたちを率いてガーゴイルたちの救出に向かう。
混乱が広がるロック基地内をファティマたちが駆け抜け、ガーゴイルたちがいる場所を目指した。既に警備のMAG部隊はほぼ壊滅している。
「侵入者だ!」
「応戦できる状況じゃない! 退け、退け!」
MAG部隊と遭遇するもMAG部隊は撤退。
「そろそろですが銃声がしますね」
「間違ってガーゴイルたちを撃たないように気を付けて」
「了解です!」
ファティマは万が一に備えてクラウンシールドを展開して先頭に立ち突入。
「ファティマか?」
「ガーゴイルさん。元気そうで何より」
ガーゴイルたちがいた監獄はガーゴイルたちがMAG部隊から武器を奪って制圧していた。彼らは独力で脱出しようとしていたようだ。
「ガーゴイル。助けに来た。逃げましょう」
「来てくれると思ってた、少佐。ありがとう」
「礼はいい。私たちは決して仲間を見捨てたりしない。そうでしょう?」
「そうだな。行こう」
グレースがガーゴイルと合流してロック基地からの脱出を目指す。
「しかし、急に無人兵器がMAGを攻撃し始めたんだが」
「サマエルに感謝しておいて。彼女のおかげだから」
ガーゴイルが不可解だというように尋ねるとグレースがそう返す。
「そうか。助かった、サマエル」
「う、うん」
ガーゴイルが礼を述べるがサマエルは怯えていた。
「まもなくエキドナたちと合流」
グレースがそう言い、脱出のためのハミングバード汎用輸送機が待機している場所へと到着。脱出地点ではエキドナたちがハミングバード汎用輸送機を防衛していた。
「少佐。無事に救出できたみたいだな」
「ええ。逃げましょう。長居は無用」
「了解。ハーピー! 脱出だ!」
バーゲスト・アサルトの隊員たちが全員ハミングバード汎用輸送機に乗り込んだ時点で反重力エンジンが機体を空に浮かばせる。
『脱出する。ベルトを締めてくれよ。派手な飛行になるからな!』
ハーピーがそう警告しハミングバード汎用輸送機はゲヘナ軍政府支配地域の上空からフォー・ホースメン支配地域を目指して飛ぶ。
「これは仕事を達成したと考えていいのでしょうか?」
「ええ。敵の精鋭部隊とやらについては分かったことも多い。仕事は成功。ちゃんと報酬は払うわ」
「ありがとうございます。これからはどうなります?」
「暫くはウィッチハント部隊とやらの相手をすることになるでしょ」
「面倒なことになりそうですね」
「それが戦争というもの」
ファティマが言うのにグレースは軽くそう返したのだった。
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