ペンコフスキーの裏切り//追跡
……………………
──ペンコフスキーの裏切り//追跡
ついにソドム内部からゲヘナ軍政府に内通していた潜入工作員の正体が明らかになった。その名はジョージ・フィッシャー。ソドムの資金運用を担当している幹部のひとりである。
「何か報告は?」
「ない。逃げられたか?」
エルダーが尋ねるのにマムルークがそう返す。
「お姉さん。通信を傍受し始めたけどゲヘナ軍政府憲兵監部が動いているみたい。部隊をこっちの方に送り込んでいるって……」
「おや。どうやらそれは当たりのようですね」
ファティマはサマエルの知らせを受けてエルダーの方を向く。
「マムルーク。デフネを呼ぶ」
「イニェチェリ大隊を使うのか?」
「ああ。このまま逃がせば我々の面子は丸潰れだ。今後の取引に影響してしまうよ」
「分かった」
そして、エルダーが妹デフネに連絡を取る。
彼女が来たのはその後数分も経たないすぐのことだ。
「お兄ちゃん! 来たよ!」
「やあ、デフネ。仕事をお願いできるかな?」
ハミングバード汎用輸送機でイニェチェリ大隊とともに乗り付けたデフネが笑顔でパワード・リフト輸送機を降りてくるのにエルダーがそう言う。
「どんな仕事? ファティマお姉ちゃんと一緒にやれるの?」
「そうだよ。仕事の内容は裏切り者を捕まえることだ。今、ソドムを裏切った人間がゲヘナ軍政府の憲兵に保護されようとしている」
「オーケー。早速始めるね。さて、来なよ、ファティマお姉ちゃん!」
デフネがそう言ってファティマの方を見てにやりと笑う。
「行きますか。さあ、サマエルちゃん。通信妨害と傍受、お願いしますね」
「うん」
ファティマたちはイニェチェリ大隊のパワード・リフト輸送機に乗り込む。
「では、幸運を」
「ありがとうございます」
マムルークに護衛されているエルダーが手を振り、ファティマが頷く。
ハミングバード汎用輸送機が離陸し、逃げただろう潜入工作員ジョージ・フィッシャーを追った。
「展開している武装構成員からの情報は?」
「それらしき人間が数分前に検問を通過したのが確認されたのみです、大隊長殿」
「じゃあ、まずはそっちに向かおう」
イニェチェリ大隊の兵士の報告にデフネがそう命じる。
「お姉さん。敵はキング&クイーンズ・ナショナルパークって場所を目指してるよ」
「デフネさん。キング&クイーンズ・ナショナルパークに向かってください!」
サマエルがソドム支配地域に向かっているゲヘナ軍政府憲兵部隊の動きを報告し、そこからファティマがデフネに情報を伝えた。
「了解! キング&クイーンズ・ナショナルパークに向かって!」
『了解』
パワード・リフト輸送機が進路を変えてキング&クイーンズ・ナショナルパークを目指し始める。反重力エンジンを全開に飛行する4機のハミングバード汎用輸送機がソドム支配地域上空を駆けた。
『総員へ連絡! 間もなくキング&クイーンズ・ナショナルパークです! 到着予定時刻1932!』
「敵機は?」
『レーダーには反応ありません!』
「ふうん?」
ハミングバード汎用輸送機のパイロットの報告にデフネが眉を歪める。
「お姉ちゃん。その陰キャは何て言っている?」
「サマエルちゃん。敵の通信は傍受できそうですか?」
デフネが尋ねるのにファティマがそう伝えた。
「敵は間違いなくキング&クイーンズ・ナショナルパークにいるよ。もう裏切者を拾おうとしているみたいだけど……」
「なるほど。敵はステルス機を使用していますね。よほど重要な人間だと認識しているのでしょう。どうします?」
サマエルの報告からファティマがデフネに問いかけた。
「変更ないよ。襲って取り戻すだけ。着陸して!」
