レヴェルズ//誰もが義務を果たす
……………………
──レヴェルズ//誰もが義務を果たす
シシーリアの前に集まった子供たち。
まだ10歳前後だろう幼い子供たちが4名。汚れた服を着ているがその瞳は好奇心によって明るく、生き生きと輝いている。
「あなたたちにこのお菓子をあそこにいる兵士たちに買ってもらって来てほしいのです。それによって彼らの気を引き、その隙に私たちが攻撃を仕掛けます。できますか?」
「はい!」
「では、お願いします」
子供たちにシシーリアが下士官から受け取った菓子の箱を渡した。そこそこ大きなサイズの箱であり、エデンで流通している菓子である。
子供たちはその箱を抱えてジェリコの兵士たちの方に向けて歩いていった。相手はジェリコの機械化歩兵で装甲兵員輸送車に随伴している。
「あの、本当にあの子供たちで敵の気を引くと? 追い払われるだけでは……」
「誰にでもできることはあり、贅沢の出来ない我々はあらゆる手を使わなければなりません。出し惜しむような余裕はないのです」
「それはどういう?」
ファティマが尋ねるがシシーリアは答えない。
子供たちはジェリコの兵士たちに近づき、菓子の箱を兵士たちに見せて兵士たちに買ってくれと呼びかけ始めた。ジェリコの兵士たちは子供たちにどこかに行くように手を振っているが、銃口を向ける様子はない。
流石に子供を殺すようなことはないようだとファティマが思った時だ。
「今です。起爆!」
爆発が生じた。
ファティマたちのいる場所まで重々しい爆発音が響き渡り、子供たちとジェリコの兵士たちがいた場所に黒煙が沸き上がる。
「まさか自爆テロを」
「これで敵の注意は引けたでしょう。車両部隊を突入させてください!」
ファティマが唖然とする中、シシーリアが素早く命じる。
「車両部隊、突入せよ。攻撃開始、攻撃開始!」
そして、グリゴリ戦線の一斉攻撃が始まった。
「さっきの子供たちを使った攻撃は正気ですか?」
「誰にでも果たすべき役割がある。そう言ったではないですか。我々は子供であることや老人であることを理由にそれを果たさないわけにはいかないのです」
「そうですか……」
シシーリアがはっきりと言うのにファティマはそう呟くしかなかった。
「車両部隊が無事に突入し、敵を攻撃中です。今のうちに!」
「ええ。全部隊に突入を指示します! 突入開始です!」
将校が告げ、シシーリアが命令を発する。
「突撃、突撃! 進め!」
「暴虐なる傭兵どもを殺せ! 血祭りにしろ!」
もはやここから先は作戦も何もない。
ただ物量に任せた人海戦術だ。重武装のジェリコの戦闘部隊を相手に無数のグリゴリ戦線の歩兵たちが四方から押し寄せるだけの戦いである。
「ファティマさん。ここから先、よろしくお願いします。あなたとサマエルさんの力があれば勝利できるはずです。犠牲を払おうとも」
「ええ。任せてください! 犠牲は抑えて勝利しましょう!」
シシーリアがそう言うのにファティマが頷き、MTAR-89自動小銃を構えた。
「サマエルちゃん。まず通信妨害をお願いします」
「うん。始めるね」
サマエルが作戦地域全域で通信妨害を開始。
『こちらフェネック・ゼロ・ワン! 本部、本部! 応答せよ!』
『C4ISTARが機能不全だ! データリンクできない! どうなってる!?』
ジェリコの戦闘部隊に混乱が広がる。
そこにグリゴリ戦線の大量の歩兵がなだれ込んだ。
「殺せ! 敵を殺せ!」
「圧政者の犬どもに死を!」
CR-47自動小銃を乱射しながらグリゴリ戦線の兵士たちがジェリコの戦闘部隊に押し寄せる。手榴弾や梱包爆薬が投げ込まれ、ジェリコの歩兵たちが戦車や装甲兵員輸送車の陰に隠れた。
