ピクニック//ジェーン・スミス
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──ピクニック//ジェーン・スミス
ファティマがグリゴリ戦線の仕事を達成してから数日後。
「よう。調子はどうだ?」
ジェーン・スミスが様子を見にやって来た。
「悪くありません。フォー・ホースメン、ソドム、グリゴリ戦線。それぞれの指導者に名前が売れました。これから反エデン・エリュシオンで立ち上がる上で、まず第一歩を踏み出した。という具合です」
「そいつはいい。グリゴリ戦線とはどんな感じだ? そっちは情報が入ってこなくてな」
「指導者の方から気に入られましたよ。私としても悪い人ではないと思います」
「ほう。そいつはいいな。あそこはちょっとカルト染みたところがあるから苦手だ」
ファティマの言葉にジェーンがそう愚痴った。
「確かに組織としてどうかと思う点はありますが、グリゴリ戦線とは求める利害が一致しているので何とも言えませんね」
「ああ。連中の大義はありがたいが、その大義を達成するためのやり方がな。いっそソドムぐらい突き抜けてくれるぐらいがいいのだがね」
「確かに。半端な善性は他の悪行がそれを胡散臭く見せるという影響はあるでしょう。一種のコントラストです」
「そう、それだ。よく分かってるな」
ファティマの評価にジェーンが頷く。
「しかし、分からないのはあなたがどうして私に協力するのかです。どういう理由があるのです? フォー・ホースメンに人材を売って恩を売りたいのなら、ソドムやグリゴリ戦線との関係は必要ない。ですよね?」
「今は話したくはない。ただエデン社会主義党には私も恨みがあるとだけ」
「そうですか」
エデン社会主義党は幹部同士が激しい権力争いを繰り広げている。ジェーンはそれに巻き込まれてゲヘナに落ちたということかもしれない。
「それよりフォー・ホースメンの基地に行くぞ。ちょっと仕事があると聞いている。使える人材を送ってほしいとも。それにお前を紹介するつもりだ」
「まだ私に直接は仕事は来ないのですかね」
「お前はソドムに行ったりグリゴリ戦線に行ったりでいつも捕まるわけじゃないだろ」
「それもそうでした」
ファティマはフォー・ホースメンの専属でないこともあってバーロウ大佐からも呼べたら呼ぶ程度の扱いになっていた。
ファティマ自身も居場所を逐次伝えているわけではないので、その扱いには納得している。文句が言える立場ではない。
「では、これからフォー・ホースメンに?」
「ああ。これからだ。いくぞ」
ジェーンに案内されてファティマとサマエルはSUVに乗り、フォー・ホースメンのイーグル基地を目指した。
いつものように検問を抜け、歩哨に用件を伝えてイーグル基地のバーロウ大佐の執務室に通される。
「ああ。ファティマを連れて来たのか、ジェーン」
バーロウ大佐はさもありなんという顔をしてファティマたちを迎えた。
「大佐。仕事があるんだろう。ファティマを使ってくれ」
「そういうならそうしようか。ファティマなら安心だしな。なかなかハードな仕事だが大丈夫だろうな? とは言え、シシーリアの嬢ちゃんのところでやった仕事に比べれば楽だろうが」
ジェーンが言うのにバーロウ大佐が肩をすくめる。
「構いませんよ。報酬さえよければ」
「たかりやがって。シシーリアは大してお小遣いくれなかったせいだろ?」
「そういうことです」
グリゴリ戦線の懐事情的に大金は払えない。ファティマもそれは分かっているので懐事情が温かい人間からその分取るのである。つまりフォー・ホースメンやソドムから。
「まあいい。報酬は弾んでやるよ。うちは他所と違って財布は分厚い。有能な人間にはちゃんと報酬を支払うのがうちのいいところだ」
「ありがとうございます」
「まずは仕事をやれ。それからだ」
ファティマが笑うのにバーロウ大佐が葉巻に火を付けてそう言う。
「ジェーン。ここからは部外者お断りだ。出ていけ。お前のことは評価してやる」
「ああ。頑張れよ、ファティマ」
ジェーンはそう言って去った。
「さて、まずは教えておくべきことがある。MAGが度重なるクソみたいな失敗のせいでライバル企業のジェリコにどんどん契約を奪われている。エデンからの情報だとジェリコの政治的バックにエデン最高会議幹部会議長がついたそうだ」
「レナト・ファリナッチですね。エデンのトロイカ体制の一角」
「ああ。古株だな。どうも最近他の幹部と仲がよろしくなくて身を守るために軍隊が必要になったらしい。で、エデン統合軍は別の幹部が握ってるから民間軍事会社のジェリコをってわけらしい」
「なるほど。今まで同じくエデン社会主義党の大物をバックに付けていたMAGも経営危機というわけですか。それで具体的に何が起きているのです?」
バーロウ大佐が無駄話をするはずがないが、ファティマは結論を急いだ。
「MAGはこれ以上契約を奪われまいとテコ入れを行うことにした。エデン統合軍から精鋭を引き抜いてゲヘナに送り込んだらしい。そいつらの正体を確認しておきたい。ここ最近どこもここも大騒ぎしたのでゲヘナ軍政府の動きが活発だ」
「なるほど。それは確かに厄介そうです。では、仕事は偵察ですね?」
「そうだ。詳細はグレースから聞け。バーゲスト・アサルトの作戦だ。ちゃんとお使いが出来たらお駄賃をたんまり弾んでやる。頑張れよ」
「了解です」
バーロウ大佐がにやりと笑ってそう言い、ファティマも頷くとサマエルとともにバーロウ大佐の執務室を出た。
「さあて、今回もなかなか大変そうな仕事ですよ。一緒に来てくれますか、サマエルちゃん?」
「うん。ボクにできることをするよ。お姉さんのために……」
ファティマが尋ねるのにサマエルが頷いた。
それからファティマとサマエルは拡張現実の案内に従ってブリーフィングルームに向かった。そこでグレースたちバーゲスト・アサルトが待っている。
「来たわね、ファティマ」
グレースは完全な戦闘準備を整えてブリーフィングルームで待っていた。その隣にはガーゴイルがやはり完全武装で待機している。
「バーロウ大佐から連絡は受けてる。参加するのよね?」
「ええ。仕事について説明していただけますか?」
「これからよ。座って」
グレースに促されてファティマがブリーフィングルームの椅子に座る。
「よう、また会ったな」
「ああ。ウェンディゴさんでしたね。またお願いします」
バーゲスト・アサルトの兵士であるウェンディゴがファティマに気軽に声をかけてきた。このようにペースを乱さず作戦の前でもリラックスしている辺りは流石グリゴリ戦線とは違ってプロの兵士である。
「さて、仕事について説明する。よく聞いて」
グレースがそう注意してから話し始めた。
「仕事は偵察。それもかなりの遠出になる」
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