『了解。これより着陸します』
イニェチェリ大隊所属のハミングバード汎用輸送機がキング&クイーンズ・ナショナルパークに向けて着陸を試みる。
キング&クイーンズ・ナショナルパークは旧世界では立派な植物園だったが、今は植物は枯れ果て、緑など一切ない死の臭いを漂わせた場所だった。
『カノーパス・ゼロ・ワンより本部。間もなく保護目標と接触する』
『本部、了解。目標を保護し、離脱せよ』
その通信もサマエルが拾っており、その直後にサマエルが通信を妨害。
「デフネさん。迅速に展開しないと目標を逃します。ここは降下を!」
「流石はお姉ちゃん。勇気があるね。行こう!」
ファティマとデフネはそう言葉を交わすと未だ上空にいるハミングバード汎用輸送機の後部ランプから飛び降りた。
「タッチダウン!」
着地の際の衝撃が強化外骨格に吸収され、ファティマとサマエルが一斉に銃を構えて戦闘態勢に入った。
「いました! あいつですよ!」
「生け捕りだよ!」
ジョージ・フィッシャーはキング&クイーンズ・ナショナルパークにおいて噴水の近くに立っており、ファティマたちが降下してきたことに気づいた。
「クソ! 追って来やがった! 迎えはまだかよ!」
フィッシャーはSP-45X自動拳銃を抜き、ファティマたちに向けて発砲。
「生意気なことするじゃん。後でおしおきしてあげなきゃね」
デフネはエネルギーシールドでそれを防ぎ、フィッシャーに向けて進む。
「デフネさん。新手が来ますよ。恐らくゲヘナ軍政府の憲兵部隊」
「オーケー。料理してあげよう!」
公園内を投影型熱光学迷彩で姿を隠したゲヘナ軍政府憲兵部隊が進んできた。
『カノーパス・ゼロ・ワンより各員。通信状態が酷く悪い。ハンドシグナルで指示を出す。投影型熱光迷彩を解除しろ』
そして、投影型熱光学迷彩を解除したゲヘナ軍政府憲兵部隊が姿を現す。
「敵は13名とアーマードスーツ2機。一気に仕留めましょう」
「イエイ! パーティー開始!」
ファティマがクラウンシールドでデフネを防護し、その隙にデフネがゲヘナ軍政府憲兵部隊に向けて突撃。
「さあさあさあ! 殺してあげるから死んで!」
小柄なデフネの体に不相応の099式強化外骨格に備えられた人工筋肉の出力によってデフネがどこまでも加速し、一瞬でゲヘナ軍政府憲兵部隊に迫った。
「撃て、撃て!」
「敵のエネルギーシールドに攻撃を阻まれています!」
ゲヘナ軍政府憲兵部隊の銃火器による攻撃はデフネ自身のエネルギーシールドとファティマのクラウンシールドによって完全に防がれてしまっている。
「ガッチャ!」
そして近接したデフネがエネルギーブレードをゲヘナ軍政府憲兵の首に突き立て、抉り、引き抜く。鮮血が舞い上がり、ゲヘナ軍政府憲兵部隊に動揺が生じる。
「敵はアルファ級高位魔術師だ! 接近させるな! やられるぞ!」
「アーマードスーツも攻撃を叩き込め!」
ゲヘナ軍政府憲兵部隊はデフネから距離を取ろうとしながら必死にデフネを銃撃。2体のヘカトンケイル強襲重装殻も装備している全ての火力を叩き込む。
「“赤竜”!」
そこにファティマが“赤竜”を展開し、アーマードスーツを攻撃。
『何が──』
“赤竜”の赤いエネルギーブレードがアーマードスーツのパイロットシートを貫き、弾薬を貫き、アーマードスーツ2体を同時に爆発四散させた。
「アーマードスーツ、全滅です!」
「クソ。なんてことだ。こうなれば撤退──」
指示を出そうとしたゲヘナ軍政府憲兵部隊の指揮官の頭が貫かれた。
「逃がすわけないじゃん? ちゃんと死んでいってよ!」
デフネが残党に襲い掛かる。
殺戮だけが繰り広げられ、そこに慈悲はない。
……………………




