ショッピングモール//撤退戦
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──ショッピングモール//撤退戦
グリゴリ戦線の拠点である商業施設跡ではそこにいた全てのグリゴリ戦線の構成員たちが武装し、屋上から突入してきたクレイモア空中突撃旅団に応戦する。
「うわあああっ!」
叫びながらCR-47自動小銃を乱射する12歳ほどの子供。
『ムサシよりククリ・ゼロ・ワン。進軍が遅いぞ。何をやっている』
『ククリ・ゼロ・ワンよりムサシ! グリゴリ戦線は全員が武装しています!』
『じゃあ、皆殺しにしろ!』
ヘカトンケイル強襲重装殻が前に出て口径40ミリ機関砲を乱射。
CR-47自動小銃を乱射していた子供の上半身が蒸発したように消滅し、遮蔽物に隠れていた人間たちも粉砕される。
「シシーリア様のために!」
「死を恐れるな!」
それでもグリゴリ戦線は次々に戦闘員を送り込んでクレイモア空中突撃旅団への遅滞戦闘を続けた。自爆ベストを巻いた子供や老人も突撃して自爆する。
「クソ。敵だらけだ。連中、正気かよ、クソッタレ」
クレイモア空中突撃旅団の歩兵小隊を指揮する指揮官が呻く。
6体のアーマードスーツを装備している彼の部隊でも自爆や対戦車兵器による肉弾攻撃で既に2体の損害を出していた。
「中尉。何をちんたらしている。進め!」
そこにエデン陸軍の戦闘服姿とT-4201強化外骨格を装備した男が現れた。右のホルスターには50口径のリボルバー、左には超高周波振動刀の鞘を下げている。
頭にはクレイモア空中突撃旅団のシンボルであるクレイモアが心臓を貫いているバッジが貼られた緑のベレー帽。そして階級章はエデン陸軍准将。
そう、この男がルーカス・ウェストモーランド准将だ。
「准将閣下。しかし、敵の抵抗が激しく、上空援護機の支援がないのでは……」
「中尉! お前の部下が下げているものは全て玩具か? 使えるものを使え! さあ、突破して進め! さもなければ俺がお前を殺してやるぞ!」
「りょ、了解!」
ウェストモーランド准将が叫ぶのに歩兵小隊の指揮官が慌てて頷いた。
「全員全ての携行兵器を使用しろ! 出し惜しみする必要はない!」
「了解!」
それから歩兵小隊の兵士たちがキャニスター手榴弾やSRAT-140携行対戦車ロケットなどを容赦なくグリゴリ戦線の構成員に使用。
まともな防護装備を持たないグリゴリ戦線の構成員たちが無差別に殺戮された。
「いいぞ、いいぞ! 進め、中尉! このまま皆殺しだ! 大掃除にはいい日だぞ!」
「了解です!」
そして、クレイモア空中突撃旅団はウェストモーランド准将の指示で殺戮を繰り広げながらグリゴリ戦線の拠点である商業施設跡を進む。彼らの通った道には死体の山が積み重なっている。
その頃、ファティマたちは地下駐車場で撤退を試みていた。
「急いで乗れ! 置いていくぞ!」
「武器以外は運ぶ必要はない!」
グリゴリ戦線が逃がすのは怪我人や老人、子供ではなく戦える人間。人的リソースが膨大なグリゴリ戦線と言えど、訓練された健康な男女というのは貴重なのだ。
「イズラエル。足止めはまだできていますか?」
「ええ。クレイモア空中突撃旅団を可能な限り足止めしています」
だから、価値のない本来なら戦えない子供や老人、怪我人を肉の壁にした。
「外部の敵は?」
「偵察部隊を配置してあります。何かあれば報告が」
「了解。では、すぐに車列を発進させましょう。虎の子も使いますよ」
「出し惜しみをしている場合ではないですね」
シシーリアとイズラエルが虎の子というのは──。
「なるほど。ソドムからアシェラト歩兵戦闘車を買っていたのはこういうときのためなのですね。納得です」
ファティマが見るのは前にファティマがソドムのエルダーからの仕事で護送したアシェラト歩兵戦闘車だ。
口径20ミリ機関砲を主砲とするそれが装甲トラックとテクニカルからなる車列の先頭に立った。
「しかし、アクティブ防護システムは装備していないみたいですが、敵に航空優勢を取られているのに大丈夫ですか?」
「MANPADSとテクニカル搭載の対空火器で可能な限り防空を行いますが、あなたを頼りにしていますよ、ファティマさん。そして、サマエルさんも」
「そういうことですか。お任せあれ」
上空にはクレイモア空中突撃旅団の上空援護機であるバルチャー攻撃機がうようよしている。今の状況で地上を目立つ車両で移動すれば蜂の巣にされるだろう。
さながら再現されるのは湾岸戦争の死のハイウェイといったところ。
まずは敵の航空戦力を一時的にせよ退けなければならない。
しかし、対反乱作戦に使われるような航空機はアクティブ防護システムや各種欺瞞装置にてMANPADS対策はしているはずだ。テクニカル搭載の対空火器も心もとない。
頼りになるのは恐らくはファティマとサマエルだ。
「サマエルちゃん。まずは通信妨害をお願いします。通信を遮断して連携を取れなくすれば敵はいい的になります」
「分かったよ」
ファティマは慎重に地下駐車場から地上に出るスロープを進み、外を見渡した。
反重力エンジンの音が響き、バルチャー攻撃機複数が飛び回っている。
そこに地上から放たれたMANPADSのミサイルと対空火器の銃弾と砲弾がロケットの炎や曳光弾を引いて空に花火のように輝いた。
『シミター・ゼロ・ワンより各機。敵の防空網を破壊しろ』
『了解』
しかし、それらの攻撃は最新鋭のパワード・リフト攻撃機であるバルチャー攻撃機には通じず、上空から反撃を受け、グリゴリ戦線の防空部隊が撃破されて行く。
「さて、お願いします、サマエルちゃん」
「妨害を開始したよ、お姉さん」
「それではやりましょう! “赤竜”!」
ファティマが十本の赤いエネルギーブレードがファティマの周囲に展開する。
『シミター・ゼロ・ワンより各機。C4ISTARに異常が発生している。通信ができない。誰か本部に連絡を──』
上空を飛行中だった上空援護機の指揮官機を“赤竜”の刃が貫き、反重力エンジンと弾薬が爆発。空中で盛大な爆発が生じる。
それから次々と無差別にバルチャー攻撃機が襲われていき、地上に破壊された機体が降り注ぐ。機体とともに死んだパイロットたちとともに。
「オーケーです。これで敵の航空攻撃の脅威は最小限!」
ファティマが敵の上空援護機を排除したときにタイパン四輪駆動車が地下駐車場から走り込んできた。
「乗ってください、ファティマさん、サマエルさん! 撤退です!」
「了解。引き続き上空には警戒しておきますよ」
そして、ファティマたちはクレイモア空中突撃旅団の攻撃を受けて激しく炎上する商業施設跡から走り去った。
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