ペンコフスキーの裏切り//特定
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──ペンコフスキーの裏切り//特定
迫りくる民間軍事会社ラザロ・エグゼクティブの空中機動部隊。
MANPADSによる迎撃を避けるために低空を這うように進んで来る機体がかつて大学であった施設に急速に迫る。
『アバランチ・ゼロ・ワンより各機。俺たちは露払いだ。敵地上部隊を爆撃し、友軍の降下地点を確保する。射撃を開始せよ』
『了解。射撃開始、射撃開始』
バルチャー攻撃機4機が一斉にファティマたちに向けて口径70ミリ誘導ロケットを叩き込んでくる。風切り音とともに無数のロケット弾が迫った。
「クラウンシールド!」
ファティマがそのロケット弾をクラウンシールドを使って全てインターセプト。空中で炎が広がり、爆音が響く。
『攻撃失敗、攻撃失敗! 何が起きた!?』
『もう一度だ。もう一度やれ。急げ!』
バルチャー攻撃機が再び攻撃態勢に移ろうとするが──。
「“赤竜”、落として!」
赤いエネルギーブレード“赤竜”がファティマの周囲に出現すると同時に放たれ、バルチャー攻撃機を襲う。
『何だ、これは……!?』
『回避できない! うわあ──』
バルチャー攻撃機4機が同時に“赤竜”によって反重力エンジンを貫かれ、爆発炎上しながら墜落していく。
『上空援護機が全滅しました! 作戦を継続するんですか!?』
『当たり前だ。降下開始!』
ハミングバード汎用輸送機が大学跡上空に強引に進出し、一気にヘカトンケイル強襲重装殻10体と空中機動歩兵を投下する。
「エデンの犬に死を! 我々に勝利を!」
「敵に死を!」
降下してきたラザロのコントラクターを相手にインナーサークルの兵士たちが戦闘を開始。CR-47自動小銃やGPMG-99汎用機関銃がけたたましい銃声を響かせた。
『アーマードスーツを盾にして進め! 敵の脅威はそこまでではない!』
『火力はこちらが上だ。冷静に対処しろ!』
ヘカトンケイル強襲重装殻がライフル弾を弾きながら前進し、それを遮蔽物にラザロの歩兵が前進しながらMTAR-89自動小銃などの小火器で射撃を行う。
「対戦車ロケットを集中使用してください! アクティブ防護システムを飽和させて確実に敵を叩きます! 」
「了解です、シシーリア様!」
グリゴリ戦線のインナーサークル部隊がSRAT-140対戦車ロケットを一斉に構えた。
「撃て!」
そして、無数の対戦車ロケット弾がラザロのアーマードスーツに襲い掛かる。
『アクティブ防護システム作動!』
『デコイごと叩き潰せ!』
対戦車ロケット弾が次々に迎撃されて空中で爆発するも数発がアーマードスーツに到達してアーマードスーツに致命的な損害を与えた。炎上するヘカトンケイル強襲重装殻から死亡したパイロットが射出される。
「流石に全部インナーサークル任せというのは無理そうですね。サマエルちゃん、通信妨害をお願いします。残りの敵は私が叩きますから」
「分かったよ。けど、気を付けてね……」
「ええ。もちろんです!」
ファティマはクラウンシールドを前方に展開し、同時にエネルギーシールドを展開しながら前進してくるラザロの部隊に突撃した。
『魔術師だぞ。殺せ』
『くたばりやがれ』
ヘカトンケイル強襲重装殻から口径70ミリロケット弾がファティマに向けて叩き込まれるが、ファティマの展開しているエネルギーシールドを突破できない。
「スローモーデバイス起動」
さらにファティマはインストールしていたスローモーデバイスを起動させた。
時間の流れが遅くなり、緩やかな時間の中でファティマだけが素早く行動する。銃弾が止まって見えるような体感時間の遅延が生じている。
「やりますよ」
そのような状況で“赤竜”を操ってファティマがアーマードスーツ部隊を強襲。
『え……──』
全てのアーマードスーツに“赤竜”が突き立てられ爆発炎上。
『アーマードスーツが全滅した!?』
『中隊長殿! 撤退命令を!』
ラザロの部隊に一斉に混乱が広がる。
「皆殺しですよ、っと」
そのような状況でさらにファティマが猛威を振るい、そして──。
「敵の全滅を確認です。クリア!」
ファティマ、インナーサークル、そしてソドムによって勝利が得られた。
「さて、これで無事に取引できますね。一件落着と」
「全く。どういうことか説明してもらえるのでしょうな、エルダーさん?」
マムルークに護衛されていたエルダーが言うのにイズラエルが苦々しい表情を浮かべてそう問い詰めて来た。
「ちょっとした事情がありまして。その分のサービスだったのですから」
「そうですか。では、取引は終了です。今後ともよろしく」
「ええ。取引できてよかったです」
イズラエルが肩を竦めてそう言い、そしてエルダーたちはタイパン四輪駆動車とトランスポーターに乗り込んでソドム支配地域を目指して走り出した。
「これで容疑者はひとりに絞り込めました」
ソドムの拠点に戻った時点でエルダーがファティマたちにそう言う。
「ジョージ・フィッシャー。うちの幹部のひとりで、担当は資金運用。この男が間違いなくラザロあるいはゲヘナ軍政府に情報を漏らしていた潜入工作員です」
ついにソドムの中に潜んでいたゲヘナ軍政府及び民間軍事会社の潜入工作員の正体が明らかとなった。
「というわけなので、早速拘束に向かいましょう。マムルーク、頼むよ」
「ああ」
マムルークが近接戦仕様のMTAR-89自動小銃を構えて頷き、タイパン四輪駆動車を準備した。防弾・耐爆仕様だが無人銃座は装備されていない。
「フィッシャーは顧客のデータベースが収められたサーバーの位置する建物にいる。早速訪問して身柄を確保し、尋問し、処分する。ファティマさんとサマエルさんには拘束するまでが仕事としていただきたい」
「了解です。取り調べはお任せしますよ」
ファティマはエルダーの言葉に頷き、タイパン四輪駆動車に乗り込む。
「出すぞ」
マムルークの運転するタイパン四輪駆動車はソドムが相手にしている顧客のデータを収納しているサーバーがあるビルに向けて進んだ。
そこはかつて銀行だった建物で頑丈な造りであることから、顧客のデータの他にも貴重な品やデータが集められている場所でもあった。
「エルダーさん? どうなさいましたか?」
「ジョージ・フィッシャーに会いに来たんだ。どこかな?」
「彼ならさっき食事をしに出て行きましたよ」
「ふむ」
ビルにいたソドムの構成員が告げるのにエルダーが顎に手を置く。
「マムルーク。ソドムにいる全ての武装構成員にジョージ・フィッシャーを手配させてくれないかな。捕まえたい。逃げるつもりだよ、彼は。気づかれてしまった」
「了解。すぐに手配するが、もうこちらの支配地域を抜けていたら終わりだぞ」
「やれるだけやっておこう。後悔はしたくない」
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