デコイ//ロジスティクス
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──デコイ//ロジスティクス
「目的地に到着!」
「降車してください!」
ついにファティマたちを乗せたトラックはクレイモア空中突撃旅団が展開したロメオ・ツー前線基地に繋がる大きな道路に近い場所に到着。
ここで敵の兵站部隊を待ち伏せて、撃破するのだ。
「シシーリア様!」
「部隊は合流できましたか?」
潜入していたグリゴリ戦線の部隊がシシーリアたちを出迎える。
「合流しました。各地に忍び込んでいます。あらゆる場所で敵を攻撃できますよ」
「結構です。初回の攻撃には私も参加します。敵の車列を攻撃し、これを撃破しましょう。敵はすぐにでも動くはずです」
「了解です!」
グリゴリ戦線は戦力を小規模に分散させていた。
常識では戦力は基本的に集中させる方が好ましいとされる。だが、それは敵に対して十二分に対抗できる能力があることが前提だ。敵に抵抗できない中途半端な戦力を集中させても纏めて撃破されるだけ。
部隊を少数に分割することによって機動力や秘匿性が上がり、奇襲に有益になる。寡兵には寡兵の戦い方があるというわけだ。
「即席爆発装置を設置してください。対戦車ロケットも準備を」
シシーリアがテキパキと指示を出しながら、予想されるジェリコの車列を待ち伏せする準備を進めた。
「サマエルちゃん。敵の通信はまだ傍受できていますか?」
「うん。そっちに転送しているのが最新情報だよ」
「ありがとうございます。攻撃実行の際には妨害をお願いしますね」
「分かった」
ファティマとサマエルは自分たちの仕事をシシーリアの護衛と割り切っていた。車列の襲撃だけならグリゴリ戦線で事足りそうなのだから。
『サラブレット・ゼロ・ワンより本部。定時報告だ。予定通りロミオ・ツー前線基地に向かっている。異常なし』
『本部よりサラブレット・ゼロ・ワン。了解した』
そして、サマエルが傍受している通信にジェリコの兵站部隊の通信が入って来た。
「来ましたよ。敵の車列と上空援護機です」
「ええ。そのようですね。こちらの偵察部隊も確認しました」
ファティマが無線傍受でジェリコを確認したようにグリゴリ戦線も潜伏させている偵察部隊が敵を視認した。
「軍用トラックが16台。ハウンドドッグ装輪装甲車4台。上空援護機のオウル攻撃機が2機。確認されました。これを待ち伏せ、撃破します」
「車列の規模に対して護衛が少なすぎる気が」
「それはそうですが、しかしここがゲヘナ軍政府支配地域であることを考えれば不思議でもないと思います」
「自分たちの庭で武装する必要はないと?」
シシーリアの分析にファティマが疑問を呈した。
「この作戦の開始に当たってテロやゲリラ戦の規模を縮小していました。敵の油断を誘うためです。民間軍事会社は営利団体であり、コストパフォーマンスを考えなければいけないのでこの手の情報は反映されやすいです」
「なるほど。それは確かに」
堅実に勝利を目指す正規軍と異なり、民間軍事会社が求めるのは契約で得られる利益である。勝利の過程で重要視されるのはコストパフォーマンスだ。
「どうやって叩きますか?」
「即席爆発装置で敵の車列の先頭と後方にいる装甲戦闘車両を撃破し、車列の移動を阻止。MANPADSで上空援護機を撃墜。護衛が剥がれれば後は自由に」
「悪くないですね。私は上空援護機の撃破を確実にしましょう。MANPADSではオウル攻撃機といえど撃墜できない恐れがあります」
「ええ。任せました。お願いします」
ファティマの提案をシシーリアが快く受け入れる。
ファティマとサマエルがシシーリアを守るうえで脅威となるのは間違いなく自由に行動でき、それでいて待ち伏せの影響をあまり受けず、さらには高火力を有する2機のオウル攻撃機で間違いない。
「敵が近づいているよ、お姉さん……」
「サマエルちゃんのことは私が守ります。攻撃と同時に通信妨害をお願いしますね」
「うん。お姉さんも気を付けてね」
「もちろんです」
サマエルとファティマは道路の路肩にある建物にシシーリアたちとともに隠れ、攻撃のタイミングを窺っていた。
「敵車列を視認」
車列の先頭には2台のハウンドドッグ装輪装甲車だ。タイパン四輪駆動車より装甲が厚く、即席爆発装置にもある程度の防御力があるが武装はタイパン四輪駆動車とさして変わらない。
口径12.7ミリのHMG-50重機関銃が無人銃座にマウントされているのみ。
そのハウンドドッグ装輪装甲車は待ち伏せに気づくこともなく、ゆっくりと即席爆発装置が待ち伏せている場所へと近づいてくる。
「起爆準備」
即席爆発装置は特製のものだ。自己鍛造弾のメカニズムを用いたもので爆発のエネルギーを最大限に活用し、装甲を貫くようになっている。下手な装甲戦闘車なら間違いなく撃破される。
そのままハウンドドッグ装輪装甲車は進み続け──。
「起爆!」
無線信号が即席爆発装置に届き炸裂。
前方の2台のハウンドドッグ装輪装甲車と後方の同様の車両が一斉に爆発した。装甲を貫かれ、中の乗員は死亡。弾薬が誘爆し、ハウンドドッグ装輪装甲車は炎に包まれた。だが、先頭の1台のハウンドドッグ装輪装甲車は無傷だ。
「交戦、交戦! 対戦車ロケット、準備!」
一斉にグリゴリ戦線の戦闘部隊が行動を起こす。
待ち伏せていた兵士たちがSRAT-140携行対戦車ロケットを構えて複数のそれを一斉に生き残っているハウンドドッグ装輪装甲車に向けて叩き込んだ。
『アクティブ防護システム作動!』
高出力レーザーとエネルギーシールドが展開されて攻撃から身を守ろうとするが、10発以上叩き込まれた対戦車ロケットの前には無力だった。
高出力レーザーはデコイを含む弾頭を迎撃しきれず、さらにはエネルギーシールドも破壊され、そこから対戦車ロケット弾が突破して命中。
『うわ──』
ハウンドドッグ装輪装甲車は炎に包まれ、撃破された。
『パロット・ゼロ・ワンよりサラブレット・ゼロ・ワン! 攻撃を受けているようだが近接航空支援は必要か? 応答せよ!』
「お姉さん。通信は妨害してるよ」
上空援護機が地上の車列と連絡を取ろうとするも、サマエルによる通信妨害によって連絡できない。
「MANPADSで奴らを打ち落とせ! やれ!」
グリゴリ戦線の兵士たちがMANPADSでオウル攻撃機を狙い、一斉にロックオンした状況でMANPADSから地対空ミサイルを発射。
『敵の地対空ミサイルだ! アクティブ防護システム作動! 回避運動を実施しろ!』
『了解!』
迫る地対空ミサイルに向けてオウル攻撃機のアクティブ防護システムが高出力レーザーを照射。地対空ミサイルが全弾迎撃されて空中で爆発が生じる。
「やはりMANPADSでは無理がありましたね。“赤竜”!」
それを見たファティマが“赤竜”を展開。
「落としますよ!」
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