ピクニック//エコー基地
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──ピクニック//エコー基地
ファティマたちは問題のエコー基地に辿り着いた。
大型土嚢の壁で覆われ、外から中の様子は分からない。
「どうします?」
「友軍に支援してもらいましょう。ガーゴイル、ウォッチャー。そちらからの情報を共有したい。データリンクを」
ファティマが尋ねるのにグレースが支援部隊のガーゴイルとウォッチャーに連絡。
『了解、少佐。こっちからの情報だ』
「ふむ。これね。ここから侵入できそう」
高所に陣取っているガーゴイルたち支援部隊からはエコー基地が見えているのでその情報が伝えられてきた。
そこからエコー基地の警備の穴を発見。侵入可能な場所だ。
「ついてきて。今回は私がポイントマンをやる」
「イエス、マム」
ファティマとサマエルがグレースに続いてエコー基地への侵入を目指す。
「前方に2名。歩哨ね。排除して忍び込む。右をやって」
「了解」
エネルギーブレードを形成したグレースの命令にファティマもエネルギーブレードを形成してMAGのコントラクターたちの背後から近づく。
「例の部隊。随分と大げさだよな。精鋭だかなんだか知らないが」
「ああ、だな。別にゲヘナの状況がすぐに変わるってわけでもないのにさ」
「だが、上は焦っているらしい。ジェリコがどんどん契約を奪ってるって」
「マジかよ。俺たちの給料に響くのはごめん──」
そこで雑談していたMAGのコントラクター2名の喉が引き裂かれ、腎臓が滅多刺しにされる。2名のコントラクターは一瞬で出血性ショックを起こし死亡。
「クリア」
「クリア。行きましょう」
引き続きグレースが斥候して先行しながらファティマたちが続く。
「そろそろ通信妨害をお願いできる、サマエル?」
「う、うん」
ここからサマエルがMAGとゲヘナ軍政府の通信の妨害を開始。
『通信機器にトラブル発生だ。復旧急げ』
MAGも通信が通じないことにすぐに気づいた。
「偵察で確認する内容は敵の装備と規模。まずは航空部隊の装備を確認しましょう」
エコー基地に熱光学迷彩を使って堂々と侵入し、グレースはファティマを連れてパワード・リフト輸送機や攻撃機、ドローンが存在するハンガーを目指した。
「ここですね。これはハミングバード汎用輸送機の改装型ですか」
「写真を撮っておきましょう」
ハミングバード汎用輸送機をベースに改造したパワード・リフト輸送機がハンガーの中に存在していた。他にも最新鋭のパワード・リフト攻撃機やドローンなどが大量に準備されていた。
「後はヘカトンケイル強襲重装殻ぐらいですね。機械化歩兵の類ではなさそうです」
「そのようね。敵は空中機動部隊で規模は1個大隊程度」
ファティマたちは準備されていた装備から部隊の種類と規模を想定。
「後は追加の情報が少しほしい。端末をハックしましょう」
「了解です。しかし、どこの端末からアクセスしたものか……」
グレースの指示にファティマが頭を悩ませる。
「サマエルちゃん。前に端末をハックしてもらいましたけど今回もそれらしき端末を探し出せませんか?」
「やってみるよ」
「お願いします」
サマエルがエコー基地内の端末からここに配備された精鋭部隊とやらについての情報を探る。どこに部隊の情報があるかをサマエルが探した。
「あったよ。位置を送るね」
「どうもです! 行きましょう、グレースさん」
今度はファティマが先導してグレースたちを端末の位置まで導く。
「おっと。敵のパトロールです。どうします?」
「排除して進む。ガーゴイル、出番よ。援護して」
今度は数が多い。5名ほどのパトロール部隊が展開しており、警戒態勢にあった。恐らくは通信が途絶えたことで警戒するように命じられたのだろう。
「一気に片づけて前進ですね」
「そう。3カウント」
ファティマたちはサプレッサーを装着したMTAR-89自動小銃を構えてMAGのパトロールを狙い、3秒のカウントを実施。
「射撃許可。撃って」
『了解、少佐』
後方からガーゴイルが口径12.7ミリの大口径弾を使用するSR-50CAL対物狙撃銃でMAGのコントラクターを狙撃。威力のある大口径弾は1200メートル近い距離を飛翔し、さらにひとりの頭とふたりめの胸を貫いてダウンさせた。
「さて、と!」
他が騒ぎ出す前にファティマとグレースが他のコントラクターたちの頭部を弾き飛ばし、一気に制圧。パトロールは警告を発することもできずに壊滅した。
「パトロールが動いているということは敵も警戒している。長居はできない。情報を奪ったらすぐに脱出しましょう」
「了解」
ファティマたちはそれから急いで端末のある場所を目指す。
「ここです。端末の情報を盗み取りましょう」
「わざわざハックしている暇はない。ドライブごと持っていく」
「おっと。派手ですね。周辺を警戒しておきます」
グレースは端末の記憶ドライブを取り外してリュックサックに収め、その間ファティマたちは周辺を警戒していた。
「お姉さん。配備されたのはウィッチハント部隊って名前みたい。司令官はリーア・エラザールって人」
「ほうほう。魔女狩り部隊というわけですか。嫌な感じですね」
サマエルがそんな中で得た情報を報告し、ファティマが頷く。
「ドライブの回収完了。脱出しましょう」
「了解──」
そこで不意に爆発音が響いた。ガーゴイルたちがいる商業ビルの方角からだ。
『少佐! 接敵した! 敵の空中機動部隊だ!』
「ガーゴイル。対処できそう?」
『分からん。敵は全員アルファ級高位魔術師みたいだ。面倒な相手になる』
「援護しに向かう。それまで耐えて」
『ダメだ。俺たちは自分でどうにか切り抜ける。少佐は脱出しろ』
「指揮官はあなたじゃない。私なの。命令よ。耐えて」
『クソ。了解!』
グレースが強く命じガーゴイルが同意する。
「応援に向かうのですね?」
「もちろん。見捨てるなんてことはできない。手伝って」
「任せてください」
ファティマたちはガーゴイルたちが援護のために配置されていた商業ビルを目指す。
『リッパーよりウィッチハント部隊の全部隊へ。C4ISTARが機能を停止している。電子戦に頼らない方法で戦闘を実行せよ』
『了解』
そして、MAGの通信が聞こえてきた。
「グレースさん。動いているのは動員された精鋭であるウィッチハント部隊です」
「早速仕事を始めたというわけか。用心しないといけない」
ファティマの報告にグレースが頷く。
そして、ファティマたちは商業ビルに到着。
しかし、現地はMAG部隊によって封鎖されていた。印象的なアイアンメイデンを模したエンブレムが、展開しているヘカトンケイル強襲重装殻やコントラクターが装備するT-4030強化外骨格の装甲に記されている。
「連中がウィッチハント部隊?」
「かもです。どうします?」
「こうなったら隠密は不要。押し入り強盗をする」
「了解です。派手にやりましょう」
グレースの命令にファティマがにやりと笑った。
「では、まずは歓迎のプレゼントを!」
ファティマはMTAR-89自動小銃を構えて商業ビルのエントランスを守っているMAG部隊に対して空中炸裂弾を叩き込んだ。
炸裂。殺戮。
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