「クソ。グリゴリ戦線の連中だ。砲兵に支援を要請しろ! 連中を吹き飛ばせ!」
「ダメです! 砲兵との連絡が取れません! C4ISTARが機能不全です!」
「なんだと!?」
後方に展開している砲兵や航空部隊との連絡手段がサマエルによって遮断され、前線のジェリコ戦闘部隊は支援が受けられない。
そこにグリゴリ戦線の歩兵が人海戦術を仕掛けていた。
「戦車に支援させろ! 奴らを止めるぞ!」
そして、支援が受けられないと分かるとジェリコの戦闘部隊は前線にあるものでグリゴリ戦線を迎撃しようと試みた。戦車が展開し、装甲兵員輸送車が遮蔽物兼機関銃陣地として機能し、一斉に反撃を開始。
「うわ──」
「怯むな! 進め! 戦友の死体を越えてこそ一人前だ!」
ARM74主力戦車の51口径105ミリ戦車砲からフレシェット弾が発射され、グリゴリ戦線の兵士たちが纏めて血の霧と化すがそれでもグリゴリ戦線は突撃を継続。
「本当に人海戦術ですね! 効果はありそうですが死人が凄いことになりますよ! 私がどうにかしないといけません! “赤竜”!」
ファティマがそんなグリゴリ戦線の部隊に追いつき“赤竜”を展開。
「貫け!」
ARM74主力戦戦車の砲塔上部に向けて“赤竜”の刃がトップアタックを仕掛け、比較的防御が薄い上部装甲を貫き、弾薬を誘爆させた。
ARM74主力戦車の砲塔が吹き飛び、火柱が吹き上がる。
『フェネック・スリー・ワンより中隊指揮車へ! 第3小隊の被害甚大! 中隊指揮車! フェネック・ゼロ・ワン! 応答せよ! 生きてるのか!?』
これによってジェリコの戦車中隊14両のうち10両が一斉に破壊された。残った車両は生きのびるために友軍歩兵を見捨てて後退しようとする。
「追撃です!」
逃げる戦車をファティマが追撃。瞬く間に戦車が全滅する。
「クソ! 戦車がやられたぞ!?」
「俺たちだって武器は持ってるだろ! 戦え!」
混乱が広がるジェリコの機械化歩兵大隊は必死に装甲兵員輸送車の無人銃座にマウントしたHMG-50重機関銃や手持ちの小火器でグリゴリ戦線を迎撃しながら部隊を集結させるために後退していた。
「進め、進め! 義務を果たせ!」
「勝利を!」
グリゴリ戦線の歩兵はCR-47自動小銃といくつかの爆発物を有しているだけで強化外骨格もなければ、ヘルメットもボディアーマーもない。ジェリコから撃たれれば確実に死ぬ。
それでも人間の津波のように突撃していく。
「どうかしてるんじゃないですか……」
死体の山を作りながらも止まることなく進軍するグリゴリ戦線の部隊を見てファティマも思わずそう呟いてしまった。
「彼らは義務を果たしているのです」
そこでシシーリアが後ろから現れてそう言う。
「義務、ですか?」
「ええ。グリゴリ戦線の果たすべき義務を彼らは果たしているのです。そして、私たちはそれに報いなければなりません。必ずや勝利を」
ファティマの怪訝そうな表情にシシーリアはそう返すとさらに部隊を投入する。陽動を実施し打撃を受けていた車両部隊の生き残りが突入し、合流しようとしているジェリコの機械化歩兵大隊を攻撃。
『ポケット・ゼロ・ワンより各車! 撃て、撃て!』
だが、装甲化されていないテクニカルは装甲兵員輸送車から放たれる攻撃で瞬く間に撃破され、炎上していく。
「お姉さん。敵の装甲兵員輸送車の制御権限を上書きできるよ。お姉さんが制御する?」
「そうしましょう。このままでは仕事は失敗ですよ」
心配そうなサマエルにファティマが唸りながらそう返した。
……………………
面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!




