デコイ//ミッションコンプリート
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──デコイ//ミッションコンプリート
ファティマは十本の赤いエネルギーブレード“赤竜”を展開。
その刃をジェリコ所属のオウル攻撃機に向けて放った。
『未確認の飛翔体がこちらに──』
一瞬でファティマは2機のオウル攻撃機を仕留めた。
「上空援護機を撃破です。さあ、残りの連中を!」
「ええ! 皆さん! 突撃です!」
シシーリアの号令でグリゴリ戦線の兵士たちがジェリコの車列に向けて突撃していく。
「傭兵どもを殺せ!」
「全ての人民のために! グリゴリ戦線万歳!」
CR-47自動小銃を乱射しながらグリゴリ戦線の兵士たちがジェリコのコントラクターたちを襲い蜂の巣にし、同時に蜂の巣にされる。
『本部よりサラブレット・ゼロ・ワン。定時報告が行われていない。襲撃を受けたのか? こちらから確認のために部隊を派遣する』
「お姉さん! 敵の援軍がきちゃうよ!」
ジェリコの司令部は車列からの定時報告がないのを確認して、万が一のために援軍を送り込んできた。
「戦闘の規模が拡大すると面倒ですね。サマエルちゃん、敵の増援部隊についてどれくらいのことが分かりますか?」
「えっと。1個大隊空中機動部隊。空挺戦車やアーマードスーツも装備してるよ」
「ふうむ。流石にその規模となると面倒ですね」
1個大隊のジェリコの空中機動部隊などとまともにぶつかればグリゴリ戦線などあっという間に壊滅するだろう。
「サマエルちゃん。通信に偽の情報を流すことはできませんか?」
「できる、と思う……」
ファティマが尋ねるとサマエルがそう答えた。
「では、ここに強力な敵性防空コンプレックスが存在するという偽の情報を流してくれませんか? できたらでいいですから。お願いしますね」
「うん。やってみる!」
サマエルはそう言ってジェリコのC4ISTARを乗っ取り、車列が襲撃された地点に防空コンプレックスが存在するという偽の報告を流す。
『本部よりレプラコーン・ゼロ・ワン。作戦中止、作戦中止。現地の部隊が敵の防空コンプレックスを確認した。引き返せ』
『了解』
1個空中機動歩兵大隊は戦うことなく引き返していった。
「オーケー! ばっちりです。それでは残敵の掃討を」
ファティマたちは生き残ったジェリコのコントラクターを始末し、車列を制圧していく。
「いろいろと物資が積んでありますがどうします?」
「鹵獲できるものは鹵獲しましょう。拠点に持ち帰れずとも潜入部隊が保有しておけば今後の攻撃で使用することができますから」
「了解」
グリゴリ戦線はジェリコの兵站部隊が運んでいた武器弾薬やバッテリーなどを運べる限り奪い、運べないものには爆薬を仕掛けて爆破した。
「皆さん! 勝利です!」
そして、燃え上がるジェリコのトラックを背後にシシーリアがそう宣言。
「勝利だ!」
「シシーリア様万歳!」
グリゴリ戦線の兵士たちも歓声を上げて勝利を祝う。
「急いで撤退しましょう。ここに防空コンプレックスがあると分かれば無人攻撃機やスタンドオフミサイルが飛んできますよ」
「そうですね。撤退です! 急いで!」
ファティマが助言し、シシーリアが指示を飛ばした。
グリゴリ戦線の兵士たちは撤退または配置転換を実施し、グリゴリ戦線の拠点に戻る部隊と引き続きロメオ・ツー前線基地に向かうジェリコの兵站部隊を攻撃する部隊に分かれて行動を始めた。
「トラックへ! 脱出しますよ!」
待機させていた車両部隊のトラックに乗り込み、ファティマたちは大急ぎでグリゴリ戦線の拠点へと帰還していった。
「これでクレイモア空中突撃旅団が動けなくなれば成功ですね」
「今、ロメオ・ツー前線基地の周辺に潜伏している偵察部隊から報告を待っています。作戦は成功か、それとも……」
ファティマが言うのにシシーリアは部下からの報告を待つ。
「サマエルちゃん。今回も助かりました。ありがとうございます」
「ボクはお姉さんのためならできることを全てするよ」
サマエルはそう言って弱弱しく微笑んだ。
「報告がありました。クレイモア空中突撃旅団のパワード・リフト輸送機の動きが完全に停止し、動けなくなっているとのことです。作戦は成功ですね」
「それは何よりです」
グリゴリ戦線はクレイモア空中突撃旅団がロメオ・ツー前線基地で身動きが取れなくなったことを確認した。
すなわちグリゴリ戦線はゲヘナ軍政府に対して一時的にせよ勝利したのだ。
「これは戦略的な勝利ではありません。戦略的勝利を得るにはクレイモア空中突撃旅団を壊滅させる必要があります。ですが、今の我々にそれは不可能でしょう」
「これから戦力を蓄えれば可能になると思いますか?」
「どうあれ私は決してゲヘナ軍政府、エデン社会主義党、エリュシオンを打倒することを諦めないつもりです」
「ええ。私もそれを望んでいますよ」
シシーリアの決意にファティマも賛同。
「しかし、こうして勝利は得られたものの、クレイモア空中突撃旅団という精鋭を相手にこの手の妨害行為をして相手が報復しないとも思えません。間違いなく近いうちに我々グリゴリ戦線を目標とした報復攻撃があるでしょう」
「次の仕事はそれを防ぐことでしょうか?」
「そうなりそうですね。暫くは我々に力を貸してください。報酬はお支払いますので」
「了解です」
ちょっとばかり長い仕事になりそうだが、これで反エデン・エリュシオン筆頭のグリゴリ戦線の信頼が得られるならば文句はない。
そして、トラックはグリゴリ戦線の拠点を目指して進み続け、ようやく拠点である旧商業施設に到着した。
「シシーリア様!」
「勝利できましたか!?」
拠点に残っていた兵士たちがシシーリアに押し寄せようとし、それをインナーサークルの兵士たちが押さえてシシーリアの身を守った。
「ええ。我々の勝利です。ゲヘナ軍政府の犬ジェリコは敗走し、忌まわしきクレイモア空中突撃旅団は動くことができません。我々はまたひとつ圧政者に対して勝利を手にしたのです!」
シシーリアはそう宣言してCR-47自動小銃を突きあげる。
「やった! 勝利だ!」
「シシーリア様! シシーリア様!」
グリゴリ戦線の兵士たちが熱狂に包まれる。
「皆さん。これからも勝利を得ていきましょう。我々の闘争は圧政者たちが全員倒れるまで続けられます。我々が勝利する時、そこに圧政者が存在してはならないのです!」
シシーリア士気を上げるためにそう言い、グリゴリ戦線の将兵を鼓舞した。
「シシーリア。戻りましたか」
「イズラエル。ええ。戻りました。これからのことを話し合いましょう。ファティマさんとサマエルさんも一緒に」
グリゴリ戦線の幹部イズラエルがシシーリアを出迎え、シシーリアはファティマたちを連れて執務室へと向かった。
「では、優先的に話し合うべきことがあります。ゲヘナ軍政府の報復にどう対応するべきか、です」
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